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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのはじまり
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Death row inmate(2)

 ――周りがざわついていた。

 裁判長が「静粛に」と声を張り上げている。


 判決が出た。

 検察の求刑通り、死刑判決。


 報道関係者と思われるスーツ姿の連中が、傍聴席から飛び出して行った。


 おそらく、裁判所の前には多数のカメラが待ち構えていて、連中が戻ってくるのを待っているのだろう。

 そう、テレビなどでよく見る、あれだ。

「いま判決が出ました。判決は、検察の求刑通り、死刑。死刑判決です」

 さきほど傍聴席から飛び出して行った記者がテレビカメラに向かって、唾を飛ばしながら興奮した口調で捲くし立てる。

 ちょうど昼時だ。

 テレビでは情報バラエティー番組などが放送されている時間だろう。

 画面の上部にニュース放送のテロップが流れ、すぐにスタジオでアナウンサーがニュースとして死刑判決が出たことを読み上げる。

 夕方になれば、特集ニュースとして大々的に報道されるだろう。

 過去の事件となっていたものが、再び世間の脚光を浴びる瞬間だ。


 写真はいつものものが使われるのだろうか。

 ここ数年、写真撮影をした覚えは無い。

 逮捕された時は、報道番組でどんな写真が使われたのだろうか。

 新聞にはどの写真を使ったのだろうか。


 時おり、マスコミ連中は最近の写真を手に入れることが出来なくて、学生時代の同級生から卒業アルバムを借りて、その写真を使ったりする場合がある。

 高校へはまともに通わなかったため、高校時代の写真などは存在しない。

 大学は大検を取って入学した。

 あの時の書類に使った証明写真。

 十年以上前の話だ。

 それ以降は、いつ写真を撮っただろうか。


 色々と考えてみて、辿りついたのは運転免許の更新だった。

 それですら三年も前の話だ。それが最も新しい写真だ。

 警察がマスコミ用の提供写真として使用するならば、その写真が使われている可能性が高い。

 マスコミが独自のルートで自分の写真を手に入れることは不可能だ。

 もし、警察が写真を提供しなかったら、中学生の頃の自分がテレビ画面に登場するというわけだ。

 もうすぐ三十路に手が届こうというのに。


 弁護士だった男が自分の肩に手を置いた。

 初老の男で、精悍な顔つきをした男だった。死刑反対論者で、絶対に死刑判決を回避させると鼻息を荒くしていた。


 この男は精一杯の仕事をした。

 しかし、判決を覆すのは無理だった。

 大勢の人間を殺した。全部で38人。

 仕方がなかった。

 彼らは殺さなければならなかったのだ。

 彼らを殺したことに対して、罪の意識はない。反省をしろといわれても、無理だった。彼らは殺さなければならなかったのだ。

 もしも、彼らを殺しておかなければ、最悪な状態となっていただろう。

 だから、殺害は必要だった。

 特に最後の三人――警官だった彼ら――は、殺さなければならなかったのだ。

 

 別に弁護士の腕は悪くなかった。

 ただ、最悪な方向になってしまっただけだ。良くて無期懲役、悪ければ死刑。

 最初からそう思っていた。

 

 家族はいなかった。生まれた時から孤独だった。

 だが、その孤独が辛いと感じたことは一度もなかった。

 人との繋がりに触れていたいと思ったことなど一度もなかった。

 

 弁護士は、自分の身の上としてあることないことを並べてはお涙を頂戴しようと頑張った。

 両親は不明。へその緒がついたまま捨てられ、孤児院で育てられた。

 小学生の時に里親に引き取られたが、その里親も中学生の時に交通事故で亡くなった。

 高校は中退したが大検を取り、大学へ進学。

 そして、大学院に進んだ。

 生態学を専攻し、研究室では教授の助手として働いていた。


 裁判中、弁護士は熱弁をふるった。


 しかし、判決は覆らなかった――

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