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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのはじまり
18/74

Shopping mall(4)

 パニックの波がショッピングモールの西側にも到達したのは、東側で若い男が女を襲ってから十三分後の事だった。


 大勢の買い物客たちが一斉に走ってくる。

 そんな光景を見た、他の買い物客たちはそのパニックに飲み込まれて、わけのわからないまま、自分たちも走り出していた。

 管内放送では落ち着いて行動してくださいというアナウンスが流れているが、誰ひとりそんなアナウンスを聞いてはいなかった。


「なにかあったんでしょうかね?」

 小鳥明菜が藤巻に言った。


 この時点で、パニックはまだショッピングモール最西端にあるコーヒーショップには到達してはいない。

 ただ、コーヒーショップの前を人々が走り抜けていく姿は見ることが出来た。


「なんだろうね。こういうときこそ平常心だよ、小鳥くん」

「わかっております。先生が常々言われ続けていることですよね」

「そうだよ。人々が騒いでいるからって、同じように騒いでパニックになる必要はないんだ。まず、その騒ぎの原因を調べて、それが自分に関係することなのかを確かめる。そういった状況確認が必要だよ」

「はい、先生」


 そんな会話を藤巻たちが交わしていると、コーヒーショップの入り口に血塗れの男の姿が現れた。

 無表情で目が虚ろな男だ。

 着ているスーツは袖の一部が千切れており、首のところにはどす黒い血の痕がついていた。


「いらっしゃいませ」

 入ってきた男に蒲生紗智子が声を掛ける。

 しかし、男はその声に反応することなく、足を引き摺るようにしながら店内を歩いている。


「どうしたんだろうねえ、彼」

 奇妙な男の姿を見ながら、藤巻が呟くような声で小鳥にいう。

「昔ね、ゾンビっていう映画を見たことがあるんだよ。あれは確か、監督がジョージ・A・ロメロってひとだったかな。死んだはずの人が甦って、他の人を襲うんだよねえ。その人を襲う甦った死者たちをゾンビって名付けたのがこの映画なんだよ。ゾンビっていうのは元々ブードゥー教に伝わる死者を甦らせる秘術で甦らせた死者のことで、噛み付いて感染するっていうのはドラキュラから来ているらしいんだよねえ。この感染のヒントっていうのは、地球最後の男っていうSF小説から来ていて……」


 藤巻が小鳥に語っていると、二人のテーブルの横に男が立っていた。

 男は先ほどの無表情とは打って変わって、目を見開き、大きな口を開けて鋭くなった歯を剥き出しにしている。


「そういえば、映画のゾンビもこんな感じだったよねえ。メイキャップがいまいちだけど、まあこっちの方がリアルかもしれないね……ドッキリ番組かな、これは」


 藤巻は男を目の前にして笑顔を浮かべながら辺りを見回してカメラがどこにあるのか探す。

 しかし、カメラと思われるものはどこにもなかった。

 それどころか男の様子もなんだかおかしい。

 どこかの事務所に所属している俳優か、劇団の役者辺りだろう。

 そう思っていたが、雰囲気が何処か違っている。


「先生、ここは逃げたほうが……」


 小鳥がそういった時、男は口を大きく開けて藤巻の首に噛み付こうとしていた。


 男の歯が藤巻の首筋に触れようとした時、藤巻の身体が動いていた。

 風が起きた。

 すぐそばにいた小鳥はそんな風に感じた。


 ボキボキともバキバキとも聞こえるような骨の音だった。


「駄目だよ、君ぃ。武術家に不意に近づいちゃ」

 藤巻の口もとは笑っていたが、目はまったく笑ってはいなかった。


 男は地面に転がっていた。

 首はありえない方向へと曲がってしまっている。


 藤巻がなにをしたのか、小鳥には見えていなかった。

 男が藤巻の首に噛み付こうとした。

 そこまではわかった。


 次に見たとき、藤巻は同じ場所に立っていて男が床に転がっていた。

 男は死んでしまったのだろうか。

 小鳥は恐る恐る、男のことを見た。


 まだ生きていた。

 体をピクピクと痙攣させながらも、歯を剥き出しにして唸っている。


「ほう、死なないのか……。こりゃあ本当に、ゾンビなのかもしれないねえ。いやあ、でも私の記憶しているゾンビっていうのは、首の骨を折ってしまえば動かなくなっていたんだけどねえ。映画よりも君はしぶといってわけか」


 ピクピクと動き続けている男に対して藤巻は言うと、トドメといわんばかりに男の顔面に膝を落とした。

 百キロ近い藤巻の全体重が掛かった膝が男の顔面に食い込む。

 男の体は大きく一回痙攣し、そのまま動かなくなった。

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