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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのはじまり
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Shopping mall(2)

 やって来たのは、老年の警備員だった。


 会社を定年退職した後で再就職として警備員となったのが手に取るようにわかるような警備員だ。

 きっと専門は駐車場の案内などであり、揉め事などの処理ではないはずだ。

 しかし、いまはどんな警備員でも構わなかった。

 ただ制服を着ている人間が来たというだけでも、どことなく心強い気がした。


「はいはい、どうしましたか」

「この女性が……」

「こりゃあ、酷い。すぐに救急車を手配しましょう」


 そんなやり取りを警備員と婦人がしている間に、女に変化が起きはじめていた。

 先ほどまで無表情だった女は目を大きく見開き、歯を食いしばるような仕草を見せている。

 その食いしばっている歯はとても鋭く、人間のものとは思えないほどであった。


「こちら、警備の平山です。いま現場に到着しました。はい。ええ、そうです。若い女性が一名、顔から出血をしていまして……」


 老年の警備員、平山がそこまで無線で伝えた時、右腕に痛みを覚えた。

 はっとして、平山が振り返るとそこにはこの世の者とは思えないような表情をした女が、自分の右腕に噛み付いている姿があった。

 腕に鋭く尖った歯が食い込んでくる。


 平山は奇声に似た悲鳴を上げると、泡を吹きながら地面に倒れこんだ。

 女が噛みついた右腕は骨が折れており、噛みつかれた部分の肉と骨の一部が削げてなくなっていた。


 女が次に襲い掛かったのは、先ほどまで手当てをしてくれていたふくよかな体型をした婦人だった。

 婦人は逃げようとしたが、履きなれていないヒールの高い靴を履いていたせいもあって、足を取られて転んでしまった。


 女はそこに容赦なく襲い掛かる。

 女が噛み付いたのは、婦人の太腿だった。

 子供の胴体ぐらいの太さはあるだろう太腿に女がもの凄い勢いで噛み付く。

 それは野生のライオンが獲物を襲って食べる姿によく似ていた。


 フードコートにいた人々はパニックに陥っていた。

 誰もが我先に逃げようと走り出す。

 子供連れの親は、子供の手を引いたり、抱っこしたりしながら懸命に走り、老人たちは普段見せないぐらいのスピードでショッピングモールの出口を目指して走った。


 大勢の人間が一斉に走り出したため、人と人がぶつかり、倒れ、その倒れた人間を別の人間が踏みつけるといった二次災害も相次いだ。


 パニックはすぐにショッピングモール全体に伝播していった。


 駐車場では急いで出ようとした車同士がぶつかり、二次災害、三次災害へと繋がっていく。


 人々を襲う獣と化したのは、若い男女だけではなくなっていっていた。

 男女に襲われた人間は、まるでウイルスに感染したかのように、同じような状態となり、次々と他の人間を襲っていく。

 それがネズミ算式に増えて行き、ショッピングモール内にいる人間のほとんどが感染者となり、非感染者は数えるほどしか残ってはいなかった。

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