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丘に眠る記憶  作者: jeff
3/6

 ___第3話___

 佐伯ゆかりがエスペランサのハイランドシティーに引っ越してきたのは

丁度アフガニスタンとカンボジアが開戦した年の6月だった。父親の転勤で家族と

共にペルーからやってきた。元々出身は日本であったが10歳の頃から父の仕事の

関係で海外を転々としていた。

「お母さん私のお出かけ用の靴どこに入れたぁ?」まだハイスクールのゆかりは

家族の中ではアイドルのような存在である。

「ほらやっぱりそうなるんだよ。ゆかりは母さんの言う事全然聞かないんだから」

次男の祐介が茶化す様に言うと長男の真吾が口を挟んだ。

「ゆかりは引越しの片づけをしないで何処にお出かけしようって言うんだい?」

「違うもん。あれは大事な靴だから部屋にしまおうと思っただけ!」

そういうと白いケースを開けてまた探し出した。

「ゆかり、アレはあなたの衣装ケースの一番下にしまったじゃない。しょうがない子ねえ」

母親の涼子が笑いながら入ってきた。46歳にしては若く見えグリーンに染めた髪が

似合っていた。

「さっきテレビでやってたんだけど、アフガニスタンの圧勝なんじゃないの?

それにしてもLSW型戦闘機って凄いよねー」祐介がその性能を解説しだした。

「祐介やめなさい。仮にも人がたくさん死んでるのよ、そんな兵器なんて要らないわ」

母が諭すように言った。そもそもエスペランサへの転勤を希望したのは涼子であった。

ブラジルの企業GLに勤める夫の佐伯俊夫は香水の会社に勤めるエリートだ。

香水の研究開発をしており最近では医療用香水の開発をしていた。

2080年には3次元TVシステム・サーディアにも搭載され料理番組や

旅行取材では現場の臨場感を匂いで再現させていた。ただ戦争の影響もあり

ペルーの社会情勢に不安を覚え中立国であるエスペランサに引っ越す事を決めた。

「お母さん、お父さん何時ごろ帰って来るの?」ゆかりが自分の部屋から大声で

聞いている。

「今夜は遅くなるから先に寝てなさいってさっき連絡が入ったわ」

それを聞いて何かブツブツ言いながら部屋から出てきた。

「今日はみんなで外食するって言ってたのにー。アトランテ行きたかったー」

ここからアトランテまでは車なら40分高速艇なら1時間だ。

「オレはめんどくさいからここで良いよー。ね、母さん80階の寿司屋行こうよ」

祐介が口を挟んだ。フェンシングをやっているためかスリムな割りにがっちりした

腕をゆかりの首に巻きつけながら頭を持ってうんうんと頷かせた。

「お兄ちゃんやめてよー、分かったから寿司で良いよ、寿司で」ゆかりがこう言うと

「寿司が良いでしょ?」また腕の力をかけていた。

「二人とも遊んでる暇があったら片付けを手伝いなさい、ほら早く」

母の言葉に二人は顔を見合わせて舌を出した。

それを長男の真吾が笑いながら見守っていた。

 ゆかりたちが入居したマンションは95階建ての高層タワーでエスペランサ島の

西の街ハイランドシティに在った。エスペランサはブーメランのような形をした島で

中央にミッドランドシティ・東側にイーストウィングタウンが在りミッドランドシティ

からはリニア高速道路が150km先の海底都市アトランテまで繋がっている。

ここは完全に商業都市で居住者は施設関係者か政府の要人である。

アトランテは24時間眠らない街だ。トレードセンターを中心に病院・学校・ホテル

警察・ショッピングセンター・歓楽街とすべて24時間開けている。

イーストウイングタウン近くの空港には24時間到着便がありその乗客がアトランテに

吸い込まれてゆく。エスペランサの人口は26万人ほどだがビジネスや観光客を

合わせると優に30万人を超える。

佐伯俊夫が勤めるGLアトランテ研究所もこの海底都市のセンタービル17階にあった。


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