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カメラになれるといいですね

 今日はカップル成立一年記念日だ。


 だから私たち2人は、何処かに良さげなお揃いのグッズを買える、雑貨屋でもないかと、人気(ひとけ)の無い道を歩いていると、いきなり彼氏の裕之が足を止めた。


「ねぇ、美樹(みき)見てよ。ここ」


 そう言って裕之(ひろゆき)が指し示したのはカメラ貸し出します、という看板を掲げた店だった。


「何? どうしたの?」


 私は首を傾げた。

 すると裕之は、にこっと笑ってこう言った。


「美樹の写真撮りたいんだ。記念すべき1年目だし」


 それを聞いて、私は嬉しくてたまらない。

 だってそれは、裕之も私の事を大切に思っていてくれている証拠だから。


 私は裕之の手を引いて店内に入る。


「いらっしゃいませ! ようこそおいで下さいました!」


 お店の人は威勢の良いあいさつをすると、早速カメラについて説明してくれた。

 一眼レフからスマホまで何でもござれ! らしい。


 裕之と私がどれにしようか悩んでいると、お店の人が言った。


「カップルさんですか?」

 そう聞かれると、ちょっと恥ずかしかったけど、私は素直にうなずいた。


 するとお店の人は、

「じゃあこちらがオススメですよ」と言って一眼レフを勧めてきた。


 その一眼レフは『思い出を残しませんか?』と書かれたケースの中に入っていた。


 裕之はその言葉が気に入ったのか、その一眼レフを手に取った。

 お値段は……レンタルと言うこともあり、お手頃だ。


「うん、これにするよ」


 裕之が決めたため、私もそれに賛成する。

 すると、お店の人は、使い方の説明をしてくれた。


「このカメラは一眼レフでありながら少々特殊で、ポラロイドカメラの様に撮った写真がその場で出てくるんです」


 カメラを持っていた裕之がある事に気づく。


「このカメラ、フィルムカウンターがありますよ」

 その通りだった。


 そのカメラには撮影する事に数字が減るフィルムカウンターがあったのだ。


「それはですね、やっぱりレンタル製品だから、撮影する枚数が限られているんですよ。でも、そのカメラで、最後の一枚を撮るときは、これ以上ないほどの特別な一枚になるでしょうね!」


 その店員さんの言葉で裕之と私は決めた。

 これからずっと一緒に居られるように、最後に一枚は最高のものを残そうと。


 私たちは、会計を済ませて店を後にしようとすると裕之がこんな事を呟いた。


「わたしはカメラに不慣れなのであまり綺麗に撮れないかもしれません」


 その言葉に対して店員が返答する。


「そうですか、でも早くカメラになれると良いですね」と。

 その言葉には含みがあるように聞こえたが、私達は気にせず外に出ていった。


「それでは、楽しんでくださいね〜」

 という声に送られながら。

 〜〜〜〜〜〜 こうして私たちの楽しいデートが始まった。


 まずは、近くにある公園に向かっていって、そこで写真を撮ろうという事になった。

 公園に着いて、裕之が立ち止まったと思ったらパシャリと音がした。


「えっ? 何したの?」


 突然だったのでびっくりしたが、答えはすぐに分かった。

 彼の手にあったのはさっきレンタルしたカメラであり、その中には今撮ったであろう写真が写っている。


 すると裕之はそれを渡してきた。

 その中身を見てみるとそこには、笑顔の私が写っていた。

 ただ、ただ普通に笑っているのではなくて、心の底からの幸せそうな笑顔をしているように見えた。


「何これ!? すっごくいいじゃん!!」

 感動している私に対して裕之が言う。

「まぁ、とりあえずベンチに座って落ち着いて見ようよ」

「そ、そうだね……」

 裕之の言葉に従い、私はベンチに座った。

「それよりあの人は撮った写真がそのまま出るとか言ってたけど……」


 そう言いつつ裕之は自分のカメラに入っている私の写真を見ていた。

 2人でカメラを見ていると側面にボタンがあるのに気づき、それをポチッと押してみた。

 するとカメラの隙間の部分から笑顔の私の写真が出てきて、裕之は思わず「おおー」と言った。


「すごい……本当に出てきたよ! このカメラ最高だね!」

 そうして私たちはしばらく写真を見ていると、裕之が言った。


「この写真欲しいな……貰ってもいいかな?」

 その質問に私は少し考える。

 そして答えを出した。

「いいよ! 裕之とならいくらでも思い出を作るから! 記念すべき1年目だしね!」

 それを聞いた裕之は、嬉しそうに私の方を向いてこう言った。

「ありがとう。じゃあこの写真もらっておくね」

 裕之の手にある私の笑顔の写真をみて、私は思う。


『きっと今日からまた新しい思い出が生まれていくんだな』と。

 次の瞬間裕之はベンチから立ち上がって

「よし! このカメラを使っていっぱい撮るぞ!」

 と意気込んだ。


 それから私はカメラを受け取って自分でも撮り始めた。

 二人で笑い合ったり、ピースをしたり、 色々なポーズで写真を取った。


 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、 空が暗くなり始めていた。

 ふとカメラのフィルムカウンターを確認すると、残り2枚になっていてそれを見た裕之は、焦るように言う。

「やばい! あとちょっとしかない!」


 確かにその通りだった。

 でも、慌てる必要は無い。

 だって私は裕之との幸せな時間があればそれでいいのだから。


 私はカメラを構えて無言で微笑む。

 すると裕之はそれにつられて笑顔になり、私はカメラを裕之に向け心の中で3、2、1……とカウントダウンをしていく。


 カシャっと音が鳴り響いたと同時にフィルムカウンターの表示が1に切り替わる。

 裕之が撮った写真を確認しにきて、「上手く撮れてるね、じゃあ最後の一枚は美樹を撮るよ」と言って裕之はカメラを受け取った。


 彼はカメラを首にかけ、私に離れるように言って、距離が充分離れたのを確認すると、カメラを構える。

「それじゃあ行くよ」

 その言葉と共に裕之はシャッターを押した。


 すると、シャッター音とともにカメラが光りだして、ギュルギュラギラグルゴラガラゴルンと凄い音を立てたと思うと裕之がカメラに吸い込まれていく。


「えっ! 何? どうなってるの!? 裕之!!」

 私は訳がわからず裕之の名前を叫んだが、裕之はもう居なかった。


 次の瞬間カメラが地面に落ちたと同時にカメラの蓋がパカリンッと開いて私が写った写真と一緒に一回り小さいカメラが飛び出てくる。


 私はそれが裕之だと理解するのに時間はかからなかったが、突然の出来事に頭がついていかないため、ただただ驚くことしかできなかった。

 私はカメラと写真を拾って例の店に急ぐ。

(裕之……どうして?)

しかし、そう考えていても答えは出ない。

 そして着いてしまった。


 私は息を整えてから店の扉を開ける。

「すみません! 私の彼氏がカメラになってしまったのですが……」

 すると店員さんは答える。

「はい、存じております。おめでとうございます」

「えっ? どういう事ですか?」

「あなたの恋人は、あなたとずっと一緒に居るためにカメラになったのですよ。それは、つまり永遠を手に入れたという事です」


 私は店員に掴みかかった。

「ふざけないでください!! 裕之は、裕之はどうなるんですか! 人間として生きる権利を奪ってまで永遠にする意味はあるんですか!? 裕之を返してください!! 元に戻してください!!」


 私は泣きながら必死に訴えかける。

 すると、店員はニタニタしながら言った。

「残念ながら一度カメラになってしまったものは戻す事はできません。それにあなたは恋人といつも一緒になれるんですよ? いいじゃないですか」


 私は反論した。

「いいわけ無いでしょう! 裕之には裕之の人生があるんです! 私は裕之と普通の幸せを築きたいだけなんです!」


「まぁ、とりあえず落ち着きましょうよ。さっきの話の続きをしましょう。カメラになった裕之くんを使えば彼の目を通して、いつでもどこでも世界を覗くことができます。そうすればあなたの見れなかった景色も見れるし、彼が感じたものを貴方も感じる事ができる。つまり、これからは裕之くんとひとつになる事が出来るという事なんですよ」


「そ、そんな……」

「それで料金の方なのですが、その写真引き換えになりますね」

 店員は私が持っている写真を指差して言った。


「この写真は渡せません!裕之がいなくなった今、この写真は私にとって裕之と繋がっている大切な物なんです!」

 私は必死に抗議する。


「そうですか……なら仕方ありませんね。今あなたが持っている小さい方のカメラは預からせていただきます。

 写真を渡してもらえれば話は別ですが」


 私は迷った挙句、カメラを選ぶ事にした。

 裕之であったカメラのファインダーを覗けば彼と少しでも繋がることができる気がしたからだ。


 私は裕之の写真とレンタルしていた一眼レフを店員に渡す。

 すると彼はニコッと笑って言った。


「確かに受け取りました。ではそのカメラを裕之くんの代わりにプレゼントさせて頂きますね。あとこのカメラを裕之君だと思って大事にしてあげてくださいね。きっと裕之くんも喜ぶと思いますよ」


 私は店員に対して疑問に思った事を口にした。

「な、なんで裕之の写真が必要なんですか!?」

 店員は神妙な面持ちで答える。


「それはですね、カメラになった人が、最後に撮った写真をアルバムに保管して、あとで眺めるのが私の趣味だからです。ちなみにその写真は私だけが閲覧できるように鍵付きの箱に入れていますのでご安心ください」


「は、はぁ……」

 私の反応を見てか、またニッコリ笑って話を続ける。

「あ、もしまたここに来る機会があったら裕之君のカメラの感想を聞かせてくださいね。裕之君も喜ばれると思うので」


 私は店員に別れを告げて店を後にする。

 外に出るともう夜になっていて、空を見上げると満天の星空が輝いているのを見て私は裕之との思い出を振り返っていた。


 初めて出会った時のこと、デートに行ったこと、キスしたこと、そしてあのプロポーズのこと。


(裕之、私は裕之と出会えて本当に良かった。これからどんな辛い事があろうとも裕之とずっと一緒にいるよ。裕之は私の中でいつまでも生きている)


 そんな事を考えながら私はカメラになった裕之ごしに夜空を見上げた。

 カメラの画面には綺麗な星座が映し出されている。


「裕之、星座綺麗だよ」

 私の声は夜の闇に消えていった。

見えすいた結末で面白みに欠けるかもしれませんが

もしよかったら評価をください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編でも話しがうまく纏まっていていいですね [気になる点] 急に消えてしまった裕之の身辺の状況が 気になります。 [一言] 店の買い物で異変が起こる小説が続いている様に思われるので 全く別…
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