第7話 よろしく
「……そ! ……止だ……! 引き……ぞ……!」
森の方から何人かの慌てた声が聞こえ、すぐに静かになった。
気配が消え、森に静寂が戻る。
客車から、御者が降りてきて何かを叫びながら駆け寄ってくるのが見えた。
「はあ、はあ……やった、よね?」
さすがに疲労がピークに達したのか、膝に両手をつきながら、ルカが喘ぐように言う。
「た、たぶん」
僕も緊張から解放されたせいか力が抜け、たまらずその場に寝転がった。
視界いっぱいに、溺れそうなほど深い、濃い青の空が広がっている。
「テオ君」
「なに?」
ざ、ざ、と土を踏む音が近づいてきて、目の前が暗くなった。
しゃがみ込んだルカが、逆さまに僕を覗き込んでいる。
黒い髪と紅い瞳、すこし汗ばんだ白い肌。
深い青空を背景にしたルカを、僕は素直に綺麗だと思った。
「私、決めたよ」
「何を?」
聞き返す。
ルカは一呼吸置いてから、決心したように僕の目を真っ直ぐに見た。
「テオ君、私とパーティーを組もうよ。ああ、もちろん帰郷の間だけでも構わないよ。君、戦えないなら護衛役が必要でしょ? さっきも言ったけど、私いま、ソロだし、王都に行くっていっても、仲間を探すためだったから。……もちろん、もしよかったら、だけど」
少しだけ考える。
確かにこの先、危険な場所も通る必要がある。
実のところ、王都で一度護衛を雇おうと思っていたのだ。
その点、ルカなら申し分ないだろう。
さっき剣の腕は見たし、人柄も分かっている。
でも、僕は彼女に話しておかなければならないことがある。
「ルカ。その前に一つだけ、言っておきたいことがあるんだ」
「なにかな?」
「僕、実は冒険者じゃないんだ」
「えっ……つまり、どういうこと?」
ルカがびっくりしたように僕を見る。
「冒険者見習いなんだ、僕。まあ……いろいろあって」
詳細はごまかした。
十回連続で落ち続けてるなんて、情けなくてとても言えない。
「ねえ……テオ君」
「……はい」
なぜかルカは責めるような口調だった。
顔もちょっと怒っているように見える。
その様子に、僕は思わず畏まってしまう。
「あのね、テオ君? 君が私と組みたくないなら、そんな回りくどい言い方をしないで、ハッキリそう言えばいいの。だいたい、さっきの戦いであれだけそつのない立ち回りを見せておきながら見習いだなんて、よくまあそんな冗談が言えたものだよ? 君、戦えないって言ってたけど完全に熟練冒険者の風格だったよ? それが、こんな回答じゃ……納得できないよ」
ルカは感情が高ぶってしまったのか、一気にまくしたててきた。
いや、全部本当なんだけど……というか傷つけるなんて、そんな、まさか。
「だいたい……さ」
ルカの声が湿っぽくなってきた。
「君は私のことを、『見習い』だと知ったら申し出を引っ込める人間だと思ってたの? それはすごく……すごく傷つくかな」
あ、やば。
ルカが泣きそうになってる。
というか、何か彼女の触ってはいけない場所に触れてしまったらしい。
大丈夫だ、落ち着け僕。
ここはスマートに彼女をフォローして……
だめだ、フォローできない! 全部本当だし!
クソ……だったら、分かってもらえるまで正直に言うしかない!
「…………ごめん、僕はウソなんて付いてないし、見習いなのも本当なんだ! その、さっきも言ったけどいろいろあって。だから、君を拒絶する意図なんてない。本当だよ。僕も君と組めるなら、嬉しいと思ってる」
「…………まさか、本当なの?」
「うん」
「…………っ」
僕が頷くと、ルカは絶句してしまった。
見習い……そんなに衝撃的なことなのだろうか。
正直前のパーティーはダンジョン攻略ばっかりで他の冒険者との交流がほとんどなかった。
そのせいで、冒険者の『普通』がわからない。
もちろん僕がすごいのかどうかと言われれば、僕の感覚ではノーだ。
だけどルカは、そんな僕の能力を買ってくれている。
それを無碍に断るなんてするつもりはないし、できない。
だから。
「ルカ、よろしく。僕でよければ、だけど」
手を差し出す。
「…………っ!」
ルカがそれをみて、目を見開いた。
すぐに、彼女の顔に満面の笑みが咲く。
「……うん! 改めて、よろしくね!」
ルカがその手をしっかりと握り返してきた。
街から衛兵が駆けつけたのは、それから半刻ほど後だった。
僕とルカは賞金首討伐の立役者ということで、衛兵たちから簡単な事情聴取を受けることになった。
といっても、経緯の報告と、あとは雑談だったけれども。
その中で衛兵から聞いた話によると、同乗していた商人が商売敵の恨みを買っていたらしく、嫌がらせで山賊をけしかけられていたらしい。
嫌がらせで賞金首に依頼をかける商売敵とか、どんな危ないヤツなのかと思ったが、衛兵はそれ以上は教えてくれなかった。
まあ、これから黒幕の洗い出しをするのだろうし、情報が漏れるのはマズいということだろう。
僕としても、裏社会の事情なんてよっぽどのことがない限り、首を突っ込みたい話題ではないからね。
そんなこんなで、僕とルカは暫定的にではあるけど、パーティーを組むことになった。
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