第46話 冒険者登録
「依頼達成報告、終わったよ」
ギルドの窓口で依頼達成の報告書の提出やらその他もろもろの手続きを終えたあと、僕はロビーの長椅子でぐったりしている二人のもとに戻った。
「つ、疲れたー……」
「大変な依頼だったのじゃ……」
ルカとフレイは、依頼が完了したことで完全に気が抜けてしまったようだ。
二人とも、装備や武器をその辺に置いたまま、長椅子に身体を投げ出している状態だ。
というか四人がけの椅子を二人で占領しているのはさすがにやめてほしい。
そのうち他の冒険者かギルドの職員さんに怒られそうで、僕はチラチラと背後を振り返ってしまう。
「……ん?」
……なんか、さっき書類を渡した職員さんがバックヤードに慌てて駆け込んでいるんだけど、何かあったのだろうか。
僕も二人と負けず劣らず疲れているし、書類の不備やら何やらを指摘されて怒られるのは、ちょっとごめん被りたい。
というかルカはともかく、フレイは表情どころか全体的に造形までぐで~……と緩い感じになっていて、ちょっと危険な感じだ。
他の冒険者がフレイを見てギョッとした表情をしたあと、何も見なかったように足早に通り過ぎていくのが見えた。
「二人とも気を抜きすぎだよ」
「当たり前じゃん! あんな……あんなとんでもない魔物と戦うハメになるなんて聞いてなかったし!」
「というか、お主はよくあのような怪物に勝てたものじゃのう」
ルカは寝そべりながら、フレイはもはや人の姿かどうか怪しい状態でそんなことを言ってくる。
「土壇場でスキルが進化したからね」
確かに魔人のレイスは強敵だった。
じっさい、ノンナさんが僕のスキルを目覚めさせてくれなければ、魔人に勝てたどころか、三人無事にここまで帰ってこれたかどうかすら怪しい。
……ちなみにノンナさんはこの場にいない。
僕が魔人を倒したあと、気がついたら彼女は姿を消していた。
もともと幻術を使ってルカとフレイから姿を隠していたから一緒に仲良くダンジョンから帰還、なんてことにはならないとは思っていたけど……
せめて一言くらいお礼を言いたかったんだけどな。
まあ、彼女は自分のことを『魔王の巫女』と自称していたけど、検定に参加していたし冒険者見習いのはずだ。
もしかしたら今回の検定で冒険者になっているかもしれないし、いずれまた会う日が来るだろう。
「そういえば、戦いが終わった後にそんなこと聞いたかも……たしかにあのときのテオ君はすごくカッコ……強かったけど……あれって、どんなスキルなの?」
「端から見ている感じじゃと、我ではとても目で追いきれぬような魔人の剣筋を完全に見切っているように見えたのじゃ」
「うーん、どう言えばいいのかな……ざっくり言うと、『力場』を視る力かな」
「リキバ……??」
「よく分からんのじゃ」
ルカとフレイが首をかしげている。
まあ、僕もまだ完全に使いこなしているわけじゃないから、うまく説明するのが難しいんだけど。
一応、僕の視ることのできる『力場』というのは、生物や魔物が生み出す意思の力や魔力の波とか、そういうものらしい。
意思の力も魔力も、どちらも相手が強い感情を発したり身体を動かしたりすると揺らぎが生じる。
とくに意思の『力場』は行動より数秒先に揺らぎが生じるから、僕はそれを『視る』ことで魔人の攻撃を事前に察知し、うまく躱すことができた。
あとは、レイスみたいな実体が希薄な魔物でも『力場』を生み出す場所が弱点だったと直感的に分かったから、そこを攻撃すればよかった……とかかな。
ざっとそんなことを二人に説明してやる。
「うーん……やっぱりよく分からないけど……とにかく、テオ君は強くなったってことだね!?」
「まあ、大体あってる」
「なるほど、力場じゃな。応用すれば、相手に触れさせず、一方的に弱点を突くことができるということじゃな。これは強いのう」
「フレイの方が理解してるっ!?」
ルカはショックを受けたのか、ガックリとうなだれてしまった。
「あはは……」
ちょっと理屈っぽい力だから、脳筋派のルカにはちょっと分かりづらかったかも。
でも、この能力はルカみたいな近接戦闘職にこそ、相性がいいスキルの様な気がする。
なんとかしてこの感覚を伝えられれば、ルカはもっと強くなると思うんだけど。
まあ、そのへんのことはまたあとで考えよう。
「それで……テオ君。どうだった?」
話が一段落したところで、ルカがおずおずと切り出してきた。
彼女が何を聞きたいかは、もちろん分かってる。
「もちろん、合格。ほら、登録証もここに」
僕は胸ポケットにしまい込んでいた冒険者登録証を取り出して、ルカとフレイに見せる。
「おお、おおお~~~!」
「おおーー!!」
二人が目をまん丸にしながら、僕の手に収まっているカード上の物体を覗き込んでくる。
というか、窓口横の掲示板に、僕の名前貼りだしてあるんだけど……
ルカはギルドに入ったときから、なぜかそっちの方を頑なに見ようとしてなかったのだ。
「おお、おおお~~~……おおぅ……ぐすん。うわああああぁぁん! よかったよおおテオくううぅぅん!」
ルカが僕の手に持つ登録証にプルプルと手を差し出してきたと思ったら、突然大粒の涙を流しながら抱きついてきた。
「えっ……ちょっ!?」
突然のことに、僕は僕の胸にしがみつきながら泣きじゃくるルカをただ見つめることしかできない。
いや、確かに僕も登録証をギルドの職員さんから渡された時はちょっとウルッときたけど、そんな大泣きするほどのことだろうか?
「なっ……ルカ、ずるいのじゃ!わ、我も……うおおおおおぉぉぉん!」
「おふんっ!?」
フレイはフレイで妙な空気を読み方をしたのか、頭から思いっきり僕の脇腹に突っ込んでくる。そのせいで思わず変な声が出てしまった。
ちなみに彼女は泣いていないもののグリグリと頭を僕の脇腹にねじ込んでくるので、痛みとくすぐったさが同時に襲ってきて妙な気分だった。
なんだこの状況……
フレイの頭突きのせいでちょっと冷静になったおかげか、他の冒険者たちや職員さんが僕らの様子を生暖かい目で見守っているのが分かってしまう。
うう……恥ずかしい……
でも、こうやって僕の成功を祝ってくれる仲間がいるのは、素直に嬉しかった。
「……ありがとう、二人とも」
僕にがっしりとしがみついている二人の頭を、そっとなでてやる。
そうか……今日僕は冒険者になったんだな。
じわじわと、実感が湧いてくる。
それと同時に、喉元が詰まったような妙な感覚がこみ上げてきた。
二人の気持ちがうつってしまったのだろうか。
僕は二人をぎゅっと抱きしめながら。
妙にぼやけた天井を、しばらくの間じっと見つめていた。
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