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第41話 『貫きの一角獣』その3

再開します!

「せああっ!」


 裂帛の気合いとともに、レナートの剣が魔物の身体を両断する。


『キアアアァァッ――――』


 身の毛のよだつ断末魔を残し、魔物は淡い光の粒子となり消え去った。


「またこれかよ……」


 レナートは思わずぼやく。


 様々なダンジョンを攻略し、様々な謎を解き明かし、レナートたち『貫きの一角獣』はついに『魔王城』への侵入を果たした。


 だが、『魔王城』は冒険者ギルドでの前評判通り、S級の評価にふさわしい難易度で、レナートたちに立ちふさがった。



 まず城門から内部へ侵入すると魔物の仕掛けた幻術で延々と同じ場所を歩かされたあげく、植物の魔物に食い殺されそうになった。


 なんとかそれを撃破して城のエントランスホールに入った瞬間、後ろの扉が閉まった。


 エミルが慌てて開こうとしたが、もちろん固く閉じられ開くことはなかった。


 あとは言わずもがな。


 奥へ続く通路から、二階へと続く階段の奥から、魔物という魔物が大量に押し寄せてきたのだ。


 まんまと『魔物湧き』の罠に引っかかってしまった、というわけである。


(まあ、何もないとは思っていなかったけどな……!)


 レナートとしても、もうこの状況は慣れっこだ。


 ここまで、なんどこの手の罠に引っかかったのか分からない。


 でもまあ、城への入り口はここしかなかったのだから仕方がないのだ。


 ちなみに『魔王城』に至る間に通ったダンジョンの罠に引っかかりまくった経験を踏まえて、一応裏口などがないか探ってはみた。


 レナートとて、学習するのだ。


 まあ、もちろん見つからなかったのだが。


「ふっ――!」


 さらに襲いかかってきた上半身が人間の姿をした蜘蛛の魔物を一瞬で斬り伏せ、さらに奥で戦斧を振りかぶっていた牛頭の魔物ミノタウロスの首を斬り飛ばす。


「ヴェロニカ、エミル、そっちはどうだ!」


「中級魔術でもなんとか対応できてるから、こっちは大丈夫!」


「ボクも問題ないかなー」


 魔物の群れと交戦しつつも、二人からはそんな危なげのない返事が返ってきた。


「チムールは……」


「おらァッ!! どらああァッ!!!!!」


「……心配なさそうだな」


 通路のかなり先の方で、心底楽しそうに魔物と戦っているチムールが見えた。

 レナートは思わず苦笑が漏らす。


 これまでの道中では見たことのない魔物も混じってはいるが、今のところ、体感的にはそれほど苦戦している気はしない。


 これも、ここまで様々なダンジョンで苦難を乗り越えて来たからだろうか。


 そもそも罠を発見するのが得意なテオがいない今、『貫きの一角獣』にできるのは、どんな罠が出てきたとしても踏みつぶして前に進むことのみだ。


(……行ける、行けるぞ!)


 レナートたちが襲いかかってくる魔物たちを斬り伏せ、なぎ倒し――ホールになだれ込んできたすべての魔物を倒しきったは、それから数分後のことだった。




 ◇



「うわっ、危ないッ!?」


 通路の先をゆくエミルが叫び声を上げて飛び退く。


 ――ズズン!


 直後、すさまじい轟音とともに彼女が立っていた場所の天井がいきなり崩れ、降ってきた。


「大丈夫か?」


「あ、ありがとうレナート、ボクは平気だよ。でも、こんな場所にも罠が仕掛けてあるとはね……」


 レナートが差し出した手を握り、それを支えにして立ち上がったエミルの顔は、少し青ざめていた。


 その背後で、キリキリという音とともに、天井が元に戻っていく。


 いわゆる、吊り天井というヤツだ。


「それにしても、こうも魔物も罠も多いとうんざりしてくるわね。魔物ならともかく、罠は不意打ちが基本だから、私の魔術じゃ対処できないし……しかも、ここの罠は普通のじゃないし」


 ヴェロニカが疲れたようにぼやく。


「……だな。ヴェロニカ、この罠は何が付与されているか、分かるか?」


 よく見ると、天井部分にはさきほどまで見えなかった複雑な紋様の魔法陣も確認できる。


 どうやら罠が起動するのと同時に、魔法陣も一緒に発動するような仕掛けになっているらしい。


「うーん……天井に転写された魔法陣の術式からすると、『ゾンビ化』、『発狂』、『身体能力向上』、それに『瘴気発散』かなぁ……で、最終的に『魔力暴走』で被害者も爆散する仕掛けになってるわね」


 つまりは、この吊り天井の罠自体が術式のスタンプみたいな役割があるということらしい。


「で、罠に掛かると、ゾンビ化した上に発狂して凶暴化したうえに身体能力が向上するうえ、さらにこちらから近づいて攻撃するだけで瘴気で身体を蝕まれる、助けようにも魔力が暴走状態だから助かる見込みはゼロ、という感じ。誰かが引っかかれば、全滅の憂き目に遭うのはほぼ確定ね」


「罠の殺意が高すぎる……!」


 レナートは唸るしかなかった。


「だよねー。ギルドがS級ダンジョンに指定してのも頷けるよ」


 エミルがレナートに同調する。


 ただの罠ならば踏みつぶして進むことも多々あった『貫きの一角獣』の面々であったが、さすがにこのレベルの罠になるとさすがにそれも難しい。


 罠の破壊自体は可能だろうが、破壊自体で別の罠が連鎖的に起動する恐れすらある。


 さすがにこの状況においてそれを想定できないほど、レナートも無能ではないつもりだ。


 改めて、この『魔王城』の侵入者への凄まじい悪意をヒシヒシと感じる。


「チッ。つーか、罠は卑怯だってんだよ。正々堂々殴り合いに来いってんだ」


「もうこの城造った人、数千年前に死んでると思うわよ……」


 チムールのぼやきに、ヴェロニカが呆れたようにつっこんでいる。


「ともかく、皆無事だったんだ。これ以降も慎重に進もう」


 レナートの声に、皆がうなずいた。




 ◇



『魔王城』は実のところ、それほど階層構造は複雑ではない。


 もちろんレナートたちが知っている『城』よりその規模は数倍以上のものがあったが、構造自体は一般的な城の造りから大きく逸脱することもなく、魔物の襲撃や罠こそ苛烈ではあるものの、レナートたちはやがて城の謁見の間と思しき大広間に到達することができたのだった。


「うわ、ここ……なんていうか、決戦の場って感じだね」


 ヴェロニカが周囲を見渡しながら、そう呟いた。


 謁見の間――この広々としたホール状の部屋には、レナートたちが今いる入り口付近から最奥部の玉座まで、一直線に赤い絨毯が敷かれている。


 左右の壁には、旗と思しき布きれが等間隔にぶら下がっているのが見えた。


 もっともそのどれもが数千年の歳月により色褪せており、あちこちがボロボロになっていたが。


「油断するなよ。さすがにここが最奥だろう。となれば、階層主(フロアボス)が出てきてもおかしくない」


「へっ、どんなヤツが出てこようが俺の拳で蹴散らしてやるぜ!」


「拳なのに蹴散らすんだ……」


「あの玉座から出現するのかなー?」


「わからん。だが進むぞ」


 言って、レナートは慎重に歩を進める。


 そして、広間の中央にさしかかったとき、それは姿を現した。


『ワガ、ネムリ……サマタゲルモノ……ダレダ』


 玉座から立ち上る黒い霧が、すぐに人の姿を取る。


 それは巨大な剣を持った、老齢の男だった。


 煌びやかな衣装を身に纏っていることから、もとは高貴な身分……いや、玉座から出現したことを考えれば、おそらくはこの城の主だったのだろう。


 もっともその頭部にはねじくれた角、そして背中には翼竜の翼が生えている。


 人間ではないことは明らかだった。


「魔人……だよね、あれ。すごい、初めて見た」


 ……魔人。


 凄まじい魔力と膂力を持ち、かつて存在した古代魔導文明をたった数十体で滅ぼしたと言われる伝説の種族だ。


 とはいえ、目の前に立つ老齢の怪人の身体は半透明で、奥の玉座が透けて見えている。


 足元は特に透けており、ほとんど足先が見えなかった。


「ああ。だがあれは、ただの残りカス……だろうがな」


 ヴェロニカに呟きに、レナートが返す。


 本物はすでに数千年前に死に絶えている。


 つまりあれは『魔王城』にこびりついた残留思念――地縛霊(レイス)だろう。


 それが彼の見立てだった。


 おそらくその力は、本来の『魔人』と比べるべくもないはずだ。


 それでも……おそらく、レナートたちが今まで戦ってきたどの魔物よりもずっと強い。


 そんな確信が、肌を通してビリビリと伝わってくる。


「ほお、魔人か。レイスだろうがなんだろうが、俺たちの相手にとっちゃ不足はねーな。そう思わねーか、レナート?」


「……ああ、その通りだ」


 チムールに言われるまでもない。


 レナートは今、全身が震えて止まらないのだ。


 もちろん恐怖からではない。


 歓喜からだ。


 ――強者と、全身全霊をもって戦える。


 それがなにより嬉しくてたまらなかった。


 これまでの道中、確かに苦労はあったし、苦戦もあった。


 だが、全力で戦えたかといえば、答えは否だ。


 数の暴力や、罠による妨害。


 いずれも、レナートの求める『強者との戦い』とは言えなかった。


 だが目の前の敵は違う。


『我ガ眠リ、妨ゲルモノ……死ヌガヨイ』


 魔人霊(レイス)が持つ大剣に炎が生じ、纏わり付く。


 かつて世界を滅ぼした()の種族の殺意が具現化したような、黒い炎だ。


「来るぞ……! ヴェロニカ、対アンデッド魔術の用意! エミルは範囲指定を頼む! チムール、行くぞ!」


「おうともよ!」


 レナートが各員へ指示を飛ばし、チムールとともに魔人霊に向かい駆け出す。


 魔人霊もレナートたちの戦意を感じ取ったのか、黒炎を纏った大剣を静かに構え、迎え撃つ体勢を取った。


 そして、足元に魔法陣が現れ――


 魔人霊が消えた。


「はあっ?」


 レナートは思わず素っ頓狂な声を上げた。


 一瞬、転移魔術か何かで死角から攻撃を仕掛けてくるのかと身構えたのだが、どうやらそうではないらしい。


 さきほどまで感じていた強烈な殺気も、残滓とはとても思えない濃密な気配も、忽然と消え失せてしまったのだ。


 そして……魔人霊はいくら待っても、再び姿を現すことはなかった。


「おいレナート、どういうことだ!?」


 いきり立っていたチムールがレナートを見る。


 その表情は困惑一色だ。


 とはいえ、レナートもまったく状況が分からない。


「俺に聞くな!」


 そう返すのが精一杯だった。


「ねえレナート? 魔人レイスの気配、消えちゃったんだけどー……ボクの気配探知にも引っかからないし、もうこの広間全体からもいなくなっちゃったみたい」


 エミルが困惑したように言う。


「ていうか、さっきの魔法陣って……召喚魔術に見えたんだけど」


「はあ? 召喚? 誰が? どこに?」


「私が知るわけないでしょ! っていうか、魔力発動し損なんだけど! 対アンデッド魔術ってめちゃくちゃ魔力消費するんだけど!」


「んなこと知るかよ! 戦闘中に損も得もあるか!」


 チムールとヴェロニカの言い合いをぼんやりと眺めつつも、レナートの困惑は深まるばかりだ。


 そもそもダンジョン攻略では、階層主(フロアボス)を倒さなければ、『攻略した証』であるドロップアイテムが手に入らないのが通常だ。


 それがなければ、ギルドに『攻略済み』と証拠を提出することはできないし、そもそも報告することができない。


 このままでは、『攻略失敗』だ。


「クソ、一体何が起きているんだ……」


 レナートは広間の奥で静かに佇む玉座を睨み付けながら、一人呟いた。

「おもしろかった!」

「続きが気になる! 読みたい!」

「今後どうなるの!?」


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