第40話 祭祀場と魔法陣
誤字指摘ありがとうございました!
助かります〜
「……!? …………!?!?」
いきなりブルーノの身体が倒れたせいで、ルカが何が起きたのか分からず固まっている。
すでにブルーノの牛頭鬼側の身体は光の粒子へと還りつつある。
ブルーノの本体と思われる触手の魔物も、少し遅れて光の粒子へと変わり……やがて小さな魔石を残し、消滅した。
それを見届けたあと、僕は急いでルカの元に戻った。
「ブルーノは僕が倒したよ」
「えっ……どういうことかな? テオ君が倒した……って??」
ルカはまだ剣を構えたままだ。
何が起きたのかよく分かっていないらしい。
それは当然だ。僕はルカに作戦の概要は伝えていなかったからね。
というか、結果として『敵を欺くにはまず味方から』という状況にならざるを得なかっただけ、とも言うけど。
「多分、さっきルカが戦っていたのは、コイツが遠隔操作したゴーレムみたいな存在だったんだと思う。順を追って説明するよ」
本体が別にあったことなどを、フレイも交え、かいつまんで説明する。
「なるほど、どおりで、いくら斬っても手応えを感じなかったわけだよ……それにしても、テオ君の機転もだけどフレイの幻術もすごいんだね」
ルカは合点がいったとばかりに、ぽんと手を打った。
「むふー」
フレイはルカに尊敬の目で見られ、いつもよりドヤ成分多めで胸を張っている。
まあ、彼女の力なしでは僕の作戦はなし得なかったからね。
ちなみにルカの『手応えがなかった』とは、斬っても感触がなかったというよりは、相手がダメージを負っている様子がなかった、という意味合いだろう。
牛頭鬼側の身体も実体はあったみたいだし。
けれども、コイツを殺したことで牛頭鬼だった方が動きを停めたことから、本体は闘技場の観客席に潜んでいた方で間違いないだろう。
「仕組みはよく分からないんだけど……どうやらブルーノは『魔人の血』とかいう魔導具か魔術の類いで魔物そのものに変化したか、もともと存在していた魔物に魂とかを乗り移らせていたんじゃないのかな」
僕は牛頭鬼の方が倒れていた辺りに落ちていたブルーノの冒険者登録証を拾い、腰の鞄にしまい込んだ。
ブルーノにはブルーノなりに、魔物になるほどの事情があったんだろう。
……別にその理由を知りたいとは思わないけど。
とにかく、これで賞金首は討伐できたわけだけど……冒険者が魔物になっていました……とか、どうギルドに説明すればいいものやら。
もしかしたら、こういうことって、よくあることなのだろうか?
まさか、賞金首の冒険者がみな魔物に変化することはないとは思うけど。
まあ、それは今考えることではない。
「とにかく、先を急ごう」
本来の目的は『魔人の聖血』の構成員の捕縛または討伐だ。
「そうだね、行こう」
「うむ」
三人でうなずき合い、僕らは闘技場の奥にある通路へと進んでいった。
◇
闘技場の先には、大きな祭祀場が設けられていた。
規模としては、闘技場とほぼ同じくらいだろうか。
観客席がない分、闘技場より広々とした空間だ。
一番奥には、祈りを捧げるための祭壇が設けてあった。
もしかしたら古代に繰り広げられたであろう闘技場での戦いは、ここに祀られている神に捧げるものだったのかも知れないな、とふと思う。
「あそこ、目標の人たちじゃない?」
「そうっぽいね」
ルカが指さした方向……祭壇の上とその周辺には、十人ほどの男たちがいた。
「「「うんぬ――ぬん――んかん――ん――」」」
男たちは祭壇の下に描かれた巨大な魔法陣を囲みながら多量の汗を浮かべながら、唸るような低い声でなにか呪文のようなものをひたすら詠唱している。
魔法陣は呪文に呼応するように明滅を繰り返しており、その上には綺麗な光の玉がいくつも飛び交っていた。
「きれい……」
その様子を、ルカがうっとしたような表情で見つめている。
確かに、美しい光景、とも言えた。
光の玉はたなびくように淡く尾を引いており、渦を巻くようにくるくると周辺を旋回したあと、魔法陣に吸い込まれていく。
いくつも、いくつも。
やがて、ひときわ大きな光の玉が、魔法陣の上で何度か旋回を繰り返したのち、するりと魔法陣に呑み込まれていくのが見えた。
「むう……あれは、人の言葉ではないのじゃ。なんというか……胸の奥がチリチリするような、嫌な響きがするのじゃ」
フレイが眉をひそめる。
確かに魔法陣自体は神秘的な美しさを感じさせる。
けれども男たちの唱える呪文は、言い知れない不安感を煽るような、妙な響きがあった。
まるで呪文が澱となり地を這い、足から腰に這い上がって魂を絡め取るような――
それに、あの魔法陣に描かれた術式は……吸魂の術式に、召喚魔術?
となると、魔法陣の上を飛び交っているのは何らかの魂だろう。
いくつもいくつも、魔法陣に吸い込まれていくのが見える。
――あんなに大量の魂を触媒に、何を召喚するつもりなのだろうか?
ぞくり、と首筋に冷たいものが走る。
ここにいると、マズいことになる。
説明はできない。
けれども僕の直感が、これ以上ないくらい激しく警鐘を鳴らしている。
「ルカ、フレイ、あの魔法陣はマズい! 今すぐすぐにここを出るよ!」
「ふえ……!? う、うん、分かった!」
「わ、分かったのじゃ!」
魔法陣の光に魅入られたのか、ぼんやりした表情のルカの肩を揺さぶり現実に引き戻す。
僕らは慌てて祭祀場を出ようとして……
出口を塞ぐように立つ、ローブ姿の男に気付いた。
「ほほほ……そう慌てなさらずとも。あれは生きとし生けるものの魂を強制的に抜くほどの力はありませんよ」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべるローブの男。
けれども、その笑みを湛える目の奥にあるのは……どうみても正気の人間のそれではなかった。
男は言葉を続ける。
「どのみち、どこへ逃げようとも無駄なことです。この国は、まもなく滅びるのですから――我々『魔人の聖血』により、捌きの鉄槌が下されるのです」
恍惚の表情を浮かべ、大きく手を広げて見せる男。
「あんた、何をいって……うわっ!?」
カッ――!
強烈な光が祭祀場全体を塗りつぶし、僕はとっさに腕で目を覆う。
「クソ、なにが……」
「ぬわっ!? これ、何の光!?」
「ぬう、まぶしいのじゃ!」
すぐに光は収まった。
「ご覧なさい。儀式は成されました」
男の指し示す方――魔法陣を見る。
魔法陣の上で、さきほどまで呪文を唱えていた男たちが、膝から崩れ落ちているのが見える。
全員が短刀を両手で握りしめ、自ら腹部に深く突き刺していた。
床に流れる血だまりの量からも、全員がすでに事切れているのは一目瞭然だった。
おそらく彼らは魔術を成就させるための要員というだけでなく、魂を捧げる供物でもあったのだろう。
……まさに狂信者だ。
「なんてことを……貴方たち、頭がおかしいんじゃないのかな!?」
「むう……魔物ですら自らを殺すことなどせぬぞ」
ドン引きのルカとフレイの声も、男には届いていないようだった。
「ほほほ……ふふふ……我ら魔人の血を軽んじた罪は……その血をもって贖うがよろしい……ふはは……我らの魔人の神によって……ははは……あはは……ふははははははははははは!!!!!!」
狂ったように笑い声のテンションがどんどん上がっていく男。
それに呼応するかのように、魔法陣放つ光がドクンドクンと脈動を始め……強烈な閃光が祭祀場全体を塗りつぶした。
★来週いっぱい月末月初のド多忙期のため更新お休みします。
次回は再来週月曜くらいから再開予定です。すんません!
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