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第4話 『貫きの一角獣』その1

「これで、終いだッ!」


 一閃。


 銀色の剣閃がダンジョンに煌めく。


『オオオォォォ…………』


 断末魔が鼓膜を震わせる。


 直後、ズズン……と重い地響きが足元から伝わってきた。


「はあ……」


 レナートは剣の血を払い、ため息とともに鞘に納めた。


 心身共に絶好調ではある。


 だというのに、たかが(・・・)単眼鬼(サイクロプス)1体を仕留めるのに5秒もかかってしまった。


 まさか今までの十倍以上の時間が掛かるとは。


(これは、先が思いやられるな……)


 なんとはなしに、振り返る。


 間違いなく斬り伏せたはずだが、ちゃんと倒せたのかどうか気になって仕方がない。


 以前なら、テオがすぐに駆け寄り倒したかどうか確認をしてくれたので、魔物が死んでいるかなんて気にせず次の相手に取りかかることができた。


 上半身と下半身が別れたサイクロプスは微動だせず、やがて淡い光となって消え去った。


 かろん、と軽い音がダンジョン内に響く。


 小指の先ほどの魔力結晶が、さきほどまでサイクロプスの横たわっていた場所に転がっていた。


 それを見届けて、ようやくレナートはほっと息を吐くことができた。


「レナート、お疲れ様! 結構な大物だったけど、火力支援は要らなかったみたいね」


「おーおー、なんだかんだで剣士はすげえな。拳闘士じゃ、サイクロプスを撲殺できてもスッパリ真っ二つにすることなんてできねえよ」


 ホールの奥から魔術師ヴェロニカと拳闘士チムールが歩み寄ってくる。


 どちらも多少傷を負っているが、元気そうな顔だ。


 各自で持っている回復薬を服用すれば、すぐに傷は癒えるだろう。


「みんな、無事ー?」


 そこに、小柄な影が駆け寄ってくる。


 斥候役ですこし先の通路まで進んでいた、弓使いのエミルが戻って来たのだ。


「周辺も含め、制圧(クリア)したよ。通路先の小部屋は『清浄域(セーフエリア)』になってた。ここまで連戦続きだったし、そっちで少し休まない?」


「……ああ、そうだな」


 四人で通路を抜けると、エミルの言う通り小部屋があった。


 隅には、朽ちた金属製の箱が積まれている。


 古代遺跡系のダンジョンではよく見る遺物だ。


「あ、それは機械文明のものだと思う。古代文字は専門外だから、年代は分からないけど。あー、その箱は擬態罠(ミミック)じゃないの確認済み。毒物も入ってないから触っても大丈夫」


 エミルが近くの壁にもたれかかりながら、気怠い調子で言う。


 彼女は彼女で、かなり疲労しているようだ。


「そうか」


 レナートは床に座り込むと、金属箱にもたれかかった。


 どっと疲労感が押し寄せてくる。


(……案外、なんとかなるもんだな)


 その事実に、レナートは胸をなで下ろす。


 先ほどの罠――『魔物湧き』の部屋に閉じ込められたときのことを思い出す。


 正直なところ、今のコンディションでは、『魔物湧き』の罠を踏んだせいでサイクロプスの群れ――それも50体は降らない――が部屋いっぱいに出現したときには、『ドラゴン殺し』の二つ名を持つレナートとて、覚悟せざるを得なかったのだ。


 実を言えば、サイクロプス程度、もっと楽に倒せると思っていた。


 いや、以前ならば鎧袖一触だったはずだ。間違いなく。



 テオがいたときならば。



 サイクロプスの危険度はB級だ。


 群れでも、せいぜいA級。


 以前のレナートならば、たった一人でも、五十体程度、鼻歌交じりで十秒以内で殲滅できていた程度の敵だった。


 もちろん、他のメンバーも同様だ。


 それが、この体たらく。


「……ねえ、レナート。やっぱりテオをクビにしたこと、後悔してる?」


 どうやら存外に渋い顔をしていたらしい。


 ヴェロニカが、心配そうに顔を覗き込んできた。


「今まで、俺はアイツにおんぶに抱っこだった。それを今日、嫌と言うほど思い知った」


「まあ、それは否定しないわ」


 ヴェロニカが苦笑する。


「だな。修行が足りねえなんてもんじゃねえ」


 レナートの呟きに、チムールが丸太のような腕を組みながらうんうんと頷く。


「だが、俺はテオをクビにしたことを後悔していない」


 確かにテオにはクビにする方便としてキツいことを言った。


 実のところ、彼が一部の項目を除き冒険者としての資質も実力も申し分ないのは、レナートが一番よく理解している。


 テオを除く全員が超攻撃型の『貫きの一角獣』は、戦闘力に限れば、間違いなく最強の冒険者パーティーだ。


 少なくともレナートはそう思っている。


 だが、冒険者は腕っ節の強さだけが全てではないことも、レナートはよく分かっているつもりだ。


 依頼を受けた後の段取り。


 依頼達成のために必要な情報収集。


 物資調達。


 最適なルート決め。


 すべて、テオが一人でこなしてきた。


 もちろん今でも、かけがえのない最高の仲間だと思っている。


 だが、テオ一人では一番簡単なダンジョンの攻略すらおぼつかない。


 戦闘力がほぼ皆無なのだ。


 もちろんテオも必死で鍛えていた以上、一般人より多少は強いだろう。


 だがレナートらにとっては、その差は無いに等しい。


 もちろんレナートたちがテオをきちんと護ることができるなら、テオは無事だろう。


 これまではそうだった。


 だが、これから挑もうとするダンジョンでは、そんな余裕はないかもしれない。


 S級ダンジョンとは、そういう場所だ。


 死ぬのが分かっている仲間を、死地に連れて行くバカはいない。


(『魔王城』から帰ってきたあと……アイツ、俺たちとまたパーティーを組んでくれるだろうか……他のヤツと組んでたら、俺たちは……いや、一度故郷に帰ると言っていたし、大丈夫だと思うが……)


 我ながら虫のいい話だとは思う。


 だがレナートに後悔があるとすれば、それだった。

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