第38話 vsブルーノ 上
「侵入者がいると聞いて待ってりゃ……まさかテメエだったとはな。『司祭』の野郎、なかなか粋な計らいをしてくれるじゃねえか…・・よっと」
ブルーノが言って、椅子のような物体から立ち上がった。
「テオ君、あいつが座っていたものって……!」
ルカが険しい顔で、腰に帯びた剣に手を掛けた。
「ああ……あれは人間の死体だ。酷い有様だけど……装備からするに、多分『黒鉄の暴れ牛』の仲間だと思う」
『黒鉄の暴れ牛』の仲間たちは、凄まじい力を加えられ、その身体が原型を留めないほどに折りたたまれていた。
手足はめちゃくちゃな方向に折り曲げあられ、頭から上はねじ切られている。
数人分の胴体が、まるで土嚢のように積み重ねられていた。
ブルーノはその上に腰掛けていたのだ。
「むう……なんと惨いことをするヤツじゃ」
それは、魔物であるフレイすら絶句するほどに……あまりに酷い有様だった。
「許せない……!」
ルカが片刃剣をスラリと抜き、構えた。
凄まじい怒気が、彼女の身体から立ち昇っているのが幻視できるほどだった。
「おいおいお前ら、なに熱くなってんだよ」
まるで心外だと言わんばかりに、ブルーノが肩をすくめる。
「お前らにだって、あっただろ? 金とか、時間とか、ダチとの付き合いとか、強くなるには、犠牲にしなきゃなんねえ、そんなもんがよぉ」
「……一体なんの話だ?」
まったく、話が見えない。
こいつは僕らに何を伝えたいのだろうか。
「だからよ、コイツらは俺が今まで以上に強くなるために必要だったっつー言う話だ。簡単な話だろ? なんでわかんねえんだ?」
「他人の命が、お金とか、時間と同じ、強くなるために消費すべきもの? 一緒に組んでいるパーティーの仲間が……!? あんた、何を言っているのか分かっているの!?」
ルカが激昂し、叫ぶ。
「ルカ、対話は無駄だよ。あれはもう、もう手遅れだ」
それが最初からだったのか、あの赤い目の状態になってからかは分からないけど……きっと、もうブルーノは人じゃない。
「『黒鉄の暴れ牛』ブルーノ。あんたにはギルドから賞金首に指定されている。僕らはあんたをここで倒さなきゃならない」
「はあ? お前らが、俺を倒す……? ガハハハハハ!」
何がおかしいのか、ブルーノが大声で笑い出した。
「お前ら、『魔人の血』って知ってるか? まあ知らねえか。つーことで、今ここで見せてやるよ。冥土の土産話にでも持っていってくれや」
ブルーノがゴキゴキとクビを鳴らす。
次の瞬間。
――バキ、ボキ、ボキン。
何かがひしゃげるような音が闘技場に響く。
同時に、ブルーノの身体が徐々に歪み始めた。
最初は、頭からツノが生えた。
身体中の筋肉が激しく隆起し、背丈がぐんと伸びる。
身体が大きくなったせいか、装備していた軽鎧がひしゃげ、バンと弾け飛ぶ。
そして――
「フウウウウゥゥゥ……。こりゃ、すげえな。やっぱ、この力は最高だぜ。やっぱ、人間の魂を食らうのが強くなる秘訣ってことか」
口と鼻から蒸気のような息を噴き出し、自信の変化に満足するかのように、ブルーノが恍惚の声を上げる。
腹に響く、地を這うような声だった。
「うそ……」
「むう……あやつ、魔物に変化したのじゃ」
ブルーノの姿は、まるでミノタウロスだった。
身の丈も、横幅も、元の姿の三倍以上はある。
ひとつ違う点があるとすれば、その赤い眼には知性と意思の光が宿っていることだろうか。
そういう意味では、ルカの《守護者》と似ているかも知れない。
ただ、決定的に違う点があるとすれば……その眼光には、人間性を全く見いだせないことだった。
「おおっと、お残しは厳禁だったな」
言って、ブルーノが先ほどまで腰掛けていた人間椅子をむんずと掴み上げると、バリバリと音を食べて食べてしまった。
「げぇっぷ……まだまだ食い足りねえなあ。お前らも、俺の血肉になれや!」
狂気に満ちた赤い双眸が、僕らを見据える。
「ルカ、フレイ、来るぞ!」
「分かってる!」
「やってやるのじゃ!」
僕らが戦闘態勢を取った瞬間、ブルーノが猛然と襲いかかってきた。
「まずはテメェからだ! 死ねやアァ!!」
まずは因縁の相手から、ということらしい。
「テオ君っ! くっ、速いっ!」
ルカが慌てた表情で僕を見る。
けれども、僕は慌てず騒がずスキルを展開する。
「分かってる! ――《護れ》」
ガギンッ!! ――ゴゴッ!!!
強烈な殺気とともに大音響がすぐ耳元で轟く。
僕を中心として、周囲の地面が大きく陥没した。
長い間合いからの跳躍、その勢いを利用したブルーノの叩きつけだ。
「舐めんなよオラァッ!!」
ガガン! ゴゴン!
続けて横薙ぎの裏拳、丸太を叩きつけたかのような中段蹴り。
どの攻撃も、並の冒険者なら一瞬で肉片と化すような強烈な攻撃だ。
「テオ君っ!?」
「お主っ!」
「こっちは大丈夫……! ……ちょっと焦ったけど」
もちろん僕には傷一つついていない。
……この《加護》、すごいな……あまりの攻撃の重さにちょっとだけ肝が冷えたけど、結果はこのとおり。
もちろん《加護》で生み出された障壁をわずかにずらして打点を変え直撃を避けるようにしていたから、万が一のことがあっても大丈夫だという確信はあったけど。
もちろんそんなことは顔に出さず、僕はルカとフレイに余裕の表情で答えてみせる。
「チイッ! いつぞやの仕返しのつもりだったが、そう上手くはいかねえか」
舌打ちとともに、すぐにブルーノが離脱する。
見た目と違って、まるで猿のように俊敏な動きだ。
「ルカ、僕らも全力で行かないと、マズそうだ」
「分かってる。私も、あいつに一発思いっきり叩き込んでやらないと気が済まないから……お願い」
「じゃあ、僕の分まで頼むよ――《守護者よ、来たれ》」
スキルを発動。
ルカが強い光に包まれ――半魔の姿へと変化する。
「よしっ、頼まれた! フレイ、支援をお願い!」
「がってん、なのじゃ! ゴアアアアァァ!!!!」
変化したルカに呼応して、フレイが赤竜の姿に変化する。
「なっ……!? まさかお前らも……ちょ、待っ……!?」
ルカとフレイの変化した姿が予想外だったのだろう、ブルーノが慌てふためいている。
けれども、その隙は命取りだ。
「違うし、待たない!」
「業火に焼かれて灰になるのじゃ! ガアアアアアッ!!!!」
フレイが大きく口を開き、灼熱のブレスをブルーノ目がけて噴き出す。
もちろん幻術で偽装した《小火球》だけど、それを初見で見抜くことは不可能だ。
「テメーらっ!!! 卑怯だぞッッ!!!」
「あんたにそのセリフを言われたくないよっ! せああっ!」
ギリギリのところでブレスを躱したブルーノに、ルカの刃が襲いかかる。
体勢を持ち直す一瞬を突いた、鋭い一閃だった。
――バスッ。
重く湿った音とともに、ブルーノの巨木のような右腕が宙を舞う。
「ぐあああああああああああああああーーーーーー!!!!」
ブルーノの絶叫が、闘技場に響き渡った。
なお次話はブルーノさんのターン!
チンピラ冒険者の逆襲がついに始ま……らずに
テオくんのターンになる模様
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