第37話 古代遺跡型
『第十七開口部』から内部に入ると、すぐに直径十メートルほどの縦穴が現れ、その壁面に備え付けられたらせん状の階段をひたすら降りてゆくことになる。
階段を三十分ほどかけて降り、縦穴の底にある分厚い鉄製の扉をこじ開けると、ようやく僕らは遺跡の最初の階層に到達することができた。
「へえ……前の街で入ったことのあるダンジョンとは、結構様子が違うんだね」
ダンジョンの通路を進みながら、ルカが周囲を物珍しそうに見回している。
「古代魔導文明期のダンジョンって、独特だからね」
僕らの前には、幅の広い真っ直ぐな通路が伸びており、その両脇の壁には、一定の間隔で閉鎖された隔壁が並んでいる。
通路の材質は磨かれた岩、隔壁は塗料を塗られた……金属だろうか。
「なんていうか、深夜の寂れた商店街? みたいな感じ」
ルカのこぼした感想は、概ね正しい。
ギルドから貰った地図によれば、ここは古代の商業区域だったらしい。
その証拠に、閉じられた隔壁の横には古代文字や古めかしいけど楽しげなデザインの絵が描かれた、看板などが吊られている。
もちろんお店は全て隔壁が閉じた状態だし文字が読めないので、なんのお店なのかは分からないけど……
それにしても、こんな地中深くにこれほど広大な地下空間を作り出すなんて、古代魔導文明はとんでもない技術力を持っていたようだ。
少なくとも、今の僕たちの世界にあるどんな魔術を駆使しても、これほどの地下都市を作り上げることは不可能だと思う。
とはいえ、ここはすでに数千年の年月が経ちダンジョン化した遺跡だ。
いつどこから魔物が襲ってくるか分からないし、『魔人の聖血』の仕掛けた侵入者対策の罠もあるはずだ。
「じゃあ、行こうか。連中が潜伏しているのは第四階層より下だっていう話だから、まずは魔物と罠に注意、かな。しばらくは僕が先行するから、二人は少し距離を離してついてきてね」
「なんじゃ、みんな一緒に進まぬのか?」
フレイがちょっと不満そうに言う。
そういえば昨日検定でダンジョンを攻略したときはそれほど離れていなかったな。
「前の検定の時と違って、罠の規模とか傾向が分からないからね。たとえば破砕魔術なんかで広範囲の天井を崩落させるような罠が仕掛けてあると、一人が掛かっただけで全滅だ。でも、ルカとフレイが充分距離を取っていれば、犠牲になるのは僕だけで済む。ああ、そのときは二人で助けてね?」
「む、むう……そういうことなら、仕方ないのじゃ。有事の際は我に任せよ。どんな狭い隙間でも入り込んで、必ずお主を見つけてやるからの」
フレイが真剣な顔で、僕の目を見つめてきた。
「ありがとう、そのときは頼むよ」
ちょっと、大げさに言いすぎたかな?
たいていの罠は見切れるし、万が一掛かってしまったとしても、今の僕なら《加護》で身を護ることができる。そう大事にはならないと思うけどね。
◇
「はああっ! これでトドメだよっ!」
「せいっ、――《小火球》っ、なのじゃ!」
ザシュッ! ボボン!
ルカが片刃剣で襲いかかってきた大きな蜥蜴型の魔物を斬り裂き、とどめとばかりにフレイが《小火球》を傷口に撃ち込む。
『グオオオオアァァァッ――――』
まるで流れるような連携攻撃を前に魔物はなすすべもない。
断末魔を上げ、光の粒子へと変わってゆく。
ことん、小さな魔石が通路の床に転がるまで、さほど時間は要しなかった。
僕らはすでに三階層ほど攻略を進めている。
現在は商業施設が密集した区画を抜け、地下都市のかつての排水路と思われる区画を進んでいた。
「ふう。これで襲ってきたのは全部片付けたかな」
ルカは額に浮いた汗を軽く拭うと、ほっと小さく息を吐いた。
周囲には、数個の魔石が散らばっている。
僕らの他に、動くものは見当たらなかった。
「うん、周囲に敵影はないかな。この一帯は制圧済みだね。……先に進もう」
「了解! ……もう結構深く潜ってきたけど、意外と何とかなるもんだね。もしかして私、強くなってるのかな?」
歩き始めた僕に、ルカはおどけたようにそう言ってみせる。
実際に、ルカは強くなっていると思う。
さきほどの魔物なら、前のルカならば僕のスキル《守護者》で半魔状態になっていなければ、おそらく一体にも苦戦していたはずだ。
けれども、彼女はフレイとの連携ありきとはいえ、僕のスキルなしで魔物を倒してみせた。
もともと彼女の剣の腕はかなりのものだったけど、それがパーティーでの戦闘経験を積み重ねることによって、より効率的な動きができるようになったからだろう。
「そういえばテオ君、目的地まではあとどのくらいかな?」
しばらく歩いていると、ルカが追いついてきて聞いてきた。
「ここからだと、そう時間はかからないはずだよ。この先に大きなホール状の空間があって、その先にこの遺跡より古い時代の神殿がある。ギルドの見立てでは、そこが連中の目的地らしい」
「そっか、もうすぐなんだ……って、ギルドの調査能力、すごっ!」
「打ち合わせの時に、『魔人の聖血』の中に情報提供者がいるって言ってたよ」
「そ、そうだっけ……?」
「あんまし覚えておらぬのじゃ……」
僕の返答に、ルカとフレイの目が何故か泳いでいる。
「ま、まあ打ち合わせは長いし内容も多かったし、聞き過ごしちゃったのかもね」
ちなみにネタばらしをすると、ルカとフレイは僕がギルド長たちと打ち合わせをしている間、真剣に話を聞く振りをしつつ器用に船を漕いでました。
とくにフレイ。
彼女はスライムなのを悪用して目を開いたままの表情で姿を固定したうえで、完全に熟睡していたからギルティにもほどがある。
まあ、その前の戦闘で頑張ってくれてたは皆が分かっていたから、僕もギルド長もあえて起こすことはしなかったけど。
ギルド長、イカつい顔をしているけど結構優しい人だった。
なんだかんだ言っても、やっぱり組織のトップは器が大きいのだろう。
どのみち、二人の代わりに僕がきちんと話を聞いていたので問題ないけどね。
……そうしてしばらく進むと、急に視界が開けた。
「わあっ……ここ、闘技場かな?」
「おお……すごいのぉ!」
僕らの目の前には、すり鉢状の巨大な空間が広がっている。
足元から一番下までは階段状の段差が設けられているのは、観客席だろうか。
それが同心円状に、僕らが今いる場所、闘技エリアと思しき平地を取り囲んでいる。
いわゆる、闘技場というやつだ。
規模からすると、収容人数は、万単位だろう。
そして、その闘技エリアの一番先、向かい側にある出口の前には。
一人の男が、赤黒い椅子のような物体に腰掛けているのが見えた。
「……ほう? どこかで見た顔かと思ったが……いつぞやのガキどもじゃねえか」
僕らに気付いたのか、ブルーノが顔をあげ、ニヤリと笑った。
「あいつ……なんか様子が変だよ!」
「むう……あの魔力量、人間とは思えぬのじゃ……!」
ブルーノの身体から、どす黒いモヤが立ち昇っている。
そしてその双眸には――妖しげな、赤い光を宿していた。
「おもしろかった!」
「続きが気になる! 読みたい!」
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