第35話 指名依頼
ギルド長がとんでもないことを言い出した。
僕らに、テロリスト組織『魔人の聖血』の討伐を依頼してきたのだ。
「あの……なんでそんな大役を僕らに?」
どうやら検定のことではなかったらしいことにほっと胸をなで下ろしつつも、そう聞かずにはいられなかった。
だいたいテロリストの潜伏先が分かったからって、それと僕らに何の関係があるんだろうか?
そういえば僕の《牧羊犬》が《守護者》進化して、さらに《加護》を得たときにルカに『魔人の血』が流れているとかどうとかってどこからか声が聞こえてきたけど……いや、それはさすがに関係ないか。
そもそもルカが魔人だとかどうとか、まだ本人にすら言ってないし。
というか、僕らはパーティー登録して一ヶ月程度の弱小無名パーティーなんだけど……
ついでに言えば、パーティー名もまだ決めていない。
「あー、分かっている、分かっている。その顔は、なんで呼ばれたか分からない顔だな? 理由は三つある」
僕の疑問を見透かすように、ギルド長が指を三本上げ、言った。
「一つ目は、あいにく、この依頼を任せられそうな連中は『魔人の聖血』がらみの依頼で王都の要人警護に出ていたり、長期のダンジョン探索なんかでほとんど出払っちまっていることだ。今回の事件は、その手薄な時期を突かれた、というのもある。二つ目は、そこのルカ嬢だ」
ギルド長が指の三の形を崩し、ルカを指さす。
「ルカが?」
「ああ。そこのルカ嬢が、この街で動いている『魔人の聖血』の構成員を見つけたそうだ。いち早くギルドに通報してくれたおかげで、少なくとも街の人間に被害が出るのは防ぐことができた」
「ルカ、すごいじゃん!」
「お手柄なのじゃ」
「いやまあ、ただの偶然だけどね!」
ルカは顔を赤らめて謙遜している。
それでも嬉しいことは嬉しいらしく、くねくね身体を動かしている。
「それと……三つ目。それが、こいつらの推薦だ。……おいリズ、【魔物使い】のお前から説明してやってくれ」
「分かりました」
職員のお姉さん……リズさんが、前に進み出た。
どうやらリズさんは魔物使いだったらしい。
まあ、あの階層の試験官ならそうだろうけど。
「テオさん、検定で貴方が倒した蜘蛛の魔物は覚えていますか」
「もちろん、覚えています」
さっき戦ったばかりだし、あんな強い魔物、そうそう忘れるわけがない。
なにせ、物凄い速度のうえダンジョンの石柱をスパスパ斬り裂くような攻撃力を持つ魔物だ。
僕が《加護》を使っていなかったら、仮に【魔物使い】のリズさんが手加減をしていたとしても、大けがをしていたのは確実だった。
「あの魔物の名称は『アラクニド』と言います」
「はあ」
リズさんが話を続ける。
「テオさんは、あれの危険度を知っていますか?」
「いえ……C、いやBランクくらいでしょうか」
結構どころじゃない強さだったからな。
少なくとも僕が《加護》を覚えておらず、ダンジョンの上階層に罠が残っていなかったら、さすがに倒すのは不可能だった。
多分、ランドサーペントと同じくらいか、もしかするとそれ以上の強さはあったと思う。
けれど、リズさんの答えは違った。
「『アラクニド』は、Aランクです」
「えっ」
「Aランクです」
「え、Aランク!? テオ君、そんな魔物と検定で戦ってたの!?」
素っ頓狂な声を上げて、ガバッ! とルカがソファから立ち上がった。
そりゃそうだ。
まさか、冒険者見習いにそんな魔物をけしかけていたとは……
さすがに、それはもう受からせる気がなかったんじゃないか、としか思えない難易度だ。
というか、普通の冒険者でも倒すの不可能だろ……
「おい、待て。お前ら、何か勘違いしてるぞ。リズは『アラクニド』を操っちゃいねえよ。Aランクの魔物だぞ? というか、常識でおかしいと思わなかったのか!?」
「えっ、違うんですか」
まさかのまさかだった。
「はあ、マジかよ……そういやお前、あの脳筋揃いの『貫きの一角獣』の元メンツだったな。ならば、さもありなん、と言うべきか」
ギルド長はそんなことを言いながら、手元の書類をパラパラとめくっている。
というか、『貫きの一角獣』のことを知っているらしい。
まあ、ギルド長になれば、登録している冒険者の情報くらい把握しているだろうから、そこに驚きはないけれど。
……その「さもありなん」の意味を小一時間問い詰めたいところだけど、さすがにギルド長にそんなマネはできない。
「だが、そうだとしても、だ。冒険者見習いがAランクの魔物を使い魔込みとはいえ、単騎で倒すとなんざ……前代未聞だぞ」
「そうなんですか?」
「はあー……マジで自覚なしかよ……」
ギルド長が頭を抱えてしまった。
だけど、これについては、本当に実感がない。
確かにアラクニドは強かったけど、僕がやったことといえば、検定の趣旨に従って負傷したリズさんを保護したことと、《加護》でアラクニドの攻撃から僕自身とフレイを護っただけだし。
おまけに敵を直接叩いたのはダンジョンの罠の数々だし、僕の指示に従って的確な位置に相手を誘導してくれたのはフレイの功績だ。
多分『貫きの一角獣』の面々なら、そんなまどろっこしいマネなんかせずに、正面から叩き潰していただろうし。
「しかしまさか、上階層の罠を使って倒すとはねえ。あの状況でとんでもねえことを考えつくもんだよ。あんた、相当な修羅場をくぐり抜けてきたろ」
「おかげで私も命拾いしましたからね。アラクニドの糸で首を括られたときは、完全に死を覚悟しましたから。改めて、あのときは助けてくれて、ありがとうね」
ルッツさんとリズさんからもそんなことを言われた。
正直、実地をクリアするために最善を尽くしただけで、皆の言っているほどのことだとは思えないんだけど……
とはいえ、ここで「いやいや、僕なんて……」なんて態度が『過ぎたる謙遜』になることくらいは分かる。
ここはありがたく皆の気持ちを受け入れておこう。
「……どういたしまして」
とはいえ何を言うべきか思いつかなかったので、そうとだけ言うにとどめた。
「ふむ。……まあ、いいだろう」
何がいいのかはよく分からなかったけど、ギルド長の中ではなにやら折り合いが付いたらしかった。
「それで、依頼は受けてくれるか? どのみち他に頼れる冒険者はいないから、こっちとしては頼み込むしかないんだがな。もちろん、ギルドでできる限りのバックアップは約束するし、報酬は相当にはずむつもりだ」
ギルド長の言葉に、僕ら三人は顔を見合わせる。
「…………!」
ルカは……うん、言うまでもなくワクワクした顔をしているな。
ずっとソロで底辺冒険者をやってきた彼女にとって、こんな機会が巡ってくるなんて今までありえなかったはずだ。
指名依頼は、ほとんどの冒険者にとって、名誉そのものだから、ルカが受けないという選択肢はないだろう。
フレイは、どうだろうか。
「お主とルカが行くところならば、我はどこへでも付いていくぞ。トモダチじゃからな!」
僕の目を見るなり、フレイは勢いよくそう言った。
まあ、彼女ならそう言うと思っていたけど。
もちろん戦力としても、これまでの依頼や実地で実証済みだ。
何も問題はない。
じゃあ、僕はどうか?
もちろん決まっている。
僕は冒険者になりたいと思って、これまで頑張ってきた。
まだ見習いの身分だけど、そんなヤツがギルドの指名を受けて依頼を達成したら……それって、すごく痛快なことじゃないかな。
だから僕は、ギルド長の目をしっかり見据え、言った。
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
「……うむ」
ギルド長は満足げに頷き、部屋の両側に立っていたリズさんとルッツさんに手招きをする。
「よし、そうと決まればすぐに詳細を詰めていくぞ。リズ、ルッツ、お前らもブリーフィングに加われ! ……ククク、パーティー登録したてだというのに、ランドサーペントを狩っちまうようなお前らだ。ギルドとしても、期待しているからな?」
その後、『魔人の聖血』討伐依頼の打ち合わせは、夕方遅くまで続いたのだった。
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