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第34話 呼び出し

 エレクの街に急いで戻り冒険者ギルドの職員さんに話をすると、二階へと通してくれた。


 ギルド長室は、階段を上がって突き当たりにあった。


 部屋の前まで進み、分厚い扉をノックする。


「入れ」


 すると、中から低い声が聞こえてきた。


「失礼します」


「し、失礼します!」


「失礼するのじゃ」


 重たいドアを開き、僕たちはそそくさと中に入る。


 ギルド長室の内部はそれほど広くない。


 僕ら三人が入っただけで少々手狭に感じるほどで、書斎に毛が生えた程度の小部屋、といったところだろうか。


 すぐ目の前には、来客用に数人掛け用のソファとローテーブルが置かれている。


 そしてその奥には、大量の書類が積まれた執務机で、がっしりした体格のおっちゃんが黙々と書類を捌いているのが見えた。


 執務机の両隣には、三十代くらいの男性と、見たことのある二十代くらいの女性が立っている。


「あの者、蜘蛛の魔物から助けた女ではないか」


 フレイも気付いたようで、そんなことを耳打ちしてくる。


 おっちゃんの方は知らない人だけど、もう片方のお姉さんは、魔物討伐の階層で蜘蛛の魔物にやられる役をしていた試験官だ。


 地上にいたアンドレさんと違って、二人とも制服を着用しているから、ギルド職員なのだろう。


 しかし……そうなると、もしかして検定がらみだろうか?


 まさか上の階層に魔物を誘導したこととか、自分の力じゃなくて罠を使って魔物を倒したことがマズかった、とか……?


 さっきアンドレさんは「心配するな!」って言ってたけど、そもそもあの人、ギルドからの依頼を受けて試験官をやっているだけの、ただの冒険者だしな……


「ねえテオ君。ギルド長の人、なんかすっごい怖い顔しながら仕事してるよ? もしかして、検定の最中に何かやっちゃったとか?」


 今度はルカがちょっと顔を引きつらせながら、僕に耳打ちしてくる。


「いや……心当たりは、ないことはないような……でも、それだと皆で呼ばれる意味が分からないな」


「うーん確かに、そうだけど」


 そもそも、別に検定の注意事項では上の階層に向かってはダメとは言われていない。


 それに罠を使って魔物を倒すのは、天職が【盗賊職(シーフ)】の人とかなら当たり前にやってることだ。


 だから、そのへんが問題になるとは思えないんだけど……


「おうお前ら、よく来たな。検定やら魔物の襲撃で疲れてるだろう。とりあえず座ってくれ」


 僕らがコソコソ話していると、ギルド長が顔を上げ、ドスの効いた声を上げた。


 うっ、ギルド長やっているだけあって、目つきが鋭い!


「は、はい」


 気圧されそうになる気持ちを懸命に堪えつつ、僕らはぎくしゃくとソファに腰掛けた。


「俺がエレクのギルド長、スヴェンだ。んで、こっちがリズ。反対側がルッツだ」


「よろしく」


「よろしくな」


 ギルド長の紹介に、二人が軽く会釈をする。


「よろしくお願いします、スヴェンさん、リズさん、ルッツさん」


「よ、よろしくお願いします!」


「よろしくなのじゃ」


 そういえば、ギルド長の名前は初めて聞くな。


 普通に冒険者をやっていると直接応対してくれる職員さんの名前は結構覚えるけど、ギルド長の名前は知る機会がない。


 S級の冒険者になると、ギルド長の指名依頼とかがあるらしいけど……


 まあ、今の僕らには全く関係ない話だ。


「よし……あー、お前がテオ・ウィシュトベーラだな? ……ほう、天職は【羊飼い】か。冒険者にしちゃ珍しい天職だな」


 ギルド長はそう言いつつ、手元の書類をペラペラとめくっている。


「んで、隣のがルカ・マナナウス。ふむ、天職は【剣士】か。で、そっちのちびっ子は……ああ、登録してある使い魔の擬態(ミミック)スライムか。お前ら、ずいぶんと面白い取り合わせだな」


「ぴっ!?」


 ギロリと鋭い眼光を向けられたフレイはギルド長に恐れをなしたのか、変な声を出した。


「フレイ、大丈夫だよ。何かあっても、まずは僕が盾になるから」


「だ、大丈夫じゃ……ド、ドラゴンよりちょっぴり怖いのう、と思っただけじゃし」


 それって相当怖いってことだよね……


 まあ、ギルド長クラスになると、冒険者としても実力は超一流だろうから、もしかしたらドラゴンより強いかもしれない。


「あの……ギルド長は別に威圧しているわけでも怒っているわけでもないので、楽にしてもらって大丈夫ですよ?」


 見かねたのか、ギルド長の隣に立っている試験官のお姉さんが苦笑しつつ、そう切り出してきた。


「まったく……ギルド長もちっとは気を付けないと、冒険者連中から怖がられるのを通り越して、嫌われちまいますよ? ただでさえ厳つい顔をしてるんスから」


 執務机を挟んで反対側のおっちゃん職員も苦笑しつつ、ギルド長にダメだしをしていた。


 どうやらギルド長は、僕らが受け取る印象よりは取っつきやすい人柄らしい。


「ああ、すまんすまん。最近は『魔人の聖血』がらみで王都の幹部どもとやりあうことが多くてな。そのときの癖がなかなか抜けねえんだ、許せ。……で、お前らも連中のことは知っているな?」


「それは……はい」


 『魔人の聖血』というのは……たしか、最近王国全土で活発化しているテロ組織だったかな。


 かつて存在した魔人を神格化しており、その血筋だと自称する者が教祖だか幹部だかをやっていて、今王国で信じられている宗教に対して敵対している……とかだった気がする。


 もちろん宗教団体としては認められているわけもなく、というかそもそも教義が『破壊と混沌をこの世にもたらす』とかで、いろいろと危ない連中だ。


 たまにギルドの掲示板にそれ関係の討伐依頼が出てたり、賞金首の念写真(モンタージュ)が掲示されていたりするので、うっすらとだけど、そんな感じに概要だけは知ってはいる。


「なら話は早いな。まあ、賞金首に数名指定されているし、お前ら冒険者が知っていないわけがないか」


 ギルド長がうんうんと頷く。


 それから僕を見据え、言った。


「今回呼び出したのは、その件だ。実はついさっき、連中の潜伏先のひとつが判明してな。お前らには、そこを潰してもらおうと思っている」




 ……前言撤回。


 指名依頼、底辺冒険者の僕らでもあるらしい。

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