第33話 検定のゆくえ
「検定はどうだった?」
ひととおり魔物の掃討が終わったところで、ルカが話を切り出してきた。
「う、うん……一応クリアはできたんだけど」
言って、木製の護符を懐から取り出してルカに見せる。
「……やったじゃん! テオ君、おめでとう!」
ルカが満面の笑みで抱きついてきた。
「ちょっ、苦し……!?」
僕の成功を喜んでくれるのは素直に嬉しいんだけど……ルカの腕力で抱きしめられると、鎧の堅さも相まって圧死しそうだ。
「……チッ」
「なんだアイツ、非戦闘職で冒険者見習いのくせに女連れかよ……しかも可愛いし……」
「なんだよクソ……ライバルだと思ってたのによ……差を付けすぎだろーがよ……」
あと、周りの受験者の視線が刺さって痛い。
というかさっきの剣士くんは血涙を流してこっちを睨んでるし……剣士なのに闇の魔術とかに目覚めそうで怖い。
「あっ、ゴメンね!?」
さすがにルカも周りの空気に気付いたのか、赤面しながら解放してくれた。
「フフン? 我もテオとトモダチなのじゃが?」
と思ったら、今度はフレイは僕の腕をぎゅっと掴むと、ドヤ顔で周りにアピールしている。
「あー、あのチビっこ、スライムだよな?」
「スライムかー、擬態うめーな」
「最近のスライムって魔術使えるのか、すげーな」
「……なんかルカと微妙に反応が違う気がするのじゃが?」
「あはは……」
まあ、フレイの人間に擬態した姿は十かそこらの子供だからね……
それはさておき。
「そういえば、ルカはどうしてここに?」
「ああ、そうだった! それがね……」
ルカが思い出したかのように、事情を話してくれた。
「……ということだったわけ」
なるほど、大体の事情は分かった。
どうやら実地が始まってからしばらくした頃に、エレクの街の近郊にあるいくつかのダンジョンから魔物の大群が同時多発的に溢れ出し、街に押し寄せてきていたらしい。
で、この試験用ダンジョンは街の外にあるから、運悪くその被害をモロに被ってしまった、というわけだ。
ルカはいち早くその情報を掴んだギルドから、他の冒険者たちと一緒に派遣されてきたとのことだった。
「となると……検定、大丈夫かな」
魔物の掃討はなんとか終えたものの、そんなことがあって、検定がなくならないかが心配だった。
なにしろ、僕の前に挑んだ剣士くんと僕しかまだ実地をこなしていない。
今回の検定がナシになる、というのは充分考えられた。
せっかく最奥部まで到達して護符を持って返ってこれたのに、魔物の襲撃があったから検定はやりなおしです、なんてことになったら目も当てられないんだけど……
いやまあ、今の僕とフレイなら、何度だってダンジョンを攻略できると思うけどさ。
「ああ、その心配なら無用だぞ」
「試験官さん」
気付くと、近くに試験官のおっちゃんが立っていた。
地上で、点呼を取っていた、ちょっと厳つい冒険者風の人だ。
試験官は、現役の冒険者がギルドの依頼でやっている場合が多い。
この人もそのクチらしく、さっきも少し離れた場所で魔物と白熱のバトルを繰り広げていた。
「……アンドレだ。お前、さっきダンジョンに入っていた受験者だな? 『出口』の方から出てきたってことは、踏破したんだろうが……護符は持っているか?」
「はい」
護符をアンドレさんに渡す。
「……うむ、間違いなく、ダンジョン踏破してきたようだな」
僕の持ってきた護符をあれこれ確かめながら、アンドレさんは大きく頷いた。
「俺がこの場でお前の護符を確認したから、検定の合否について心配することはない。さすがに今から他の連中の検定を続行するのは難しいから延期だろうが、検定が終了した奴らの結果まで、ナシにするのはさすがに理不尽だろう。この現場を仕切る俺の名誉にかけても、お前の努力を無にするつもりは毛頭ない。だから安心して結果を待っていろ。…………つーか魔物の襲撃ごときで検定がまるまる吹っ飛んじまうと、俺たちの報酬も出ない可能性があるからな!」
アンドレさんがニイッ! と良い笑顔を見せる。
どうやらもう一度受験する必要はなさそうだった。
「ありがとうございます!」
僕はアンドレさんの漢気に、素直に頭を下げた。
最後の方は若干本音が見え隠れしたような気もするけど、冒険者ならばそっちの方もキッチリしてなきゃダメだからね。
「それじゃあ……」
「おおっ、ならば……!」
ルカとフレイが嬉しそうに顔を見合わせる。
「二人の気持ちは嬉しいけど、まだ合格と決まったわけじゃないからね? 発表はギルドに戻ってからだよ」
「そうだぞ、ギルドに戻るまでが検定だ。実地のメニューはこれで終わりだが、まだ気を抜くなよ。ああ……それと、だ。」
アンドレさんがニヤリと、笑って僕を見る。
「お前……さっきゴブリンに囲まれた受験者を見捨てなかったな。あれはいい判断だった。検定では単独での能力を見るが、実戦ではパーティーを組んで依頼にあたることがほとんどだし、他パーティーの連中と合同で依頼に当たることもあるからな。その精神は、冒険者になっても忘れるなよ……っと、なんだ?」
したり顔をしていたアンドレさんが真面目な顔に戻り、懐から何かを取り出した。
持っているのは、手の平に収まる石版のような物体だ。
「チッ、ギルドから連絡かよ。あいつら、定時連絡が遅れたらすぐに急かしてきやがる。つーか若者相手に気持ちよく説教できる機会なんてそうそうねーんだから、空気読めっての……おう、アンドレだ。魔物なら殲滅したぞ……ああ、はいはい」
テンションが完全に下がった様子で石版を耳に当て、アンドレさんがなにやら独り言を呟いている。
ていうかこの人、何となく憎めないところはあるけど、それにしたって本音がだだ漏れすぎるだろ……
「あれ、魔導具かな」
ルカが僕に囁いてくる。
「多分。前見たのはもっと大きかったけど……ギルドの職員さんがたまに使ってるの見たことがあるよ」
あれは多分、通信魔術が刻み込まれた小型魔導具だ。
この試験用ダンジョンはエレクの街のすぐ近くだから、魔術で通信できるのだろう。
「つまり、お主と我の『契約』のようなものじゃな?」
「だいたいそんな感じかな」
フレイの言っているのは、僕のスキル《群羊》のことだろう。
たしかに、多少離れた場所でもコミュニケーションが取れるという意味では、似たようなものかも知れない。
「……うむ、ああ……いや、今目の前にいるが……はあぁ? まだ見習いだぞ? 冗談だろ?」
なにやらエレクの街のギルドと交信しているようだけど……なぜかアンドレさんが僕を見て、ギョッとした表情になった。
「ああ……うむ。なるほど、どうりで……ああ、了解」
それからなぜか納得したように頷いたあと、魔導具の通信を終えた。
「お前ら、ギルド長がお呼びだとよ。すぐにギルドに戻ってこい、とのことだ」
「ギルド長??」
「テオ君が? なんで?」
「いや、お前ら三人ともだ。用件は聞かされてないから知らん。だが俺にお前らを拘束してでも連れてこいって指令は出てないから、悪いことじゃないんだろ。まあギルドに行けば分かるさ」
アンドレさんが肩をすくめつつ、そう言った。
「「「……」」」
僕らは顔を見合わせる。
エレクの街のギルド長からの呼び出し?
正直、まったく心当たりがない。
一体、なんの用事だろう……
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