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第32話 襲撃

「ルカ!? なんでここに」


 ギルドにいたはずの彼女がなぜかダンジョン前で魔物と戦っていた。


「テオ君、フレイ!」


 ルカはすぐに僕たちに気付くものの、襲いかかってくる魔物が多く手が離せそうにない。


 これは、僕たちもただちに戦闘に加わらなければマズいかも知れない。


「フレイ、連戦だけどいける?」


「全然問題ないのじゃ!」


 フレイはダンジョン内でかなり頑張って貰ったけど、まだ元気そうだ。


 ひとまず、僕たちはルカのもとに向かった。


「ルカ、大丈夫? 何があったの?」


「こっちはなんとか抑えているけど、ゆっくり説明する余裕はないかな! とりあえず、魔物を倒してからっ。せあっ!」


 言いつつも、ルカは襲ってきた魔物数体を次々に斬り伏せた。


 さすがに他の冒険者見習い(サポーター)たちとはレベルが違う戦いを見せている。


 というか、よくよく見ると、僕らとは別の場所では何組か本職の冒険者が戦っているな。


 この騒ぎの鎮圧に、派遣されてきたのだろうか?


 だとすれば、ルカがここにいるのも説明が付く。


「くそぉっ! なんでこんなことに!」


「ただの検定だったんじゃねえのかよぉ!?」


「お前ら! 無駄口叩いてないで戦え! 死ぬぞ!」


 ルカの周囲では、冒険者見習いたちや試験官が魔物たちと戦っている。


 ダンジョンに向かって押し寄せてくる魔物の群れは、ゴブリンなど近場でよく見るタイプの低ランク魔物が主体で、たまにオークなど少し強そうな魔物が混じっているくらいだろうか。


 今のところ、さっきの正体不明のやたら強い蜘蛛の魔物とか、ランドサーペントのような本当に危険な魔物は混じっていない。


 それゆえ、見習いとはいえ戦闘職ならばギリギリなんとかなっている状態だった。


 ただ、問題はその数だ。


 すでに結構な数が討伐されているけど、どこからこんなに魔物が湧いてきたのか、あとからあとから押し寄せてくる。


 これでは、戦線が崩壊するのは時間の問題だ。


「ルカ、フレイ、とりあえず僕はスキルで近くで魔物を押しとどめるから、動きの止まったヤツから倒していってくれ!」


「りょーかい!」


「了解なのじゃ!」


 さすがに全方位の魔物を僕の《加護》でシャットアウトするのは無理だろうけど、彼女たちのサポートをして前線を押しとどめるくらいなら、僕でもなんとかいけるはずだ。


「ひいいっ!? た、助けてっ……!」


「いやだあっ、死にたくないっ!」


「ちくしょう、なんで俺たちだけ、こんな目に……!」


 危なげなく戦いを繰り広げているルカの横では、さきほど試験でボコボコにされていた剣士くんや、僕らを笑っていた戦闘職の冒険者見習いたちが泣きべそをかきながら、ゴブリンたちと戦闘を繰り広げている。


 もちろんゴブリンたちは、ホブゴブリンではない、ただのゴブリンだ。


 だというのに、皆腰が引けていて戦っているというより、武器をブンブン振り回しているだけだ。


「くそおっ! ゴブリンめ、死ねえっ!」


 おお、剣士くんがヤケクソになって剣をゴブリンに叩き込んだぞ。


 だけど、その攻撃は悪手だ。


 ――スカッ。


『ギエエエエェッ!!』


「ひいいいいいぃーーーーッ!?」


 あ、やば。


 腰が引けていたせいで、剣士くんの一撃がゴブリンに届かず空振った。


 しかも、剣の重さでたたらを踏んでしまい、数歩前に出てしまう。


 そこは、数体のゴブリンたちが密集した場所だった。


「しまっ……!」


 気付いても、遅い。


 というか、ゴブリンたちは多少剣を使える剣士くんを分断しようと、一対多数の状況を作り出そうとあえて誘い込んだように見えた。


 そして、それは成功してしまったのだ。


『ギャギャギャッ!』


『ギャギャッ!!』


 勝利を確信したゴブリンたちが蔑んだ表情を浮かべながら、手に持った棍棒を剣士くんの脳天に振り下ろそうとしている。


「あ……」


 こうなってしまえば、剣士くんにはなすすべがない。


 ゴブリンの打ち下ろす棍棒を、呆然とした顔で眺めているだけだ。


 はあ……


 さすがにこれは助けないとダメなやつか。


 ちょうど、僕のすぐ近くだし……


 剣士くんも僕らをバカにしていた連中の一人だったとはいえ、こんなところで犬死にしていいほど下らないヤツじゃないはずだ。……多分。


 なのでまあ……仕方ない。


「――《護れ》」


 ギインッ!


『ギッ!?』


 僕のスキルによって、ゴブリンの攻撃が弾かれる。


「――《護れ》、《護れ》、《護れ》」


 次は、半歩踏み込んだ場所にスキルを展開。


『ギャッッ!?』


『ギィッ!?』


『ピギッ!?』


 ズズン、と重く鈍い音がして、ゴブリンたちが勢いよく吹き飛ぶ。


 これは《加護》が生成した結界に僅かな反発力が生まれることを応用した技だ。


 以前絡んできた冒険者とケンカになったときに偶然思いついた。


 もっとも、威力そのものはそれほどでもないし、展開するタイミングがかなりシビアだから、今のところは動きの鈍い魔物くらいにしか使えないけど。


 とはいえ、ゴブリン程度ならこのとおりだ。


「テオ君、ナイスパスっ!」


 ボールよろしく放物線を描いて吹っ飛んだゴブリンたちに、ルカが片刃剣を一閃。


 都合三つ、ゴブリンたちの首が宙を舞い、次の瞬間魔力の残滓となって虚空へと消えた。


「大丈夫?」


「あ、ああ……」


 後ろでへたり込んでしまっていた剣士くんに振り返り、安否を確認する。


 完全に戦意を喪失してしまっているようで、目も虚ろで僕の問いかけにもろくに反応できていない。


 でもまあ、それは仕方ない。


 依頼遂行中に魔物の剥き出しの殺意をぶつけられて心が折れてしまう見習いも多いと聞くし、彼もそのクチなのだろう。


 とはいえ、このままここでへたり込まれていても邪魔だ。


 仕方ない、ちょっとハッパをかけておこう。


「ほら、早く立って。君は剣士だろ? この場で戦力になるのは、戦闘職の君たちだけなんだ。まだ戦えるよね?」


「……! あ、ああ」


 少し強めの口調で伝えたのがよかったのか、差し出した僕の手を、剣士くんが握り返してきた。


 目には少しばかり光が戻ってきている。


「じゃ、僕は他の人のサポートに回るから。君だけじゃなく、仲間の人たちもだけど、危なくなったらすぐに後退した方がいいよ」


 言って、ルカのサポートに向かおうとする。


「おい、待ってくれ!」


 背後から、声がかけられた。


 振り返ると、剣士くんがそっぽを向きつつも頬を掻いているの見えた。


「……お前、俺の次にダンジョンに入っていったヤツだよな」


「そうだけど」


 どうやら僕のことを覚えていたらしい。


「今まで俺、非戦闘職ってバカにしてたんだけどさ……お前みたいに強いヤツがいるなんて思わなかったからよ……あ、いや、腕っ節っつーか、心が、さ」


「……うん」


 何か言いたそうにしているので、僕は剣士くんの言葉を待つ。


「だからよ、助かった。これからは、非戦闘職だからってバカにすることなんてしねえ。そんで、俺も強くなる。お前みてえに。そんだけだ。……じゃあな、死ぬなよ」


 そんなことを一気にまくし立てて、剣士くんは仲間のところに向かっていった。


「……よし、行くか」


 まあ、そんなことを言われて悪い気はしなかった。


 けれども、今は感傷に浸っているヒマはない。


「よし、僕も頑張るか」


 激闘を繰り広げているルカとフレイの元へと急ぐ。




 押し寄せる魔物たちをどうにか殲滅することができたのは、それから一時間ほどあとのことだった。

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