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第3話 山賊に襲われたっぽい

 馬車が街の城門を抜けると、窓の外から見える景色が一変した。



 石造りの建物が立ち並ぶ狭苦しい街路から、開放的な田園風景へと。


 遮るもののない広大な麦畑の合間にポツポツの並ぶ農家。


 風にそよぐ、大草原。


 真っ直ぐ伸びる街道の先には、蒼く薄れた山々が見える。



 次の駅は、あの山を越えた先にある。


 半日ほどの旅程だ。



「ねえ君、冒険者でしょ?」


 車窓にゆっくりと流れる景色を眺めていると、隣に座った女の子が話しかけてきた。


 どうやら暇をもてあましていたらしい。


「……まあ、ダンジョンとかに潜ったりはしてたけど」


 咄嗟に誤魔化してしまった。


 まあウソはついてない。ウソは……


「やっぱり! 装備がダンジョン仕様のものばかりだったから、もしかしてと思って。あ、その腰のナイフ……ダミアン工房の新作じゃない? 支援職向けの護身武器だけど、頑丈で狭い場所でも取り回しがしやすいから私もサブで使ってて」


 女の子は、相当暇だったらしい。


 嬉しそうな顔で腰の後ろに装備した鞘つきのナイフを見せびらかしてきた。


 確かに、僕が持つ武器や着ている服、持っている鞄なんかもダンジョン攻略向けのものばかりだ。


 まあ、元いた『貫きの一角獣』はダンジョン攻略ガチ勢だったからね。


 ギルドどころか街に帰るのも二十日に一度くらいだったし、むしろダンジョンの方が我が家だったような気がする。


 そのおかげで『冒険者見習い』にしては、そこそこお金が貯まったけど、結局日常使いの服も日用品も同じ店で買っていたら(というかそういう店しか行く暇がなかった)、気がついたらダンジョン攻略向けのガチ装備しか手元に残っていなかったというオチで。


 ……まあ、『大は小を兼ねる』という古の格言もある。


 ダンジョン装備の日常使いでも不便はないから問題ない。


「実は私も冒険者で。職業は【剣士】。メインの武器は馬車の屋根に載ってるよ。まあ正確には、ついこの前なったばかりのE級なんだけど……あ、私はルカ。よろしくね」


「僕はテオっていいます。天職は【羊飼い】。よろしくルカさん」


「珍しい天職だね」


「一応、支援職系の一種です」


「あ、私はルカでいいよ。それに敬語もいらないって。同じ年くらいでしょ? 君」


「なら、遠慮なく」


 ルカさん……ルカはどうやら駆け出し(ルーキー)冒険者らしい。


 全く合格できる気がしない僕にとっては、登録できるだけでも凄いことだけど。


「それで、テオ君も王都へ?」


 そういえばこの駅馬車は王都方面の路線だったな。


 王都までは乗り継ぎが何回も必要だけど。


 僕らがいたこの街――アトマンユの街の周辺は高難度ダンジョンがいくつか存在しているものの数自体は少なく、さらにかなりの僻地なので(僕の故郷よりは多少マシだけど)、単純に依頼の数と質が微妙だ。


 質の方は、やたら高い方に偏ってる、という意味だけど。


 なので、駆け出し冒険者が冒険者として着実にステップアップしたいのなら、こんな僻地で燻っているよりは、王都に出た方がいいだろう。


「いや、少し暇が出来たから、一度故郷に戻ることにしたんだ。王都の手前で、別のルートに向かう予定だよ」


「そ、そうなんだ……」


 そう答えると、ルカはガックリと肩を落としてしまった。


「実は私、今ソロなんだよね。一緒にパーティー組める人を探してたんだけど……残念」


「そっか……ごめんね」


 とても申し訳ない気持ちだけど、そもそも僕は冒険者未満だ。


 もちろんソロだから彼女とパーティーを組めなくはない。


 だけど、さすがに冒険者見習い(サポーター)はお呼びでないだろう。


 ……あえてカミングアウトする気もないけど。


「ううん、こっちこそゴメンね。せっかくの帰郷だし、ゆっくりしてきてね――ふわっ!?」



 ――ガクン。



 車内が大きく揺れる。


 窓の向こう側が静止画になった。


「うわっ!?」


「なんだなんだ!?」


「いたた……急に止まると腰が痛むわい」


「す、すいませんお客さん方! お怪我はありませんか!?」


 御者が振り返り、慌てた様子で客車の中に声をかける。



 気付けば、馬車はすでに山道に差し掛かっていた。


 街道の両側は、草原から深い森に変わっている。


 その街道の前方に。


「おかーさん、馬車の前にへんなおじさんがいるよー」


 家族連れの子供が窓に張り付きながら、無邪気な様子で声を上げた。


「!?」


 僕は慌てて窓を開き、身を乗り出した。


 およそ三百メートルほど先だろうか。


 大きな戦斧を担いだ男が街道をふさぎ、先導する護衛馬車を無理矢理停めているのが見えた。


 車内から、すぐさま冒険者たちが飛び出てくる。


「もしかして山賊? こんな街の近郊で?」


 ルカが彼らを見やり、怪訝な声を上げた。


 その気持ちは僕も同感だった。


 この辺りは辺境なだけあって、街から外れると深い森や山が広がっている。


 けれどもところどころに開拓民の村があるし、街の衛兵や自警団が定期的に巡回して、治安維持に努めているのは知っている。


 山に差し掛かっているとはいえ、こんな街にほど近い街道沿いに山賊なんて出るわけがないのだ。


「今、護衛の冒険者が対処に当たります! お客さんがたは絶対に客車から外に出ないで下さい!」


 言われなくてもこの状況で外に出るヤツはいないだろう。


 僕は開いた窓から頭だけ出しながら様子を伺う。


「……! ……!」


 少し先の場所で護衛の冒険者が男ともめている。


 仮に男が山賊だとしても、乗客を誘拐しての身代金や乗客の財産が目当てのはずだ。


 普通は客車にむやみに火矢を撃ってきたりはしないと聞いたことがある。


 まあそれを言えば、普通は護衛が付いた駅馬車を襲うこともないはずだけど……


「ねえテオ君、どうしたの? ただの山賊でしょ? 仮に森に仲間が潜んでいたとしても、冒険者が負けるはずがないよ」


「うん、だけど、嫌な予感が――」


 そのときだった。


「ぐはぁっ!?」


「ぐわっ!?」


 立て続けに誰かの叫び声が聞こえた。


 ……倒れ伏したのは、冒険者たちの方だった。


「ちょっと何あれ……山賊があんなに強いことなんてあるの!? ていうかあの人たち、C級の『グリフォンの咆吼』だよ! リーダーは『輝剣のカイル』っていう、若手だけどかなり強い冒険者で……あ」


 男を見て、固まるルカ。


「ウソでしょ……こんなことってある?」


「どうしたの? あの山賊、そんなに強いの?」


「あれ、『鬼喰いのジェイル』だよ。第一級賞金首だよ……」


「……マジ?」


「マジ」


 『鬼喰いのジェイル』。


 顔は知らない。


 けど、名前と来歴は知っている。


 元B級冒険者で、あるとき報酬の取り分を巡り仲間割れを起こしたあげく、その全員を殺害。


 さらには証拠隠滅のためにダンジョンに全員の遺体を運び込み、凶悪な人食いの魔物――確か単眼鬼(サイクロプス)だったらしい――に食わせてしまったという極悪人だ。


 だけど、ダンジョン内で運悪く(?)目撃者がいたため、事件が発覚。


 さらに被害者の一人がギルド支配人の一人息子だったせいで即座に第一級賞金首に指定されたという人物だ。


 ちなみに『鬼喰い』の由来は、冒険者時代には好んでオーガ系の魔物を狩っては牙や角を戦利品としてコレクションしていたことから付いた二つ名だそうだ。


 オーガ系の魔物は総じて強い。


 それを単騎で狩る冒険者がジェイルだ。


 もちろん僕や、駆け出し冒険者のルカでは逆立ちしても敵わない。


 そんな危険人物が、なんでこんなところに。


「こちら街道44号線、第5便! 山賊が出た! 至急応援を寄越してくれ! ……護衛? たった今やられたぞクソが! ……いや違う、『鬼喰い』が出やがったんだ! 数? 一人だ! たった一人だが『鬼喰いのジェイル』だクソが! だから至急応援を頼む! 今すぐにだ!」


 馬車の前方では御者が大慌てで魔導通信器(マギ・フォン)に向かって叫んでいるけど、さすがにここまでは、街からどんなに急いでも一時間はかかる。


「なんだ? 護衛がやられたぞ!?」


「おいおい、俺たちはどうなるんだ!」


「なぜ……こんなことに……」


「おかーさん、こわいよー!」


「大丈夫、すぐに応援が駆けつけてきてくれるからね、心配ないからね」


 乗客が騒ぎ出した。恐慌を来すまで時間の問題だった。



 ……ならば僕はどうする?


 きつく拳を握った。


 決まっている。


 僕はまだ、冒険者を諦めていない。


 ダンジョンでは、泣き言は通用しない。


 仲間が負傷して動けず、その隙に魔物が襲ってきたら?


 今の状況は、それと同じだ。


 僕一人で逃げる? まさか!


 そんなの、『貫きの一角獣』の皆に顔向けできない。


 たしかに、クビにはなった。


 だけど、彼らが『魔王城』から凱旋してきた暁には。


 僕は顔を上げて、笑って迎えてやりたい。


 僕に戦闘力がない?


 そんなの言い訳にならない。したくない。



 これでも僕は、冒険者見習いと言えどもB級パーティーに所属していた。


 それに、戦闘は……戦闘力だけが全てじゃない。



 乗客を逃がして、応援が来るまで時間稼ぎをする。


 それが勝利条件だ。



「……よし」


 意を決して、馬車から出ようと席から立ち上がろうとした、そのとき。




「ああああああもおおおおぉ! なんてツイてないのかな!」




 僕の隣で青い顔をしていたルカが大声で叫びバババン! と自分の頬を思い切り張ると、すごい勢いで開いたままの窓から外に飛び出していった。


「……はぁ!?」


 頭から出た僕の素っ頓狂な声は、妙に静まりかえった馬車の中でやけに大きく響いた気がした。



 まさかのまさかだった。


 なんとこの馬車には。

 


 僕と同じくらいの大バカ野郎が、もう一人乗っていたらしかった。

「おもしろかった!」

「続きが気になる! 読みたい!」

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