第29話 冒険者検定④
「はあ……ヒマだな……」
ルカはエレクの街をブラブラ通り歩きながら、思わずぼやき声をあげた。
テオとフレイが試験用ダンジョンへ向かってから、少し後。
早速というか当然というか、テオとフレイがいなくなったせいで、ルカは完全に手持ちぶさたになっていた。
ちなみにギルド内の休憩スペースからは早々に退散した。
「キミ一人?」と男の冒険者が何人も寄ってきて面倒この上なかったからだ。
多少ゆっくりめに歩いてたいとしても、目的を持ってどこかに向かっているように振る舞っておけば、さすがに冒険者然とした格好のルカに話しかけてくる者はいない。
ちなみに、ルカはテオからダンジョンの場所は知らされている。
さすがにこっそり後をつけていくのはためらわれたが。
もちろん、一度は検討した。
ただ、さすがにそれをしてしまうと何か大事なものを失ってしまうような気がしたのでやめたのだ。
「ていうか、それじゃ私、ストーカーじゃん……」
いつもテオのことが気になってしょうがないルカだったが、それくらいの分別はある。
(あと、どのくらいだっけ)
通り沿いにある店を覗き込んで、中の壁に掛かっていた時計を確認する。
さきほどから、二時間も経っていない。
おそらくテオたちの試験は始まっているかどうか、というところだろう。
(はあ……ヒマだ……)
というか、このままだと暇すぎて気が狂ってしまうかもしれない。
ルカはそう思い、はたと気付いた。
(こんな気持ち、まさか私がなるとはねえ……)
冒険者として登録してからテオとパーティーを組むまでの数年、ずっと一人でやってきたのだ。
そのときには、こんな感情を味わうことなんて、一度もなかった。
ただ、ルカはその変化を嬉しく思う。
なにしろ、この感情は仲間がいるからこそ、味わえる類いのものなのだから。
「……ん?」
当てもなくブラブラと街を歩いていると、どうやら路地裏に迷い込んでしまっていたらしい。気付けば、周囲から人気が失せていた。
「あらら……戻らないと」
エレクの街は王都に近い街だけあって、衛兵の監視の目が行き届いており、治安はそれほど悪くない。
だが、路地裏は別だ。
道が狭く複雑に入り組んでおり物陰が多く人の目がないことを良いことに、無頼漢の類いが迷い込んだ人々から金品を巻き上げたり、裏社会の住人が禁制の薬物や魔導具を取引に使うこともある。
ルカも前者ならば襲ってきた連中を叩きのめせば済むが、後者は関わると面倒事しかない。
(うう……テオ君がいないと、私って街でも迷っちゃうのか……)
もともと戦うのは得意だったものの探索は不得意なせいで、テオと出会う前は馬車の護衛など探索要素のない依頼ばかりを受けていたルカだったが、さすがに街で迷ったとは言えない。
「ええと、大通りはこっちかな……ん?」
急いで大通りへ戻ろうと踵を返した、そのときだった。
「――っ! ――!!」
「――――ッ! ――!!!!」
前方から、二人の男が何やら口論を繰り広げながら早足で近づいてくるのが見えた。
(やばっ……!)
ルカはとっさに近くの物陰に身を隠す。
路地の奥目指して迷いなく歩いて行く連中が、まともな素性である可能性はかなり低い。
ルカは身をかがめ息を殺しながら、男たちが通り過ぎるのを待った。
「まったく、上は何を考えているのでしょうか! なぜ私の作品を、あのような小娘に託さなければならないのだ! 何かあったらどう責任を取るというのでしょうか!」
先頭を歩く、ローブを頭から被った男が毒づいている。
「まあ落ち着いてくださいよ、司祭様。あそこにゃザコしかいねえっすよ。試験官は冒険者とはいえ一線を退いたロートルだし、数はいるとはいえ残りは冒険者未満の見習いどもだ。あの、アラなんとか……にとっちゃ、むしろエサだらけで都合がいいじゃねーんですかね? まあ、陽動としてはいいんじゃねえっすか?」
その後ろを、冒険者風の大柄な男がなだめるような口調で喋りながら付いてくる。
ローブの男は見ない顔だが、冒険者の方はルカに見覚えがあった。
(あいつ……私たちに絡んできた『黒いブル……黒い牛さん』じゃん!)
『黒鉄の暴れ牛』ブルーノだった。
「『アラクニド』だ! 彼女は私が十年掛けて編み出した召喚術により『魔王城』から喚び出した最強の魔物のうちの一体ですよ。見たでしょう、あの美しい毛並み、力強い八本の脚、それに、なんといってもあのしなやかな女体部分……あの小娘の強化施術に頼らずとも、この街の冒険者が束になっても敵いません。陽動なぞ、する必要もない! 主戦力として、投入すべきだと言うのに……貴方もそう思うでしょう?」
「まあ、あんなヤバそうなのは見たことねえっす。この街の冒険者で太刀打ちできるヤツはいねえでしょうな」
「……そうでしょうとも、そうでしょうとも! 貴方は組織の上の連中と違い、見る目があるようだ。これからも『魔人の聖血』の一員として……いいえ、我が配下として、精進するように」
「はいはい司祭様、アンタが大将だぜ……それで、この仕事が終われば残りの『血』も分けてもらえるんすよね?」
ブルーノは念を押すようにローブの男に言う。
「成功すれば、ですよ。どのみち貴方には半分報酬を先払いしているのです。はもう後戻りはできません。フン、あの小娘ともども、精々働きなさい」
「あんな年端もいかねぇガキと一緒、ねぇ……まあ、俺は『血』がもらえて強くなるなら、なんでもいいですがね」
二人組はそんな会話をしながら、ルカのすぐ側を通りすぎ、路地の奥へと消えていった。
どうやら会話に夢中で、ルカの存在に気付いた様子はない。
(試験……見習い……もしかして……テオ君……!!)
込み入ったことが苦手なルカにも、男たちが何かをしでかそうとしているのが分かった。
ルカは二人の気配が遠ざかったのを確認すると、路地裏の地面を思い切り蹴って駆け出した。
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