表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/47

第28話 冒険者検定③

「おお、これがダンジョンか。すごいのう」


 ダンジョンに入ってすぐ少女の姿になったフレイが、目を輝かせながら通路の奥へと進んでいく。


 試験用ダンジョンは、エレクの街の近郊にある地下墳墓の遺跡を利用したものだ。


 この階層の通路の壁には大昔から眠る先人たちの亡骸が安置されているから、なんというか、それっぽい雰囲気はかなりある。


(この階層は魔物は出そうにないな)


 周囲の様子を眺め、僕はそう判断する。


 なぜなら、安置された遺体の中に魔物……特にゾンビやスケルトンなどのアンデッドが紛れこんでいると、警戒した受験者が魔術などで根こそぎ焼き払ってしまうおそれがあるからだ。


 さすがにただ永遠の眠りに就いているだけの先人たちを灰に変えるのは街の行政的にマズいらしく、そのあたりはかなり厳しく禁止を言い渡されている。


 となれば、この階層は罠か探索全般を見る試験のどちらかだ。


 通常、探索全般を見るのは最終の第三階層目になるだろうから……


「フレイ、勝手に進んじゃダメだよ。しばらくは我慢して……ほらそこ、罠があるからストップ!」


「ぴゃいっ!?」


 罠、という言葉にビクンと反応して、フレイがその場で立ち止まった。


 僕はその場所まで急いで向かう。


 かがんで確かめると、案の定、彼女の足元の石床に小さな突起があった。


「これを踏むと、そこの壁に空いた穴から槍が飛び出してくるよ……フレイ、ちょっと下がってくれる?」


「……うむ」


 僕はフレイを後ろに下がらせたあと、身をかがめてから突起をぽちっと押し込んでみる。


 すると……


 ドシュ! ドシュシュシュ!


 数歩先にある壁に空いた穴から、何本もの木の棒が勢いよく突き出してきたのだ。


「なななな、なんと……! 危うく串刺しになるところじゃった……」


 それを目撃したフレイが引きつった顔になった。


「一応、刃は取り除かれているけどね」


 このダンジョンは、試験用に調整されているから、この罠の仕込み槍は、致死性のものではない。


 そうはいっても完全に罠の機能を失ったわけではないから、発動させてしまえば強烈な勢いで木の棒が突き出してくる。


 当たり所が悪ければ、大怪我どころでは済まない。


 おそらく前の受験者はこれらの罠にひっかかりまくったのだろう。


 まあ、ご愁傷様だ。


「僕が先行するから、この階層は後からついてきて」


「う、うむ、そうじゃな! 我の輝く場所は……ここではないのじゃ!」


 フレイはさきほどの罠がトラウマになったのか、大人しく僕の後ろについた。


 ちなみに自慢じゃないけど、罠のある階層は得意だ。


 どうやら【羊飼い】は生まれつき危機察知能力が高めらしく、罠の位置やどういう意図で仕掛けられているのかが手に取るようにわかる。


 『貫きの一角獣』では弓使いのエミルと一緒に先行して罠の発見を頑張ったものだ。


 まあ、他のメンツが脳筋すぎたせいで、ちょっとした罠は踏みつぶして進んでたけど。


「……おっと、ここは落石の罠、次は……麻痺ガスか」


 見つけた罠はスルーできるものはスルー、解除しなければ進めないものは解除して、どんどん進んでいく。


「お主、本当に凄いのう……」


 フレイがあっけにとられたように僕の手際を見ているけど、高難度ダンジョンに比べればなんてことはない。


 そんなこんなで、最初の階層は難なくクリアすることができた。



 ◇



「ほう……この階層は、魔物の臭いがするな」


 地下墳墓の階層から下に降りると、フレイが鼻をクンクンとひくつかせながら、そんなことを呟いた。


「分かるの?」


「我は擬態(ミミック)スライムじゃぞ? 魔物の気配にはひときわ敏感なのじゃ。そうでなければ、生き残れなかったからのう」


 ふふん! と得意げに胸を張るフレイ。


「そっか……」


 最弱のスライムだけあって、悲しい理由だった。


「して、この階層は先ほどと違って妙な造りになっておるのじゃな」


「この階層は神殿風だね」


 周囲の風景はさきほどとうって変わって、横幅も縦幅もかなり広い空間だ。


 僕らの行く道を支えるように太い石の柱が整然と並び、一定間隔で柱に篝火が焚かれている。


 どうやら死者を祀る神殿のようだ。


 古代の文明では、祖霊を神として祀る文化があったと聞くから、そういう場所なのだろう。


 おかげでランタンを使う必要がないのはありがたいけど、光と影があるということは死角が生まれやすいということだ。


 物陰には充分注意を払う必要があるだろう。


 常にスキルを発動できるように、気を張り巡らせておく。


「行こうか」


「うむ」


 神殿風の通路を進んでゆく。


「……のう、お主よ」


 しばらく進んだところで、フレイが困惑したように声を上げる。


「どうしたの、フレイ」


「この階層は、何の試練が課されるのじゃ? ちっとも何も起こらぬぞ」


「僕も同じ事を思っていたところだよ」


 そう。


 この階層に降りてから、全く魔物に遭遇していなかった。


 最初の階層が罠の対処を見るものだったから、次は魔物との戦闘だと思っていたんだけど。


 けれども、進めど進めど魔物の気配すらない。


 まさか今回の試験、新要素でも追加されたのだろうか……そう思い始めた時だった。


 バタバタッ! と誰かの足音がしたと思ったら、柱の陰から人が飛び出してきた。


「うわっ!?」


「ぴゃうっ!? ふ、不意打ちとは卑怯じゃぞ!!」


「待っ、待って! 私は魔物じゃない! 貴方たち、受験者ね!?」


 僕たちの前に転がるように出てきたのは、人間の女性だった。


 というか、試験官だ。


「何があったんですか?」


 普通、試験官がダンジョン内で姿を見せることはない。


 場所も、特定されると評価がしづらくなるからと受験者には分からないようにしているはずだけど……まさか、これも実地検定の一環なのだろうか?


 以前と比べて、ずいぶんと趣向が違うけど……


「いいから早く逃げなさい! アレはあなたたち冒険者見習いじゃ太刀打ちできないわ! あぁ、なんでこんな場所に――ひゅごっ!?」


 この試験官、ずいぶん迫真の演技だな……と僕が思った、その瞬間だった。


 まるで何かに引っ張られるかのように、試験官が一瞬のうちに闇の奥へ消えてしまったのだ。


「なんじゃあれは! 一瞬じゃったが、あやつの首に、何かが巻き付いたように見えたのじゃ」


「うん、僕も見えた」


 僕はとっさに、試験官が消えた方へと駆け出す。


「……? お主、待つのじゃ!」


 ただならぬ様子を感じ取ったのか、すぐにフレイが追いかけてくる。


 試験官は、すぐに見つかった。


 天井からつり下がった糸に、首を括られながら。

 試験官はすでに意識がないのか、青い顔でぐったりとしていた。


「ぬわっ!? なんじゃあれは!? あんな巨大な蜘蛛は見たことがないのじゃ!」


「僕も、あんなの知らないよ……」


 そこにいたのは試験官だけではなかった。


 頭部から女性の身体が生えた巨大な蜘蛛の魔物が天井に張り付いていたのだ。


 魔物は、首を吊られた試験官にじりじりと迫っていた。




「……なるほど」




 僕はそこで、全てを理解した。


 要するに、魔物戦闘の実地に、ちょっとしたひねりを加えてあるのだ。


 確かに実際のダンジョンでは、たまに他の冒険者が魔物に襲われるなど、危険に晒されているところに出くわすことがある。


 そして、その襲われている冒険者役が、試験官本人というわけだ。


 ちなみにそこにいる頭部から女性の身体が生えている蜘蛛の魔物は、それなりにいろんなダンジョンに潜ってきた僕でも初めて見るタイプだけど……基本的に蜘蛛の魔物はどの種類も、それほど強くはない。


 ある程度経験を積んだ冒険者なら、きちんとパーティーで戦えば勝てる相手だ。


 さすがに冒険者見習いの実地で戦うレベルの魔物だから、それほど強いとは思えないけど……一応用心はすべきだろう。


 それよりも、まずは試験官の救出だ。


「フレイッ! 火焔魔術であの糸を焼き切って!」


 フレイへの指示と同時に、僕は試験官の元へと疾走する。


「承知なのじゃ! ――《小火球》ッ!」


 僕の意図を即座に理解したのか、フレイが小さな火球を生み出し射出した。


 火球はまるで矢のような速度で試験官の頭のすぐ上を通り抜け――ジュッ、と音とともに蜘蛛の糸を焼き切る。


「よしっ、第一関門クリア!」


 支持を失い天井から落下する試験官を、僕はギリギリのタイミングで受け止めることに成功。


 女性だからか、試験官の身体は存外軽かった。


『キアアアアァァッ!』


 僕が試験官を救出すると蜘蛛の魔物は獲物を獲られたことを理解したのか、不快な鳴き声を上げ、俊敏な動きで襲いかかってきた。


 けれど、攻撃されることぐらい予測している。


 ガツン!


 蜘蛛の魔物が槍のように鋭い脚から繰り出された刺突攻撃は直前に展開しておいた僕の《加護》に阻まれ、硬い音を立てて弾かれる。


「フレイ、今っ! 目くらましを頼むっ!」


「承知なのじゃ! ――《小火球》、《小火球》、《小火球》ッ!」


 立て続けに、フレイが火球を放つ。


 ――ジュッ! ジュッ! ジュッ!


『ギイィッ!?』


 全弾が、蜘蛛の魔物の人間の顔面に命中した。


 これはさすがに効いたらしく、蜘蛛の魔物がたまらず後退する。


「今だっ!」


 その隙を逃さず、僕は試験官を担いでフレイのもとまで退避することに成功した。


「お主、その者は無事なのか?」


「うん、助けるのが早かったから、気絶だけで済んだみたいだよ」


 もっとも、多分気絶のフリだろうけど。


 僕は試験官をそっと床に横たえると、念のため持ってきていた回復薬を首元に振りかけておく。


 よし、これでポイントは稼いだはずだ。


「お主」


「分かってるよ。本番はここからだ」


 蜘蛛の魔物は傷を負ったとは言えいまだ健在だ。


 きちんと倒して、僕らの戦闘力を証明しなければならない。


 しかし……


「今回の試験、厳しすぎるだろ……」


 僕は思わずぼやく。


 まさか、実地でここまで難易度を上げてくるとは!


 だけど今回、僕にはスキルがあるし、なによりフレイがいる。



 だから絶対に、この検定をクリアしてみせる……!

★月末月初で多忙につき、次回の更新は今週金曜日になります★



「おもしろかった!」

「続きが気になる! 読みたい!」

「今後どうなるの!?」


と思ったら、ページ下部にある☆☆☆☆☆から、

作品への応援をお願いいたします!


面白かったら★★★★★と星5つ、

つまらないなと感じたら★☆☆☆☆と星1つでも全然OKです!


正直なお気持ちを頂戴できれば。


また「ブックマーク登録」も頂けると、とてもうれしいです。


こちらは☆☆☆☆☆よりすこし上にある「オレンジ色のボタン」を

押すだけで完了しますので、ぜひ。



というわけで、引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ