第27話 冒険者検定②
「テオ君、お疲れ様! 座学は……って、その顔なら聞くまでもなさそうだね」
最初の試験を終えギルドの休憩スペースに戻った僕を、ルカとフレイが待ち構えていた。
「まあ、全部暗記しちゃってるからね」
冒険者検定の内容は、座学と実地だ。
座学の方はいつも同じことしか問われないから、何回も受けている僕は目を瞑ってでも全問正解できる。
今回も、特に問題なくクリアしてるはずだ。
問題はこれから始まる実地だ。
試験は、街の近くにある地下遺跡を改装した疑似ダンジョンを使って行われる。
これまでの傾向と同じなら、疑似ダンジョンは三階層構造で、罠の発見、魔物との戦闘、総合的な探索の各能力を見る試験となるはずだ。
本来ならばパーティーで進むところを、この試験では単独で踏破しなければならない。
「今回はフレイが一緒だし、頑張ってみるよ」
「フレイ、テオ君をよろしくね」
「我が一緒ならば、百人力なのじゃ!」
フレイの場合は本当に分裂できるから、本当に百体分になれる。
もっともそうなると一体が拳大になるから子猫より弱くなるけど……
「おいヒヨっこども、移動だ! 遅れたヤツは評価できんから、さっさとついてこい!」
試験官役の冒険者が、声を張り上げている。
「おっと、もう行くね」
「いってくるのじゃ」
「うん、二人とも頑張ってね」
僕とフレイはいったんルカと別れ、試験用ダンジョンに向かった。
◇
「おい、あいつ……魔物使いなのか?」
「ぷっ……! スライムが使い魔とか……やる気あんのかよ」
「いるんだよ、不向きな天職なのに勘違いしたヤツが」
疑似ダンジョンの周辺で順番を待っていると、周囲の受験者たちからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
こっちを見て笑っているのは、戦士や魔術師などの戦闘職だ。
今回の検定はどうも非戦闘職の受験者が少ないようで、そのせいもあってか彼らの僕に対する視線はかなり見下したようなものが感じられた。
『むうう……あれらが嘲笑であることは、さすがの我でも分かるぞ』
『フレイ、気にしない気にしない』
『お主が気にせぬというのなら、我も気にしないよう努めるが……』
僕は、スライム姿で肩にちょこんと載ったフレイと、『念話』で言葉を交わす。
ちなみフレイは妙なところで空気が読めるというか、『お主は魔物使いの一種らな、我もスライム姿がよかろう!』と街を出る前にスライムの姿に戻っている。
それはともかく。
今、僕に他人のことを気にするような余裕はない。
座学はともかくとして、実地の試験はかなり厳しい。
ダンジョンに入り、最下層に到達する。
たったこれだけなのに、合格率は一割程度しかない。
そして僕も、十回受けた実地試験は全て最下層に到達できずに終わっている。
今回は僕をふくめ十数人の受験者がいるけど、僕をあざ笑っている彼らでも合格できるのはせいぜい数人程度だ。
僕もその中の数人に入れるよう、頑張らなくては。
「あの……あなたも非戦闘職なんですね」
次の受験者の受け入れ準備が整うのを待っていると、背後から遠慮がちな声が掛けられた。
「…………?」
振り返ると、気弱そうな女の子が僕の側に立っていた。
歳は僕と同じか、少し下くらいだろうか。
見たところ、ローブを着て杖を持っている、魔術師系だろう。
それに『あなたも』というくらいだから、非戦闘系の魔術師だろうか。
「あっ、急にすいません! 私、ノンナって言います。支援系魔術師なんですけど、魔物戦闘がすごく不安で……もしかしてお仲間かなって思って、つい話しかけてしまいました」
僕が反応に困っていると思ったのか、魔術師の女の子は慌てたように自己紹介してくれた。
名前は、ノンナさんと言うらしい。
なるほど、彼女は支援系魔術師か。
支援魔術は身体強化の魔術なんかが有名だけど、魔物との戦闘は立ち回りが肝心だ。
ただ腕力が強くなったからって、簡単に勝てるようになるわけじゃない。
「あ……こっちこそ黙っててゴメン。僕はテオ。あまり他の冒険者見習いの人と関わる事がなかったから、咄嗟に声が出なくて」
「いえいえ! ……よろしく、テオさん。そちらは、スライムさんですね? よろしくです」
「…………」
フレイは律儀にスライムのロールプレイを続けているらしく、プルプルと身体を揺すっている。
どうやら彼女なりの挨拶らしい。
「うふふ……とっても可愛らしいスライムさんですね」
「あ、ありがとう」
とりあえず、プルプルしているフレイに代わってお礼を言っておく。
「でも分かるよ、非戦闘職って、どの天職も魔物との戦闘が大変だもんね。それに結構重要な役回りが多いのに、軽んじられることが多くてさ」
「ですよね! ですから……」
ノンナさんは首肯したあと、口の端をニイィ……と吊り上げ、言った。
「もし戦闘職でも勝てないような強い魔物が現れたら……命あっての物種です。テオさんだけでも、すぐに逃げた方がいいですよ?」
……なんだ?
笑顔のままなのに、ノンナさんの雰囲気が一変した。
「うん……? そ、そうだね」
まるで彼女が急になにか得体の知れないものに見え、僕は一瞬口ごもってしまう。
「あ……ごめんなさい! 実は前組んでたパーティーの人が戦闘職ばかりで。そのせいでなんとなく、戦闘職の人に対抗意識があって……」
慌てたように手を振って、あはは、と笑うノンナさん。
「ああ……それはちょっと分かるかも」
脳筋に囲まれていると、そういうこともあるか。
ノンナさんもいろいろと苦労しているのだろう。
◇
「おお! 最初のヤツが出てきたぞ」
その後もノンナさんとしばし談笑していると、直前にダンジョンに入った受験者が出て来た。
『む……あの者、ずいぶんと酷い有様じゃな』
僕とノンナさんの会話に興味がなかったのかずっと黙っていたフレイが、念話で囁いてきた。
『まあ、実地はかなり厳しいからね』
僕も念話で返す。
ダンジョンから這うように出てきた受験者は、ボロボロだった。
「ウソだ…………俺は、もっとやれるはずだ……やれるはずなんだ……っ」
剣士とおぼしき受験者は憔悴した様子で、何かをブツブツ呟いている。
視線は虚空をさまよい、見るも無惨な様子だった。
身体はあちこち傷だらけで、身につけている高そうな防具はボコボコにへこみ泥まみれ。
派手な装飾の剣を杖のようにして、ようやく立っているような状態だ。
ダンジョンに入る前の意気揚々とした様子は見る影もない。
「ふむ……たった第一階層でギブアップ、とな。……了解。001番は失格だな。さっさと出口から避けろ。次の者の邪魔になる」
試験官はダンジョン内部で監督を行っている職員と通信魔術でやりとりを行った後、冷ややかな目で剣士受験者に言い放った。
「うう……」
受験者は言い返すこともできない様子だった。
すごすごと入り口から端に避け……その場で膝を抱えて、うなだれてしまった。
「おい、アイツ……結構有名な剣術道場の出身じゃなかったか?」
「試験直前まで、『冒険者とか楽勝だろ』って息巻いてたよな」
「オイ待て……今回の実地って、こんなヤバイのかよ」
実地から戻った剣士受験者の様子を目の当たりにして、他の受験者たちがざわめきだす。
中には僕と同じく初回でない人もいるらしいけど、どうも今回は別格のようだ。
「なあお主よ。ここにいる者らは皆、それなりに鍛錬を行ってきたのじゃろう? それでも、この有様なのか?」
「うーん。ダンジョン攻略は、ただ腕っ節が強くても攻略できないからねえ。あと、難易度も一定じゃないし」
実地で使うダンジョンは擬似的なものとはいえ、準備された罠も魔物も本物だ。
一つ判断を誤れば、常に命の危険がつきまとう世界が受験者たちを待ち受けている。
もちろろんそれらの魔物や罠は、ギルドの職員さんが内部で難易度調整を行っているし、ダンジョン攻略中の受験者の様子を評価するため、各所に監督官が配置されていたりけど。
とはいえ、その難易度設定は……人間のやることだから、毎回一定というわけにはいかない。
どうやら今回は、難易度がかなり上振れしているらしい。
「よし、次。テオ、だったな。そろそろ準備はいいか?」
どうやらダンジョン内部で試験の準備が整ったようだ。
「はい、万端です」
「ふむ……お前は【羊飼い】……魔物使いの系統か。スライムが相棒なのはかまわないが、本当に大丈夫か?」
試験官が、一応気遣いらしき言葉をかけてくる。
「お気遣いありがとうございます。問題ありません」
「そうか。なら、そろそろダンジョンへ入れ」
「はい!」
僕は大きく返事をしてから、大きく深呼吸をする。
少しだけ頭と心がクリアになる。
「じゃあフレイ、行こうか」
「うむ! 実は『だんじょん』とやらは初めてなのじゃ。我が発生したのは山の洞窟じゃったからな。じゃから今、我はとてもワクワクしておるのじゃ」
そういえば、フレイは『白竜山脈』でずっと暮らしていたんだっけ。
「じゃあ、楽しまないとだね」
「うむ! お主といっしょなら、きっと『だんじょん』攻略とやらは楽しいのじゃ! ルカがおらぬのはちと残念じゃが」
「じゃあ、次の依頼はダンジョン攻略にしようか」
「それがいいのじゃ」
そんな会話を交わしながら、僕たち試験用ダンジョンに足を踏み入れたのだった。
「おもしろかった!」
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