第20話 パーティー登録
翌朝。
僕らは街の中の観光をしつつ、冒険者ギルドに向かうことにした。
僕とルカ、それにフレイをパーティーとして登録し、依頼を受けるためだ。
ルカは王都にいく予定を変更して僕に付き合ってくれているのもあり、僕の故郷に向かうためにも、当面の路銀を稼ぐ必要があった。
というか、僕も帰郷の旅程など、あってないようなものだ。
いろいろな場所を見て回ろうと思っていたし、多少の蓄えはあるとしても、路銀に余裕があるほうがいい。
観光も兼ねて街のあちこちに寄っていたのものあって、冒険者ギルドに到着したのは昼過ぎだった。
「うわ、やっぱり王都に近いところのギルドは、建物が立派だね」
「すごいのう、すごいのう!」
ルカが冒険者ギルドの威容を見上げながらため息をつく。
フレイは目に映るもの全てが物珍しいのか、街に入ってからこれしか言っていない。
エレクの街は、城塞都市だ。
他の場所にある建物も無骨な石造りでなかなか雰囲気があったけど、冒険者ギルドが入っている建物は別格だった。
なんというか、威圧感がすごい。
「と、とにかく中に入ろうよ」
僕は鉄製の重たい扉を開き、中へと入り込む。
外側の威圧感の割には、エントランスホールは存外に広かった。
二階の天井を取り払って吹き抜けにしているせいで、圧迫感がないせいだろう。
人気はあまりない。
併設の食堂に、依頼帰りと思しき冒険者たちがまばらに座っているのと、職員のお姉さんがカウンターで暇そうにしているくらいだろうか。
「すいません、新規パーティー登録をしたいんですけど」
カウンターの職員さんに声をかける。
「ああ、はいはいご新規ですね。この申請用紙に必要事項を書いてください。筆記用具はここにあるので自由に使っていいですよ」
言って、職員さんがカウンター横の書類束を指さした。
かなり気怠い感じだ。
といっても、不親切というほどでもない。
朝や夕方は忙しいから、昼間は気が抜けている時間帯なのだろう。
「ありがとうございます」
職員さんにお礼を言って、申請用紙を一枚取る。
書類に記入するのは、パーティーに所属する者の氏名や年齢、生まれた場所や天職など。
あとは、冒険者なら登録した日付と番号。
メインの欄はここまでで、僕は『冒険者見習い』だから別の場所――『荷役』の欄に名前や天職などを書き込んでゆく。
ちなみにフレイは魔物なので、扱い上は僕の『使い魔』だ。
この辺は天職によってスキルが違うから、似たようなものはざっくりまとめた用語になっている。
ちなみに僕たちは、書類上、パーティーの『冒険者』はルカ一人だけになってしまうけど、ギルド的には別に問題はないそうだ。
実際に僕も前例は知っており、たとえば以前一人の冒険者が何人もの冒険者見習いを従えているパーティーと、ダンジョンで一緒に探索を進めたことがある。
……まあそこはワンマンで、かなり扱いが酷そうだったけど。
それはさておき。
記入すべき事項はすぐに埋まってゆき、あと一つの欄を残すとばかりとなった。
「パーティー名、どうしようか?」
「うーん、そういえば考えてなかったかも」
僕が問うと、ルカはうなり声を上げ腕を組んだ。
とはいえ、それは僕も同じだ。
「群れに名付けが必要なのか?」
スライムのフレイは人の暮らしにそれほど詳しくないのか、素朴な疑問を口にする。
「私はずっとソロだったから……やっぱりパーティー名はこだわりたいかな」
「それについては、僕も同感だな」
前のパーティーは安物の護符がその名前の由来だったけど、そこには共通の思い出があった。
今の僕たちには、まだそれがない。
「ああ、パーティー名は申請すれば変更はできますよ。もしすぐ決まらないなら、今は仮の名前で登録して、決まったら来て貰えばそれでいいですよ? そういう新人さん、結構いますし」
僕らの様子を見かねたのか、職員さんが助け船を出してくれた。
「じゃあ、決めたらまたきます」
僕は頷き、パーティー名が空白のままの書類を職員さんに提出した。
「では、いったん受付番号『5642』でパーティー名を登録しておきます。……このまま全滅するとパーティー名が番号のままになっちゃいますから、後日、ちゃんと変更に来て下さいよ?」
「はい、必ず」
職員さんはやる気のなさそうに見えるけど、とても優しい人だったようだ。
そんなわけで、無事にパーティー登録が終わった。
◇
パーティー登録が終われば、早速依頼の受託だ。
僕たちはカウンター横の掲示板へと移動する。
掲示板には、所狭しと依頼書が貼り付けてあった。
どうやら依頼の張り替えの直後だったようだ。
「やっぱりパーティーを組んだら、魔物との戦いだよね! ほらこれ! 森に出没するランドサーペントの討伐依頼とかあるよ!」
ルカが目をキラキラさせながら、依頼書を指さす。
もちろん却下だ。
「このパーティーじゃ無理だよ。ランドサーペントは危険度Bランクの魔物だからね?」
この全長二十メートル近い大蛇の魔物は単体を狩る場合でも、攻守のバランスを整えたC級冒険者パーティーが数組必要で、しかも全員がきちんと連携してやっと勝てる相手だ。
僕らみたいなぺーぺー冒険者なんか、毒牙で噛みつかれ瀕死になったところを丸太のような胴体に巻かれて全身の骨を砕かれたうえ丸呑みにされてジ・エンドだ。
「むうー……ちょっと言ってみただけじゃん」
ルカがぷうっと頬を膨らませて、むくれて見せる。
いやキミ、目が本気だったからね?
……とはいえ、だ。
正直なところ、討伐系の依頼を受けるのはやぶさかではない。
先日《牧羊犬》が進化した《守護者》と、追加で得たスキル《加護》の効果を、まだちゃんと試していないからだ。
どうやら防御結界に近い効果があることは、頭の中に流れ込んで来た『確信』で分かっている。
だけど、どの程度の強度を持つのかなど、性能自体は未知数だ。
なにしろあのときフレイが放った火焔ブレスは、ただの初級魔術《小火球》だったらしいからね。
ある程度事前に試してからにはなるけど、実際に戦ってみて、スキルの効果を確かめるしかない。
なので――
「これとか、どうかな」
僕は掲示板から討伐系の依頼書を剥がし、ルカとフレイに見せた。
「はぐれゴブリンの討伐? もうちょっと行けると思うけどな、テオ君となら」
それはさすがに買いかぶりすぎだろう。
「数は……三体と書いてあるな。みなと同じ数なのじゃ。となれば、『タイマン』をするのじゃな?」
フレイはフレイで意味のわからないことを言ってくる。
「いや、多分連携して戦うし一対一ではやらないかな……」
彼女は長生きなだけに、人間に関する知識はそれなりにある。
ただ、さっきの言動といい、昨日のお金の件といい、それが変に偏っているのだ。
「それとルカは浮かれるのもいいけど、もうちょっと慎重にいこう。自分の実力を過信しないよう己をコントロールするのも、冒険者としての仕事のひとつだよ?」
「むう……テオ君がそう言うなら、慎重にいくよ」
ルカは物わかりがいいのでありがたい。
確かに《守護者》のスキルを使えば、もっと強い魔物を討伐することはできそうな気がする。
ただ、スキルが進化したときに聞こえた声が気がかりではある。
『――魔人の血を感知しました』
これはルカのことを指しているのだろうか?
正直、よく分からない。
そもそもスキルが進化すること自体、僕にとっては初めての経験だ。
スキルを発動することによって彼女に危険が及ぶのは僕の望むところではない。
慎重にいく必要がある。
しかしルカもフレイも完全に脳筋の思考回路だな……
もしかして、このパーティーって僕が相当頑張らないと大変なことになるのではないだろうか。
まあ、冒険者見習いはいろいろ段取りとか仕事があるから、パーティーで一番忙しいのは間違ってないんだけど……
それはともかく。
「じゃあ、この依頼にしよっか」
はぐれゴブリンの討伐なら、比較的安全だからね。
「うん、初依頼だね!」
「皆と一緒に『ケンカ』なのじゃ! 楽しみなのじゃ!」
というわけで、初依頼が決まった。
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