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第1話【羊飼い】は戦力外

「俺たちは『魔王城』を攻略することにした。だからテオ、お前はクビだ」


 それは、近場のダンジョンでとある依頼をこなした、その晩のことだった。


 冒険者ギルドで報酬も受け取り、さあ打ち上げだ! と街の酒場のテーブルについた瞬間。

 


 僕はパーティーリーダーからクビを言い渡された。



「……なんでだよ」


 それだけを絞り出す。


 頭の中が真っ白で、他に言葉が思いつかない。


「……すまん」


 パーティーのリーダーことレナートは短く刈り込まれた金髪頭をボリボリと掻きながら、バツの悪そうな様子でこちらの様子を伺っている。


 僕が冒険者を志し故郷から出てきて、ギルドで初めて出会ってからほとんど一緒にいる彼の……初めて見せる表情だった。



 同じく席についたものの、僕と目を合わせてくれないパーティーの面々。



 簡単な依頼だったわりに確かにみんな浮かない顔をしているなあ、とは思っていた。


 でも、これが理由だったとは予想だにしなかった。


「なんでだよ。僕の何がダメだっていうんだ」


 僕はもう一度レナートに言った。


 今度は吐き捨てるような口調になった。


「……お前、『検定』の結果はどうだったんだ? もう、合格発表はもう十日前も前だ。みんな、お前のことを気にしていたんだぞ」


「…………」


 黙るしかなかった。


 目の前に真っ黒な幕が降りてくるような気持ちだった。


「……残念だが、もう待てない。事情が変わった」


 重々しく、レナートが答える。



 ――検定。


 正確には、『冒険者検定』。



 冒険者ギルドが運営する、一端の冒険者としての能力を有しているかの試験のことだ。


 魔物と互角に渡り合う力があるか。


 ダンジョンを探索するための能力を充分に有しているか。


 いかなるときも、冒険者として問題ない行動を取ることができるか。



 それら全般を座学や実地研修などを経て、最終的に検定を行う。


 これに合格しなければ、冒険者として登録することはできない。



 ……僕はその検定に、十回連続で落ちていた。



 自分でいうのも何だが、座学や探索能力については申し分ないと思う。


 けれど、今一歩総合力で及ばなかった。


 どうしても、合格をもぎ取ることができなかった。


 いつもギリギリで落ちてしまうのだ。



 現在、僕の身分は『冒険者見習い(サポーター)』。



 もちろん合格して登録しなくても一応パーティーに加入して一緒に依頼をこなすことはできる。


 依頼を遂行する上で、できることは冒険者とあまり変わらない。



 けれども冒険同行者は自分で依頼を受けることはできず、報酬などの取り分を得る事ができないし、ダンジョンなどで得た物資……たとえば魔物の牙や毛皮などを売却することもできない。



 一人前の冒険者とは認められない。



 僕の立場は、冒険者ギルドの記録上、『貫きの一角獣』に雇われた荷役(ポーター)ということになっている。



 僕に支払われるのは、冒険者パーティーが支給する給金のみだ。


 そんな『見習い』状態で、僕はもう三年も足踏みしている。


 お金の問題も依頼が受けられないことも、正直どうでもいい。



 メンバーのみんなと肩を並べることができないことが、とても悔しかった。



「みんなは、もう結果を知っていたのか」


「当然だろう。まさか、俺様の目を誤魔化せると思っていたのか? お前がキツい依頼をこなしたあと、こっそり隠れて夜遅くまで戦闘訓練も座学も頑張っていたのを、マジで隠し通せると思ってたのか?」


 全身タトゥーだらけの巨漢、壮年の【拳闘士】チムールがそっぽを向きながら、そう言った。ぶっきらぼうだしコワモテだけど、彼はいい人だ。


 僕らと出会う前は長く武者修行に出ていたらしく、結構なおっさんだけど。


「夜トイレに起きたら、まだ剣術の稽古していたでしょ。そういうところ、尊敬してるんだよ?」


「頑張り屋さんだよねえ、テオは。まあ合格までそう遠くないと思うんだけどね~。もしかしたら、私たちが強すぎて、危険な目に遭ってないのがダメなのかねえ~」


 年上美人な【魔術師】ヴェロニカがサラサラの銀髪を揺らしながら僕に語りかけ、ハーフエルフでパーティーで一番年長の(歳は聞いたら怒るから知らない)【弓使い】エミルは眠たそうな目で、だけどしみじみと呟いた。


「……全部バレてたのか」


 みなが、僕を心配してくれていた。


 少し気恥ずかしいけど、素直に嬉しいと思う。



 だからこそ、胸が痛かった。



「俺も、皆も、お前の努力も根性も認めてる。だが……だからこそハッキリ言うべきだと思う」


 レナートは少しだけ迷うように顔を視線を何も載っていないテーブルに落とし――すぐに顔を上げ、僕の眼を真っ直ぐ見据えた。




「【羊飼い】は、冒険者にはなれない」




「ちょっとレナート!」


「レナート、言い過ぎだよ~」


 ヴェロニカとエミルがフォローに回るが、もう遅い。


 僕の耳に、心に、その言葉は楔のように打ち込まれてしまった。



 分かってはいた。


 僕の天職は【羊飼い】だ。


 羊や山羊などを飼育することは、まあ人よりできると思う。


 牧草と雑草の違いだって完璧に見分けがつく。


 冒険に必要なので、薬草の知識は必死で頭に叩き込んだ。


 山岳地帯とか、岩場での移動とかも普通よりは得意だ。



 魔力はそれなりにある。


 戦闘力は……一般人より多少マシという程度。


 戦闘向きじゃなければ『スキル』はあるけど魔術は使えない。


 その辺で薬草の採取依頼をこなすならいざ知らず、本格的にダンジョン探索に向かうのなら一人じゃ何も出来ない役立たずだった。



 天職【剣士】のレナートみたいに自分の数倍もある魔物を一撃で両断したりはできない。


 というかレナートの剣は重すぎて持つことすらムリだ。



 【魔術師】ヴェロニカみたいに巨大な火球を天から雨のように降らせて魔物の群れを一瞬で消し炭にしたりはできない。 


 僕にできるのは、せいぜい魔物の囮になって、群れを指定の地点まで誘導することくらいだ。



 どんなに身体を鍛えても、【拳闘士】チムールみたいに鋼のような身体にはならないし、素手で巨岩を粉砕したりできない。


 きっと何十年修行してもムリだ。


 そもそもケンカで勝った記憶がない。



 【弓使い】エミルみたいにずっと遠くにいる小さな魔物の眉間を正確に弓で射貫くことなんてできないし、ましてやそれを十体同時に射貫いたりなんて逆立ちしたってムリだ。


 そもそも弩ならともかく、ちゃんとした弓なんて重くて引けないし……もうやめておこう。




 とにかく。




 冒険者としてやっていくには、彼らほどでないにせよ、似たようなことは出来なければならない。


 でも、【羊飼い】では無理だ。


 どんなに鍛えても、僕は皆の様になれない。


 検定を数回受けた時点で、それは悟っていた。


「『魔王城』のことは、お前も知っているだろう」


 重たい空気を紛らわすように、レナートが話を続ける。


 これから攻略をするダンジョン『ノルボダ王城遺跡』――通称『魔王城』は王都からはるか遠く、東の辺境――魔族の統治する自治区内に存在する。


 たどり着くだけでも命の危険が伴うのに、冒険者ギルドが指定するダンジョン難易度は『S級』だ。


 これは一般的な冒険者が攻略した場合に『生還できる確率』が0.1%ということを意味する。


 一歩ダンジョンに足を踏み入れて、帰ってくるだけでその確率。


 冒険者ですらない僕なんかが踏み入れるのは、自殺と同義なのだ。


「繰り返しになるが、お前が必死で頑張ってきたのはみんな知っている。だが、それでも俺たちは上を目指さなければならない。苦渋の決断なんだ」


 『貫きの一角獣』を結成した当時に、皆で決めたことがある。


 それは『五年以内にS級パーティーになる』こと。


 僕らはそれに向かってひたすら頑張ってきた。


 おかげで結成三年目にして、現時点でのパーティーランクはすでにBだ。


 次はA級で、その次……僕らの目標かつ最高峰のS級となる。


 S級ともなれば、ここドルキア王国だけでなく、大陸全域にその名声が轟くことになるだろう。


 英雄の仲間入りだ。


 三年でB級に上がるというのは、驚異的なスピードだ。


 普通は『駆け出し』のE級から一つ上のD級に上げるまで三年かかる。



 とはいえ僕らは、去年B級に昇級してから足踏み状態だった。


 最近は、ペースを落とし難易度が低めのダンジョンを選んでいたのは薄々分かっていた。


 僕に歩調を合わせてくれていたのだ。


 だから、遅れを一気に取り戻すためには『魔王城』のような超高難度ダンジョンに挑むことが必須だった。


 レナートたちは物凄く強い。


 実力的には、じゅうぶん挑めると思っている。



 ……僕を除けば。



 分かってる。


 ここが引き際だ。


「……そっか。分かったよ」


「テオ……すまない」


 レナート、そんな顔をしないでくれよ。


 僕は自分で、自分の人生を決めたんだ。


 大きく深呼吸する。


「じゃあ僕は一度故郷に戻ることにするかな! 僕も皆がいなければ、何もできないし。…………無事を祈ってるよ」


 できるだけ明るく、声が震えないように。


 誰も、応えなかった。


 ただ、小さく頷いただけだった。


 鼻の奥がツンと痛い。


 テーブルの下で握りしめた拳から、痛みとともに、温かくぬるりとした感触が伝わってくる。




 こうして僕は、ずっと一緒に旅をしてきた『貫きの一角獣』をクビになった。


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