ゴーレムからの贈り物
ゴーレムを知っているだろうか? 泥人形、あるいは、レンガの様な硬い身体を持つ操り人形、命令には絶対服従、そんな所だろうか。
そこには、小さな村があった。その住人はゴブリンだ。『ゴブリン』魔物、モンスターだ。冒険者によって退治される者。悪者のイメージだが、そのゴブリンは違っていた。人間に対して攻撃的な態度はとらないむしろ人間にあえて接触しないようにしている。人郷にも近づかない。そんな小さな村にゴーレムがいた。
そのゴーレムは、この小さな村を守っている。 数十年前1人の錬金術師が森に迷い、倒れたのを助けたのがゴブリンだった。
その錬金術師は人間達に騙され、その錬金術で沢山の鉱物を造らされていた。年をとって錬金術が使えなくなると次は魔術の儀式の為の生贄にされたのだ。鎖に繋がれその時を待つ。が、その人物は鎖を切り、森の奥へと逃げた。そして、力尽き倒れる。そんな彼を助けたのがゴブリンだった。
「何故、私を助けてくれたのか?」
「貴方からは人間とは違う匂いがする。我々に近しい匂いだ」
「そうか、分かってしまうのだね。そう、私の血にはエルフの血が混ざっているようだ。血族を辿るとどうやらエルフがいたようでね。私は錬金術が使えるがその血のせいもあるのか魔術が得意なのだよ」
「人間として生きてきたのに年をとって使い物にならないと分かった途端、自分が術式の道具にされるなど理不尽じゃないか‥‥‥何の為に生きて来たのだ私は……」
「ここにいるといい、我らとここで暮らそう」
彼はその村で暮らす事を決めた。だが、人間は彼を探していた。エルフの血を持つ彼を儀式の生贄にする為に。ゴブリン達は彼を守った。冒険者に退治される者もいたがゴブリンは彼を守る。
彼は、最後の力を振り絞り一体のゴーレムを造った。自分の血を混ぜて……そのゴーレムに命令を出す。
「この村を守るのだ」
と、それは彼の最期の言葉になった。
人間はゴーレムを恐れゴブリンに近づく事はなくなった。そして、長い時が経った。
そこに1人の少女が森の中で迷い泣いていた。そこから奥にはゴブリンの村がある。ゴーレムは少女を人間のいる町の近くへ連れて行く。
「ありがとう! 貴方優しいのね」
少女は町へ帰る。それから少女は時々、そのゴーレムと森の中で一緒にいる様になった。
少女はゴーレムの話をするが誰も信じない、夢でも見たのだと言われる。
時は経ち少女もいつしかゴーレムの事を忘れ大人になった。
ある少年が森に入る。隣の町へ行くには近道になるからだ。大人はここに来ては行けないと言うが、隣町の薬屋にしかない薬を買いに行くにはここを通るのが早い!
「婆ちゃんは、いいって言うけど‥‥‥俺は治るのなら買ってあげたい!」
そう言って家を出た。
この森、人が入らないから草すげーな。獣道でも探すかな? あった! ここを行こう! と歩く。
結構森の奥に来ちまったな。ん? 何か大きな人形みたいなのがいる。近づいてみるが、人形か?
と、その人形が動き出す。そして俺を持ち上げて今来た道を戻る。
「おい! 困るよ。せっかくここまで来たのに返されちゃあ! おい!」
人形はびくともしない。結局元の所、森の外にまで来てしまった。人形も戻って行く。
その後を俺は追った。そして、見つけてしまった。魔物の村を。ヤバい! ゴブリンだ。どうしよう…
振り返り戻ろうとすると、ゴブリンに気づかれた!
「僕達の事は誰にも言わないで! 人間に危害を加えるつもりはないんだ」
小さなゴブリンが言う。えっ? 今人間の言葉を話した?
「どうして人間の言葉が分かるの?」
つい聞いてしまった
「昔、ここに人間と一緒に暮らしていた事があって、色々教えてくれたんだ」
「いつもなら、このゴーレムが人間を近づかせないようにしてくれているのだけれど? 君はゴーレムの後を付いて来たの? 何故こんな森の奥に来たんだ?」
「隣町に薬を買いに行く為の近道なんだ。誰にも言わないよ。だから見逃してくれ」
そこで、そのゴーレムと言う人形から何かを渡された。
「これ? くれるの? 何だろう?」
ゴブリンが言う。
「それ、このゴーレムの身体の一部だよ。削ってくれたみたいだ。それ、薬なんだよ。何にでも効くよ。僕等も時々貰うんだ。人間にも効くはずだよ。でも何故初めて会った人間にそんな事するんだろう?」
「そうなんだ……」
信用していいのかな? ゴブリンだぞ……まあ、うちは魔物の被害は無い、その気になればこの数のゴブリンだ。被害が出てもおかしくないはずだ…よな…。そこでまた、ゴーレムに抱えられて戻された。トボトボと家路に着く。帰り道渡されたそれを舐めてみた。うわー何か草の匂いがする。まあ、毒ではなさそうだな。帰ってそれを婆ちゃんに渡す。
「どうしたんだ? これは」
「うん…貰ったんだ。薬だって言うから…俺、舐めてみたけど毒じゃなさそうだ」
てへっと笑う。
「この匂い…」
すると泣き始める老婆、幼い時の記憶がその匂いと共に蘇る。
「どうした、婆ちゃん」
「これは…大きな人形から貰ったのかい?」
「どうして分かるんだ? そうだよ。不思議な人形だったよ」
「そうかい」
そう言ってそれを婆ちゃんは飲んだ。
翌日、婆ちゃんは元気になった。町の人も驚いていた。
分からないのは何故あれを俺にくれたのか、きっと婆ちゃんは知っているのかも知れないが、まあ聞くのはやめておこう。それと、ゴブリンの事も黙っておこうと俺はそう決めた。