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02

幸い、二名は軽傷で済んでいた。

ピアスは安堵しながらも、部下から話を聞く。


「隊長、あれはやばかったっす……」

「やばい?」

「あのゴリラ信仰者たち、"剣"を使ってきたんですよ!」


ピアスは神妙な表情で経緯を聞いていた。

通常、ゴリラ信仰者は剣を使わない。

ゴリラたちは技術力がないこともそうだし、

人造物を好まない。

そもそもゴリラは道具を用いずとも万象を掌握できる。


すなわち、彼らの規則の中に剣の入る余地がないのだ。

ならば今回の襲撃はどう捉えるべきか。


「可能性は複数あるが、最も考えられるのは……

ゴリラマスターの代替わりだろうな。」

「長が替われば方針も変わる、ということですね」


「そう。方針転換自体はまだいい。

だが、長の知性が特別高いのであれば、

今後の動向には最大に警戒すべきだろうな」



ピアスは部下の回復を祈り、教会を後にした。

残りの四名も、ピアスに同行する。


赤髪、眼帯、疾走、癒やし手。

彼らは皆十年以上の騎士の経歴があり、

隊長とも相互に強固な信頼がある。


「まず俺達がしなきゃならないのは、報告だな」

「うへぇ……。折角の外界調査は大外れだし、

事務仕事は山盛りなんて参っちゃいますよお……」


癒し手の言葉は皆の総意だった。

ピアスにも気持ちはよく分かる。

けれど、こういうところをきっちり抑えておかないと、

足元を掬われかねないのも事実だ。


何より、これだけの被害を受けながら、

エリクサーのしずく

採り損ねたことも痛手だった。


滴は、意志の成就のために不可欠。

何としてでも集めておきたい。


ピアスは眼帯を見た。


眼帯は、ゴリラを継ぐ騎士ゴリナイトだ。

その瞳力によって、ゴリラの術を使うことができる。


ただし、発動準備が必要で、

なおかつ意志の消費が激しい。

恐らくはそこを突かれたのだろう。


ゴリラ信仰者が滴を持っているかは不明だが、

ゴリラを倒せばエリクサーが手に入るという伝説もある。

慎重な探索が必要だが、狙うのも悪くない。


ピアスは最低限の事務処理を済ませた後に、

また調査へ出る心積もりだったが、

次期ゴリラマスターについては懸念があった。


(人造物への嫌悪すらない長ならば、

人里へ手を伸ばすことすら考えられる。

中央への支援要請は必須だぞ)


中央へは距離にして百三十ゴリ。

つまり馬車で百三十時間かかる距離だ。

急用を伝令役で出すには遠すぎる。


よって、眼帯の力を借りる。

癒やし手も天啓ギフトを授かっているが、

両者は別物だ。


癒し手の回復術は、意志を循環させることによって活性させるものだ。

これは、ゴリラ術とは大きく機序が異なる。

したがってゴリナイトと違い、

常人の意志でも問題なく行使できる。

だが癒し手は他の奇跡を起こすことはできない。


そうこうしているうちに、

一行は城内の執務室へと到着した。


ピアスは眼帯に指示を出し、

他の三人には通常業務に取り掛かるよう告げた。

彼自身は、これからゴリラ信仰者が剣を使った記録がないか、

文献にあたることとする。


ピアスはまず、当然ながら書庫を訪ねた。

ただ、ここはそれほど広くない。

思い返してみても、該当するような文献に心当たりはなかった。

なので、ある程度で区切りをつけて次の場所へ。


次に向かったのは、赤髪の部屋だ。

寮の二階。中程にその部屋はあった。

ノックすると、かちゃりと扉が開かれた。


「お待ちしておりました」と赤髪は隊長を招く。

部屋は整然としている。

片付けるまでもなく整理されていたのだろう。


赤髪は読書家らしい。

業務外プライベートのことは踏み込まないようにしているが、

書物について楽しそうに話していることはよくある。


「やっぱり、無いですね……。

例えば、ゴリラ族の生態に詳しいとかなら、

天使様に訊いてみるのがいいかもしれませんね」


「あの偏屈学者かあ……それはまた骨の折れる」

「仕方ないですよ、少しでも情報があるのなら、ね?」

「それはそうだな」


天使というのは、比喩だ。

天啓ギフトによって意志力で翼を形成しているのだ。

現地調査フィールドワークするのに便利らしいが。


天使は城からもそう遠くない場所に住んでいる。

先にそちらの話を聞こう。


ありがとう、と礼を言って部屋を出た直後。

嘘のような轟音が空間を貫いた。


「な……ッ」

「やあやあ、人間族諸君」


ゴリラ信仰者……!

壁を破壊して寮の二階に侵入した反逆者ゴリロイドは、

ピアスを一瞥すると、抜剣する。


次元変換装置パレットだ――

すなわちこれが、部下の相対した信仰者か……?


「僕の剣は支配者ドミナント

やるか?」


ゴリラ信仰者の殺気が膨れ上がってゆく。

だが、正直戦うのは得策ではない、とも感じていた。

これからのゴリラ族との戦闘を考えると、

剣の消費がハイペースすぎる。


「……何の真似だ?」


ピアスは銃口を反逆者へと向けた。

銀の弾丸だ。


「ふざけるなよ。生涯で七つのそれを撃つのか?

撃てよ、撃てるものなら」

「……ああ。支配者相手にまともに剣戟するくらいなら、

お前の存在ごと消滅させてやる」


一触即発。空気が張り詰めて心を擦過さっかする。

そしてその空気を、容易く変える者も、また存在する。


現れたゴリラを見て、ピアスは絶句した。

背に灰の紋様シルバーバック……。強者の証だ。


「悪いね、うちのバカが暴発したらしい」


ゴリラはピアスを、その拳銃を見て頷く。


「君が銀弾の射手か。脅しでしょう?

今はそれを使うときではないのだから」


跳ねた心臓はごまかせない。

ピアスの眼はそのゴリラに釘付けになっている。


「何……?」


敵対性を感じられない。

敵地に押し入って、一体何を……。


「私は"叡智"と呼ばれている。

君を、導きに来たんだ」


そう言って、叡智のゴリラは微笑んだ。

◇登場人物

赤髪:ピアスの部下。読書家。

眼帯:ピアスの部下。ゴリナイトである。

疾走:ピアスの部下。

癒し手:ピアスの部下。回復術の天啓を持つ。

銀弾の射手:その七つの弾丸は人外を滅す。


叡智のゴリラ:詳細不明。ピアスを導きに来た。

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