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01 耳飾りの騎士

「何のために戦う? 

――目的。それそのものしか、

この場においては意味を成さない。

君もわかるだろう?」


「わからないな。そんなものに意味はあるのか?」

ゴリエント(・・・・・)ではね、力が全てだ。

そしてその力は意志に比例する」


「精神世界……」

「そう。ここは物理世界の法則から隔絶されている。

あるのは因果機序くらいか」


「だが……俺達は戦わねばならない。

己の存在を賭けて、意志を懸けて。」


「皮肉なものだね。

わたしたちは物理世界からの解脱によって、

闘争から逃れられると錯覚してきた。

けれど、そんなのは幻想に過ぎなかったということだ。

人類種の闘争の根源は、

物理的制約でも独占欲でもなく

ただ羨望し、嫉妬し、奪おうとする傲慢さゆえのものだと

暴かれてしまった」


「錯覚していたとしても気づいていただろ。

未完成で不完全であろうとも、

俺達はそうと知りながら進まなければならない」


「嫌気が……差すね」

「ほざけ」


二者の激突によって、暴風が巻き起こる。

一人は、奇妙な耳飾りピアスをつけた人間。

それは三日月が雨を降らす意匠をしていた。


もう一人は、その手に炎を纏ったゴリラ。

ゴリラは、人間である。

人間であり導き手である。

ゴリエントにおける「意志」を司り、行使する存在である。


この精神世界において、意志の力は絶対である。

ゆえに、人とゴリラでは勝負にすらならない。


人間に勝機――と呼べるのかは不確かな、因果の歪みだけれど――があるとするなら、

それは基本的にはゴリラの闘争意識は

既に枯れているということだ。


理由は解明されていない。けれどそのため、

人はめったなことではゴリラに敗北しても

殺されることはない。


「剣と素手で互角なんて、洒落にならないな全く」


つるぎには、意思表示増幅回路ブースターが内蔵されている。

意思を意志に変換するほどの強烈な補正によって、

ようやく人はゴリラと対等に戦うことができる。


ピアスは、次元変換装置パレットから、

次なる剣を取り出す。

それは、スタンピード。

意志経絡けいらくを暴走させることによって、ゴリラの自由を奪う剣。


「あのね」


ゴリラは、意にも介さずに手のひらで踊る炎を射出する。

しかし亜音速で飛来する炎は、三振り目の剣によって

霧散した。


「ダブルライフ……。君は、曲芸師かなにかか?」

「丸腰で万象を操るあんたたちに言われたくはないな!」


しかし、とピアスは内心で歯噛みする。

基本技とでもいうようなあの炎ですら、

相打ち・・・でしか凌ぐことができない。


このパレットの容積は、わずか四振り分。

簡易武装しか持ち合わせていなかったのだ。


奥の手であるオーヴァークロックを除けば、全手札露出。

必殺の瞬間に針の糸を通すことでしか、

退避・・の可能性すらない。


ゴリラは、吠えた。

それは鍵だ。

示威によって、彼らはその秘めたる力を引き出せる。


……まずい。

だが、ダブルライフにスタンピード。

撤退には申し分ない手札だ。

あとは外さないこと。ただそれだけが難しい。


ゴリラははやい。

走行に前足を捨てた進化の代償は、

身体能力においては絶望的な差を生み出す。


「さあ! 始めよう、不可侵にて神聖なる交わりを!」

「ぐ……ッ!」


ゴリラの殴撃を、ダブルライフで相殺する。

炎で削られていた剣は、これによって破壊される。

すなわち、二つの生命を持つ剣はその全てを喪失した。


ありがとうダブルライフ……。

これがなければ、反撃の機会は永遠に訪れなかっただろう。

だから。その隙は逃さない。


ピアスはスタンピードをはしらせる。

拳とダブルライフの衝突によって生まれた空白に、

スタンピードが切り込んでいく。


「ばかな!」


ゴリラの知能は人に劣る。

ゴリラは、人間である。

けれども、意志の使徒となる代償として、

ゴリラは多くを差し出さねばならないのだ。


経絡の暴走によって生み出されたひととき。

それは、夢が爆ぜるには十分すぎた。


ピアスの振るうオーヴァークロックが煌めく。

力が欲しい。

極めて単純で原始的に回帰したその願いを、

この剣は叶えてくれる。


それは、ひとときのゆめ。

けれど今この瞬間には確かに存在して……ゴリラを襲う。


巨大な衝撃波が生まれた。

限界を超える力が激突することで、空間が大きく揺れる。

二人の脳の計算能力を超えたのだ。


「限界か……! また会おう、少年」


言葉を捨て置いて、ゴリラは森の中に姿を消した。


いや、というか。

羨望し、嫉妬する傲慢さ……、それは独占欲だろう!


ゴリラとの対話を思い出し、今さらながらに突っ込む。

ともかく、無事に殿しんがりを務めることはできた。


騎士団において、曲がりなりにも隊長である。

その責務をなんとか果たすことができ、ピアスは安堵した。



一時間もしないうちに、外壁が姿を見せた。

門番とは古い仲だ。

軽く世間話を挟んで街へと足を踏み入れる。


城へと歩いていると、教会の医務室から、騎士たちが飛び出してきた。

彼らがピアスの部下たちだ。


「ご無事でしたか……!!」


総勢六名。

この場に四名がいるということは、二名が負傷しているということだ。


第十三分ピアス隊は、ゴリラ一人とゴリラ信仰者ゴリロイド二人に襲われた。

隊長がゴリラを、残りがゴリロイドを相手取る形となったのだ。


けれど、ゴリロイドはただの人間だ。

練度のある部下たちがそう遅れを取るはずはない。

二名の容態と戦闘経緯の確認から始めなくては、とピアスは気を引き締めた。

◇登場人物

ピアス:王立騎士団第十三分隊・隊長。三日月に雨の耳飾りを着ける。


ゴリラ:意志を司り、行使する者達。

ゴリラ信仰者:ゴリラ陣営に寝返った人間族。

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