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少女は影に潜まない  作者: 冬至 春化
一章 亡国の姫君について
20/21

6.曇天 3


「アスラ。僕と一緒に来い」

 兵の包囲網がすぐ傍まで迫ったまま、エラルは悠然とそう告げた。向けられた切っ先が自分を貫くことはないと信じているような表情である。

「……あなたと一緒に行って、何があるのですか」

 歯を食いしばり呻くように問うと、エラルはにこりと朗らかに微笑んだ。


「愚かなるフェウセス王を討ち、この国家を簒奪する」


 アスラははっと息を飲んだが、その言葉に彼女より早く反応したのはセオタスだった。

「そのような言葉を聞き逃すとお思いか」と厳しい声で反駁した彼だったが、その目が確かにアスラの顔色を窺ったことを彼女は見逃さなかった。それに気づいた瞬間、そこに込められた危惧を理解した瞬間、じわりと怠さが肩に乗った気がする。


(……ああ、なるほど)

 彼女はどういう訳か、ここに来ていやに冷え冷えとした感慨を抱えて立ち尽くした。


「反乱軍に加わってください、アスラさん」

 リトが低い声で囁く。その声音には切実とした気配が漂っており、自分を誘い出すためにこれだけの手間を要したことに理由があることを窺わせた。

「僕たちには旗頭が、――『ユォノさま』が必要なんです」

 リトの言葉を耳元で聞きながら、アスラはえもいわれぬやるせなさに苦笑した。



(どちらへ行っても、私は目的を果たすことができるのだ。求められる役割も同じ)

 セオタスもエラルも、来たるトカットリア侵攻を食い止めるべく動いている。ユォノはどちらに与したって良いのだ。


 そのことを理解しているからこそ、セオタスはこうも焦った様子で、必死にアスラ――否、ユォノに縋るような目を向けているのだろう。エラルが勝利を確信したような目をしている理由もきっと同様だ。

 身に馴染んだ無力感が、指先まで染み渡ってゆく。眼差しから光が消えるのを感じた。


「――どっちでも良いです、」


 知らず、そう呟いていた。セオタスとエラルが同時に目を見開く。アスラは目を伏せて吐き捨てた。

「別に、どっちでも良いです。行けと言われたところに行って、役目を果たすだけです」

「ユ……ア……」

 セオタスが咄嗟に呼びかけようとして、言葉に詰まり、途方に暮れたように立ち尽くした。対してエラルは満足げな笑みで、「良い子だ」と頷いて手を差し伸べる。


「僕たちなら、お前をもっと有効活用できる。この国を討つことだってできる。霊峰で眠る姉上だって、お前が敵討ちを果たしたと知れば喜ぶだろう。――来い、アスラ」

 その言葉に頷くと、安心したようにリトの腕がふっと緩んだ。そのまま、地に足がつかないような心地で歩き出す。



 セオタスの横を素通りしようとした一瞬、息を飲むほどに鋭く冷ややかで、怜悧な眼差しがアスラを見据えた。

「あなたはそれで良いのか」

「……お世話になりました、殿下」

 アスラの肩を掴んだセオタスに、リトが「手を離してください」と吐き捨てる。セオタスが動くよりも早く、アスラは彼の手を振り払った。


 セオタスは耳元に口を寄せて低く囁く。

「――俺なら、あなたに『死ね』などとは決して命じませんがね」

 何を言いたいのか、とアスラは胡乱な目を向けた。セオタスは挑むような視線でこちらを見つめていた。

「なるほど事情はおおよそ分かりました。あなたが何を思い悩んでいたのかもようやく分かった。俺が感じていた違和感の正体も」

 珍しい早口で、セオタスは告げる。視界の端でエラルが苛立たしげに身じろぎするのが分かった。それでも彼は言葉を止めようとはしなかったし、アスラは何故かそれを無視することができなかった。


「言わせてもらいますがね、アスラどの、あなたはちっともユォノどのになど似ておられないんですよ」

「……は?」

 それまで諦念に埋め尽くされていた胸の内に、一抹の怒りが浮かんだ。ひくりと頬が引きつる。


 幼い頃からずっと、ユォノさまと等しくなるよう厳しい稽古を繰り返し、必死で齧り付くようにしてユォノさまとして生きてきた。わたし以上にユォノさまである人間など、ユォノさまを除いて存在するはずがないのだ。誰よりも彼女に近い人間がわたしだった。……それを、ちっとも似ていないと?



「どうりで変だと思いました。だってアスラどの、あなたは――」

 と、不意にセオタスは顔を背け、言い淀むように眉根を寄せ、肩を丸めて半身になった。エラルが「早くしろ!」と叫ぶ。セオタスの手が不意にアスラの利き手を取った。一瞬だけ指が絡む。


「ユォノどのとは全然違う。あなたは、あなた自身の魅力に満ちておられるんだから」


 刹那、交わされた視線に、抗えぬほどに優しい光を認めて、アスラは息を飲んだ。

 セオタスの手が、音もなくアスラの手を自らの腰に誘導する。それをエラルとリトに見られないよう自らの体で隠した動きだった。指先が滑らされ、手首を緩く掴んだまま、アスラの手に何かを触れさせた。それが剣の柄であることに気づいた瞬間、全身がおののくように震える。目の奥に光が閃いた気がした。愕然と目を見開いたまま、彼女はセオタスの目の奥に問いかけるような眼差しを向けた。


(この期に及んで、このひとは……)

 鼻先が触れ合いそうなほどの距離で、視線が交わる。彼は力強く微笑んだ。


(――何でこんなに、優しいんだろう)


 力の入らなかった指先が、じわじわと熱を持ち、剣の柄を強く握りしめる。

「アスラどのは、アスラどのとして、非常に気高い方であると、俺は既に知っています」

 リトに聞こえぬよう、反対側の耳に、彼は山の言葉で囁いた。

 ……その言葉がとどめだった。勝ち目がない、と知らず苦笑が漏れる。


 頭を垂れ、息を短く吸い、――その瞬間、アスラは背後の体に強く肘を叩き込むと、一気に剣を抜き放った。



 リトの手から剣が弾き飛ばされ、回転しながら弧を描いて宙を舞う。一呼吸のうちに翻意を示したアスラに、エラルが言葉にならぬ声で絶叫した。

「ごめんなさい、エラル殿下」

 リトの体に腕を回し、肩を強く鷲掴みにすると、その首に剣を突きつける。リトは未だに事態が反転したことを飲み込めないように、声を殺して凍り付いている。


「わたしは、あなたと一緒には行けません。わたしをユォノさまのまがい物として見るような人と、わたしは命運を共にできない」


 努めて静かな声で告げると、エラルの全身がわなわなと打ち震えた。憤怒にその顔が赤く染まる。癇癪を起こすようにエラルは怒鳴った。

「貴様……王家に仕える者の誇りを失ったのか!」

「わたしがユォノさまを心から敬愛し、命を捧げてまでお守りしたいと思っていたのは、あの方がわたしを愛してくださったからだ!」

 口に出してしまえば、それは驚くほど明確な結論であった。今まで見えていなかったのが不思議なほどだ。アスラはリトの体を強く拘束したまま、荒い呼吸を整えるように肩で息をする。


「王家に仕える者の誇り? そんなもので人心が繋ぎ止められるとお思いか」

 セオタスはせせら笑い、エラルを一瞥する。その表情には一抹の自嘲も含まれているようだった。アスラに剣を受け渡し、丸腰となってもなお、彼は泰然とした態度を保っている。

「人が仕えるのは、いつだって人ですよ」


 アスラはリトを背後から抱きすくめ、エラルから距離を取るように足を引いた。足の下でじゃり、と靴底が砂を噛む。

「わたしが『ユォノ』であると同時に『アスラ』であることを、ユォノさまは当然のように受け入れてくださった。わたしはそれが、本当に嬉しかったんです」

 薄暗がりの中に倒れ伏した主君の亡骸が脳裏をよぎった。口元を汚す血を拭って差し上げたかった。最期の一瞬まで手を繋いでいたかった。一緒に生きていきたかった、しかしそれは最初から叶わない夢だったのだ。――わたしが、あの方の、影武者である限り。

「わたしは、ユォノさまの影武者としてのわたしに誇りを持っています。わたしは決して、ユォノさまの名を汚させやしない。……エラル殿下。わたしはあなたに、ユォノさまの名を預けることはできません」




 決然と言い放ったアスラを見据えて、エラルの顔がさっと青ざめた。が、すぐにその表情には不敵な笑みが浮かび、アスラに捕らえられたままのリトを一瞥する。

「リト、分かっているな」

「はい、殿下」

 少年は、一度、頷いた。その表情に、整然とした微笑が浮かぶのを、アスラは身動きできずに見下ろしていた。リトが何かをしようとしている。それが分かっているのに、何もできない。ただその体を強く片腕に抱いたまま、首に軽く触れさせた剣を強く握り込む。



 不意に、リトの顎が動き、口の中で何かを転がすような動きをした。直後、その喉がごくんと何かを嚥下する。アスラははっと息を飲んだ。

 喉元に突きつけられた剣に向かって、全身で倒れ込むようにしながら、少年の目は確かにアスラを振り返った。うっすらとした笑みがその頬に浮かぶ。


「――仲良くしてくれて、ありがとう、アスラさん」


 ゆっくりと、傾いてゆくリトの体を、兵たちが息を飲んで振り返る。隊の中でも最も幼い少年兵である。毎日顔を合わせて同じ訓練をしてきた、人懐っこい子どもだ。その喉笛、最も柔く薄い肌に、剣の刃が食い込んだ。

 リトの首から鮮血が吹き上がる。しかしそれより早く少年は目を閉じて絶命していた。

「リト!」

 アスラは悲鳴のように叫び、剣を放り捨てて首の傷口を手で強く押さえた。しかしリトの体には力が入っておらず、閉じられた瞼はぴくりともしない。兵たちが一斉に動揺した。



 誰もがリトに目を奪われた一瞬に、隙ができた。それを見逃さず、エラルが身を翻して逃げ去ってゆく。


 その背を慌てて兵が追うのを視界の端で捉えながら、アスラはへたり込むように、恐る恐るリトを地面に寝かせた。

「リト、リト……」

 地面に膝をついたまま、呆然と言葉を失ってその名を繰り返す。指の間から止めどなく血が流れてゆく。その熱が手を濡らし、為す術なく滴り地面へ溜まっていった。

「医師を呼べ!」

 セオタスが怒鳴るが、オリウは咄嗟に首を振る。兵に医務室に行くよう合図しながら、その顔は感情を殺したように強ばっていたが、声は裏腹に絶望を滲ませていた。


「……もしや、リトは、反乱軍の一員でしたか」

 リトがアスラの耳に囁いた言葉は聞こえていなかったのだろう。アスラはオリウを見上げ、複数回小刻みに頷いた。オリウの表情に、やるせない哀しみの色が浮かぶ。酷く言い淀むようにして口を開閉させ、少しの間逡巡したのち、彼は掠れた声で告げた。

「反乱軍の斥候は、誰もが口内に即効性の毒を仕込んでおり、……蘇生に成功した例はありません」

「そんな、」

 アスラは愕然として呟く。「それでも、まだ諦めるわけには」とセオタスが付言すると、オリウは昏い目をして頷いた。



 リトは地面の上にまだ幼い体を投げ出したまま、徐々に熱を失っていこうとしていた。閉じられた目はもはや開くことはなく、首から胸にかけてを染める血の色が痛々しい。

「リト、どうして……」

 リトの頭の脇に手をつき、アスラはその顔を覗き込む。突き刺すような痛みが胸を襲った。

「わたしたち、どうして、いつも、こんな……」

 死ねと命じられれば死ぬのだ。敬愛する主のためならば、命を投げ出すことは栄誉であり喜びなのだと、そう教えられるのだ。それは確かに一面では真実であり、尊い犠牲であり、しかし……。


「……苦しかったね。つらかったね」

 鋭い悲しみがこみ上げた。もはや動かぬリトの頭をそっと撫でる。柔らかい髪を何度も撫でてやりながら、アスラは掠れた声で囁いた。

「――ずっと嘘をつくの、大変だったよね」

 

 くしゃりと顔を歪め、アスラはリトの体の上に伏せて嗚咽した。医師が駆けつけるまで、身動きひとつできずにそうしていた彼女を、セオタスは黙って見つめていた。



 ***


 ふっと眠りから覚め、彼女は薄暗がりの中、天蓋を見上げたまま指先一つ動かせないでいた。恐らくはセオタスの部屋の隣にある一室に寝かせられているのだろう。記憶が虚ろで、まるで遠い昔のことのようだった。


 部屋に入るまで、離れずに傍へついてくれたセオタスの顔を思い浮かべる。知らない人間を見るような目が脳裏に蘇った。

 ……すべてが変わり果ててしまったことを悟り、彼女は全身に重くのしかかる徒労感に喉を反らして喘いだ。あれだけ必死に隠し通そうとした秘密も、もはや秘密ではない。これはアスラの罪を示す事実でしかない。


(もう、今までのようにはいかないだろう。ユォノさまではない、ただの一般人には大切に囲うだけの価値はなく、さりとて外へ放逐すればエラル殿下の手に落ちる)

 緩慢な動きで身を起こし、アスラは片手で重い髪をかき上げた。窓の外を見やると、真っ赤に空を染め上げる夕陽が射し込んでいる。

(ままならないものだな)

 アスラは立ち上がり、軽く身支度を調えると、セオタスの居室に繋がる扉を叩いた。



「セオタス殿下、いらっしゃいますか」

 声をかけると、扉の向こうからがたんと派手に何かがひっくり返る音がした。それから慌ただしい足音が近づき、「はい」と声が応じる。扉は閉じたまま、二人は一枚の板越しに向き合った。

「気分は戻りましたか、ア……ええと」

「アスラと呼んで頂いて構いません。……それと、敬称も敬語も必要ないです」

 アスラは目を伏せて短く応じた。扉の向こうで息を飲むような気配がする。ユォノであったときの雰囲気と違うことは重々承知していたが、既に正体が明るみに出た状態で演技を続ける方が愚かしく思えた。


「追って沙汰は下ると思いますが、せめて、謝罪だけはさせて頂きたく」

 そう呟いた直後、セオタスは脈絡なく「扉を開けて良いだろうか」と問うた。アスラは目を瞬き、逡巡する。よもやセオタスが扉の向こうに兵を控えさせ、アスラに厳しく縄を打つことはあるまいが、それでも顔を見て叱責を受けるかと思うと恐ろしさに足が震えた。

 無言のまま立ち尽くしていると、セオタスは苦笑交じりに息を漏らしたようだった。

「分かりました。こちらからは開けません」

 存外あっさりと引き下がるので、アスラは面食らって目を丸くする。セオタスはそのまま話を続けた。


「まずは、あなたを疑ってしまったことを謝罪させてください」

 セオタスがおもむろにそう言い出したので、アスラは言葉を失って立ち尽くす。

「そんな、」

「あなたを信じると言っておきながら、俺は貴女を信じることができなかった」

「それは、私も一緒です」

 アスラは咄嗟にそう返したが、セオタスはそれを受け入れなかった。とん、と扉の向こうに手が触れたようだった。



「――アスラ」

 顔は見えなかったが、セオタスが真っ直ぐな眼差しでこちらを見据えているであろうことは想像がついた。その眼差しが目に浮かぶようだった。

「……俺は、あなたに嘘をつかせていましたか」

 短い言葉に、苦渋が滲むのが手に取るように分かった。アスラは言葉を失って立ち尽くす。

「俺は今までずっと、あなたを苦しめていましたか」

「そんなことっ」


 思わず扉に飛びつくようにして否定していた。扉に手を当て、顎を僅かに持ち上げた姿勢が、セオタスの両目があるであろう場所を見上げていることに気がつく。その瞬間に、どくんと一度心臓が跳ね、息が止まった。自分の中にセオタスの存在が、思っているよりもずっと深くまで食い込んでいることをまざまざと突きつけられる。その瞬間、驚くほど感情的な衝動が喉元まで突き上げてきた。


「……セオタス、殿下」

 唇がわななくのを感じた。知らず、手が取っ手に伸びる。扉にぐっと体重をかけた瞬間、向こうで息を飲む音がした。



 ふわりと嗅ぎ慣れた香の香りが漂った。勢い余って、扉を開けたすぐそこの滑らかな布地に顔から突っ込む。

「ごめんなさい、」

 自然と言葉がこぼれ落ちた。指を掠めた感触を咄嗟にたぐり寄せて握り込む。セオタスの袖に縋り付き、アスラは何を言おうとしたのかも分からずに立ち尽くした。

「ずっと嘘ついて、わたし、」

 おずおずと背に腕が回される。

「全部借り物で、全部、ユォノさまの真似事で、わたしはずっと誰に対しても、不誠実なことをしていました。恥ずかしさといたたまれなさで、わたし、誰にも顔向けなんて、」

「アスラ。私の目を見れますか」

 言われて、恐る恐る顔を上げ、アスラはセオタスの顔を呆然と見上げた。その表情には色濃く困惑の色が浮かんでいたが、怒りや失望を示す様子は見られない。


 数秒の間、言葉もなく見つめ合っていたが、不意にセオタスの顔がぎゅっと歪んだ。

「嫌だったら言ってください」と一言呟いて、背に触れた手に力がこもる。抗わずに抱き寄せられ、アスラは事態を飲み込めずに瞬きを繰り返した。彼女は両腕で強く抱き込まれたまま、肩に触れた指先が震えているのを見るともなく見ていた。

「……あなたが無事で良かった」

 呻くように呟いたセオタスの声に切実なものを感じ、アスラは思わずきつく目を閉じた。そっと胸に側頭をつけると、激しく早鐘を打つ鼓動が胸を叩いているのが聞こえた。



「あなたに会えて良かったと、言う権利が、わたしにあるでしょうか」

 こぼれ落ちるように呟いていた。体を抱き竦める腕が更に狭まるのを感じながら、アスラは静かに目を開ける。

「ユォノさまが亡くなって、何度、後を追おうと思ったか分かりません」

 守るべき主君を喪い、もはや自分の存在理由はそこに存在しなかった。主君の遺志を継ぐ手段も分からないままだった。ずっと暗い闇の中でもがき続けているような気分だった。


「……わたしは、生きていて良かったと、言っても良いのでしょうか」

 ようやく見えた糸筋を決して放さぬように手繰り寄せ、強く縋り付く。

「ユォノさまがわたしを生かしたことに意味はあったと、何の成果もない無駄死にではなかったのだと、そう思える日が来るでしょうか」

「あなたがそうと望むのなら、もちろん」

 力強く肯定したセオタスの声を聞きながら、アスラは堪えきれずに嗚咽した。


 セオタスの手が酷く躊躇いがちに、ぎこちなく頭を撫でている。必死に喉の奥で声を噛み殺しながら、今は久々の安堵が胸にこみ上げてくるのを感じるばかりだった。



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