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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第952話 彼女は会議に参加する

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第952話 彼女は会議に参加する


 海都国と教皇庁の間では、彼女が思いついた……提案したジロラモ閣下を総司令官に担ぎ上げ、神国・ゼノビアが引くに引けない状態に持ち込むという策に同意している。あとは、神国がそれを承知し、実質的神国艦隊の司令官であるゼノビアの海将が逃げを打てないように煽り散らかせば問題は解決する。


 そもそも、今回の救援行のついでに沈めたサラセン海賊船は、小型のフスタ船ばかりとはいえ、二十隻近くリリアルの魔導船一隻で沈めているのである。


 サラセンの艦隊に参加するサラセン海賊の総数は約二百隻を想定しており、その一割、戦力的にはその半分ほどを削ったとみてよい。付け加えるならば、サラセン海賊多数を撃沈して回った御神子教徒の船の出没と、マグスタを包囲していたサラセン軍の陣地を襲撃し一時的に包囲を後退させた魔術師の一団の登場は機を一にしているとサラセン軍も理解したことだろう。


 海都国経由で、対サラセン連合艦隊編成会議の場においてもキュプロス島マグスタの抗戦が継続中であり、義勇軍の支援を受け持ち直したという報告もなされているはずだ。


 翻って、昨年の艦隊出撃を散々遅らせた挙句、季節が悪いとクロス島まで艦隊を進めていながら早々に自国艦隊を帰還させた挙句、何の戦果も上げていないのにもかかわらず、嵐に会い沈没こそ免れたものの船を傷つけただけのゼノビアの海将には尻に火をつけてやらねばならない。


 因みに、海都国の艦隊は大きな被害を出してしまっているとか。国を挙げて新しい船を大量建造中だという。


「よろしくお願いします、リリアル侯爵閣下」


 海都国か教皇庁かはわからないが、会議に参加する官吏の一人に背後から声をかけられ、彼女は無言でうなずくのである。





 彼女と伯姪が会議の参加者に紹介される。もっとも最近、サラセン海賊・海軍とキュプロス近海で交戦したという事実と、サラセン海賊の能力他、知りえたことを説明してもらいたいと、教皇庁艦隊の司令官であるMの字から頼まれたのだ。


「既に、サラセン艦隊の戦力は把握されているのですね」


 Mの字曰く、先年の遠征直前の偵察では、キュプロス近海に百六十隻強の艦隊が集まっていたのだという。そして、今年の夏前にはその数が二百を超えると想定されているのだという。


「ならば、そこから十隻は差し引いて構わないと思います」

「……どういう意味だ」


 神国の代表であると名乗ったなんたら公爵(爺さん)が彼女の発言の意図を説明せよとばかりに視線を強めて言い返す。


「我々がキュプロス救援に向かった際に、クロス島からキュプロス近海でサラセン艦隊に所属するであろう海賊船を相当数撃沈しているからです」

「追い払っただけではないのか?」


 サラセン海賊の場合、かなわないと思えばさっさとずらかるのが常道。追い散らした数を申告しているのではないかと問われたのである。


「衝角攻撃で沈めている数です」

「……」

「今時、衝角攻撃とは。随分と古めかしい戦法を取るのだな王国は」


 ゼノビアの海将が彼女の発言を揶揄うように論う。既に、海都国も神国・ゼノビアの軍艦においても、艦首・艦尾楼や艦舷に軽野砲に似た5㎝ほどの直径の砲弾を放つ、あるいはハンドカノン型の方を装備し、砲撃戦で戦う形になりつつあるからだ。それはサラセンも同様であり、衝角攻撃や白兵戦の比率は大いに低下している。


 つまり、「砲撃も行わず船を沈めるために衝角攻撃をするとは、王国は随分と古臭い戦いをしているのだな」と小馬鹿にしているのである。


「今回は救援物資をマグスタに搬入することが最優先でしたので、海賊船を沈める時間を惜しんだのです。それに、船体に大きな損害を与えるのであるなら、質量を生かした衝角攻撃は今の時代においても有効です」

「何を言っているのだ」

「我々の保有する『魔導船』であれば、速度はガレー船の三倍、また、魔導外装を船体に施し、衝角も魔装を用いておりますので、こちらの船体が傷つくことを心配する必要はないのです」

「「「……」」」


 ゼノビアの海将だけでなく、神国の代表、海都国の代表も沈黙している。Mの字は『聖ステフ騎士団』から魔導船の戦力としての有用性について報告を受けているので、隈は色濃いものの険の取れた顔でうなずいている。


「ふん、で、何隻で救援に向かったんだ」

「一隻です」

「は」

「魔導船は一隻ですが、我々には魔法袋の備えがあります。30m級の船が二隻収まるほどの収納力になります」

「「「……」」」


 実際は、彼女の魔法袋だけでその性能であり、他にも冒険者組各位が装備していた小型・中型の魔法袋もあるので、五百トンほどの積載能力がある。


 魔法袋の話を聞き、海都国代表の目の色が変わるものの、彼女の魔法袋は使用者の魔力量により収容能力が拡大する仕様であり、一般的な魔術師が使用するならば、精々馬車一台分の収容能力でしかない。冒険者組のもつ中型魔法袋がそれに近い性能だ。


 彼女の説明を聞くと、海都国の代表だけでなく、他の代表者たちもがっくりとしている。なぜ手に入ると思ったし。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 サラセン海賊の討伐に関しては、船に残った黒目黒髪とジジマッチョ団が主に行ったのだが、突撃し過ぎで数がはっきりとしない。黒目黒髪はその話をすると動悸がするとかで深く聞けず、ジジマッチョ団は「十以上は数えておらん」とか口を揃えて言っていたのではっきりとしないが、まあ、少なく見積もって十隻というところである。


「マグスタは今年の秋ぐらいまでは持ちそうということですな」

「いやはや、海都国を代表して、侯爵閣下以下リリアル義勇軍の皆様には深く感謝を述べさせていただきます」

「うむ、まったくだな。昨年は集まるはずの戦力も集まらず、集まったものの時期が悪いと抜け出す者も出て、キュプロスに増援も支援物資搬入もできておらず、心底から教皇猊下も心配為されていた。義勇軍のことは殊の外猊下も感心され、流石、救国の聖女の再来と口にされていたぞリリアル卿」


 神国・ゼノビアの代表に意味ありげな笑顔を向けつつ、彼女には一転、教皇猊下に変わり心から感謝するとMの字が告げる。


「同じ御神子教徒を助けるのは王国の貴族の一員として当然です」

「なるほど。王国では近年、孤児のための学院を作るなど、神の御心に適う良き行いが多い。このたびの義勇軍も、サラセンとの外交関係を思えば破格の対応。魔導船というのも、魔導騎士同様、王国にとっては珠玉の如きものなのでしょう」


 さらに『聖ステフ』騎士団長が言葉を添える。海都国が戦争状態に突入しため、御神子教国の中でサラセン帝都に大使を置けているのは王国だけとなっている。公文書のやりとりは王国経由でないとサラセンとはやりとり出来なくなっているといってよい。


 その最中において、王国から義勇軍とはいえ最新鋭の軍船が派遣されキュプロス救援を実施したということは大いに評価されるのだろう。それを踏まえて聖騎士団長は大いに讃えたのだ。


「サラセンの攻囲軍を打ち破ったそうですが、その辺りの話を伺っても?」

「待て。艦隊編成の話と、マグスタを包囲しているサラセン軍に何の関係があるというのだ」


 ゼノビアの海将の静止があったが、神国の代表を含めほかの参加者はサラセン軍を実際に見て、戦った彼女と伯姪の話を聞きたがった。


「私が話すわ」


 伯姪が彼女の代わりに話を始める。というのは、サラセン軍と戦った前回のマルス島遠征の時のサラセン軍とマグスタ攻囲のサラセン軍の比較をジジマッチョがしていたのを伯姪は聞いていたからだ。彼女はその時、疲労困憊で心がやみかけていた黒目黒髪の代わりに操舵手を務めていたので詳しくは聞いていない。





 伯姪は、陸上戦力の多数が徴用兵の農民であり、籠城側を疲弊させ、消耗させるために使われていること、親衛軍は数が少ないものの銃を装備し総勢十万のうち二万ほどだが主戦力であることは変わらないと説明する。


 とはいえ、海戦の主力は大型船に乗せられた親衛兵の銃兵と、海賊である。海賊の場合、徴用された農民よりは武器の扱いに慣れていると思われるが、襲撃略奪の荒事が専門であり、傭兵崩れの山賊・野盗の類と同等。こちらも神国傭兵が白兵戦の主戦力なので同等以上であろう。


「船と兵の数が互角であれば勝利は間違いない」

「戦場で戦えば……と条件が必要でしょうが。ニアス卿の手ごたえとしては如何でしたか」

「農民兵は夜襲を仕掛けても早々に混乱してくれたけど、親衛兵は混乱も早々に収めて立ち直りも早かったわ。但し……」


 城壁前の野営地に集積されてあった物資を破却したので、包囲軍は一旦退いたことを説明する。


「魔物とも戦ったと聞いているが」


 Mの字の振りに伯姪と変わり、彼女が返答する。


「『人喰』と呼ばれる飛行能力を持つ大型の獅子の魔物が四頭現れ

ました」


 彼女はリリアルの騎士で「いつものように」さくりと倒したことを説明する。するとゼノビアの海将が面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「ふん、口では何とでもいえる。それほど大きな獅子の魔物が空を飛んで襲ってくるとは、考えられん」

「いや。マルス島にもその獅子の魔物は現れ、堅い守りを物ともせず、多くの騎士を喰い殺したようです」

「……」


 聖騎士団長は、マルス島騎士団から『人喰』の話を聞いており、今回のサラセン艦隊との戦いに登場するのではないかとひそかに心配していたのだという。確かに、空飛ぶ獅子が四頭も船に乗り込んできたならば、魔物討伐の経験がさほどないであろう傭兵主体の兵士たちでは、おそらく立ち向かえなかったであろう。


「マグスクの士気高揚のために置いてきた分がありますが、義勇軍の活動を証明する証拠として確保しているものがあります。魔物がどのようなものであったか、ご覧になられてはどうでしょうか」

「おお!! 獅子の魔物!! 是非とも拝見したい」


 聖騎士団長をはじめ、海都国の代表にMの字も大いに乗り気となる。渋っていたゼノビアの海将と神国の代表も否とは言えない空気となった。


「中庭でお見せしましょう」

「ここでは出せないのか」

「少々大きいので。それに、会議室の床を汚しかねません」


 多少とも血が滴るかもしれない。高いじゅうたんが汚れては大変だ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 中庭には会議に参加している者のほか、話を聞きつけたリカルド宮の滞在している貴族やその使用人が集まっていた、中庭は回廊の中央にあり、回廊沿いに人が鈴なりとなっている。


「では、こちらに出します」


 彼女は魔法袋から、一番大きかった『人喰』を取り出す。大きさは3mを超え、通常の獅子の五割増の体長。体重は倍以上あるだろう。


「お、大きいではないか」

「はい」


 顔色を変える海将。その横で無表情ながらプルプルしている神国代表。怖いならその場から下がってもいいのだよ。


「異形の獅子ですな」

「この体で空を飛ぶのですから、少々戸惑いました」

「魔術ででしょうか」

「おそらくは。ずっとは難しいようです」


 魔力を用いて飛ぶのであれば、大きく思い分魔力の消費も多いのだろうと推測される。魔力壁の上に乗るのとくらべ、『飛翔』と思われる魔術の行使は大いに魔力を消費しそうである。


「飛ぶ魔物には同じく飛んで戦ったのか?」


 本当に倒したのかと疑うような言い回しをするゼノビア海将。


「ええ。むしろ、それ以外でどうやってこのような異形の魔物と戦うのでしょう」

「もしかして、リリアルの騎士が皆竜殺しであるって知らないんじゃない?」

「「「は」」」


 伯姪の一言に、会議の参加者だけでなく、周囲の観客からも戸惑いの声が聞こえる。王家から直接叙任されている一期生冒険者組はタラスクス伯姪はラ・マンの悪竜を、そして騎士学校を卒業し叙任された二人は連合王国遠征で竜討伐者となっている。


「でも、名の知れた騎士なら、竜や吸血鬼くらい誰でも討伐するでしょう」

「やめてさしあげなさい。リリアルの基準と世間の基準は違うんだから」


 彼女の『名の知れた騎士』の基準が世間と違い過ぎる件。


『こいつら、ミアン防衛線も知らねぇんじゃねぇか。あれネデルの神国駐留軍が王国侵攻の前準備として行ったんだろうけどよ』

「かもしれないわね」


 ネデル総督府あるいは駐留軍の独断かあるいは神国宮廷の差配かは解らないが、どちらにしてもその工作をこの場にいる代表が知るとも思えない。が、王国に現れた万余のアンデッド軍をリリアルとミアン市民の防衛軍と、王太子率いる近衛連隊が挟撃し殲滅したことは公になっているはずだが、海都国はともかく、神国人が知らないのはどうなのだろうか。神国領のすぐ隣の王国領で起こった重大事件なのだから、外交官や軍関係者なら知っていて当然ではないか。


「も、もうよいのではないか」

「せっかくなので、これを会議が終わるまで中庭で展示させてもらえないかリリアル侯爵」


 海将が切り上げようとするも、聖騎士団長が彼女に提案をする。


「勿論、この場に騎士を立たせるし触らせることもさせない。我々がどれ程の敵と戦うことになるのか、華都の市民にも知らしめたいのだ」

「それは良い提案。教皇庁からもお願いしたい」


 さらにMの字もそれに乗っかり、終日、会議が終わるまでではあるが『人喰』

を中庭で皆に見せることとなる。


『一番でかいのってよ』

「ええ、一番苦悶の表情で死んだ『人喰』ね」

 

 その表情は険しく、痛みに耐えかねると叫んでいるようである。老成したあるいは余計な知恵をつけた故に痛みに弱くなったのかもしれない。





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ラムアタック大好きなリリアル娘たちの為に赤毛娘が乗った戦艦ぶん投げて相手にぶつけるようになるんだな いずれマ◯クロスのダイ◯ロスアタックか
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