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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第950話 彼女は『聖ステフ騎士団』を訪問する

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第950話 彼女は『聖ステフ騎士団』を訪問する


『リカルド宮』でのMの字との会談で、神国の東方大公ジロラモを引っ張り出すという彼女の提案は、その後、海都国の大使館へと伝えられ、具体的な打合せがMの字と海都国の間で行われることになったようだ。


 編成会議をできるだけ早くまとめる様にと、Mの字も聖征精神旺盛な今代の教皇猊下から強く求められているという面もある。昨年の遠征失敗と、サラセンと帝国間の不可侵条約締結は教皇の気持ちをさらに頑なにしていると囁かれている。


 次回の編成会議までの間、彼女はピザーラの『聖ステフ騎士団』海軍の学校を見学させてもらえるようにMの字経由で働きかけたのだ。


 教皇庁艦隊=聖ステフ騎士団海軍であり、その数は大小合わせて十二隻ほど。これに、マルス島騎士団からなけなしのガレー船三隻、その他法国諸邦の十一隻が加わる。海都国が百余隻、神国・ゼノビアが七十隻強の予定であるところからすると少数である。


 ニースとリリアル義勇海軍も教皇庁艦隊に組み込まれることになるだろう。ということもあり、義勇軍がどの程度のものか、あるいはマルス島仕込みの聖騎士海軍がどのような戦い方をするのかお互い同じく舳先を並べるのであるから、知っておいた方が良いだろうと考えたのだ。




 

 ビザーラへは馬車ではなくせっかくなので魔導船『リ・アトリエ』で向うことにした。華都からピザーラの距離は凡そ90㎞程離れている。馬車で二日、馬で急げば一日といった距離だろう。魔導船で川の流れに乗れば下りは朝出れば夕方早くつくくらいになる。帰りは流れに逆らうのでもう少し時間がかかるだろうが、一日でつくだろう。


 Mの字に先ぶれを出してもらい、リリアル一行は『騎士宮殿』を目指す。実際の船乗りとしての教育はニース海軍や聖エゼル騎士団海軍で学んでいる。顔見せ、表敬訪問というのが今回の趣旨である。Mの字的には、キュプロス支援を成功させたリリアルを出汁に、聖ステフの騎士たちに発破をかけたいといったところだろう。


 聖騎士が「女子供」に後れを取ってたまるか!! と煽りたいともいう。


「また戻ってきました!! 相変わらず斜めってます!!」

「建て始めたころから傾いているからね」

「すごいです!!」

「継続は力なり」


 絶対間違っていると思う。いや、なぜ傾いていると知りながら、なおかつ、戦争で建築中断期間が百年余あったのにもかかわらず再開したし!!


「古帝国時代、ここは軍港であったそうよ」

「海まで5㎞位離れているけど、まあ、王国でいうとルーンみたいな感じね」


 ニースのような海に面した都市が港町として発展することもあるが、内陸へ向かうことを考えると、船で遡れる川の中流・下流域に都市や港が作られるというのはよくあること。ネデル・ランドルにも多く、旧都や連合王国の首都リンデなども同様だ。リンデまで潮の満ち引きで波が遡ることもあるからだ。


 日が傾き始める時間、一行はピザーラへと到着。馬車ならばそのまま『騎士宮殿』へと向かえるのだが、魔導船の場合上陸してから徒歩となり、侯爵閣下一行としては格好が悪い。が、気にしない。


 魔導船が船着き場に到着すると周囲に人が集まり始め、さらに、下船したのち彼女が魔法袋にそれをしまうと二度驚かれる。


「王国海軍提督代理、リリアル侯爵一行である。道を開けよ!!」

「開けるがよい」


 赤毛娘と赤目銀髪がそれっぽい言い回しだと考えたセリフだが、なんだか微妙である。


「我ら、サラセン討伐のため聖ステフ騎士団に面談をしに参った次第、今一度いう。道を開けよ」

「開けるがよい」


 ざわざわとしながら、一行の前が開いていく。一般に、聖騎士として認められるのは二十代後半から三十代前半。それと比べると、リリアル一行は皆十代の少年少女の集団であり、「ほんとかよ」といった視線が向けられている。が、気にしない。王国でも当初はそういう目で見られていたのが今では懐かしくすら思える。


「変に目立っちゃったじゃない?」

「知られないよりも、知られた方が意味があるのよ」


 そう自分を納得させないと恥ずかしすぎる彼女であった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 貴族の若者とその従者一行といった風体のリリアル。船着き場では目立ってしまったが、街の中に入ってしまえばさほどのことはない。


「どの辺なんですかね。その騎士宮殿って。あ、斜めっ塔の近くだと嬉しいです!!」

「あれは外壁近くね。宮殿はすぐその先よ」

「うー 残念です!!」


 騎士宮殿は宮殿と呼ばれているものの、実際は城館に相当するもの。お洒落なリリアル王都城塞だと思えば間違いない。唯一異なるのは、聖騎士=修道士であるから、本部は女人禁制の場所となっていることだろうか。


 騎士団本部の正門詰所でMの字からの書面を門衛に渡し、訪問理由を説明するとしばらくして、案内人らしき騎士とその従者が中から現れる。


「ようこし、勇名馳せたるアリックス卿とリリアルの騎士の皆さん。聖ステフ騎士団は皆さんを歓迎いたします」


 きらびやかな刺繍の施された聖騎士服を着こなした優男が挨拶をする。予想通り、この出来立てほやほやである白亜の騎士団本部には入れず、横にあるピザーラの迎賓館に案内される。


「皆さん、ピザーラは初めてでしょうか」

「私は子供のころ一度来たことがあるけれど、他のみんなは初めてね」

「あなたは」

「マリーア・ド・ニアス。ニース辺境伯家に連なるものです」


 余所行き声で答える伯姪。なるほどと笑顔で頷く。


「では、リリアル義勇軍の活躍もニースの後盾あってのことなのですね」


 少し意味ありげに頷く優男。この若者たちだけでキュプロス支援に成功したというのは王国の示威行為であり、その実はニースの力によるものだと考えたのだろう。その誤解はその打ち解けるだろうと、リリアル一行は気に留めることをしない。





 騎士団との交流は翌日以降ということになり、その日は迎賓館の宿所で夕食をいただき、内々で済ませることになった。


「リカルド宮ほどの豪華さはないけれど、とても雰囲気の良い城館だわ」

「ブレリアにもこういう来客をもてなす城館が必要になるかもしれないから参考になるわね」


 王都に近い新領であるリリアル領に、高位の貴族や王族が足を運ぶとは思えないが、来客をもてなす場所は今の古城塞内では作るのも難しい。


「王都城塞ほどでは無くても、平時は迎賓館、非常時には城塞や避難場所、施療院に転用できる施設なら、無駄にはならないのではないでしょうか」


 茶目栗毛の提案に、彼女と伯姪が頷く。


「あ、それ、あたしも今同じこと考えてました!!」

「嘘つき発見」


 赤毛娘が勢い良く手を挙げて答え、赤目銀髪が突っ込む。その後ろで、黒目黒髪が声にならない声で「やだもー」と言っている。いつものリリアル。


「枯黒病の隔離施設とかか」

「縁起でもないけど、それもありえるから否めないね」


 蒼髪ペアも賛同。内装を良いものにするのも、来客に向けてだけでなく、病に苦しむ人の気持ちを和らげるための装飾であるとするならさらに価値がある。リアルド宮の天井に描かれたフラスコ画の青空は素晴らしかったと彼女は思う。


「でも、お高いんでしょ?」

「そうね。それでも、見合う価値があると思うわ」


 姉も貧相で質素な領主城館(中古リフォーム)には文句を言うだろうが、それなりに質の高い迎賓館があれば静かになるだろう。そして、一度泊まれば文句も言うまい。ノーブル伯閣下になる姉なら、宿泊させてもよいだろう。


 法国訪問中にできたコネで、良い建築家、内装画家を紹介してもらおうと彼女は思うのである。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌日、リリアル一行は騎士団本部を表敬訪問、騎士団幹部と会食をした。その際、キュプロス救援に関する話を色々と聞かれ、また、昨日、船着き場で話題となっていた『水車のついた船』についていろいろと質問された。


「王国の錬金術師・魔導具師は優秀なのですな」

「ふむ、ぜひとも我が海軍のガレー船と模擬戦闘を行っていただけはしますまいか」

「はあ」


 海都国がサラセン討伐に申告を引きずり出すための作り話として、一部の親神国派からはリリアルの活躍が疑問視されているのだという。マルス島騎士団が忠誠を誓うのは神と神の代理人である教皇猊下であるのだが、最大の支援者は神国。また、マルス島は元々神国国王が寄進したものである。マルス島騎士団の影響を受けている聖ステフ騎士団の中には、王国・海都国に対して懐疑的な者もいる。


 つまり、支援を成功させた事実が納得できる程度の腕前を見せろということである。


「毎度おなじみ、模擬戦です!!」

「絶対的勝利」

「ほ、ほどほどでいいよぉ」


 今回も操舵手を任される黒目黒髪は、先日の延々と衝角突撃をさせられたトラウマが蘇ったのか、本気嫌そうな顔をしている。





 海まで出るのかと考えていたのだが、ピザーラと海岸線の間には、いくつかの湖沼が存在し、騎士団のガレー船を用いた訓練で使用されているのだという。


 海のような波もなく、深さもさほどではないので転覆しても救助しやすい。


 やがて、先に待っていたいリリアルの前に、騎士団の紋章を掲げた帆を張るガレー船が姿を現す。


「あれ、騎士団のガレー船って」

「フスタ船ね」


 サラセン海賊を討伐した際に接収した小型のガレー船を訓練用に使用しているようだ。訓練で使いつぶしても問題ないということなのだろう。


「衝角攻撃よーい!!」

「付いてないよ!!」


 赤毛娘が出オチを仕掛けようと突撃を要請するも、黒目黒髪が拒否。『リ・アトリエ』には確かに衝角は付いていません。


「どうする?」

「騎士団のガレー船乗りの腕前をまずは拝見しましょうか」

「様子見ね」


 伯姪の確認に彼女は黙ってうなずく。初手は相手の攻撃を確認するというところか。


 見聞するための騎士団の大型ガレー船が停泊。甲板上では、聖ステフ騎士団幹部たちがずらりと居並ぶ。中には、騎士団員らしからぬ貴族風の衣装の者もいるが、華都大公の従者かなにかであろう。



 

 ガレー船が全速力でこちらに向かってくる。


「全速後退」

「ぜ、全速後退します!!」


 彼女の号令に、黒目黒髪が復唱で答える。魔導外輪が回転し始め、船が徐々に後退し始める。


「あ、逃げるんですか!!」


 不満そうに彼女に問う赤毛娘に、しれっと答える。


「すぐ終わらせたら、観客に申し訳ないじゃない」

「大人の心配り」

「嫌がらせでしょ」


 伯姪の言う通り。嫌がらでというよりも、魔導船の運動性能を誇示するための行為でもある。ガレー船でもできないではないが、魔導外輪であれば回転方向を変えるだけで、前進後退が自在にできる。そして、ガレー船の漕ぎ手による櫂走可能時間は十五分から三十分が限界。時間いっぱいまで後進するつもりはないが、接触時間をなるべく先延ばしにするつもりなのだ。


「敵戦から、矢が放たれました!!」


 灰目藍髪から声が上がる。距離はかなり離れているので、おそらくは牽制目的の射撃。


「撃ち返しますか!!」

「やめて頂戴」

「こっちは実弾になるから、絶対ダメよ」


 魔装銃は装備しているが、弾丸は普通の鉛弾か魔鉛弾しかない。長銃身型に『導線』を用いれば、見えている相手には命中させられるであろうが、シャレにならない。死んじゃうから。当たったら死んじゃうから。


 五分ほど後退したのち、大きく旋回を開始する。その旋回の内側に入り、後方横合いから矢を放つものの、彼女の『魔力壁』に阻まれ途中で弾かれるように水面へと矢が落ちていく。


 フスタ船と見物しているガレー船からどよめきと戸惑いの声が上がる。


「聖騎士は魔力壁仕えないのかしらね」

「甲冑と城壁に守られているから、いらないのよ」


 人が城、人が石垣、人が堀。動く一人城塞がいるので、リリアルには関係ないのである。リリアルの魔導船には外板の内側に魔装網の防護帯が施されているので、外側の板が砕けも中まで破壊は進まない。銃弾はとも各砲弾サイズなら止めてしまう。


「そろそろ失速してきたわね」

「この場で旋回して、側面に衝角攻撃」

「衝角ありません!!」


 彼女は「大丈夫、魔力壁で作るから」と黒目黒髪に言い放つ。


 半泣きになりながら黒目黒髪が回頭。斜め後方から迫ってくるフスタ船から離れつつ大きくその場で外輪の片側だけを動かし旋回。再びどよめきが上がる中、彼女は舳先に二枚の魔力壁をハノ字型に展開し、『魔力壁衝角』で聖ステフのガレー船を転覆させたのである。




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ニースは政治面でのアドバイザー程度で実動戦力は完全にリリアル自前だとはまだ気づけないか
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