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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第949話 彼女は華都に到着する

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第949話 彼女は華都に到着する


 王国内で移動するときのように爆走するわけにもいかず、一般的な貴族の馬車らしく、優雅に移動するリリアル一行。


「なかなか着きません!!」


 魔装馬車であれば、一日で150㎞は走ってしまう。そのペースなら、ニースから華都(Floren)まで三日ほどで走破してしまう。が、一般的な馬車よりは早い程度の速度であれば、一日40-50㎞ほど。大きな都市を選び、侯爵閣下御一行に相応しい城館に宿泊しつつ、その地のニースや王国に近しい貴族・有力者と晩餐で歓迎を受けるといった場合、十日はかかってしまう。


 彼女自身や伯姪が直接かカカワりがあるわけではないが、ゼノビア国内は『親神国派』と『親王国派』で主導権争いがあり、国内を二分している。法国戦争の時代は『親王国派』が優勢で、同盟関係にあったのだが、王国と海都国が同盟関係を結ぶと、ライバルであるゼノビアは皇帝、その息子である神国国王と結ぶことになり、『親王国派』の首脳は王国など他国へと亡命、連なるものは冷遇されることなる。


 その辺り、王国の内海における覇権が拡大すれば、再び日の目を見ることができると考える『元王国派』貴族にとって、義勇軍を率いキュプロス救援を成し遂げた王国海軍提督代理・リリアル侯爵は、先んじて誼を結びたいと考えても当然だろう。


 王太子からも、教皇庁へは回路ではなく陸路で時間をかけて向かうように前もってくぎを刺されているので、否とは言えない。法衣侯爵の年金分の仕事はせねばと彼女は心に思っている。


「馬車に乗っていると眠くなるわね」

「ふふ、毎夜の晩餐会も食傷気味ね」


 流石に晩餐の後の歓談などは短いもので、顔つなぎという色合いが強い場なのだが、毎日毎晩は少々厳しいのである。早寝早起きが基本のリリアル生活では、暗くなれば晩御飯を食べて寝るだけなのだから、生活リズムが合わない。


 姉は朝でも夜でも問題なく活動できるので、その辺、社交をするには少々うらやましくも感じる。


 古帝国街道は多少傷んではいるものの、ゼノビアの勢力圏であるこの地域は補修もなされ整備しなおされた王国内の主要街道ほどではないが、ゆっくり馬車で通る分には不快ではない。そもそも、魔装馬車は地面から少し浮き上がっているので、車輪からの突き上げもさほど感じずに済む。


「そろそろ海沿いから離れるわね」

「海沿いを進めば法都。けれど、今回は華都へ向かうので、この先の分岐で左に進むことになるそうよ」


 一時代を築いた死都ピザーラを通り内陸へと進む。ピザーラは歴史ある都市であり、古帝国の建国より古くからある有力都市であった。法国の西岸において、ゼノビアと海洋国としての覇権を聖征の時代において争い、幾度か敗れ衰退。今では華都国の有力属領として生き残っている。


「なんか、あの塔、斜めってますね」


 赤毛娘が、窓から見える『斜塔』は、ピザーラ大聖堂の鐘楼なのだが、その斜めってる姿の方が有名な建築物。ハルノ川の河岸に建設された都市であるピザーラは地盤が緩い。


 聖征の時代、二百年かけて建設されたのだが、二階まで建設した僅か最初の数年で傾きが生じ始めたとか。その後、ゼノビアとの戦争などで工事を中断する期間があるが、結局傾いたまま建設は完成まで行われた。


「戦争で負けが続くと、意地でも完成させたくなったのよね」

「認めたくないのでしょうね、自らのあやまちというものを」


 都市の勢いが傾くのと並行し、塔の傾きも増す。大聖堂広場・都市の中心地にある象徴が傾くとか、縁起でもない。建物の傾きを修正するために有名な土魔術師に依頼したのだが、高さ約50m、重量16,000tと推計される建物を修正することは出来なかった。当然といえば当然だろう。


「なんだか微妙な街ですね」

「いわないで上げなさい」


 ハルノ川を遡ると華都へと至る。法国の穀倉地帯の中央に位置する華都。もうすぐ到着する。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 教皇庁艦隊の司令官『マルカ・クルン』と会う為に華都を訪問した彼女。教皇庁自身が艦隊を持つというのは名目上の事。その実は、華都国が教皇庁の守護者として活動するために設立した『聖ステフ騎士団』海軍がその中核をなしている。


『聖ステフ』が古帝国時代の教皇の一人で、その聖人の日に、華都が二度の戦勝を得たことに因み命名されている。設立から十年もたっておらず、リリアル学院と大して差がない歴史しかない。


 とはいえ、海都国とゼノビア・神国の間で口しか出せなかった教皇庁が小なりとはいえ中核となる艦隊を得ることができたことはこれまでとは違う要素である。


 既に、サラセン軍のマルス島攻撃の際に援軍として出撃し、その後海賊退治と経験を重ねている。


 華都で会議中ということなのだが、『聖ステフ騎士団』の本拠地はピザーラにある。ピザーラまでなら海から遡行できるために、軍港として華都は運用している。この後は、ピザーラに向かうことになるかもしれない。


「あの斜めっている塔、登れるんですかね?」


 赤毛娘よ、残念ながら一般人は入れません! 傾きが大きくなっちゃうからね。駄目だぞ!! 振りじゃないからな!!


『聖ステフ騎士団』は、ピザーラの『騎士宮殿』と呼ばれる本部に居を持ち、そこには、航海学校があり、そこで必要な訓練を受けているという。また、騎士団の規則や運用はマルス島の聖母騎士団を手本としている。


 最終的には、騎士二百人、兵士二千人の規模の騎士団へと編成する予定であるとか。これが実質的な『教皇庁艦隊』の基幹となる。


 ちなみに、騎士団総長・トップは華都大公が兼ねることとなっている。王国の聖ミカエル騎士団などと同じといえるだろう。





 向かった先は『リカルド宮』と呼ばれる城館の一つ。百年ほど前に建てられた復古主義的な石積の古帝国風の外観をわざと持たせたお地味な建物である。


「これはさすがに傾いてないです!!」


 赤毛娘よ。なんでも傾いているわけではないのだよ。


 既に先ぶれが到着しているため、彼女たち一行はそれほど待たされることなく、マルカ・クルンとの面会が行われる。


『リカルド宮』は、外観の素朴な石積み風のそれと異なり、内装は王国の迎賓館が色褪せて見えるほどの装飾が施された物であった。半円形の天井には大聖堂もかくやというほどの天空画が描かれており、壁には装飾のレリーフが刻まれているのだが、金鍍金で仕上げられている。


「内と外で顔が違うというわけね」

「流石、市民上がりの大富豪が元首になっただけはあるわ」


 大公を名乗っているものの、元は華都の大銀行家の一族。華都の有力家の一つにすぎなかった家系だ。武力でも魔力でもなく財力でのし上がった一族。法国では大貴族=大富豪という形になって久しい。騎士や兵士を資金力で沢山雇える者が上に行くのだ。


 教皇庁艦隊を整えるほどの財力があるゆえに、『大公』として認められ、教皇領周辺をまとめる様に任されたということだろうか。


 彼女と伯姪、護衛役の灰目藍髪と茶目栗毛だけが面談の場へ案内される。そのほかの従者は別の場所で待機させられている。形の上で剣を預けて奥へと進む。魔術師であるリリアル勢には、魔装手袋だけで十分な武装なのだが、宮殿の衛士たちはそれを知らないので仕方がない。


 聖典に出てくる英雄たちの彫像や、歴史的場面を描いた壁画、あるいはタペストリーが飾られており、派手さと優美さを兼ね備えたそれは、先代の無駄でか王の憧れた城館の一つなのではないかと推測する。


 王都の迎賓館は確かに素晴らしいが、ここまで洗練されても華美でもない。


「芸術はお金では買えないのね」

「いいえ。育てるところからお金をかけていないから、中途半端になるのではないかしら」


 有名な芸術家・建築家を招いて建物を建てり、内装をさせるとはいっても、それは功成り遂げたものが余力で作ったもの。世に出ようとして魂を込めて作ったそれではない。あるいは、自分を育ててくれた恩人に報いるための志とでもいえばいいか。王国や連合王国に流れてきた有名人は、そういう意味で昔の名前で召し抱えられた存在。若いころ、あるいは世に出た作品よりも一段劣るのは否めない。


「ま、ブレリアの城館は外観はここに似せて、内装は外装と同じ質素なものにするのでしょう?」

「そうね。見栄を張る相手もいないのですもの。それで十分ね」


 彼女と伯姪がそんな話をしているうちに、どうやら目的の部屋に到着したのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ようこそ、侯爵閣下。ニアス卿も。歓迎いたしますぞ」


 若かりし頃は、華やかな貴公子であったろうことを思わせる容貌と衣装。南保里王国の王女を母に持ち、騎兵を指揮する傭兵隊長として華々しい戦功も上げていることから、本来であればパリア公『マルカ・クルン』は十分に美丈夫と呼ばれてもおかしくない男であった。三十歳を少し過ぎたばかりの公爵閣下であり、王弟殿下と同世代。その妻は、教皇猊下を三人輩出した歴史を持つ法都の大貴族家の御姫様。


 法国でも名だたる貴公子なのだが、M字禿がまぶしい。


 そして、目の下には消せそうにもない『隈』が居座っている。


 彼女は王太子への手紙に「兜のかぶりすぎにご注意ください」と書き添えようとこころのメモに記す。


「先日の、キュプロス救援の義勇軍。見事でございましたな。感服いたしましたぞ!!」

「王国提督代理として、御神子教の同胞を手助けするのは当然のことです。その為に、侯爵位を授けられたと理解しております」


 微笑を浮かべつつ、何度も頷くMの字。マルカなのだからMの字と心の中で呼んでも問題ない。禿は男の勲章。


 Mの字は、現在行われている今年の対サラセン連合艦隊編成会議が難航していることについて、愚痴めいた説明を放し始める。費用負担・艦隊の編成に関しては凡そ合意ができている。


 艦隊は海都国と神国・ゼノビアがそれぞれ同数。その上で、船に乗せる海兵の数は神国が七割を負担し、海都国の艦船の一部に乗せる。これは、流行病の影響と、サラセン軍の侵攻によりこれまで募兵出来た海都国の海外拠点周辺での編成が困難であることの結果であるとか。


 海都国としては、一般のガレー船への搭乗は認めるが、海都国の提督が乗る大型ガレオン船は自国兵だけで固めるという主張をしている。これは、軍事機密と司令官の安全確保という意味で曲げるつもりはないという。


「海兵の件はまだ妥協の余地があるのですが」


 Mの字曰く、だれを総司令官にするかで大いに揉めているのだという。


 神国は、ゼノビア海軍提督である『ジョー・ドレ・ドリヤ』の就任を主張。ドリヤ家は親神国派のゼノビアの名家であり、神国の傭兵艦隊司令官として先代神国国王の時代から、長らく仕えている。ジョーは大伯父アンドロの跡を継ぎ、神国から信を得ている。また、三十そこそこで経験は少ないが、艦隊を指揮する能力は十分だとされる。


 ただし、問題は、前回失敗した救援艦隊の際にも神国国王の指示に忠実なためか、自国艦隊を温存し、サラセン艦隊との戦いに消極的であった点。


 海都国は自軍監隊の司令官である『バステア・ニエル』を推す。ジジマッチョの先輩にあたる年齢であり、ジョーの大伯父の世代に近い。敢闘精神旺盛なTHE海の男(脳筋)であるといわれる。


 神国も、海都国も自軍の司令官を総司令官に推そうと譲らない。


 失敗した先年の対サラセン艦隊の編成においては、教皇庁艦隊の司令官であるMの字が中立的存在として指揮をすることになったが、結局神国も海都国も従わず、何もせぬまま時間が過ぎてしまった経緯があるので、それも難しい。


 結局、だれが指揮をするかで全く話が進まないのだという。


「義勇軍の提督に、相談するべきではないのはわかっているのです。しかしながら、こうなっては……」


 まさか魔導船二隻、ニースと時期が合えばサボアの魔導船も加わるので四隻ばかりの小勢で何んとかしとというわけではないだろうが。


「ねぇ」


 伯姪が彼女の耳元で小さな声で話しかける。


「ゼノビアの海将の上に立てる人間を招けばいいんじゃない?」


 伯姪曰く、ゼノビアの海将は神国国王の意見を尊重する。が、神国国王の代理となる存在を名目上の総司令官として招き、その者にサラセン海軍との決戦に向かうよう、唆せばよいのではないかというのである。


「神国国王の代理に心当たりがあるのかしら」

「女王陛下の婿候補」


 王弟殿下「蛙王子」ではない。神国国王の妾腹の弟。東方大公ジロラモ。神国に帰国したのちは、内乱の鎮圧に活躍したとか。


 以前、マルス島救援艦隊が神国で編成された際には、少年ジロラモは応急をひそかに抜け出し、艦隊が編成される海軍軍港まで一人向かったとか。何の支度もせずに飛び出した結果、飢えと脱水症状により、軍港のはるか手前で倒れ、艦隊出撃から一か月もたってから到着したとか。


 結果はともあれ、庶子とはいえ王家の人間が自らサラセン討伐に向かおうとした行為は、一躍ジロラモを国民的英雄に押し上げた。途中で倒れただけなのに。


「ジロラモ閣下ならば、ゼノビアの海将よりも、サラセンとの決戦に積極的に賛成する可能性が高い……というわけですか」

「はい。海都国と教皇庁で話し合い、『ジロラモ公を総司令官に』と打診させてはどうでしょう」


 上司がだめなら上司の上司に話を通す。ゼノビアの提督とはいえ、スポンサーの名代であるジロラモが直接命令していることに逆らうことは難しい。


 王族の言葉は絶対であるし、一度口にした言葉を反故にすることは王族としての威信を大いに失墜させる。まして、国民的英雄であるジロラモ公が教皇猊下とその代理人に対する約定を違えるというのは大いに問題となる。


「やる気にさせます……ということですな」

「その為の根回しも、教皇庁や華都国、あるいは海都国の大使・提督がたにお願いする必要があるでしょう」


 腰の重い神国艦隊とその司令官を動かす為に、血気盛んな若者を利用する。いつもは、王太子に利用されている彼女にとっては、自分のことのように思うのだが、サラセンとの艦隊決戦を行うには、神国・ゼノビアにその気になってもらわなければ困るのである。



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