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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第945話 彼女は姉と久しぶりに語らう

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第945話 彼女は姉と久しぶりに語らう


 学院に薬師組と二期生を送り出し、戻ってくるまでの間、彼女と一期生冒険者組と三期生たちは『魔熱球』の試験運用を日々繰り返しつつ、空いた時間で手持ちの薬草を素材に『ポーション』作りに勤しんでいた。


 昼は『魔熱球』の試運転を確認しつつ、三期生の船員としての成長を見届け、夜は聖エゼル海軍の工房の隅を借り『ポーション』作成に励む。


「考えてみると、冒険者をしていたころと大して変わらない生活ね」

『侯爵閣下がそれでいいのかと思うけどな』

「いいのよ。魔力量も増えるでしょうし、使わなければなんだか調子が悪くなる気がするもの」

『スローライフとやらはどこ行ってんだよ』

「もう少し先になるのでしょうね。少なくとも、サラセンとの戦いに勝利しなければ、周りが落ち着かないでしょう」


 サラセン艦隊の西進は、海都国が傾くだけではなく、御神子教世界の中核である教皇庁のある法国までサラセン海軍が直接襲撃してくることが予想される。



 少なくとも、神国がゼノビアの後ろ盾となり西内海の南から法国沿岸をめる城塞を占拠したことで幾分ましになったのだ。


 ところが、神国・ゼノビアに攻められたサラセンの首領たちはサラセン皇帝に臣従することで『総督』『提督』となり、後ろ盾を得ると同時に皇帝の軍の一部として活動することになった。


 神国は自国の領地周辺の西内海の海上支配こそ重要であり、新大陸から神国に向かう船団がサラセン海賊の待ち伏せに会い、多くの富を失うことこそ恐れている。その為に、ゼノビアを傭兵として雇い自国の影響かに置いている。海都国がサラセンの支配下に置かれることは問題だが、かの国の為に自国の戦力を消耗したくはない。


 海都国も自国の経済がサラセン経済圏との交易により成り立ってきたこと、海運から工芸品の輸出に重きを置く経済に変わってきたとはいえ、サラセンは上得意な存在であり、どこかで自国の権益を守りつつ商売相手としてサラセンとの関係を回復したいと考えているだろうことも理解できる。


 神国と海都国は相反する存在であり、故に、力を合わせればサラセン海軍を打ち破ることは難しくないだろうが、最大の問題はお互いの国の在り方を本質的には認められないというところにある。


 



 しばらくして、学院に向かった薬師組と二期生が戻ってきたのだが。


『おしさしぶりなのよぉ~』

「……」

『だまっていられると、さみしいのよ~』

「……これは何かしら」


 鉢植えに株分けされた『踊る草』(小)が目の前にはいた。忘れているかもしれないが、元は大精霊……いや、今でも大精霊である『アルラウネ』であり、ノイン・テーターを作り出すほどの能力を持つ。その存在は、デンヌの森を豊穣にする存在であったようだが、何者か、おそらくは吸血鬼に与する勢力に利用されていたところを、暗殺者養成所討伐のついでに発見し王国・学院へとスカウトしたものである。


――― ただの踊る怪しい草じゃないんだからね!!


「あの、薬草畑を作るって話を聞かれたみたいで」

「株分けして連れて行けって言われました!!」

『そうよ~ 薬草畑あるところにアルラウネありなのよぉ~』


 鉢植えにされた『踊る草』(小)がゆらゆらと揺れながら薬師組の子たちの後に続いて彼女に話しかけている。


「本体との関係はどうなってるのよ」

『今は同じ存在だけれど、だんだん、別の存在になっていくと思うわ~』


 伯姪の問いかけに、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに激しく踊る『草』


 人間や動物からすれば双子のような存在のようだ。過去の知識・経験を共有するが、この後生じる事象に関しては別々に経験するために、徐々に異なる存在になるのだとか。


「あちこちにいるんじゃないでしょうね」

『今はいないわよ~。枯れちゃったのかしらね~』


 意識はつながるらしい。正確には徐々に途切れるようになり、やがて、存在の有無がわかる程度まで疎遠になるとか。


「どこにでも植えられるのかしら」

『それは無理ね~ 海で隔てられたり、砂漠や大きな山があるとつながらなくなるみたいなのよ~』


 つまり、いま存在する『国』がそのくらいの塊の範囲であるから、 平地で続く範囲であれば問題ないようだ。王国全土と一部法国北部、ネデル周辺くらいまでだろうか。ネデルも百年戦争以前は王家に従う地域であった時代もあるので、おそらくはその辺りまでが妥当なのだろう。帝国はどのあたりまでなのかは不明。


 水晶の村近くの廃村、あるいは、その近くにある廃修道院(狼人が巣くっていた場所)辺りが植え替え場所になるだろうか。


 とはいえ、デンヌの森や王都近郊の学院のある場所よりも山がちでやや寒冷な場所なのだが大丈夫なのだろうかと彼女は思う。


「寒い場所なのだと思うのだけれど」

『デンヌの森もみなみの方は山がちで雪もそれなりにふるからだいじょうぶなのよ~』


『草』の力によるものなのか、若干暖かい気候になり、植物がよく育つようになるのだと主張する。暖かくなるなら麦や薬草もよく育つだろう。水晶の村や再興される廃村にとっても良いことだ。


「でも、なにかしないといけなんだよね!!」

「無償で何かするわけがない」

『しつれいね~ 大精霊なんだからひとから施しを~「ポーションねだってますよね!!」……ちょっとだけなのよ~』


 株分けされた小さな大精霊(矛盾)。水晶の村に一度足を運ばねばと彼女は思うのである。


「その前に、姉さんに話を通しておく方がいいわね」

「次期ノーブル伯領の村になるのであれば、その方がいいわね」

『あいさつはだいじなのよぉ~』


 小さくなった踊る草。彼女は鉢植えを受け取ると、姉のいるニース城へと足を向けるのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 辺境伯の三男坊の嫁。そういう肩書で彼女の姉はニース城の一角に滞在している。キュプロスからの帰還後は、さまざまな課題を片付けることを優先し、一度も姉に会っていない。


 いや、面倒なので理由をつけて姉と顔を合わさないようにしていた。

正直に言えば避けていたのだ。すまん。


「やっときてくれたのね。遅いわよ」

「随分とおなかが目立つようになったわね姉さん」

「そうそう。まあ、もう動くし何なら会話も成立している気がするんだよね」

「そう」


 なら、あまり会話をしなくてもいいかと彼女は思う。よかった。


「それで、今日は土産話をしにきたのかな?」

「それは時間があればね」

「時間は作るものだよ妹ちゃん!!」


 自分の欲望に忠実な姉は、その為ならどんな時でも時間をひねり出す。その多くの場合、彼女にシワ寄せがくる。要は仕事を押し付けられていただけのこと。姉の「時間を作る」=誰か適当な人間に仕事を押し付けるということである。正に、人の上に立つ存在。夜なべしてポーションを作る彼女とは大きく違うのだ。


「そんなことはどうでもいいのだけれど」

「いや、大事だよ!!私と妹ちゃん、姉妹のぶっとい絆がさ」

「まだその話続くようなら帰るけれど、問題ないかしら」

「うん、まずは妹ちゃんの要件を済ませようか」


 彼女は自分の要件を済ませたら、とっとと退散するつもりである。何か姉の時間づくりの犠牲になる可能性があるから当然だ。


 そこで、彼女は水晶の村の近くにある廃村出身の元川賊を帰郷させ、廃村を復興させようと考えていること、そこは両方ともこの先『ノーブル伯領』に含まれるであろうから、この先行う試みについて、次期ノーブル伯となる姉に事前に話を通し、了承を得ようと考えていることを伝える。


「ふーん、川賊ねぇ」

「勿論、直接賊として人に危害を加えた者たちは処分したわ。元はノーブルに先王陛下が無理な徴発を行い、戦争に連れて行ったことが原因ですもの。王国貴族としては、仕方なく川賊の家族として生きながらえてきた老人や女子供は生活できるようにしたいと思うのよ」

「あの、無駄な金使って借金膨らますだけの木偶の坊の被害者ってことなら許してやらないといけないのかな。それで、何にもない廃村後で、何やって生活させようっての。まさか、領主が援助しろとは言わないよね」


 姉は際限なく施すような人間ではないし、彼女もそれは理解している。


「薬草畑を作らせようと思うのよ」

「薬草ねぇ。確かに、あの辺からブルグントの辺りには聖征の時代にはたくさんの修道院があったらしいし、修道院で薬草を栽培できたくらいだから、できなくはないよね」

「ええ。それに、サラセン相手の戦争は続くでしょう? 神国や海都国、教皇庁やその周辺の小国相手に需要はたくさんあると思うのよ」


 ついでに言えば、姉が潰したダメ冒険者ギルドの立て直しの一助ともなるだろう。


「まあ、リリアル学院でも薬草畑で栽培した薬草をもとにポーション作っているものね」

「そこよ」

「え、どこどこ」

「……部屋の中ではなく話の中ね」

「いやー お姉ちゃん、妹ちゃんと話せてちょっとうれしさが暴走しちゃってさ!!」


 姉の話のペースに巻き込まれては先に進まないので、彼女は話の腰をバキバキにへし折って先に進める。


「これよ」

「え……」

「いいの、この鉢植えを見て頂戴」

「踊ってるね。ダンシング・ウィード?」

『雑草じゃないわよぉ~ 小さくても大精霊なのよぉ~』


 鉢植えの中で、小さな『踊る草』がクネクネと抗議の声を上げる。小さく。


「これを薬草畑に一緒に植えるわけだね」

『これって失礼だわぁ~』

「精霊の端くれですもの、廃村の住人が敬えば、祝福もしてくれると思うわ」

『端くれじゃなくって大精霊なのよぉ~』


 反応がいちいち煩い。姉と『草』の脅威のコラボレーション。彼女のライフがガンガン削られていく。今夜も夜なべしてポーションづくりをしなければならないのにだ。勘弁してもらいたい。


「いいよね。薬草で村興し。文字通り復興させるってことでしょ? いやーノーブル量の税収も増えればお互いにWIN-WINだね!!」

「冒険者ギルドの立て直しにも役立つと思うわ」

「そうだね。人を入れ替えただけじゃ、また腐っちゃうもんね。まあほら、私が領主になったら、領主依頼バンバン出すことにするからさ!!」

「すごく迷惑そうな依頼にしか思えないのだけれど」


 姉があちこち行く際の護衛依頼。商会長夫人程度であれば、女使用人(不死者)一人を供にあちこちで歩いても問題ないだろうは、伯爵閣下ともなればそうはいかない。騎士の数にも限りがある。側近の騎士とそれ以外は冒険者を護衛に加えることになるだろうか。大変そうである。


「ま、先の話だね。その前に、お母さんになるわけだし」

『あら~ おなか周りが大きくなっていると思えば、子供が生まれるのね~』


 株分け、あるいは種子によって増えるわけではない人間の妊婦を見るのは物珍しいらしく、『踊る草』は姉の方に向かい泳ぐように葉を揺らす。そんなことをしても、前には進まない。鉢植えなんだから。


「しばらく、この鉢植え、部屋で預かってもらっていいかしら」

「それは構わないけれど。水やりとかはどうすればいいの?」

『一日二三時間、火が入る窓辺に追い置てもらえればいいのよぉ~。それと、土の表面が乾いたら、少しだけ水を垂らすか、夜の間は外において置てもらえるかしら~』

「ああ、夜露で十分なんだね。よし、わかったよ!!」


 姉は良い暇つぶしとなる話し相手ができたとばかりに大喜びである。いつも付き従っている、不死者の使用人はさすがにここには入れないようであり、今は商会の南都支店とニース本店の間を行き来しているとのこと。商会員として優秀なのだそうで、仕事をどんどん振られているらしい。


 姉に付き合わされている間に、死ぬタイミングを失っているのだろうか。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「先生、これどうでしょう?」

「……聖母様の像にしては何かおかしい気がするわね」


 村長の孫娘から見せられた聖母像。聖母像の多くは、赤子である御神子を抱いているのだが、この聖母像はなにか踊っているように見える。赤子はいない。


「ちょっと作ってみました!!」


 二期生・サボアの洗濯娘が勢い良く手をあげ、自分の作品だと主張する。どうやら、魔力で石を削ってそれらしい形に仕上げたようだ。素朴であり、それでいて力強さを感じる。


「これをどうするのかしら」

「薬草畑の傍に、小さな祠を作って、聖母様として祀るんです」

「それで、その横に、あの鉢植えを植え替えるんですって」


 洗濯娘の言葉を伯姪が継ぐように説明を加える。聖ブレリア様もそうだが、祝福を与えるにしても、人の思いがその存在に思い至らなければ祝福を与えようがない。


 小さな大精霊を直接、祀ることは教会の手前問題があるが、聖母様なら王国内は大目に見てもらえる。そもそも、布教の過程でご当地の精霊や女神様を「実は」と聖典に登場する人物や奇跡になぞらえていたこともある。

 

 歴史ある大聖堂には、その地の聖人や精霊を祀る礼拝所が設けられており、神に祈る際にはご当地のそれにも祈るのが当然とされていた。異端とされる時代もあったが、今の王国では大目に見られている。王国は海都国といい勝負の実利の国なのだ。


「本人? 本精霊が喜ぶのならいいと思うわ。祠も土魔術で堅牢に作りましょう」

「どうせなら、礼拝堂の形にしたら? 村を再建するにしてもその象徴になるものがあった方がいいと思うわ」


 伯姪が歩人の方をじっと見る。その視線が次々に増えていく。


「お、おいらが作ると、歩人の里風の建物になっちまうぞ!!」

「「「……それは無理」」」

「ですよねー……グスン」


 礼拝堂は、彼女が聖征の時代以前に流行した『古帝国風』のすっきりした建物を建てることにして収めた。『踊る草聖母像』は、その地で畑の開墾時に偶然地中から掘り出されたものであるということにする。どう見ても、太古の先住民が拝んでいそうな素朴なつくりの石像であったからである。





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スローライフ出来るのはアフロ=ユーラシア大陸を統一した後だろ >一日二三時間、火が入る窓辺 誤字だろうけどコレはヤヴァい窓辺だな
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