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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第943話 彼女はニースへと帰投する

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第943話 彼女はニースへと帰投する


「あ、ガルムだ……」

「全然日焼けしてないね」

「「「ねー」」」

『わ、私は……ノイン・テーターだからな。人間を捨てた男だ』


 留守番組で、すっかり潮焼けしている三期生たちに弄られるガルム。いじめではない!! 弄りだ!! リリアル学院にいじめはありません。生徒に関しては。セバスおじさん? 虐めではなく正しい評価に過ぎない。


 入港した『聖ブレリア号』を聖エゼルの船員とその指導を受けているリリアル生に委ね、キュプロス遠征組は下船する。


 一行のうち、彼女と伯姪、ジジマッチョは当代のニース辺境伯閣下へ帰還の報告へ向かう。不在の間、リリアル生は主に聖エゼル海軍の下、『聖フローチェ号』で航海訓練を行うと並行し、聖エゼル海軍の魔導船やサボア公の御座船となる新造船の公試などに参加し、船員としての練度を上げていた。


 聖エゼル海軍は名目上、辺境伯家とは別組織だが、運用は実質辺境伯家が担っている。世話になった上司の上司に挨拶するのは当然のこと。





 入港の時点で先ぶれが出ていたようで、辺境伯との面会は執務室ではなく、軽い昼食をともにしながらの会食の場で行われることになった。


 クロス島では多少、人間らしい生活をしたとはいえ、船上と戦場となっている島での活動が大半であり、一か月弱の間、食事はそれなりに制限のある内容であった。その辺り、忖度して昼食の場を設けてくれたのだろう。あるいは、ジジマッチョがその辺り要求してくる前に、先回りして用意してあったのかもしれない。


「無事の帰還、真にめでたい」

「学院生が大変お世話になりました」

「いや、あの子たちがいる方が、老土夫師の機嫌もよいのでな。ニースの船大工や工房主も助かっていたようだ」


 職人気質で土夫気質である老土夫が真剣な顔で魔導船を建造していると、それは近寄りがたく話しかけにくいのだ。


 そこに、三期生の年少組の子たちが遠慮会釈なく話しかけると、相好を崩し老土夫が応じる。どうやら、子供たちの手前、深酒もせず上手くいかなくとも機嫌を悪くすることもなく魔導船の建造に集中しているという。子供たちの存在が、良い気分転換になっているのだろう。


 不在であった間の、ニースでのリリアル生たちの話を聞き、改めて彼女は辺境伯へ感謝を伝える。


「お互い様、いや、魔導船の整備に関しては、土夫から様々にこちらの職人・技師が指導を受けることができ助かった。それに……」


 魔導船の製造には小さな手が有利な場所があるのだとか。大人では手が入らない場所にも手が届き、また、子供にしてはかなり器用に作業をしているのだとか。


 三期生には魔力のない子が半数を占めている。職人としての技術を身に着けられれば、戦力としては二級品であったとしてもリリアル領で重要な存在になれるかもしれない。居場所を作れるのであれば、工房の手伝い・見習いに出すことも吝かではない。

 

「この遠征が終わったならば、本人たちの希望を聞いたうえで、魔導船の工房に職人見習として働くことになるかもしれません」

「それは良い。おそらく、魔導船の数を増やすように王家からリリアルと老土夫に依頼が来るだろう。土夫が臍を曲げるとどうにもなるまい」

「いや、美味い酒があればなんとかなるじゃろ」


 ジジマッチョ、そしてそのあと飲み比べ、力比べをすることになるのだろう。説得というよりは仲間になってなあなあで押し切る。理屈ではなく、魂(酒)で語り合うことになるに違いない。


「それで、キュプロスはいかがだったかな」

「……できうる限りの物資の搬入、サラセン攻囲軍への反撃、破壊された防塁の補修を行ってきました」


 彼女は辺境伯にクロス総督から依頼された支援物資の搬入をはじめ、サラセン軍の野営地へ潜入し物資の強奪と放火を行い後退させたこと、攻城砲により破壊された防塁・防壁の補修・強化を土魔術で行ったことを説明する。


「サラセンの切り札の一つ、『人食』の魔物も討伐したのであろう?」


 既に、サラセンの魔物を討伐した話は内海に広く伝わりつつあるという。おそらく、キュプロス総督が『キュプロスは十分持ちこたえられる』と内外にアピールするために積極的に情報拡散しているのだろう。


「義勇軍が僅かな戦力でサラセン軍の包囲網を突破し、物資を搬入、逆襲まで行い、さらに切り札の一つを叩き潰した。快挙として広まりつつあるようだ」

「なるほどな。うまく使われているようじゃな」


 親子で黙ってうなずきあうジジマッチョと辺境伯。


「教皇庁かマルス島騎士団が何やら言ってきそうだが……」

「すでに耳に届いておりますか父上」

「いや。だが、神国の重い尻を蹴り上げるには、丁度よい知らせになる。あ奴らが、アリーらを引き合いに出して、話をするとは予想できるわい」


 どうやら、今日の昼食会は、単なる報告の場ではなく、彼女が不在である間に、教皇庁から要請があったことに対する対応策を考える場になるようであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 対サラセン連合艦隊を編成し、内海の勢力が一丸となってサラセン海軍・海賊と戦うという構想は何度も呼びかけられている。教皇庁の呼びかけにより『聖王同盟』が結ばれ、海都国、神国、教皇庁とその周辺国が共同で艦隊を編成するということは定まっている。


 また、戦力の半数を海都国が用意し、残りの半数をその他の国で負担する。また、船に乗り込ませる兵士とその多くを占める傭兵の費用を神国が負担する。ここまでは概ね決定している。


「問題は、司令官を誰にするか……ということになっている」

「ま、そうじゃろな」


 昨年、連合艦隊は編成されたが、結果は散々なものであった。出航時期が先送りされ、晩秋に近いころに「海が荒れるから一度解散しよう」と神国とその雇われ司令官であるゼノビア人提督が提案。

 

 実際、キュプロスに上陸するサラセン艦隊を妨害することもできず、あるいは、艦隊の戦力をクロス島から北進させサラセンの都を攻撃するという提案も見送られ。いたずらに時間を浪費した後、ではまた来年となったのだ。結果、キュプロスの首都は陥落、そこにいた海都国人の多くはサラセン軍によりむごいころされ方をし、首都も破壊された。


 連合艦隊はその帰途に際し、暴風雨に見舞われ多くの船が破損し何もしないまま戦力を喪失してしまう。優柔不断に艦隊を動かしただけで終わった海都国の艦隊司令官はその責任を取らされ身分剥奪の上に収監されたという。


 リリアルの救援依頼達成の結果、キュプロスの東岸にある拠点港湾都市マグスタはしばらくの間はサラセンの攻囲を防ぎ、陥落は免れるだろう。つまり、来年の春には新しい艦隊を編成し、再度、サラセンとの対決に臨む機会を得たといえる。


 海都国としては、来年こそサラセン艦隊を討滅し、キュプロスに戦力を上陸させサラセン軍を排除したい。が、東内海を拠点に勢力を誇ってきた海都国の存在を神国は面白く思っていない。教皇庁に対する手前、まや、御神子教の守護者として自らを位置づける神国国王からすれば、海都国の勢力は面白くないが、だからといってサラセンが西進してくることを座して待つということはできない。


 帝国皇帝も神国国王も、異教徒と戦うということで権威を維持する存在である。戦うのは自らのためであって、海都国のためではない。故に負けてはならないが、海都国に利してもいけない。また、神国海軍は傭兵であるゼノビア艦隊含めできる限り温存する必要がある。


 神国が討伐したいのはサラセン艦隊ではなく、自国周辺・西内海に南の暗黒大陸沿岸からやってくるサラセン海賊であり、その拠点となっている街や村がある地域。キュプロス島やクロス島のことなど、自分たちには関係ないのだ。


「教皇庁は、華都国出身の教皇庁に縁のあるものを総司令官にしたいようですが」

「そら、海都も神国もうなずかんだろうし、名目上の司令官を立ててもどちらも従うまいて」


 海都国艦隊・神国艦隊・教皇庁とその影響下にある聖騎士・法国諸邦の艦隊の三つにそれぞれ司令官が存在する。


 神国は、自軍司令官であるゼノビア海将『ジョー・ドレ・ドリヤ』を総司令官にしたいと考えており、海都国は同じく自軍司令官を総司令官にしようと考えている。この時点でどちらも引かない。船の数は海都国が過半数を占めるが、そもそも、単独でサラセン海軍に対抗できるだけの船数を用意できなくなったが問題なのだ。いや、サラセンの艦隊に西内海の海賊が『提督』として多数参加するようになったことで、海都国の賄える範囲を超えたということだ。


 西内海の海賊の相手を本来していたのは神国・ゼノビア海軍であり、敵は勢力をサラセン皇帝の元ひとまとまりにしたのに対し、『聖王同盟』側は三つに分裂したままというだけのこと。


「教皇庁の司令官はどのような方なのでしょうか」

「……」

 

 彼女の質問に、辺境伯が答えにくそうに沈黙する。ジジマッチョに視線を向けると、すっぱりと言い切る。

 

「そうだな。一言でいえば家柄の良い教皇庁・現在の教皇猊下と近しい者というだけだな」


 教皇庁艦隊司令官『マルカ・クルン』。


 法国の名家・クルン家出身。母は南保里王国の王女。聖騎士。教皇庁海軍提督を務める。


 父親の失敗で多くの領地を手放した結果、騎兵指揮官として名を上げ、教皇庁の覚え目出度くなる。結果、教皇庁側の司令官に抜擢される。つまり、海上での指揮経験は皆無。


「リリアル卿に打診があるやもしれん」

「私も、素人なのですが」

「まあ、今回の遠征の成果が評価されるなら、それもありえる」


 ジジマッチョが「がはは」と笑う。海賊船を両手の数では数えられないほどは沈めている。クロス島からキュプロス島・マグスタへの物資搬入の成功と攻囲軍の撃退。勇名が現在進行形で内海の御神子勢力では並ぶ者のいない存在になっていることだろう。


「ゼノビア人でも海都国人でもなく、私でもない誰かが総司令官にならなければなりませんね」

「うむ。まあ、アリーが推すというあたりが妥当であろうな。その上で、神国も教皇庁も海都国も妥協できる存在」


 沈黙していた伯姪が、冗談めかして名をあげる。


「王太子殿下とかどうかしら?」

「王国は名目上参加していないからそれは難しいところじゃな」


 王太子ではなく、名目上皆が上に置いても問題ない人物。連合王国で見知った若者に彼女は一人思い浮かぶ者がいた。王弟殿下じゃだめなんですかぁ!! ダメです。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 教皇庁から呼び出しがあるかもしれないと考えると、早々に宿題を済ませておかねばならないと彼女は考えた。


 まずは、薬師組と二期生メンバーを学院に戻し、薬草素材を回収する仕事を委ねることにする。ポーションの大量生産を行い、海都国に高く売りつける大事な仕事。ついでに、神国軍にも高く売りつけようかと思わないでもない。


「薬草畑の拠点が欲しいわね」

「先生!! うちの村はどうですか?」


 村長の孫娘が彼女の呟きにこたえる。最終的には姉の領地になるであろう水晶の村。今は、川賊の村から故郷である廃村が復興するまでの間、仮住まいさせてもらっている労働力もある。魔水晶の鉱石が取れる山が近くにあり、狼人が占拠していた廃修道院も近くにはある。


「廃修道院に畑を作って仮住まいするのはどうかしら」

「あー 若い人や子供はいいかもしれませんけど、ご老人にはちょっと厳しいかもしれません」

「それなら、魔装兎馬車を貸し出したらどうかしら? リリアルはしばらく使わないでしょう」

「それはいいかもしれないわね。けれど、魔力を持っている人がいたかしら」


 魔装馬車は御者が魔力もちでないと、魔装の効果が発揮されない。軽くならないのだ。


「あ、じいちゃんが魔力もちです!!」

「川賊の子の中で魔力が使える子がいたら、その子を育ててもらおうかしらね」

『診てやるぞ』


 魔力もちの見極めは『魔剣』が担っている。彼女が判断しているように見せているのだが、実際は『魔剣』が観ているのだ。


 学院に薬草を取りに行った際に、株分けできるように準備し、それを以て水晶の村を訪問。村長はじめ、村民に薬草の栽培の助力を求めることになるだろう。


「ひとまず先ぶれの手紙を出しておきましょう」

「それをお学院に向かう際に南都の冒険者ギルドに依頼で出しておきます」

「お願いね」


 村で肩身の狭い思いをしている旧川賊の生き残りの村人たちも、彼女が薬草を買い取り金銭的な収入を得られるようになれば、立場もある程度よくなるだろう。何より、村が復興したのちに薬草を育てるノウハウがあれば、復興した後もそれなりにやっていける。いきなり自給自足はできるはずもなく、水晶の村が援助できるはずもない。


「一つ課題が片付くわね」

「ええ」


 伯姪も、あの廃村の復興は開拓村並みに大変だろうと心配していた。


「魔力もちの子がいれば、自作のポーションが作れるようになるわね」

「そうね。ノーブルの冒険者ギルドに売れば……」


 その昔、遠征した時にはシオ対応でやる気のないギルドであったのだが。


「ダメなギルドよね」

「いいえ。姉さんが手をまわして、やり手のギルマスを送り込ませたらいいわ」

「へぇ。元の職員たちには災難だったわね」


 ノーブル伯になる予定の彼女の姉は、自分のお膝元の問題をできうる限り前倒しで改善しようと産休中にもかかわらず、いや、身重で動き回れないからこその暇つぶしとばかりに、お手紙攻撃であちらこちらを動かしている。


 ちなみにノーブル冒険者ギルドの問題は、姉が父子爵の耳元でささやき、南都の冒険者ギルドのテコ入れの際についでに対処させたので、大したことではなかったとか。


 船上生活を満喫していた三期生と異なり、足元がふらつく生活になじめなかった薬師組&二期生はリリアル学院へいったん戻り、薬草畑の件について対応すると聞き、大変喜んでいた。

 

 船から降り、着替えを早々に済ませると、懐かしきリリアルに向かい二台の魔装荷馬車で向かうのであった。



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教皇庁も顔が良くて能力の高い男の生簀を用意して掴み取り自由と約束できれば自由にアリー使えるのに
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