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第938話 彼女は天翔ける何かと戦う

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第938話 彼女は天翔ける何かと戦う


『アリー なんかとんでくるー』


 城壁の修復があらかた終わり、日が傾く時間帯。サラセン軍が退いた方角から何かが飛んでくるとピクシーが彼女に伝える。羽がある鳥よりも獣に近いずんぐりとした容姿。


「竜ぅきたぁぁぁぁ!!」


赤毛娘は目を見開き、自らの魔法袋からトゲトゲの付いた棒を取り出す。どうやら、この遠征ではいつもの相棒は封印しているようだ。あるいは、取り間違えたか。


「竜?」

「竜ではないわね」


 竜ならばもう少し体が長く、尾が後ろ足の後に相当長く伸びている。そのような尾は見られない。


「正面だから見えない」

「頭も大きすぎるわ」


 竜はトカゲや蛇のように頭も細長い。


 近づいてくるその数は四体。翔たくというよりは、天を駆けてくるように見てとれる。彼女たちが魔力壁を足場に中空を疾駆するように。


『空を飛ぶ魔物で竜以外……か』

「心当たりでもあるのかしら」

『竜だって飛んだ奴見たことあるか?』

「……ないわね」


 彼女が討伐した『竜』は、鰐や亀と蛇の相の子、あるいは鰻のような長い体を持つ何かであり、いま目の前に見えている何かとは相当異なる。


 直線的に向かってくるのではなく、威嚇するかのように咆哮し、あるいは左右に飛び跳ねながらこちらににらみつけ、何かを吐き出している。


『あー』


『魔剣』何か思い出し多様に呟く。


『お前ならもう見えるだろ』

「……有翼の獅子」


 黄金の有翼獅子が海都国の国章には描かれるのだが、それとは異なる。薄灰色がかった黄色とでも言えば良いだろうか。四体の魔物は有翼獅子に見えるが、何か印象が異なる。


「知っているのなら速やかに教えてもらえるかしら」

『人喰い……いや、魔力持ち喰いの魔物だな。名前は……』


『人喰』とそのままの名称で現地では呼ばれていたとか。パルティアあるいはその東方に住む獅子系の動物が魔物化したものであり、魔力持ちを好んで『人喰』する結果、より魔物として進化していると言われる。


『聖征の時代に、サラセンの魔物使いが使役していたのがいたな』

「……実際に見たのかしら」

『いや、聞いた話だ』


 王都の代官なのだから、聖征に行くわけがない。王国の国王自らが聖征に何人か参加しているが、子爵家の当主あるいはその嫡子が『魔剣』 を帯びて聖征に赴くはずがないのだから当然か。


「その頃からの生き残りというわけはないわよね」

『魔物とはいえ五百年以上は生きていねぇだろ』


 サラセンの魔物使いには、『人喰』を捕らえ、使役し戦争に参加させ、魔力持ちを喰わせてさらに育てるようにしているのかもしれない。


『確か、虎のもいるらしいぜ。けど、サラセンの支配地域にゃ棲んでいねぇからここにはあらわれねぇだろうな』


 獅子も虎も小隊規模の兵士が取り囲んで討伐する猛獣。それが魔物化しているとするなら、掃討の強さとなるだろう。


『あいつら性質わりぃんだとさ』

「……どのように」

『脳を……喰った人間の知識や魔術を習得する』

「ゴブリンと同じね」


 魔力持ち、騎士や魔術師を喰らう事で剣技を覚え、身体強化や魔力纏い、あるいは魔術を行使する。長く生きて多くの魔力持ちを喰らう事で、より強力な魔物となる。使役する側からすれば、戦場に連れて行き優秀な魔力持ちに襲い掛からせることで、使役する『人喰』の能力を高めることができる。


 あるいは、捕らえた騎士や魔術師を意図的に食わせることで、『人喰』に獅子や虎を変える術があるのかもしれない。


『それと、あいつら、尻尾が武器になってるやつがおおいんだと』


 尾を武器として振り回す魔物がいないではない。


「獅子の尾は振り回す程長くないでしょう?」

『いや、骨針だ』


『魔剣』曰く、老いた獅子の尾は毛が抜け、やがて骨が剥き出しになるほど擦り切れるのだとか。本来、そのまま千切れるなりするのだが、魔物化した結果、骨が露出し針のようになる。


『骨の先端から、獲物に魔力を叩き込む。すると、持っている魔力が弱ければあるいは無ければ、体が硬直して動かせなくなる。毒を受けたようにだ』

「……なるほど。尾には注意が必要ね」


 彼女はリリアルメンバーに集まるように指示をする。四体の人喰いを討伐するにはそれなりの策がいるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『人喰』について、彼女は『魔剣』から伝え聞いた話を集まったメンバーへと伝える。『人喰』は威嚇するように未だ城壁からかなり離れた位置を飛び回っており、海都国の城壁を警戒する兵士が、指揮官の命令を受け慌ただしく城壁へと集まり始めていた。


「へぇ人喰獅子の魔物ね」

「獅子と猪の違いは少しだけ」

「ああ、魔猪っちもいましたね!!」


 小山のような『魔猪』と比べれば、『人喰』はさほど大きいとは言えない。とはいえども、成長しきった獅子が魔物化して3mほどにはなっているだろうか。


「四組に分かれることにしましょう」

「私は『はい!! 副院長先生と組みます!!』……ということね」


 伯姪と赤毛娘、蒼髪ペア、茶目栗毛と灰目藍髪に赤目銀髪。


「二人は牽制して、魔弓で仕留める」

「それで行きましょう」

「そうですね」


 前衛二人は剣で攻撃を往なし、牽制する役割。後方から魔弓で赤目銀髪が『狙撃』するかたちになるだろう。動きが止れば前衛が止めを刺す。


「先生……」

「二人は待機ね。怪我をした人たちにポーションを渡してちょうだい」

「「わかりました」」


 三期生の二人は待機。そして……


「オイラなんでこんなところで『人喰』と戦わなきゃなんねんだよぉ」

「……セバス、彼方も待機よ」

「へ」


 残った彼女と組むことになるだろうと思っていた歩人は、彼女の発言に驚き、いつも以上に間抜けな反応をする。


「城壁補修で魔力も体力も底をついているのでしょう」

「ま、まあな」

「それに」

「……それに」

「明日も壁の補修をして貰うのだから、大して役に立たない戦闘に参加してもらうのも……ねぇ」

「くうぅぅ……」


 わざとらしく泣きまねをする歩人。その両肩を三期生の二人が両側から叩く。


「セバスさん、見学ですよ」

「一緒に応援しましょう」

「……そうだな……おいらに出来るのは壁直しと応援くらいだもんなぁ」

「「はい」」

「……くうぅぅ……」


 両脇を抱えられ、連行されていく歩人。いや、怪我人にポーション渡す仕事もあるから。シャキッとしろよおじさん。


「正面に立ったら牽制して、後ろからの尾の攻撃にも要注意ね」

「身体強化を切らさず、魔力纏いを忘れないようにしましょう。魔力切れになりそうなら……」

「それまでに決着つけますよ先生」


 彼女の言葉に被せるように青目蒼髪が言い放つ。


「魔術を発動するならば」

「呪文を潰す油投げ」

「正解」


 赤目銀髪の問いに赤毛娘が答える。海賊船討伐用に用意した『脂玉』ならぬ『油玉』所謂燃える水が用意してある。顔に向けて叩きつけることで、呪文の詠唱も、詠唱の発音も途絶えさせることができるだろう。魔術を唱えないのなら、『竜』よりも小さい分マシかもしれない。


 リリアル勢も魔力壁に乗って中空に立てるし、簡単な魔術も行使できる。あとは、数で勝るこちらが有利。


「あ、こっち来ますよ!!」


 城壁に立つ兵士たちには目もくれず、四体の『人喰』有翼魔獅子はリリアル勢の集まる城門楼周辺に向け突進してきたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





『ウヲオォォォ』

『ウマソウナ、オンナコドモジャ』

『マリョクガ、イキイキシテオルワァ』

『イタダキマースゥ』


 獅子というよりは老爺といった顔。その口元は乱杭歯が飛び出しており、口の端からは涎が垂れている。狂人のようにも見えるその顔。


「誰が子供ですって」

『いや、赤毛の娘っ子とかだろ。お前じゃねぇよ……たぶんな……』


 今年十八歳の彼女、見た目はあまり変わっていない。とはいえ、魔力量の多い人間は加齢が遅いという。まだまだ成長期、諦めろ……諦める時間じゃないんだからね!!


 彼女は、先頭の突進してくる『人喰』に向け待ち構えることなく、中空に魔力壁の足場を形成し、一直線に駆けあがり迎え撃つ。


「誰が子供ですって!!」


 両手で握り込んだ魔銀のバルディッシュに魔力マシマシに込め『人喰』

の顔面に向け叩きつける。


『アババァ!!』


 斜め上から叩き割るように振られたバルディッシュ。並の魔物なら頭をカチ割られ絶命するところだが、額が割れて黒ずんだ血が噴水のように噴き出すだけに留まる。


『汚ねぇ花火だな』

「血飛沫よ」


 痛みに顔面を引きつらせ、地面へと落ちていく『人喰』。背中から落ちたものの、元獅子ということもあり跳ね上がるように立ち上がる。


『全然効いてねぇのかよ』

「一撃で倒せないなんて、『竜』以上かもしれないわね」


 魔力持ちとの戦いに慣れているのだろうか、魔力纏いに対する耐性が備わっているのかもしれない。身体強化ではなく、体の表面に魔力を纏い魔力を纏った攻撃を相殺するという方法だ。『竜』のような巨大な魔物は内包する魔力も多いため自然に纏っているのだが、『人喰』はそれ以上に魔力纏いを上手く使っている。彼女もあとを追い地面へ降り立つ。


『そらそうか』

「……どういうこと」

『魔力纏いのできる騎士を喰ってその理屈を理解してるんだろうぜ』


 周囲をちらりと見ると、目の前の個体以外もリリアル勢とまともに切り結んでおり、斬られた個体はない。


「うぉりゃああぁぁぁ!!」

『グガアァ……』


 赤毛娘にトゲトゲ君で頭を思い切り叩かれた『人喰』の一体が、地面へと墜落する。彼女の相手よりも無様に墜落し、ゆらゆらと立ち上がるとおぼつかない足取りとなっている。


『斬れなければ』

「叩きのめす……ね」


 赤毛娘と組んでいる伯姪はそれにいち早く気が付き、魔銀鍍金のハンドルボスを右手に持ち、左手の剣で『人喰』を牽制しながら、頭をボスで叩きのめす方法に切り替えたようだ。


「あれ持っていないのよね」

『お前、盾は使わねぇもんな』


 蒼髪ペアはベク・ド・コルバンに持ち替え、灰目藍髪はバスタードソードの切っ先を持ち、護拳の部分をハンマーのように振るい『人喰』を叩き伏せるように戦い始めた。


 魔弓持ちの赤目銀髪、剣盾の茶目栗毛は有効な打撃を与えられる装備を持っておらず、灰目藍髪をフォローする動きへと戦い方を切り替える。



「さっさと終わらせたいのだけれど」

『KUCHOMA, MOTO』


『人喰』がなにやら濁声を放つと、彼女に向かって火球が放たれる。


『アリー!! あぶなーいー!!』

「隠れていなさい!!」


 彼女の頭巾から顔を出し叫んでいるピクシーを片手で庇いながら、彼女は地面を転がる。珍しく装備が土の汚れ、少々苛立たしく思えてくる。


『汚れちまった悲しみに』

「この辺、水は貴重なの。洗濯できないのだから……」


 正義の怒りをぶつけろアリー!! 王国副元帥アリックス侯爵!!


 彼女は魔力を全身にみなぎらせ、バルディッシュの全体にまで魔力を巡らせる。地面から立ち上がり、彼女に向かい咆哮する『人喰』へとすたすたと近寄ると、目の前で何事も無かったかのように一回転し、バルディッシュの柄をフルスイングでその横面に叩きつけたのである。





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