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第934話 彼女は幕営地に五芒星を描く

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第934話 彼女は幕営地に五芒星を描く


 彼女の考えた襲撃作戦は以下の通り。


 最初に、彼女の放つ『(Magi-)(Arbalest)(Imber)』で幕営地を攻撃し、サラセン軍に混乱を起させる。


 続いて、二部隊に別れ『逆五芒星』を描くように右回り、左回りに別れサラセン陣地内を襲撃して回る。


「今回、剣を合わせるのは認めないわ」

「つまり、切り結ぶような足を止めた戦いを止めるという事ね」

「ええ。速度重視、今回の目的は、相手を混乱させ疑心暗鬼にさせることで損耗を強いることにあります」


 天幕を焼き、食料を奪い、水を無駄に使わせ、襲撃を警戒させることとで休息を与えない。攻囲軍が籠城側に強いる環境を、攻囲軍に強いる作戦。


「食べ物や武器は積極的に収納してもらえるかしら」

「当然」

「なるべく良さそうな武器ね。マスケットや火薬が手に入ると良いわね」

「了解です!!」


 親衛軍は銃を装備した部隊であり、攻城砲も当然存在する。火薬や弾丸、銃は鹵獲すればそのまま使えるだろうし、大砲もガメることができれば、攻撃を遅滞させることができるかもしれない。大砲も溶かせば弾丸に出来るだろう。


「油も欲しいわね」

「肉もあると良いですね!!」

「BBQかよ……でございます」


 という感じで作戦を確認する


「セバス、あなたはカルを護衛に着けるので、城壁の破損個所を外側から土魔術で補修、硬化させておいてちょうだい」

「……え……」

「襲撃には不参加にしておくのだけれど、他に仕事を与えます」

「は!!」


 ここでも土木工事かよ!! と憤懣やるかたない歩人に「いやなら日中でもかまわないわ。サラセンの砲弾が飛んでくるでしょうけれど」と言われ渋々承諾。


「カル、申し訳ないのだけれど、あなたにセバスの護衛を委ねます」

「なんででしょう」


 襲撃組から外されたカルが不満そうに返事をする。彼女は小さくため息をついて答える。


「……アグネスの身の安全の為よ」


 小さな女の子とおじさんを夜、暗がりで二人きりにするわけにはいかない!!


「なっ!! そ、そんなことしねぇよぉ!!」

「「「なるほど」」」


 本人を除き、全員が納得していた。





 右回り部隊は彼女とアグネスと灰目藍髪、蒼髪ペア。左回り部隊は、伯姪と赤毛娘、茶目栗毛と赤目銀髪。


「アグネスのことフォローしてちょうだい」

「承知しました」

「よろしくお願いします」


 今回水魔馬は置いていくことになる。襲撃は素早く、気配隠蔽をしながら速やかに幕営地を蹂躙するからだ。馬は目立ちすぎる。


「先に行くわよ」

「突入のタイミングは、魔術を放ってからね」

「わかってるわ!!」


 左回り部隊が城壁の下へと音もなく降りていく。


「セバス、皆を先に降ろしなさい」

「はいよーでございますお嬢様」


 魔力の少ないアグネス達には歩人が魔力壁の足場を作らせ、下へと移動させる。


「先に行きなさい」


 右回り部隊の指揮を灰目藍髪に委ね、彼女は後で合流すると伝える。


『主、支援はお任せください』

「守ってあげてちょうだい」


 その後を『猫』が追う。


『過保護な母親だな』

「普通でしょう。それに、初めての子もいるのだから。油断は許されないわ」


『魔剣』の言うのはもっともだが、アグネスがどの程度一期生に付いて行けるのかは疑問なのだ。魔力量には恵まれていないものの、三期生のトップはアグネスだと彼女は見ている。経験を積ませるに否はないが、実力をすべて出し切れない可能性もある。心配でないとは言い難い。


『燃え上がらせれば明るくなる。死角も生まれるし、混乱もする。問題ねぇよ』


 それもそうかと納得し、彼女は魔力壁の階段を上り射撃位置に向かうのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『マグスタ』の城壁は、攻城砲に耐えられるように改修された低く分厚い壁でできている。とはいえ、監視塔と砲台を兼ねた円塔は高さ15mほどある。そこから、登る事100mほど。足元にはサラセンの幕営が広がる。流石に銃や弓の射程外に陣取っているが、近づけない距離ではない。


『お、あいつらあんな所にいるじゃねぇか』


 身体強化を使わず『気配隠蔽』だけを用いて進んでいる。


「斥候系が偏ってしまったわね」

『問題ねぇよ。サラセンの奴ら勝ち戦だと踏んでやがるだろ? 罠なんか用意するわけがねぇ』


 伯姪には茶目栗毛と赤目銀髪がついている。歩人が参加していれば彼女の部隊に置いたであろうが、今回は本業の土木工事についているので別行動。とはいえ、冒険者の経験もそれなりに多い一期生であるから、そこまで不安はない。


『アグネスって娘もそれなりにやれるだろ。あいつら斥候能力高いからな』

「それもそうね。良い経験になると思うわ」


 暗殺者養成所出身者、特に年長組は専門的な教育を受けている段階であった。茶目栗毛が見極め失敗で処分されたのに対し、年長組四人はクリアしている。それを考えれば、相応の段階であろう。


『そろそろ始めるか』


 彼女は詠唱を始める。かなりの魔力を込めゆっくりと発動させていく。


――― 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)


 天空に現れる赤い塊。火球が無数にサラセンの天幕へと落ちていく。見張のサラセン兵が大声を出し、伝令に使う半鐘が掻き鳴らされる。


『火矢が放たれたように見えるな』


 天幕に突き刺さる火球。そして徐々に炎が大きくなるように見える。その範囲は100m四方ほどだろうか。十万の幕営地としては僅かな範囲でしかない。


「さあ、どんどん行きましょう」

『おう。出し惜しみなしだぞ』


――― 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)


――― 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)


――― 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)


――― 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)


 狙われたのは、五芒星の中心に当たる範囲の幕営地。恐らくは司令部と糧秣の集積所が配置されているとみられる場所である。


『もういいだろ』

「ここいらで合流しましょうか」


 宙を斜めに走り、先行する右回り部隊に合流する為、彼女は全力で駆け下るのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 気配を消して幕営地の外周に接近していた右回り部隊の横に彼女はシュタッと降り立った。


「お待たせしたわね」


 ギョッとするアグネスと、ああ来たのかとばかりに普通に接する一期生の温度差が激しい。


「燃えてるな」

「良い感じで騒いでいるわね」


 蒼髪ペアの今日の装備は片手曲剣。一撃離脱なら長柄は使いにくいだろうと剣と小盾に変えたのだ。灰目藍髪も同様。


「命令を出している者だけ倒しましょう」

「食料は?」

「あるだけ回収しましょう。飢えれば退くわ」


 腰に下げた魔法袋をパンと叩く青目蒼髪。回収することを考えると、やはり今回は片手装備に限る。小楯は腕にでも通しておけばよい。


 まずは目についた攻城砲をギる。あるいは、カッパぐ。


「うわぁ」

「船仕舞うほどじゃない」


 彼女の行動に、久しぶりに同行する蒼髪ペアが驚く。メンバーが増える前は前衛として冒険に同行させていたが、今ではすっかり部隊長格。あまり一緒に行動することはない。


「これを使って」

「はい! どんどん燃やします。食料があったらお知らせしますね」

「お願いするわ」


 アグネスに脂玉を渡す。固形が『脂』、液状が『油』。今回は脂玉に火をつけ幕舎に投げ入れ燃え上がらせる。


 次々と火を放ち、幕営地は黒い煙が舞い上がり混乱する声や、武装を身につけ、あるいは兼だけを片手に飛び出してくる兵士や戦士で溢れかえる。


『敵だ!! 殺せ!!』


 巨大な曲剣を掲げ、周囲の兵士に指示を出す戦士に灰目藍髪が近づき、愛用のバスタード・ソード(摺り上げ短め)の魔力を纏った切っ先で胴を薙ぐ。


『があぁぁ!!』

『戦士長!!』


 いきなり現れた剣を持つ細身の戦士に、頭一つ大きな体を持つ戦士長が一振りで斬り倒され周囲が凍り付いたように動きを止める。


「それいただき!!」

 

 一瞬で飛び込んだ青目蒼髪が、倒れた戦士長の遺骸の握る巨大な曲剣を持ち、思い切り周囲を斬り払う。


『ぎゃああ!!!』

『ぐべぇ』

『ごひゅ』


 腕を斬り落とされた程度で済んだ者は幸運であり、腹や胸を切裂かれたサラセン兵は呼吸一つの間に絶命していく。


「おわった?」

「お前も仕事しろ」

「してるわよ。この辺は徴用兵の幕舎ね。あまり良い装備も食料もないみたい」


 天幕から出てきた赤目蒼髪が背後に『小火球』を放ちながら青目蒼髪に答える。


「先生」

「親衛兵の幕舎に期待しましょう。恐らく、この先、中心近くにいるはずだわ」


 先ほど重点的に 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)』で焼き払った司令部周辺をかすめるように移動すれば、恐らく良い収穫があるだろう。消火に奔走する親衛兵の幕舎から装備をいただき、しかる後、焼き払うのだ。


「サラセンの銃を持ちかえると、シャリブルさんが喜びそう」

「そりゃいい考えだ」

「金額じゃないよ気持ちだよ」

「「あはは」」


 蒼髪ペア楽しそうで何より。どうやら青目蒼髪は巨大な曲刀を気に入ったようで、バスタード・ソードのように振り回し進路を切り拓いていく。元手がかからない装備、壊れるまで思う存分振り回すと良い。


『あれ、どのくらい持つだろな』

「結構丈夫なはずよ。あれは、サラセンの戦士が馬ごと相手を斬り殺す為の剣だと思うわ」


 俗に『斬馬剣』などとよばれる巨大な曲刀は、鎖帷子も馬の首も一振りで斬り飛ばすことができるほどの巨大な装備であり、馬の加速を刃に乗せすれ違いざまに斬り飛ばすことを目的としている重量のある曲刀。銃が広く用いられる今時において、珍しい武器だと言える。恐らく、身分を示す様な役割を果たしていたのだろう。





『逆五芒星』を描くため、最初の一撃を終え、幕営地外周から、再度の突入へと移る為、一息つく右回り組。親衛兵の幕舎をかすめたのだが、思うような成果を得られなかった。


――― つまり、かっぱげなかったのだ。残念。


 一度目の襲撃である程度場に慣れたことから、アグネスを護るよう指示をしていた『猫』に先行して良きかっぱぎ場を探すよう指示を出している。上手くいけば、次の突入以降、成果が出せるかもしれない。いや、かならずかっぱぐ!!


 サラセンの食料と武器をかっぱぐのは正義!! 盗人ではなく戦利品!!つまり、正当な報酬なのである。あとお土産。


 ちなみに、ピクシーの『リリ』は彼女の髪の中で寝ている。就寝時間なので眠ってしまっているのだ。伝令だけでも疲れ切った模様。


『主、ご案内いたします』


『猫』が戻ってきた。彼女は先頭に立ち、再び火事場泥棒……サラセン軍の幕営地へと突入するのであった。





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逆五芒描いて贄を幾つも捧げたから悪魔が呼べるな オジサン歩人が居ればうっかり呼び出しそうだけど
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