第925話 彼女はモモクリ島の修道院跡を捜索する
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第925話 彼女はモモクリ島の修道院跡を捜索する
あまり王国内では見かけなくなったようだが、盗賊などを処した場合、村の入口や街の門前に死体を吊るしておくことをする。要するに、同じようなことをすればお前たちもこうなるぞという威嚇である。
攻城戦などで包囲された側を威嚇する為に、捕らえた兵士や周辺住民の首を刎ね、その首を城内に投石機で投げ込むということもある。次はお前らがこうなる番だと。
そして、海賊を捕らえた場合はといえば。
「皆との手前の岩などにさらすんだよ」
と義兄ギャラン提督は彼女に説明する。どうせ暫くすると死体が腐り、重たい下半身に耐えられずに腰のあたりで千切れるからと、死体を最初から胸の下あたりで斬り飛ばして「ほら軽くなった」とか説明するのは止めてもらっていいでしょうか?
「何事も手早く効率的にやらないとね」
リリアル生もお手伝い。魔力を纏った魔銀鍍金仕上げの剣で一刀両断。先ほどから、船縁に並べたサラセン海賊の下半身がドボンドボンと海へと落ちていくのを眺めつつ「慣れていくのね。自分でもわかる」と伯姪が横で呟いている。
――― 慣れないでもらいたい、こんな作業に。
海賊船で使い物になりそうなのは最初に遠距離から攻撃し雷の雨を降らせた一隻と、赤毛娘が暴れて海賊を叩き落とし払い落した一隻の合計二隻。その二隻に救助した漕ぎ手奴隷たちを乗せ、残りの使い物にならなさそうな四隻のうち、一番マシなものに海賊を乗せる。
『聖ブレリア号』やニースの軍船には乗せないのか? そうです、臭いんです。載せると臭いが移るんです。だから駄目。
古びた帆を操作する麻縄を切り落とし、その縄を岩に巻き付け海賊除けの『印』を吊り下げていく。
「狼や鴉でもやるわよね……あれ」
「同じくくりで問題ないのでしょうね」
鴉は賢いので、ここに鴉を殺せる者がいると知らせると寄ってこないとか。畑などに殺した鴉を並べておくと、畑を荒らさないとされる。反対に、しつこく攻撃してくることもあるようだが。敵を忘れずに。
「あの破損した海賊船を回収して、何に使うのよ」
そう。常にもったいない精神を発揮する彼女は、自身の魔法袋に三隻半壊海賊船を入れた。フスタ船と呼ばれる1本マストの海賊ガレー船は『聖フローチェ号』ほどの大きさで細身。三隻程度は入るのだ。
「薪の足しにでもなると思って」
「燃えないわよ。湿気てるんだから」
「……」
乾かせば直ちには問題ない……はず。
時間的にはこのまま島の続く海域を夜に通過するのは宜しくないという判断もあり、海賊が潜んでいた『モモクリ島』の湾に船を入れて投錨することになりそうだ。
「本来は、夜は移動しないんだよ。あの魔導船なら、岩礁でもなんでも破砕して突き進めそうだけどね」
取りあえず、海賊船は粉砕できることは確認できている。しなくていいんだよそんなこと。
そして、黒目黒髪を唆し……いや強要して無理やり海賊船に『聖ブレリア号』を突撃させ粉砕したジジマッチョ団は……
「わ、儂、反省しとるのだ」
「あたりまえです!!」
赤毛娘を筆頭に、冒険者組に正座させられていた。「いいから正座」といわれ、もう一時間は正座させられている。
「も、もういいよ。ゆ、赦してあげようよぉ」
自責の念に駆られ(いや君は一切悪くない)黒目黒髪が止めに入ると、爺共がキラキラした目で見つめてくる。
「駄目。爺になっても加減ができないと、この先苦労させられるんだから」
「えーと……アンナちゃんもよく、暴走してるんじゃないかな……」
「それはそれ、これはこれ。偉い人は言いました。心の中に棚を作れと」
「その偉い人って……」
はい、たぶん彼女の姉です。偉くないよ、そんなに。辺境伯三男坊夫人だよまだ。
ジジマッチョ団反省会は、その後夕食時まで続くのであった。
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小型のガレー船である「ホイス」の漕ぎ手には御神子教徒の奴隷が少なかったのは少し残念であった。下級の戦闘員が漕ぎ手を兼ねているので、解放できた同胞がいなかったのだ。なので、幹部は処刑、なもなき若い海賊の生き残りはマレス島に行き騎士団艦隊のガレー船で奴隷の漕ぎ手となる事が確定。後から訪れたニース海軍の帆船の船倉にぶち込まれた。
海賊が根城にしていた『モモクリ島』。本来、春先から活動し、秋には暗黒大陸北岸にあるサラセン領の港街に帰るのが通例なのだが、この時期まで残って活動していた理由は推測できる。
「教皇庁艦隊あるいは神国艦隊の監視部隊を兼ねているんだろうね」
というのが聖ブレリア海軍提督の見解。クルス島から帰還する神国艦隊が悪天候で散りじりになり、サラセン海軍……海賊の襲撃を受けあるいは、難破・漂流して拿捕されるという事例が多く生じていた。
本来ならオフシーズンなのだろうが今年は残って長く活動する理由があったということだろう。
「海賊船には大した書類が無かったのよね」
「そうだね。長期航海するつもりが無かったから、この島にある拠点にでも纏めて保管されているかもしれないね」
ギャランはどうやら彼女たちに島の捜索をさせたいようだ。確かに、二人を始め、リリアル生はこの手の潜入や捜索は得意な分野だ。船乗りや兵士より向いている。
「誰を連れていくかね」
彼女は思案し、三期生の魔力持ち年長組の二人を選ぶことにする。加えて赤目銀髪と茶目栗毛。伯姪には残ってもらい魔導船の指揮とジジマッチョ団の暴走を監視してもらう。身内の方が厳しくできるのでそれは仕方ないよね。
島の西側にある小さな砂浜のある場所に海賊の船着き場があり、そこは少し開けた野営地になりそうな場所がある。そこから背後の岩山のような丘を登ること1㎞弱ほどの場所に廃棄された修道院がある。
正確には、教皇庁領がこの島を治めていた時代、古帝国が蛮族の侵入にが繰り返されたことにより徐々に崩壊していた結果、現在の教皇庁領にも多数の蛮族が入り込み襲撃を繰り返した。蛮族の襲撃を避けるため、あるいはサラセン海賊の襲撃を避けて隠棲する場所として、『モモクリ島』は良い場所であった。
とはいえ、教皇庁の力が衰え、周辺の都市の海軍も力を失うとサラセン海賊が周辺の海域の支配者となった。加えて、無駄にデカい国王がサラセン皇帝と同盟を結んだ結果、この島の修道院は壊滅的な襲撃を受け、サラセン海賊の前線拠点として使用されることになる。
以前は、法国沿岸を荒す際、破損した船を修理したり、怪我人を一時預かる療養施設などを設置していた。マレス島へのサラセン攻撃が頓挫し、それ以降は襲撃の規模も縮小している為ことから、この場所を利用する海賊は減っており、今回のような小規模海賊が時期外れの襲撃を企てる隠し拠点として利用されているようだ。
「遠い」
「高さもかなりあるわね」
海賊たちが頻繁に歩いていたような足跡はない。遠目で見た廃修道院は石壁などが残されており、小規模な砦としては十分機能しそうな程度は遺構が残っているようだ。
「何が出るかな」
「何が出るかな」
三期生年長組の魔力持ち『アグネス』と『カル』は楽し気に歩いている。学院からあまり出る事もなく、決まった場所に行くだけの生活からすると、海賊討伐の危険があるとは言うものの、今回の遠征も楽しめていると思われる。
「宝でも隠されていれば面白い」
「あまり稼いでいるようには見えませんでしたよ」
赤目銀髪の希望的観測に、茶目栗毛が否定するような言葉を重ねる。単純に考えると、海賊行為で利が出ていれば、秋口の海の荒れ始める時期には内海南岸の地元の港へ帰るのが普通なのだ。儲かっていないから粘ってこの地で越冬し、来年の襲撃では先んじて襲撃を行おうと考えていたのだろう。それが飛んだ裏目に出たわけだが。
修道院のある丘は島のほぼ中央にある。四方を見渡せる場所にあり、『監視所』にも適している。宝物を隠していることもあるだろうが、見張役の海賊が残っている可能性もある。それを探したいと思うのだ。
『我が主、私も参加して宜しいでしょうか』
「鼠がいるかもしれないものね」
『猫』も遠征に同行している。ピクシーの『リリ』は、空中を素早く移動し、あるいは姿を消して様子を伺い、簡単な魔術も使えるのだが、非力であり幼児に近い理解力なのである。自分なりに判断したり、気がついたりする能力に乏しい。おそらく、それほど成長しないとも思われる。
なので、今日は伝令役を果たしてもらったことで力が尽きたのか、彼女の頭巾の中で眠ってしまった。子供はすぐ寝る。
海上では『猫』の存在はさして役に立たない。海賊が乗り込んでくれば、豹ほどの大きさまで体を大きくさせ、冒険者組並みに爪と牙で敵を切裂き、姿を隠し活躍するだろうが。キュプロス島への潜入時には大いに活躍することだろう。
修道院は古くからある形式のそれであり、50m四方ほどの石壁で囲われ、T字型の礼拝堂と修道院が一体になった建物があるだけの場所だった。
『海賊の生き残りはこの場にはいないようです』
「少し周りを確認して来てもらえるかしら」
『承知しました』
どうやら、全力での出撃だったようだ。恐らく、見張り役の海賊が彼女達の船を発見し、そのまま駆け下って知らせ、急いで島影へと入り込んで待ち伏せたのだろう。
石壁で囲われた質素な修道院の中は一部屋根が抜けており、その場所に梯子が掛けられていた。
「先生! 確認して来てもいいでしょうか」
「気を付けてね」
「はい!!」
いつもはお姉さん役を担っているからか落ち着いた雰囲気のアグネスだが、今日は面倒を見なければならない年下たちがいない事からか少々子供還りしているかのように口調が軽い。軽いまんまの妊婦もいるのだが。
梯子と言っても縄梯子。そのまま屋根の上に出て、監視していたようだ。
「なんにもないですね」
下を向いたアグネスが報告する。
「隠し部屋を探す」
「……私は外壁の周辺を確認して参ります」
修道院の中は赤目銀髪、敷地の外周を茶目栗毛が確認するようだ。
「私たちは、敷地の中の地面や修道院の外壁を確認しましょう」
「「はい!!」」
二人は相変わらず「何かあるかな」を口ずさみつつ、楽しそうに外へと駆け出していく。
『何にもねぇだろうけどな』
『魔剣』の言葉に、それはわかっていても海賊の隠し財宝というロマンを探すことをやめるつもりが彼女には無い。金欠故に居残りしていた海賊とはいえ、自分たちが持ち帰る略奪品をどこかに隠していてもおかしくはなく、その場所が分かりやすい『海賊港』の小屋よりも、この修道院の敷地の周辺である方が護りやすいだろうと思われる。
「特に書類なんてないのよね」
『海賊に命令書があるなら、そりゃ海軍だな。私掠免状に似たサラセンの皇帝か提督、地方総督の許可証の類はあるかも知れねぇけどな』
その昔拿捕した私掠船にも免状は保管されていた。それが見つけられたとしても「お宝」とはいえない。マレス島に持ち込んだら、海賊討伐に箔がつくくらいのことだろう。それに、持っているのは海賊の首領自身が身につけているか、船に乗せているだろう。
修道院の外壁を確認しつつ、壁などを叩くが、城塞ならともかく、このような簡素な修道院に『隠し部屋』があるとは思えないので、あくまでも確認だ。
「見つけた」
「……これは、書箱のようね」
赤目銀髪は、梁の陰に隠されていた木製の綴箱を手に持ち表へと出てきた。中を確認すると、所謂「感状」の類なのだろうと推察される。
「読めない」
「……私も同じね。サラセン文字は学んでないもの」
感状だと思う理由は、書式がそれであろうと考えられるからだ。それに、年月日が記載されており、何らかの戦いに協力したことを感謝しているように思われる。
「けっこうある」
「そうね。割と名の知れた海賊だったのかもしれないわね」
彼女は赤目銀髪から書箱を受け取り、魔法袋へと収める。しばらくすると茶目栗毛も「何もありませんでした」と帰ってきた。
「何もないかな」
「何もないかな」
ちょっとテンションの下がった二人の三期生も散々地面を探して、膝を汚した姿で戻ってくる。
「海賊のお宝探しはまた今度にしましょう」
日が沈みつつあるのを確認し、足元が確かな間に魔導船へと戻ろうと皆に声を掛ける彼女であった。
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