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第924話 彼女はサラセン海賊を処す

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第924話 彼女はサラセン海賊を処す


DONN!!


「面倒ね」


ZUU……


「一々縛り上げてマルス島まで連れていくよりも、止めを刺して海に放り込むほうがいいでしょ?」


DANN!!


「先を急ぎたいもの、当然ね」


GUGU……


 ひっくり返っているサラセン海賊の首元にバルディッシュとバデレールで止めを刺していく。魔力を纏わせれば簡単に止めを刺せるので問題ない。


「この漕ぎ手はどうするのよ」

「ニース海軍に任せるわ」

「それはそうね。私たちでは管理できないもの」


 甲板の下、漕ぎ手のいる下甲板は海賊たちが討伐されたと知り助けを求める大声が聞こえてくるが、そんなものは後回しである。


『アリー 呼んでこようか?』

「お願いできるかしら」

『もっちろん!! リリにおまかせ~』


 離れた位置にいるニースの魔導船と帆船を呼びに、伝令役にぴったりのピクシーが飛んでいく。


『海鳥に食われねぇよな、あいつ』

「……微妙ね。多分大丈夫よ」

『だといいな』


 一通り止めを刺したのち、錨を投げ入れ動かないようにした上で、一先ず『聖ブレリア号』へと戻ることにする。冒険者組が突入したもう一隻の海賊船は既に沈黙しており、何か海に投げ込んでいる様子から止めも刺し終わったように見て取れる。


「戻りましょう」

「そうね。手伝う事が残っていると良いわね」


 再び中空を蹴り、彼女と伯姪は戦闘が続いているであろう魔導船へともどるのであった。





『聖ブレリア号』を挟みこもうとしていた二隻の海賊船は、接舷して乗り込もうとしているところを、謎の魔術攻撃を受け海賊たちが海へと落ちていく最中であった。


「とぅ!!」

「やぁ!!」


 三期生の魔力持ちの子たちから、黄色い光の矢が飛んでいき、海賊の胸辺りに命中すると叫び声を上げて海賊が転落し海へと落ちていく。


「……なにかしらあれ」

「あれは、ちびっこ共が改良した小火球だな」

「「え」」


 ジジマッチョは腕を組みつつ「知らんかったのかお前たち」と視線も動かさず言ってのけた。名付けて『小火(Magi-)(Arbalest)


「小火球よりも随分と威力がありそうですね」

「だが、魔力量は半分くらいだそうだぞ」

「「え」」


 魔術はある意味イメージの産物であり、小火球が球形なのはそれが一番簡単な形だからである。只大きくして威力を高めるのなら、『大魔炎』のように魔力を注ぎ込む量を増やせばよい。


 ところが、魔力量の少ない三期生の魔力持ちの子たちにはそんなことは望めない。それならば、弓銃の『(Bolt)』のような形に魔力を整え、点で命中するようにすれば剣の『突き』のように威力が増すのではないかと考えた。加えて、林檎の実ほどの小火球よりも『矢』の形に整える方が魔力量も少なく、速度も増すと考えたようだ。


「割とよく考えられておるな」

「その様ですね」


 彼女はそう思いつつ、先ほど自身が放った『雷』の魔術を小火球で再現できないかと考えていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「おや、前方の二隻、逃げ出しそうじゃな」


 六隻で包囲する予定が、既に四隻が無力化されていると判断した前方の海賊船二隻は、船首を旋回させ風を背に逃げ出そうとしている。一般的な帆船とガレー船であれば帆の数が多い分速度が出る帆船が有利のように思えるが、小回りの利くガレー船にも有利な点がある。島陰に逃げ込んだりすれば、追いかけてこないと判断したのだろう。


「あいつら放っておくか」

「いいえ。あの二隻は他の船より大きいようです。おそらく、この海賊船団の首領が乗っているのではないでしょうか」

「そうだろうな。追うか」


 ジジマッチョの確認に彼女は頷く。


「『聖ブレリア』は前の二隻を追跡。私たちは、いま交戦している二隻を始末してから追いかけるわ」

「わ、わかりました!!」


 黒目黒髪は頷き、三期生達は牽制の魔術を放ちつつ、交戦している海賊船との距離が近づかないように警戒している。


「黙らせたらいいのよね」

「そうね。先ほどの焼き直し……いえ、新しく試したいことがあるわ」


 そこに三期生の一人が話しかけてくる。


「院長先生! あっちの海賊もやっちゃっていいの?」

「そうね。武器を持って向かってくるなら処して構わないわ」

「聞いたかみんな!!」

「「「おおぉぉぉ!!」」」


 ダガーと羊飼いの斧を掲げ、三期生達はやる気を見せている。いや……殺ル気だろうか。


「魔導外輪全速前進!!」

「「「全速前進!!」」」


 徐々に加速していく魔導外輪。既に勢いを増しつつある船足。慌てて彼女と伯姪は魔力壁の足場を形成し、こちらの様子を伺いつつ櫂を用いて船首を旋回させる交戦中の海賊船へと向かう。


「便利なあれで纏めて仕留めちゃいましょう!!」


 便利なあれって……まあそんな扱いでいいのだが。


 魔力壁を蹴って進む二人。すると、逃走しようとしている二隻のうち一隻の甲板が激しくはじける。何やら小さいものが暴れている様子。


「なにやってるのよ」


 赤毛娘がメイスを振り回し、海賊たちをかっ飛ばしているのである。かっ飛ばされて海に落ちた海賊たちは、どうやら水魔馬が海藻で絡めとって海の底に沈めているように見える。


「あの船は任せて良さそうね」


 海藻に雁字搦めにされ溺死させられるのは……まあドンマイ。海賊は楽に死なせてもらえないということだ。


 先ほどのガレー船よりも至近にある海賊たち。寄せる為に必死に漕ぎ手に怒鳴りつけている海賊たちの声が聞こえてくるほどだ。その距離50m。


 魔力壁で足場を作りつつ、赤毛娘が暴れる海賊船の隣、目標の斜め上空へと駆け上がる。


小火(Magi-)(Arbalest)』を元に、『|雷《 tonitrus i》(ignis)驟雨(Imber)』をアレンジした魔術。


――― 『(Magi-)(Arbalest)(Imber)


 海賊船に、黄色い雨が降りそそぐ。潮で湿っても得ないはずの帆が点々と燃え上がり、やがて帆全体が松明のようになる。甲板で大声で差にか叫び、こちらに剣を向け、あるいはマスケット銃や弓銃で狙いを着けていた海賊たちの体を、黄色い炎の大針が貫いていき、ある者は頭に穴が開き、ある者は体のどこかしらを燃え上がらせ転げ回っている。甲板にあった火薬樽は爆発、周囲にいた何人かの海賊は海に落ちたが浮かぶことなくそのまま沈んでいく。


「うわぁ」

「……お、思っていたより効果があったみたいね……」

「漕ぎ手の奴隷は無事かしらね」

「……」


 幸い、帆は燃えたが甲板の木を燃え上がらせるほどではなく火薬の爆風でボヤ程度の火も吹き消されたようだ。無事消火!!


 甲板上には立っている海賊はおらず、魔力壁から甲板へと駈け下り、先ほど同様、倒れ伏しあるいは痛みで転げ回る海賊たちに止めをさしていく。


 すると『聖ブレリア号』が向かった先の当たりの空間から大きな音が聞こえ、何かと視線を向けると……


「あー やっぱりね」

「やるのではないかと思っていたわ」


 一隻の海賊船に追いついた後、そのまま突進し『衝角』でケツを蹴り上げたのだろう、後部を失った海賊船がそのままバリバリと砕かれていく様子がみてとれる。


「あれはそのまま転覆? 沈没するんじゃないかしらね」

「……漕ぎ手を助けないと、おぼれ死んでしまうわ」

『その辺考えてなかったんだろうぜ。脳筋共』


 伯姪と彼女はそのまま隣で暴れている赤毛娘をひったくるように連れ去り、水魔馬に乗る灰目藍髪に救助を手伝うように声を掛けると、被災現場に向け全力で中空を走りだすのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「船を出すわ」

「そうね」


 魔導外輪の試作船『リ・アトリエ』を海面に出し、赤毛娘に舵を委ねる。細かい芸当が苦手な赤毛娘に、魔力壁で足場を展開しつつ、沈みゆくガレー船の漕ぎ手を救助し海賊を処するのは難しい。マルチタスク苦手。


「船長をお願いするわ」

「了解しました!!」

「救助者を乗せるから、あの崩れかけのガレー船の側迄寄せるのよ」

「お任せあれ!!」


 全力で進まないで良いので、ちゃんと寄せるんだぞ赤毛娘よ。


『アリー呼んできたよー』


 そこに、ピクシーの『リリ』が戻ってくる。帆船が小さく見え、魔導船がその前を進んでくるのが見て取れる。


「見えてるんじゃない?」

「沈没しそうなのに気が付いてくれているのね」


 切り分けに失敗したケーキのように崩れている海賊船。まるで、解体模型のように内部が露出し、大騒ぎしている漕ぎ手と、危険を感じて海へと飛び込む海賊とに分かれている様子だ。


「先生、お待たせしました」


 灰目藍髪が水魔馬に乗り追いついてきた。早いぞ水魔馬!!


「あの、破壊された海賊船の周りに浮かんでいる海賊たちの始末をお願いしてもいいかしら」

「はい。生かす必要は……」

「ないわ」

「承知しました」


 恐らく、拘束するだけで沈めないで済ませることも水魔馬にはできるのだろう。溺れそうな漕ぎ手たちを水面に浮かべておくことも、海賊を海底に沈めることも自在と言ったところか。


 水魔馬が海豚のような速度で水面を進み、やがて海に頭だけ出して浮かんでいる海賊の側まで近づくと、海賊の頭がトプントプンと音が聞こえるかのように水面から姿を消す。


 時折水面を叩くような手が見えたりするが、それも一瞬。


「海では仲良くしておきたいわね」

「いつも仲良しにしておく方がいいと思うわ」


 水魔馬は、『水』の精霊に近い魔物。水の精霊魔術が得意である。つまり動く給水塔。海の上で真水が自在に幾らでも出せるのは凄い事である。仲良くしようぜ!!





 彼女達は破壊された海賊船に近寄り声を掛ける。ラアラア叫んでいる漕ぎ手たちは、手足を鎖で床に固定され船が沈みそうだということで恐慌状態に陥っている。


『黙りなさい』


 魔力を込めた声を叩きつけるように発すると、漕ぎ手たちは一瞬硬直し静かになる。


『私たちはニース海軍の魔術師。今から鎖を断ち切り、あなた達を解放します。見えるかしら、あの船で救助します』


『リ・アトリエ号』には精々二十人ほど乗れなさそうなので、ざわつく。


「時期に、ニース海軍の軍船と帆船が来るわ。衰弱の激しい者は船に乗せ、浮かんでいられる者はこちらで補助するから海に浮かんでいればいいのよ。あれは魔導船だから、あっという間にこちらに来るから。安心しなさい!!」


 リリアルうんぬんいっても、恐らく内海周辺民には理解できないだろうと、ニースの名を使う。海賊討伐でそれなりに知られているニースの海軍ならば安心するだろう。助け上げるのはニース海軍の軍船なので嘘ではない。『聖ブレリア号』はクルス島直行便なので乗せるわけにはいかないのだ。





 魔銀のサクス(ダガー)で手足を拘束する枷を断ち切り、あっという間に解放しつつ海へと投げ込んでいく彼女と伯姪。数が多いので一々船まで送っていけません。


 ドボンドボンと落とされる漕ぎ手たちを、水魔馬が海藻網ですくいあげ、そのまま赤毛娘が寄せてくる『リ・アトリエ号』の側へとスッと運んでいく。


『あれ、楽しそうじゃねぇか』


『魔剣』の呟きを無視しつつ、彼女は次々と漕ぎ手たちを解放するのである。





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脳筋ってことはリリアル精神の体現者だな 順調に次世代が育ってるな
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