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第923話 彼女はクルス島に向け出航する

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第923話 彼女はクルス島に向け出航する


 既に、学院帰還組はニースを離れている。遅れること一日、彼女の乗る魔導船『聖ブレリア号』もニースを出航することになる。


「朝早く出航するのね」

「普通は明るい間に港から港へ移動するか、沖に出るものだからね。暗いと暗礁も見つけられないから普通は暗い間は錨を降ろして動かないものなのよ」


 風任せの帆船は操船人数も少なくて済む分、食料や水も余り積まずに済むゆえに、風さえよければ早く目的地に到着する。反対に、ガレー船は漕ぎ手の分、多くの水と食料を乗せる為に積載量をうんと減らすか、港に毎日入港し休息と補給をする必要がある。魔導船は帆船に近い存在だが、外輪のお陰で無風でも向かい風でも十分な速度を維持することができる。人数も魔導外輪だけで移動するなら交代要員の魔力持ちが数人いれば事足りる。輸送船であればという前提だが。


 むしろ、移動のために人員を割かずに済む事から、戦闘員を沢山載せられる軍船として優秀なのかもしれない。





 桟橋には見送りに来た次兄騎士団長とその背後には……ピチピチ執事服がいる。


「お前何をしておるのだ」

「み、見送りでございますよ先代様」

「ふむ。羨ましいのであれば、そうそうに当主を息子に譲るのだな」

「う、羨ましくなんかないんだからね!!」


 ゴツイオッサン執事が何か言っております。すると、聖エゼル海軍提督がご挨拶。


「父上、お爺様とリリアルの皆さまを海賊狩りに案内してまいります」

「うむ、ギャラン、よろしく頼むぞ」


 普通に挨拶されたので、素のまま返してしまう辺境伯閣下。


「……執事ではないのか貴様は」

「見送りに来た執事でございますよ先代様」


 既にリリアル生は乗船しており、彼女らの挨拶が終わり船へと引き上げられると、徐々に『聖ブレリア号』は桟橋から離れていく。


「魔導外輪の操作も上手くなってきたわね」

「毎日のようにここしばらく動かしているから当然よ」


 操舵輪を握るのは当然黒目黒髪。魔力操作にある程度熟達していないと、外輪の回転速度を思うように管理することができない。少しずつ流し、外輪を徐々に回転させつつ、左右の回転も一致させないと左右に蛇行してしまうのだ。


「あー あれってなかなか面倒ですよねぇ」

「あんたは雑だからね」

「ははは、いや、全速力だすとか得意ですよ!!」


 赤毛娘が話に割って入り、難しい主張をするが、それは日ごろの鍛錬不足でしかない。赤目銀髪や茶目栗毛、あるいは今回は留守居を務めている癖毛らは魔力操作が上手いこともあり、外輪を動かすことも難しいと考えていない。


 魔力量が多くとも、込めれば込めるほど良いと考える脳筋思考の冒険者組は、魔導外輪の操作を苦手としている。赤毛娘とか、あと赤毛娘。


「副操舵手とかになればいいんだとおもいます!!」

「どういうことかしら」


 つまり、外輪に魔力を一定量供給するだけの補助役を設けるという事だ。加減速を行う魔力操作は主操舵手が担い、副操舵手は一定の魔力を流すだけ。沖合で定速巡航する場合などは副操舵手だけでも問題ない。


「魔力操作の得意な魔力量少なめの人と組むと、あたしでも役に立ちますよ!!」


 つまり、苦手なことはそのままで、自分の長所だけを抽出できるという提案だ。いや、若い頃は苦労しろ!! リリアルは永久就職なんだから!!


「親方に相談してみればいいんじゃない」

「それはそうかもしれないわね」

「やった!! これで魔力操作地獄から抜け出せる」


 赤毛娘は不器用さんなので、魔力量を増やすことは得意だが、魔力の操作は苦手なのだ。赤毛娘がリスペクトする心の師である彼女の姉はそんなこと……あったと彼女は思い出した。誤魔化してはいるものの、細かい操作は苦手であった。つまり、『大魔炎』好きの理由はその辺りにある。小技苦手。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 既に先行しているマルス島への補給物資の輸送を兼ねたニース海軍籍の帆船が二隻。そして、聖エゼル海軍の魔導船が背後から追いついてくる。聖エゼル海軍の魔導船は『聖ブレリア号』と同型であり、兵士を百人ほど乗せている。漕ぎ手不要で風任せの操船も必要としていない為、帆操員も少なくすむので、船乗りからすれば腕の見せ所がないようだが、戦闘艦としての能力は大型ガレオンセンに匹敵すると見られているとか。


 どうやら今回の同行は、マルス島騎士団へのお披露目も兼ねているようだ。マルス島騎士団には王国南部の貴族出身者が多いのだが、騎士団自体は神国の影響が強い。ドロス島を失い、根拠地を持たなかった聖母騎士団に何もない孤島にちかいとはいえ新たな拠点を与えたのは神国なのだ。正式に騎士団領として譲られたとはいえ、元は神国領であるのだから強い関係性を有している。


 遠回しな神国への牽制と考えて良いだろう。王国に関連する内海艦隊にニース・リリアルそしてサボアの魔導船が四隻加わるとなれば、大きな影響力となる。匹敵するという海に浮かぶ城『ガレアス船』を有するのは海都国で十隻程度。神国でも同数であるから、四隻のガレアスに匹敵する魔導船四隻はそれの半数に相当する。一大戦力といって良いだろう。


『魔導騎士もだけどよ。そこにあるだけで抑止力になるってもんだろ。今回の遠征で、サラセン海賊をぶちの眼回せれば、ニース近海の活動も大人しくなるってもんだろうな』


『魔剣』の言う通り、味方にも敵にも新兵器を見せつける示威行動なのだと彼女も理解する。


「ジャンジャンバリバリ海賊狩り」

「「「海賊狩り!!」」」


 赤毛娘の変な節回しの歌に、三期生達が声を揃えて相槌のように歌を歌う。何が楽しいのかと思わないではないが、救援の前に海賊狩りだと彼女も意識を切り替える。


「旅ゆけば、山に山賊、海に海賊」

「処せば処すほど金になるー」

「「「処す処す!!」」」


 赤目銀髪もそこに加わり、変な歌を歌い始めた。今日も平常運転である。





 ゼノビアはニースの東にある国だが、大きな島を領有している。一時期は帝国の辺境伯領の一部であったこともあるようだが、教皇庁が自領であると主張していた時期もある。その後、ゼノビアが勢力を伸ばし支配下に置いた。しかしながら、在地の貴族・領主は勢力の強い者になびく傾向があり、ゼノビアが神国の影響下に入ると離反。神国の保護下に名目上収まることになった。


 とはいえ、小領主が割拠する辺境の地であり、サラセン海賊に対して積極的に反撃できるわけもない。所詮は騎士や男爵程度がいるだけであり、数百人で襲撃してくるサラセン海賊に数十人の騎士や兵士で反撃できるはずもない。


 加えて、大きな島の周囲には小さな島も存在する。法国と島の間にはそれらが存在する海域があり、島陰に隠れた海賊船が通過する商船を攻撃し、拿捕し、略奪していく。その島の名は『コルサ島』という。キュプロスやクルス島と並ぶ大きさの島だと言われる。



 ニースを出て丸一日ほど。距離で言えば120㎞程進んだろうか。そろそろ海賊が潜んでいる海域に到着する頃となる。


 時間は昼前頃。風は微風、今は一隻だけ魔導船が外輪を止めて帆走して如何にも『商船だよ』とばかりに進んでいる。海賊からすれば飛んで火にいる何とやらに見えることだろう。


「船が波に揺れるのにも慣れてきたわね」

「降りた時にまた変な感覚になるけどね」

「面白いですよね!!」

「私は……苦手です」


 赤毛娘の好奇心を黒目黒髪がバッサリ否定する。確かに、長い時間船に乗っていると、降りた時に何となく体がゆらゆらしている気がする。面白いよね!!


 コルス島を西に見ながら南下する魔導船。カプア島を通り過ぎ、やや大きなエバル島を東にみながら前方にはモモクリ島が見えてくる。


「そろそろじゃな」


 モモクリ島には少し前まで修道院が存在したのだが、サラセン海賊の度重なる襲撃をうけ破棄されたという。そこに、サラセン海賊が砦代わりに住み着き、海上をいく商船を見つけては襲い掛かってくるのだとジジマッチョから事前に説明を受けていた。


 襲われるとすればまずはこの場所であると。


 視界に入らない程度の後方を、ニースの艦隊が進んでいる。並の船なら一時間に数キロ程度しか進めない。仮に襲われたとしても、助けに来る前に一隻程度の帆船なら十分に一仕事終えられると島に潜む海賊は考えていると老船員たちは計算した。


「来ました!!」


 島影から六隻の一枚帆の小型ガレー船。サラセン海賊が好む『フスタ』と呼ばれる、漕ぎ手が五十人、海賊が五十人ほど乗る船だと見られる。


 進路を塞ぐように二隻が斜め並行して進み、背後から左右に別れて各二隻が囲い込もうと櫂を漕いでいる姿が見て取れる。


「帆を仕舞え。火矢で燃やされてはかなわん」

「「「お!!」」」


 十六人のちびっこ船員が、教官役の老船員の号令の下、するすると帆を折りたたみ巻きつけていく。海賊から見れば、大人しく降伏する用意とでも判断しているだろう。


「まだ動くなよ」

「前の二隻は放置して、左右の二隻から仕留めるのかしら!!」


 伯姪の問いに彼女は首を左右に振る。


「ラ=クロスの応用で行きましょう。三期生はディフェンス、一期生冒険者組は

オフェンス。左の二隻は先に仕留めてしまいましょう」

「なら、儂等もちびっこらに加勢するとしよう。操舵手も守ろうぞ!!」

「お、おねがいします!!」


 海賊船に飛び掛かる気満々の赤毛娘が護ってくれるとも思えず、黒目黒髪操舵手は爺共に守ってもらう他ない。懇願するしかないのである。


「前方の海賊船は放置でよろしいのでしょうか」

「近づいてきたら、衝角で突き飛ばせばいいのよ」

「わ、わかりました!! 全身全霊善処しましゅ!!」


 伯姪の断言に応えるのは半泣きの黒目黒髪。


「一応聞くけど誰が一緒に行く?」

「久しぶりに二人で暴れましょうか」

「ふふ、懐かしいわね。レンヌを思い出すわ」


 彼女と伯姪で一隻。


「なら、俺らは他の一隻でいいか」

「魔装弓で援護する」


 蒼髪ペアと赤目銀髪はもう一隻を狙う。


「お、おいら留守番でいいよな」

「セバス執事長。後輩に良い所見せてくださいませんか」

「お、おう。勿論、だぜ!!」


 そこに、茶目栗毛と歩人が加わる……らしい。


「あーじゃあ、あたしは」

「背後から奇襲というのはどうですか。幸い、マリーヌにはあと一人乗れますよ」

「よし!! わかった!!」


ラ=クロスには「攻撃」「守備」の他、「遊撃」も存在した。つまり、灰目藍髪と赤毛娘、そして水魔馬は魔導船に攻め寄せる二隻の海賊船の背後を突くという段取りになりそうだ。いいぞ!! もっとやれ!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 既に、蒼髪ペアらは海賊船に向かい、魔力壁の足場を蹴って向かっている。


「用意は良いかしら」

「いつでもどうぞ」


 伯姪と呼吸を合わせ、彼女は甲板から会場へと飛び出す。海賊船との距離は凡そ500m。弓銃やマスケットあるいは小型砲の射程外になる距離との判断。


 寄せてくる海賊船は船首をこちらに向け、櫂を全力で漕いでいるように見てとれる。


「前に出るわ」

「魔術で牽制するのね。よろしく!!」


 海の上では彼女の得意とする『土』は使えず、『水』の魔術もさほど効果があるとは言いにくい。加護を持つ『雷』の精霊の力を借りた魔術が良い。


 甲板上の海賊が、中空を掛けてくる彼女たちに気が付いたようで、俄かに騒がしさが増している。剣を向けこちらを指し示すもの、銃や弓をこちらに向け撃ち落とそうと構えるもの。


「ま、魔術師だ!!」


 何故かサラセン人が王国語を叫んでいる。中にはサラセン海賊に捕まり奴隷になりたくないからと、改宗して御神子教徒からサラセン教徒に宗旨替えするものもいる。異教徒でなければ奴隷にしてはならないからだ。


BANN!!


CHUINN!!


 魔装胴衣に命中した弾丸が金属鎧に命中したかのような音を立て弾き返される。


 目の周り以外は全て魔装衣で覆っており、顔の前は魔力壁で護り付け入る隙は無い。


「さあ、これでも喰らいなさい」


「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……『( tonitrusi)(ignis)驟雨(Imber)』」


 叩きつけられる雷の嵐。


 『( tonitrusi)(ignis)球』」を多数広範囲にばら撒く魔術。今回の遠征で、魔法袋を維持する魔力が現状不要であることが、このような

派手な魔術を放てる理由でもある。


 何しろ、魔導船二隻に加え、必要物資も常に魔法袋に入れている彼女である。常に多くの魔力を消費していた。その枷が外れたらどうなるか。クロス島で食料などの補給物資を納めるまでは大した物は収まっていない。いつのまにか意図せず増えていた魔力を使い、加護を持つ『雷』の精霊の力を借り、甲板に並ぶ海賊たちにその威を叩きつけたのだ。


『すっきりしたか』

「まあまあね」


 大半の海賊たちは失神しひっくり返るか、あるいは手足をばたつかせ痙攣している。あとは甲板に立って止めを刺すだけの簡単な仕事が残るばかりであった。




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