第914話 彼女は川賊を退治する
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第914話 彼女は川賊を退治する
「くっ、何もしゃべらねぇぞ……殺せ」
需要の無いくっころ。
DOSHU!!
「「「「ひぃぃぃ……」」」」
殺した川賊を川へと還す。魚の餌にでもなれば良い。そして、残した川賊若手に中州で尋問を進める。二期生三期生は交代で魔導船の中で仮眠をとらせ、彼女と一期生冒険者組は周囲の警戒と川賊の尋問を手分けして行っている。
どうみても自分たちより年若く、半分は子供が含まれていることを知り、強きになった川賊若手の一人が、自分の誤った選択の結果を自分の命で支払った。
「今すぐ死にたいなら、進んで名乗り出てちょうだい」
「先を急いでるんでね。まあ、あんたたち皆殺しにすれば、川賊村も干上がるから手間が省けるもね」
彼女と伯姪が真顔で伝えると、減らず口を叩く者はいなくなる。
「あんたたちは全員ガレー船行きだけど、女子供はそこまでしないでおくわ。返ってこないあんたたちを待って飢え死にするのと、犯罪奴隷になってでも生き延びるのと、好きな方を選べばいいわ」
「時間の猶予はあまり無いわ。直ぐに決めてちょうだい」
生き残りは七名。皆、成人して数年と言った世代だろう。川賊になったのは親なり年上の知り合いが皆参加しているからであって、始めたのはこの若者たちではないと思われる。
しばらく相談していた川賊から彼女に声が掛かる。
「俺達はしょうがねぇけど、子供らは救ってもらえねぇか」
川賊曰く、大人は仕方ないが子供は孤児としてどこかでまとまって引き取ってもらえないかというのだ。可能性としては、ニースの領軍の下働きや孤児院で預かってもらえるのが良いだろう。
「虫のいい話ね」
「……子供は知らねぇんだよ。川賊してるって」
「おかしいわね。奴隷にする為の人達はどうなってるのよ」
川賊の村の中には『奴隷小屋』があり、子供たちはそこに近付けないのだという。奴隷商人は「行商人」として物資を売りに来ており、奴隷はその行商人の使用人だと思われているのだという。川賊は運送の仕事もしているので、村は漁労と水上運送の仕事で成り立っていると説明されているらしい。
実際、目の前の若者たちも、川賊に参加する前に真実を大人から伝えられ、逃げようもなく加わざるを得なかったのだとか。傭兵隊の中で生まれ育った子供のようなものだろうかと彼女は考える。兵士だけではなく、兵士の家族も兵士を支える一部として傭兵隊に連なり行動を共にすることもあるし、一つの村が傭兵隊の為の村となることもある。山国などは、そんなことを地域単位で行っているとも言える。
正式に国や都市と契約して戦争するか、契約なしで勝手に収奪するかの違いと言えばそうかもしれない。
『めんどうだな』
「言わないでちょうだい」
川賊討伐、海賊討伐の前哨戦として行ってみたものの、一期生はいつもの調子、二期生は経験不足のまま、とはいえ三期生はツーマンセルで十分下っ端の賊程度なら安全に討伐できることは確認できた。二期生と三期生の年齢差とは逆に、経験値や鍛錬度合いは年少の三期生の方が上であることは間違いない。
一期生の冒険者組と比べ、二期生は彼女が連れ回していないということもあり、また、一期生に面倒を見させている故に、彼女もどの程度の立ち回りが可能なのか把握できていない。
この長期戦の中で、経験を積んでいけば問題ないと自信を納得させる。
「一先ず、川賊村へ向かいましょう。実際見て見なければわからないもの」
彼女の考えは決まった。先延ばしである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
街道のある岸とは反対側。川の支流としては大きな場所を遡る。魔導船の速度に驚き、普通の商人などではないと既に分かっていたものの、川賊が手を出してどうにかなる存在ではなかったと改めて理解する川賊若手。
「どこまで進めばいいのかしら」
「この流れの先に大きな沼がある。その中にある島だ」
ネデルの北部には、海の中に浮かぶような場所に村があり、潮の満ち引きの関係で船での移動が常である地方がある。少しずつ堤を作り水を抜き、土地を広げ都市と周辺の農地を確保して陸地を広げてきた歴史がある。恐らくは、そのような場所に拠点があるのだろう。
「あれだ」
「……コロッセウム……」
立派だろうと胸を張る川賊若手をしり目に、彼女はその建物が堅牢な人造岩石製であることを認識する。古帝国時代に、帝国各地に建てられた人造岩石製の建物。その代表的なものが『円形闘技場』コロッセウム。
その堅牢さから、蛮族の侵入が盛んにおこなわれた帝国末期以降、コロッセウムを城壁のように用いた城塞都市が存在した。王国南部にはそのまま小規模な都市として歴史を重ねている場所もあると聞く。
『川の流れが変わって、古代の地方都市が水没して、闘技場の部分だけ水上に残ったんだろうな』
『魔剣』の言う通り、よい隠れ蓑にもなり、防御施設にもなる。
「あの場所に何人ぐらい人がいるのかしら」
「……二百くらいだ」
言い淀んだ川賊若手が数を告げる。言わない事は嘘をついたことにはならない。
「それで、守備兵として残した人数は半分くらいかしらね」
「……船で仕事ができない、年寄と見習が二十人くらいだ」
「そう。嘘ではなさそうね」
少なくとも、見習の子供は助かると判断して、正直に述べたのだろう、言葉に躊躇が無かったので信じることにする。
「さて、強襲ね」
「『リ・アトリエ』で先行する方がいいかしらね」
伯姪の提案に、彼女は少し待ってと伝える。
「新装備のテストをしようと思うのよ」
「ああ、例の『投矢』ね」
留守番『癖毛』の置き土産。水と火の魔術を屑魔石に納めた攻城兵器の破壊力を持つ『投矢』。目の前のコロッセウムの門に向け投げつけてみようではないか。
川から沼に入る二隻の魔導船を指さす、見張らしき二人の人間。円形闘技場の観客席の最上段から川を確認していたようだ。本来なら、拿捕した川船とそれを引き連れた川賊の船が戻ってくるところが、水車のついた船が遡ってきたのだから驚くのも無理はない。
「降伏勧告は?」
「不要よ。先手をとるわ。用意は良いわね」
今回の手順は、『リ・アトリエ』に乗せた冒険者組に三期生年長者四人を加えたメンバーで内部に突入。若い女と子供で無抵抗なものは生かし、抵抗する者と年寄りは討伐することにしている。
どうやら、奴隷を直接サラセン人に売っているわけではなく、仲介している奴隷商人が一月に一度ほど訪問するので、商人を抑えなければ先にはつながらない。
とはいえ、先を急ぐ一行。捕らえられた人を助け、若い女子供は捕らえてニースに連行。その上で年寄と抵抗する川賊村の住人は処すことになっている。三期生年長組の四人は、それが十分できるからであり、冒険者組に絞ったのも盗賊討伐の経験があるからだ。今回は、生かして捕らえて後始末をしてくれる騎士団に当ても無いので、そういう対応をするしかない。
どの道、これまでの行為を考えれば裁判する迄も無く年寄りは処刑一択となる。手間を考えれば、面倒なだけだ。
「これって、海軍提督代理の権限で処せるわよね」
『そうだろうな。川の上は誰の領地でもねぇだろ。なら、提督の権限で判断しても問題はねぇ。そもそも、賊は生死を問わず討伐対象だ』
順法精神旺盛な彼女は、法的に問題ないかと少し気になったが、一先ず問題なさそうだと一人納得する。
先に立つ『リ・アトリエ号』は、船首を円形闘技場の入口に設けられた金属で補強された城門の扉のようなそれに向ける。魔導外輪を停止させ、距離は弓や銃が届かないと思われる程度に離れている。
円形闘技場の観客席上段からこちらに向け、弓や銃が放たれ始めるが、高さの優位があっても手前に水しぶきが落ちる程度である。
「中央を開けてもらえる」
魔導外輪船の甲板、左右にリリアル生たちがさっと別れる。大きさは騎銃ほどの長さであり太さ。槍よりずっと持ちにくい太さだ。屑魔石弾が納められているのだから仕方がない。先端は銛のような形をし、その後方30㎝ほどから中央部までが『屑魔石弾』本体。中央から後ろ半分が『柄』となる。やや前に重心があるものの、投げにくいというほどではない。
「練習通りにいけばいいのだけれど」
『お前、導線使えるだろ? 屑魔石でも効果あるぞ』
『魔剣』の言う通りかもしれないと思い、彼女は城門扉に向け、細く長い魔力の線を送る。少し山なりになるよう調整する。
「行きます」
一歩、二歩と加速し、体を捻って身体強化した前身のバネを用いて銛のようなそれを投げつける。
GWOOOO!!
風を切裂く重い音とともに、一瞬、前方で爆発が生じ、煙でコロッセウムの入口付近が見えなくなる。爆発の余波で、リリアル勢を狙っていた狙撃兵が弾き飛ばされ姿が見えなくなる。
『やったか!!』
「「「……黙れガルム」」」
弱い者には容赦しないガルムも今回の強襲には当然参加。調子に乗りつつあることもあり、皆厳しい。
「前進。乗り上げるわよ。掴まって」
『リ・アトリエ号』の舵輪を握り、彼女は魔力を外輪に供給。川船は一気に、コロッセウム前の岸へと乗り上げる。
「水魔馬で中を走り回って攪乱を。ガルム、行きなさい」
『女の尻馬に乗るのは……』
「「「……黙れガルム」」」
前脚を叩く掲げ、一気に闘技場内部へと走り出す水魔馬と、それに飛び乗りそこね地面に尻を打ちのたうち回るガルム。いいからそういうの、いいから!!
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
石壁の外壁を生かした掘っ立て小屋に近い家屋が建っている。その昔、城壁を生かした居住空間を作っていたのと変わりがないだろうか。
「私は、王国海軍総督……代理……リリアル侯爵。あなた達川賊の一団は、既に討伐されています。大人しく、投降すれば生き残れるかもしれません」
助けるであるとか、生き残れるとは言っていない。可能性はゼロではない。
「煩い煩い!! お前らなんかにゃ負けねぇぞ……がぁ!!」
十代前半だろうか、三期生年長組よりやや年嵩の少年が叫び声を上げ反論しているが、すぐさま三期生の一人二やりで喉を突き刺され倒れ伏す。
「逆らえば、ああなります。武器を捨て、両手を上げて出てきなさい。出てこない場合、小屋ごと吹き飛ばします」
彼女は視線で合図を送ると、赤目銀髪は近くにある掘っ立て小屋に脂玉を投げつけ、小火球で着火する。
「うわあぁぁ!!」
「あああ、た、助けて、助けて」
「両手を上げて出てこいと言っています!!」
『逆らう奴には容赦しねぇぞぉ、こらぁ!!』
ガルム、恥ずかしい奴。
最後まで抵抗する観客席上段で周囲の警戒をしていた老人たちを打倒し、降伏する者は一先ず、土牢に入れて置き制圧を続ける。
闘技場内を水魔馬で走りながら降伏を勧告し、逆らうものは馬上から叩き伏せる灰目藍髪に、彼女は一先ず、燃え上がる小屋の消火をさせることにする。湿った木であるからか、煙が激しいのだ。
『リリもお手伝い!!』
「お願いするわ」
ピクシーは逃げ惑う子供たちを落ち着かせる為に、なにやら魔力を放出しボーっとさせている。海賊の拠点を密かに襲撃するなら、夜の見張にあの術は有効かもしれない。
一通り子供たちを落ち着かせると、リリは戻ってきた。
『アリー、どう?』
「大活躍ねリリ」
『そうでしょー リリすごーい!!』
クルクルと空中を回るピクシー。その周辺では、子供はともかく、女は泣き叫び、年寄や抵抗する子供は打倒されている地獄絵図である。
「先生!! このおばあちゃん、何か話したいことがあるって!!」
「わかったわ」
赤目蒼髪に呼ばれ、彼女は両手を上げて目を真っ赤にしている老婆の
元に向かう。
「あ、あんたら、今度もあたしらからなんもかんも奪うんだねぇ!!」
五十は過ぎているだろうか、皺の深い髪もボサボサの女が彼女に突然罵声を浴びせた。
「ちょ、何言ってんの? 話したい事ってそんなこと!!」
焦る赤目蒼髪を制し、彼女は女に向かい話しかける。
「なにを言いたいのかさっぱりなのだけれど、他人の財産も命も奪ってきた川賊が奪われるのに文句があるというのはおかしな話ね」
そう言い放つと、女の足元に3mほどの深さの『土牢』を作り、中へと落とす。落ち方が悪かったのか、女はぐぅと声を出した後、静かになった。
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