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第899話 彼女は地下通路から突入する

第899話 彼女は地下通路から突入する


「狼死んでる!!」

「素材回収」


 赤目銀髪が地下に残されていた狼の死体を回収。毛皮ゲットだぜ!! 彼女はそういうところをあまり気にしていなかったのだが。


「毛皮テント増設希望」

「多いんですよ。魔術仕上でもふもふにするんですよ!!」

「なるほどね。最近、狼も討伐していないものね。リリアル生も増えたのだから、そういう需要もあるのかしら」

「ある」

「ありますよ!! ちっさい子は風邪ひきやすいですからね」


 三期生年少組の子たちの野営用に狼毛皮テントは必要と赤毛娘は力説する。三期生だけで十六人、うち年少組は十二人もいる。テントの五つ六つは増やさねばならない。


「ワスティンの森で狼狩りもしましょう」

「開拓民の安全のためにもいいと思う」

「猪とか鹿も刈りましょう。どの道、開拓が進めば間引かないといけなくなりますから」


 畑や果樹園を増やせば、その分野生動物の数を減らさねば食害が増える。せっかく植えた苗や作物を猪や鹿に食い荒らされてはたまらない。狼を狩ればその餌となる兎や鹿なども人が減らさなければ狼が食べない以上、どんどん増えてしまうのだから。


「兎の毛皮の敷物もあったかそうです!!」

「確実に暖かい。鹿皮も」


 鹿は外套にもいい。猪? 鑢に良いですよ!!


 地下通路へと迷わず進入。どんどん進み、設置した『土壁』の前へと立つ。壁越しに『魔力走査』を行うと、魔力を持つ個体が二つ確認できた。


「今から、土壁を壊すわ」

「上半分だけでいい」

「逃げだした吸血鬼の待伏せですか!! お任せあれ!!」


 恐らく、地下通路を逃げた吸血鬼が『貴種』に命ぜられ、ここで待ち伏せするようにと追い返されたのだろうと推測する。二人に何か考えがあるようなので、この場は委ねることにする。





「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の縛りを緩めよ……『(limus)(palus)』」


 壁が天井付近からドロドロと崩れ落ちる。彼女は二人の背後へと移動。赤毛娘がヤル気満々とばかりにメイスを構えて前に出る。その後ろには魔装曲弓に魔銀の鏃をつがえた赤目銀髪。


「うぉりやあぁぁ」


 泥に魔力を込めたメイスを叩きつける赤毛娘。泥の散弾が通路の向こうに向け飛び散る。


『うごぁぁぁ』

『ドロだらけではない……』


 言い切る前に、二体の吸血鬼に魔銀の鏃が突き刺さる。


『ぐぶぅ』

『こんなはずでは……』


 通路一杯になるほどの偉丈夫が二人。この狭い空間では避ける場所もなく、一瞬の隙を突いて前に出た赤毛娘のメイスについたスピアヘッドに首を跳ね飛ばされる。


「はいはい、しまっちゃいましょうね~」


 赤毛娘が、自身の魔法袋に二体の吸血鬼の死体を収納する間、赤目銀髪は弓を仕舞うと、罠仕掛を探りつつ先頭に立ちいち早く進んでいく。


『やる事ねぇな』

「ほんとうにね」


 一期生二人の成長を感じる。既に、一班を率いることもあるのであるから、この程度の探索の段取りはつけられて当然という事なのだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「そういえば、討伐しちゃってよかったんですかね?」


 通路を進みながら、赤毛娘は背後の彼女に問う。今さらどうにもならないのだが、従属種・隷属種の何体かは捕らえている。特に問題はないだろう。


「ヌーベ公と思われる男の吸血鬼だけは始末しないように注意してもらえるかしら」

「側女共は不要?」

「ええ。男の吸血鬼を従える為の手段に過ぎないでしょうから」


 吸血鬼の『真祖』と呼ばれる元となる存在は男であるとも女であるとも言われるが、『貴種』に男女それぞれ存在することから、別々なのかあるいは雌雄同体なのか不明だ。しかしながら、男の『貴種』は女の従属種・隷属種しか作れないので、男の貴種が男の吸血鬼の配下を持つには、女の従属種を作り、それに男の隷属種を作らせる必要がある。


 隷属種は魔力持ちの人間の魂を得ながら『従属種』『貴種』へと成長することで、二十数体の吸血鬼の配下を得たのであろうと推測されていた。古い貴族の考えからすれば、女は『子』を産む道具に過ぎず、吸血鬼となったとしてもその価値観は変わっていないだろう。


 配下の吸血鬼を生み出す道具であるのなら、ヌーベ公の頭さえ生きていれば後はどうでもよい。





 地下通路を進む事200mほど、やがてそこには階段が現れる。


「この先は慎重に進む」

「罠があれば、埋めてしまうわよ」


 通路を移動する途中の罠は、通路の半ば以降無くなっていた。あまり何箇所も仕掛けていると、逃走の妨げになりかねないということもある。階段には円塔から逃げる際の罠となる仕掛けもあるだろうという推測だ。赤目銀髪は魔力走査を用いつつ、視力・肌感覚も用いて罠を確認していく。空気の流れなどの異常で、見つかることも少なくないからだ。


「人工物の中の罠は苦手」

「狩人だもんねー……あ、そうだ!!先生、この階段、全部土魔術で表面硬化させたら罠が作動しなくなるんじゃないですか?」

 

 流石姉の直弟子、脳筋魔力娘。確かに、表面を『土牢』と『硬化』で仕上げてしまえば、罠は作動しないかもしれない。


「いいのかしら」

「いい」

「先生お願いします!!」


 用心棒にお願いするかのように彼女に声を掛ける赤毛娘。立ち位置的には似ているのだが。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁を作り賜え……『(barba)(cane)』」

からの……

(adaman)(teus)


 階段を覆う真新しい土魔術。積もった埃も崩れた壁の破片も飲み込んですっかり綺麗な床と壁になった。


「これで安心」

「しゃきしゃき行きましょう!!」

「念のため、慎重にね。罠の発動が完全に防げるかは不確定なのだから」


 壁も床も上から人造岩石で固めたかのように仕上がっている。もはや、何もできないはずなのだが、彼女は同じ魔力脳筋娘ではあるものの慎重派なのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 階段を登り切ると、目の前の入口扉が激しくはじけ飛んだ。木片と砂埃の舞う中、剣を肩に乗せズイと中に入ってくるのは伯姪。


「待たせたわね」

「今来たところよ」


 背後を固めるのは蒼髪ペア。茶目栗毛は外で待機するようだ。冒険者組六名いれば、『貴種』を含めた四体程度、なんとでもなる。


「逃がした二体は地下通路で仕留めたわ」

「そう。お疲れ様ね」

「なに、大したことではない」

「罠を探る方が大変でした!!」


 なお、赤毛娘は罠ガン無視である。魔力纏いで防げるかららしい……なーに、傷くらいかえって免疫が……ポーションですぐ直る。日ごろ使わない事が増えているので、偶には使わないと!!


 古い円塔なので、恐らく上階は二つ程度。ガルムやシャリブルと対峙した塔より古めかしい。なにより……


「最上階にいるんでしょ?」

「おそらくはね」


 ヌーベ公とその妾達である吸血鬼が、それ以外の場所にいるとも思えない。ヌーベの民、デルタの民を虐げ、最後は魔物以外従える者のいなくなった憐れな元王族の末裔。今の王家とも血縁があるはずなのだが。


「君、足らざれば、臣は臣たらずね」


 民を護る故に、王・貴族・騎士は尊敬され徴税をはじめとする様々な特権を許されている。そういう「契約」なのだ。それがなされなければ、民は従わない。それに気がつけない者は「裸の王」となる。


 ヌーベ公は随分と長い間「裸の王」であったのだろう。




 赤目銀髪と赤毛娘を先頭に、中ほどを彼女と伯姪、後備を蒼髪ペアが固め、螺旋階段となっている円塔内のそれを登る。


「とりゃ!」


 途中、階段の中ほどにあった扉を前蹴りで蹴り飛ばす赤毛娘。金属で補強されていた木製扉は、蝶番ごと壁から引き飛ばされ部屋の中へと飛び込む。


「む、誰もいません」

「「「……」」」


 魔力走査でそれはわかっていただろう!! なんかそれっぽい事言っているが、上階に潜む吸血鬼へのプレッシャーのつもりなのだ。


 足音を隠す事もなく、六人は階段をのぼり、やがて最上階の広間の手前まで来て足を止める。


「何故止るんですか?」

「先制攻撃よ」


 赤毛娘の肩に手を置き足を止めさせると、彼女は背後から詠唱を始める。


「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……………………………………『(sanctus)|雷《 tonitrus i》(ignis)』」


 魔力を込めた分だけ攻撃範囲が広がる『雷炎』の上位魔術。『(sanctus)(magi)(ignis)』を使うと、不死者が滅されるまで魔術が行使されてしまうので、『雷』を使う事にしたのだ。


 階段途中で留まっていた四人はともかく、登り切る直前にいた赤毛娘は中の様子が見える位置にいる=流れ雷が飛んでくる!!


「ぎょわぁ!!」


『魔力壁』で、自分の前面を半球型に防御。多面で構成するより魔力費が少ないメリットはあるが、その形成には魔力操作の精度が要求される。瞬時に張れるものはリリアルでも少ない。両手武器を使う前衛メンバーは好んで身につけているのだが。その中でも赤毛娘は最速!


 最上階の内部を縦横に雷が駆け巡り、玉座に座る吸血鬼と、その周りに侍るドレスを着た三体の吸血鬼を幾重にも打ちのめしている。


『ぎゃああぁぁぁ!!』

『いたーイタイイタイイタイイタイィィィィィ』

『ヒィーモウモウモウヤメデェェェェ……』


 それそれが雷を受け、転げ回り痛みで絶叫している。数秒ほどであったが、吸血鬼たちのLIFE? は既にゼロである。


「女は首、男は手足を刎ねて」

「「「承知!!」」」


 赤毛娘は……何故か倒れている女吸血鬼の頭を、西瓜割りよろしく叩き潰し、赤毛娘と伯姪は、片刃曲剣で首を刎ね飛ばした。玉座に沈み込むように倒れた恐らく「ヌーベ公」にが、青目藍髪が串刺しに戦槌のスピアヘッドを叩き込み、虫ピンで止められた昆虫のようにそれを玉座に固定。


 間を置かず、赤目藍髪が戦槌のピック部分で魔力纏いで形成した『刃』でそれの手足を斬り落とした。既に意識を失い、ビクンビクンしている吸血鬼。再生しないように傷口を小火球で焼き固め試合終了である。


「先生!! 吸血鬼の死体は回収していいですか!!」

「王太子本営にお届け物にする予定なのよ。丁寧にしまってちょうだい」

「特製麻袋に一体ずつ詰め直しておく」


 赤目銀髪が麻袋を取り出し、四体の吸血鬼をそれぞれ収納するよう死体の横に置き、それぞれが袋に詰め始める。


「今までの死体の分はそとでやりましょう」

「セバス、暇しているはず」

「ちょうどいい仕事です!!」


 ニ十数体分は……歩人の仕事になる事確定。いや、みんなで手分けして済ませようよそこは。その方が早いから多分。





 六人が円塔の外に出ると、彼女はそのまま入り口を『土壁』で塞ぐ。中に彼女達の退出後、入り込む者がいないとも限らない。野良狼とか……狼は大抵野良なのだが。


「さて、これでヌーベ領も王領の一部になるのね」

「シャンパー経由でなくても、王国の南と北が繋がるのは良い事ね」

「リリアルへの仕事も、直通になる分増えたりしませんよねぇ」

「「「「……」」」」


 碧目金髪の不用意なひと言。そういうの言ったらだめだよと目で皆に責められる。いや、発しちゃったからしょうがないし、多分そうなるんだよ。


「帰りましょう。リリアルへ」


 吸血鬼を死体袋(特製)へと放り込み、彼女達はヌーベを後にする。その前に、『御老公』に討伐終了を伝え、王都へ招待する旨を伝えなければいけないと思い出す彼女。


 討伐すれば一件落着と行かないところが冒険者と違うところなのだ。


【第八部 了】






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― 新着の感想 ―
一万年くらい修行してから出てこないともう下級の吸血鬼はただのモブだな
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