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第873話 彼女は新しい協力者を迎える

第873話 彼女は新しい協力者を迎える


 ゴブリンキングの群れを討伐が入植前に完了できて、大変ではあったが領主としては幸先の良い成果となった。その背後には、ヌーベ公の後方攪乱あるいは『騎行』のヴァリエーションであったのかもしれない。


 百年戦争の時代、『騎行』の行われた地方において、王国から離反する地方領主が少なからずいた。連合王国の庇護下に入らねば、『騎行』を防げなかったからである。随行させた兵への恩賞替わりの略奪行と、敵勢力を削り味方を増やす戦略の両立が出来た故に、連合王国は百年戦争において頻繁に行った。その多くは『黒王子』により指揮された行為であった。


「そんな事があったのですね」


 レーヌ公国で育種家として馬を育てていた名伯楽『ぺテル・シルゲン』。息子に後を譲り、悠々自適の老後を考えていたところに、レーヌを訪れた彼女に誘われ、第二の人生をワスティン羅馬(仮称)の育種と後進の指導に当たる為、リリアル学院へと夫婦でやってきたのだ。

 

「はい。とはいえ、今は落ち着いています。遠征の終わるまではブレリアではなく、学院に滞在していただき、学院生に羅馬の世話の仕方を指導して頂ければと思います」

「それは楽しそうね」

「あとで皆に挨拶させます」


 妻・アデラは可愛らしいおばあちゃまといった雰囲気だが、夫ぺテルを支え後継となる息子を立派に育てた家政の達人。貴族家は勿論のこと、商家も馬産家も家を構えるというのは表に出る家長だけでなく、家を取り仕切る夫人の存在が重要となる。使用人や出入りの商人・飼料を納める近隣農家との付き合いなど、日々細かな仕事を夫に代わって行っているのである。


 馬を育てるには、馬の事だけでは成り立たない。馬の飼育はぺテルが、その環境を整え維持するのはアデルがそれぞれ担ってきた二人の人生。リリアル馬房(仮)でも、そうした役割分担がなされるだろう。


 その候補は、魔力を持たない三期生が主となる。馬の肥育に魔力はさして必要でないこと、後方支援の文官見習として羅馬育成のための仕組みづくりに参加することは良い経験となると彼女は考えている。


「ゴブリンの『王』とやらは、どんな奴だったのでしょうか?」


 アデラが興味本位で彼女に問うた。何故なら、『羅馬牧場』は当初、『盗賊村』の跡地周辺を利用して作られることになると伝えられたからだ。シャンパーやブルグント方面との脇街道沿いの宿場町として整備する予定の場所であり、将来的には『羅馬市』を開けるようにしたいと考えている事もある。領都ブレリア周辺は小高い丘が多く、この周辺は森とは言え比較的平坦な場所に恵まれているということもある。


 因縁のある土地ということもあり、アデルは心配な面も見え隠れする。


「ゴブリンの『王』は、厄介な面もありましたが、個の強さという面ではチャンピオンほどではありませんでした」


 彼女は少し前のことながら、五年前の因縁含めて思い返しながら話はじめた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ジェネラルを始めとする群の半数を討伐し、彼女は伯姪と赤目銀髪を伴い、元盗賊村である『廃村』へと気配隠蔽を行ったまま近付いていく。


「ここで待機をしていて」

「閉じ込めるんでしょ?」

「ゴブリン牧場」

「嫌な牧場ね」

「アトラクションも盛りだくさん」


 赤目銀髪の軽口に伯姪が嫌そうな顔をする。とはいえ、三期生たちにとっては、いい鍛錬の場になるかも知れない。彼女は単身、開拓村側の入口へと向かう。見張台のゴブリンは気が付いておらず、村内のゴブリンも相変わらずギャアギャアと走り回り、何やらよくわからない事で争っている姿がそこかしこで見てとれる。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁を築け……『(barba)(cane)』」


 見張塔の脇に存在する木製門の外側に、それを塞ぐような左右と同じ高さのと厚みをもつ土壁が形成される。これで、こちら側の出入りは不可能となった。


(adaman)(teus)


 土の壁が硬質化し、砂岩程度の硬さとなる。人口岩石には劣るものの、土を突き固め外側を積み石で囲んだ古い街壁よりははるかに堅牢となっている。指をさし、突然壁で塞がれたことを知らせ合うであろう声が大きくなる。そして――― 


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の塒を整えよ……『(terra)(carcer)


 周辺と同じように壕を作る。最終的には、木製の跳ね橋でこの場を渡るよう作り変えることになるだろうか。石造の門楼に鉄格子の中扉も備え付けようともかんがえる。小型の王都城塞であると考えればおかしくもない。


 周辺の村落から非常時には逃げ込め、護れる程度の施設は整えたい。施工するのは……癖毛と歩人になるだろうけれど。


 シャンパー側の出入り口も同様に塞ぎ、廃屋や石塔内で休んでいたであろうゴブリンの上位個体たちも外に出て周囲を確認し始める。


WUGAAA!!!!


DONN!!


 ホブらしき個体が『ホブゴブパンチ』を木柵を開けた先の『土壁』に叩きつけるものの、ほぼ無傷。むしろ……


GAWAAA!!!!


 拳が砕けた痛みで騒がしく転げ回っている。


「強度は十分ね」

「ふふ、魔力多目に注いで、強度は人造岩石には及ばないけれど、王都の外壁よりは高いのよ。ゴブリンの力自慢程度ではどうにもならないでしょうね」


 大人二人が並んですれ違えるほどの幅を持たせた硬質の壁。攻城砲の石弾が命中したとしても、大きく崩されないであろう。石積の城壁は、下が崩れると自重を支えられずに壁と中の突き固めた土が崩れ落ちてしまう。この壁の場合、そこまで破壊するには、同じ個所に何度も大きな質量弾を

当てなければならないだろう。


 この森の中にそのような攻城兵器を馬匹で持ち込むのであれば、リリアルの兵士や騎士に襲撃を受け、輸送部隊は相当被害を出すことになる。脇街道にある宿場町程度を攻略するのに、王都を攻めるような兵器を持ち込むとも思えないので、オーバースペックですらある。


 元の丸木柵の向こうにある『土壁』の上からゴブリン牧場の中を除きこむ彼女と伯姪たち。


「この土壁の幅があれば、銃座を備えれば十分あの子たちでも射撃はできそうね」

「こんなこともあろうかと、土壁の応用を考えてあったのよ」


 長い銃身を手で支えるのは無理がある。城壁の縁に銃身を乗せ狙うのが一般的だが、本来外側に向けて作るものであるから、内側に臨時で自立する木製盾を置いたりする。ゼノビアの弓銃兵は身を隠すための塔盾を背負い戦場に赴くのが一般的であった時代もある。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の姿に整えよ……『(terra)(scutum)


『土盾』は土壁の応用。強度を持つ土製の狭間を備えた壁を生成。幅2m、高さ1mほどの固定された自立した壁となる。


 魔装銃兵の数が増え、防衛戦を行う機会が今後増えると考えたことから、小技ではあるが、一つ土魔術を習得? したことになる。


「便利」

「あらあら、またセバスの愚痴は増えそうね」

「あの男の愚痴が増えるくらいで、リリアル生の負傷がへるのであれば、幾らでも愚痴を増やせばいいと思うわ」

「「それはそう」」


 そういうと、赤目銀髪はその狭間を利用し、魔装弓を構えて一匹のゴブリンを射殺した。


「この狭間が円錐形になっていると銃身が左右に向けられさらに便利」

「その考え、採用しましょう」


 一つ目の『土盾』の横に、改良された『土盾』を設置する。


「どれどれ……いいわね。広い射角がえられそう」

「なら、一回りして何箇所か設置してくるわね」


 魔装銃の射程は精々200m。廃村のすべてを射程内に捕らえるには全周に銃座となる『土盾』を用意する必要があるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 既に昼を過ぎ、そろそろ学院から魔装銃兵たちがやってくるころだろう。先に軽騎兵隊員たちに昼食を取らせ、彼女と伯姪以下、リリアル生は魔装銃の確認を行う。


 一期生には『長身魔装銃』を持たせ、二期生と三期生年長組には軽量魔装銃を渡す予定だ。弾丸はともに10㎜魔鉛弾だが、銃身の長い前者は後者のおよそ四倍の威力を発揮する。不慣れな二期三期生には軽く威力の低い軽量銃で参加させることになる。


「院長、来ましたよー」


 碧目金髪がリリアルからの魔装荷馬車を発見し、彼女に声をかけてきた。仮駐屯地を離れ既に街道迄前進した演習組は、荷馬車の到着を待ち構えていた。


「おまたせー」

「しましたー」


 赤目銀髪が長をを務める『馳鴉隊』が学院に滞在しており、二期 碧目銀髪 灰目黒髪 茶目灰髪 村長孫娘の四人が馬車から降りてくる。そのあと、三期生年長組の四人。


「来ちゃいました!!」

「やっぱりね」

 

 最後に元気よく降りてきたのは赤毛娘ぇ……ゴブリンぶちのめし隊である。


「今日は、魔装銃の射撃訓練なのだけれど」

「いやぁ、止めを刺す役も必要じゃないですか!!」


 止めを刺すというよりは、叩き潰すの間違いではないだろうか。


 彼女はリリアル二期生三期生に軽量魔装銃を渡す。すでに何度か射撃練習場での試射を行い、取り扱いには十分慣れているであろうが、静物ならともかく動いている『的』を撃つのは初めてのことになる者が大半だ。


「動きを読んで撃つのは経験が必要」

「「「……ですよねー」」」


 二期生サボア組の三人が声を揃えて赤目銀髪の言葉に同意する。三期生の四人は既に暗殺者養成所で基礎を叩き込まれているので、当然とばかりに、受け取った魔装銃の点検に専念している。


「魔力は、私たちで込めるから、あとは良く狙って……」

「呼吸を止めて、ゆっくり吐きながら引き金を落とす」

「そう。訓練通りやりましょう」

「了解」


 四人の三期生の間では、散々に確認し動作を身につけたことだとばかりだと命令を待っている。成りこそ小さいが、その動きは歴戦銃兵のように見える。


 馬車を収納し、全員で『廃村』に向かう。


「うをぉぉぉ!!」

「立派な城塞に見えるぞ……」

「でも」

「城門はないな。出られねぇ」


 3mをやや超える程度の高さの街壁が、ぐるりと周囲を取り囲み、その手前には2mほどの幅の壕がめぐらされている。


「どうやってあの上登るんだよ」


 ヴォルトが独り言のようにつぶやくのだが、リリアル生にとってはいつものことでもある。


「魔力壁で階段を作るわ」

「階段?」


 壕の手前で全員を留めると、彼女と赤毛娘がそれぞれ魔力壁を形成する。この中では魔力の多い二人である。


「全員、急げ貧弱ものども!!」

「「「ウィ・マッダァムゥ!!!!」」」


 再びの鬼教官の掛け声に、リリアル生よりも先に軽騎兵隊員たちが駆け上がっていく。


「なんだろうねあれ」

「大人って大変だ」


 その後を続く二期生三期生の魔装銃兵たち。全員が速やかに街壁の上に上がると、中のゴブリンはその姿を見て一層興奮し始めた。


「大きいのから仕留める」


 ホブやファイタークラスであれば、3m程度なら飛び上がれば壁に手が届く。


「そりゃ」


 GIYAAAA!!


 腕を伸ばし、壁によじ登ろうとしてたホブゴブリンの頭を赤毛娘が叩き潰す。


 二期生、三期生がそれぞれ四方の一つの『土盾』へと纏まって移動していく。


「私たちは、この向かいの胸壁に向かうわ。ついてきなさい」


 伯姪と茶目栗毛、赤目銀髪は長銃身の魔装銃を手に移動していく。彼女と灰目藍髪、碧目金髪、ルミリはこの場所の『土盾』から射撃を行う。


「大きいのからね」

「もちろんですわぁ」

「それ、頭ふっとべ!!」

「狙いは胸や腹のような大きい部分をねらわないと」


『導線』を用いて狙撃する分には、魔鉛弾を用いれば必中の結果しかないのだが、魔力量が少なく、魔力走査もあまり得意でない碧目金髪は目視で普通に狙う必要がある。灰目藍髪の指摘は間違ってはいないのだ。


 因みに、今いる四人のうち、灰目藍髪以外は『加護持ち』なので、元の魔力量は少なくとも魔力走査に苦労する者はいない。


 彼女の場所が派手に発砲し始めると、残りの三方も順次射撃を開始しはじめる。リーダー格のホブやファイターらが狙って打ち倒されると、最初は硬直していたゴブリンたちが、一斉に激しく逃げまどい始める。


 一部は廃屋に入り、隠れてしまったので、彼女は『油球』を投擲し、小火球で着火すると廃屋の屋根が激しく燃え、黒い煙がでて射撃の邪魔になった。ちょっと反省。


 とはいえ、戦場では白煙や黒煙を伴う事もあるので、視界が悪い中射撃を行う演習と思えば悪い事ではないと思う事にした。




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