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第872話 彼女は懐かしいものを討伐する

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第872話 彼女は懐かしいものを討伐する


水魔馬が現れた!!


 ゴブリンの群れの側面から、水球が次々飛んでいくとゴブリンが打ち倒されていく。


「お手伝いに着ましたわぁ」

『助太刀なのだわぁ』


 水魔馬の背から転げ落ちるように降りた赤毛のルミリと金蛙が砦へと現れる。


「あれは何かしら」

『なんだか、主が危ないってあいつが騒ぐから、一緒についてきてもらったのだわぁ』

「ですわ!!」


 朝から裏の養殖池で落ち着きのない水魔馬に金蛙が話しかけ、その理由を知り、ルミリが断りを入れフローチェと共にここまでやってきたと。馬だけが街道を疾走していたら取り押さえられかねないし、ルミリだけでは水魔馬とコミュニケーションができないので、金蛙も同行したというわけなのだ。


「今日はゴブリン射的大会開催ちゅー はい、これ」

「はい喜んで、ですわぁ」


 魔装銃の狙撃はルミリもできなくはない。近づいてくれば精度より手数。土塁の上を成形し、伏せ撃ちしやすいように銃身を置く台と遮蔽物となる壁を形成する。


「このまま伏せていると、お腹が冷えますわぁ」

「これを」

「助かりますわぁ」


 渡されたのは狼の毛皮。テントの中敷きにつかっていたものである。


POW


POW !!


 若干気の抜けた魔装銃の発射音。壕を乗り越え立ち上がったところを狙いすました可能ように撃たれ一匹、また一匹と倒されるのだが、数がおおく、あっという間に『土壁』の前までやってくる。


GISHA!!


 勢いをつけて壕を飛び越える個体に、タイミングを合わせて前蹴りを喰らわす軽騎兵隊員。蹴りを出し慣れている感が強い。


GA!!


 蹴り落とされ土槍の上に落ち、腹を貫かれ虫ピンで止められた虫のようにジタバタしているのだがやがて動かなる。その様子を確認する間もなく、次から次に飛び込んでくるゴブリンたちを打倒し、壕へと叩き落していくがキリがない。


 手前に壕を追加したことで、突進速度は落とせたものの、それでもしゃにむに突っ込んでくるのは背後に『ジェネラル』と『ナイト』が威圧を放っているからであろうか。


「はぁ!!」

「よせ、無理して斬り込むな、突くか盾で薙ぎ払え!!」


 何箇所かある土橋に向かって殺到するゴブリンを一対一のように捌けば、背後から来る別のゴブリンに飛び込まれ、押し込まれてしまう。短い時間で跳ねのけなければ、次から次へと襲い掛かられるからだ。非常に危険。


「敵中に侵入すればこうなる!! 良い体験だろう!!」

「なわけあるかぁ!!」

「そんなの隊長だけ!!」


 ヴォルトの檄も隊員にとっては嫌味にしか聞こえていないようだ。こんな時に本音が垣間見られ、若干傷心のヴォルト隊長。


「うぉ!!」

「おい、足元も気を付けろ!! ヘリに近付くと、落ちたゴブリンが掴みに来るぞ!!」


 亡者の手のように、壕に落ちたゴブリンたちがしがみつこうと手を伸ばしてくる。目の前に飛び込んでくるゴブリンをはねのけつつ、足元にも気を使わねばならなくなった。


「こんな時こそぉ!!」

「油撒いて火をつけるですわぁ!!」

「それそれ!!」


 最近死蔵することしきりの『油球』。三期生達が加わり、魔物除けに必要になるかもと最近再び作りためていた。その油球を、壕に落ちたゴブリンたちに叩きつける。


『小火球』

『『小火球!!(ですわぁ)』』

 

 灰目藍髪、碧目金髪、ルミリが油球を投げ込みつつ小火球で着火していく。


 ゴウと炎が上がり、やがてその音は轟轟と変わる。油とゴブリンの燃える臭いと叫び声。周囲は阿鼻叫喚となる。


「これで少し、圧力が弱まります」

「傷を負っている人は、下がってポーションで治療。武器も必要があれば変えなさい」


 剣よりもメイスやスタッフの方が叩き落しやすい。何人かは、力任せに叩きつけられるメイスへと持ち替え、あるいは、スタッフで叩き伏せ付き伏せられるようにと持ち替えた。


「火球来ます!!」

「全員、そのままで。私が対応します!!」


―――『(aqua)(magi)(lamina)


 一抱え程ある火球は、ゴブリン・メイジによる後方からの攻撃。攻め寄せるゴブリンごと土壁上の軽騎兵隊員を打ち倒そうと投射されたものだ。それを、水魔馬の加護を得た灰目藍髪の『水魔刃』が叩き斬る。


BOOMMNN!!


 火の塊に水の刃が辺り、二つに別れながら爆発するように四散した。


「いや、それでゴブリン祓ってくれねぇか」


 隊員の言う通りなのだが、魔力量の少ない灰目藍髪にとっては加護を得て魔力の使用が改善されたとしても、『水魔刃』を何度も放てるほどではないのだ。とはいえ、相手からすればとっておきの『火球』を迎撃され、ゴブリン・メイジは横のジェネラルにぶん殴られている理不尽。


 上手くいけば俺の手柄、失敗したらお前のせいという世界が垣間見られる。人間もゴブリンも世知辛いようだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「まずい」

「ああ。死体で壕を埋めやがった」

「く、来るぞ!!」


 既に三分の一ほどに減ったゴブリンたちだが、なお三十以上が残っている。そのうち半数はジェネラルを始めとする上位種。ナイトにメイジ、ホブもその周りを固めている。雑魚に突撃させ、その死体で周りを埋め立て足場にして中に乗り込もうという事なのだろう。


「全員壁の上で戦列を組め!!」

「「「お、おう!!」」」


 軽騎兵隊員はヴォルトの指揮の下、横一線に構える。乗り越えられ入り込まれたら試合終了。既に土壁も多少の段差でしかない。


「お前たちは逃げろ」

「そうはいかないでしょ? ここは我が領地よ」

「だからだ。領主が死んだらそれこそ終了だろ!!」


 ヴォルトの声に背後を振り向き同意するように頷く隊員。彼女と三人のリリアル女子は当然逃げるつもりもない。


 すると、上空、廃村の向こうに火球があがる。


「火球でしょうか」

「いいえ、あれは『火矢』よ」

「ようやく来たぁ、別動隊!!」

「ですわぁ」


 打ち上げた『火矢』は赤目銀髪のそれであろう。只の火球ではあそこまで勢いよく高く上がることはない。


「時間を稼ぎましょう」

「もうこれ以上は無理!!」

「数分の事よ。そうすれば……」


 勝利を確信しニヤついていたジェネラルの顔が驚愕に変わる。そして、その横に立つナイトがばたりと前に倒れ、首筋には一本の矢が刺さっている事に気が付く。


 一拍おいて背後を振り向くと、そこには抜剣した男女が二人。親の顔より良く見ている顔が並ぶ。


「とりゃああぁぁ!!」

「しっ!!」


 ナイト・メイジ・ホブとジェネラルまわりの上位種の首を次々跳ね飛ばし、

蹴り倒していく。


GAA!!!!


 戻ってこいとばかりに残りのゴブリンを自分の周りに集め始めるジェネラル。


「こいつ、自分で戦いなさい!!」


 GINN!!


 伯姪の横薙ぎに、自分の剣を合わせ往なすジェネラル。


「!!」


 気配を消し、ジェネラルの足元を刈る茶目栗毛。膝裏を斬られ、ガクンと姿勢を崩すジェネラル。


「いい高さに首があるわね」


SHUNN!!


 魔力を纏わせた魔銀の片刃曲剣がスッパリと斬り落とす。


「残りを掃討しましょう」

「「「おう!!」」」


 土橋を渡り、前後を挟撃され混乱している雑魚ゴブリンを軽騎兵隊員たちが鍪殺していく。一人が叩き伏せ、もう一人が首を斬り落とし、あるいは胸を突き刺し止めを刺していく。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「危機一発」

「そうね。助かったわ」


 しれっと現れたのは赤目銀髪。どうやら、伯姪と茶目栗毛を先行させ、自身は他の軽騎兵隊員を連れて合流を目指したとのこと。


「迷子になられると困る」

「「「……」」」


 ワスティンの森に関してはほぼ初心者にも拘らず年少の赤目銀髪の指示に従わなかったことで「迷子」になったらしい。


「騎士の叙任も関係なかったようね」

「「「え」」」

「今回同行している全員が騎士以上の身分なのだけれど」

「……た、大変失礼しました!!」


 追っかけで登場したルミリは当然そうではないのだが、後の六人は全員国王陛下から直接騎士に叙任されている。


 騎士に叙任されるは、従騎士を数年経験した二十代前半でも早い方。貴族の子弟の場合、最初から騎士扱いだが、リリアル生の場合そうではないのは明らか。故に、年齢的に「孤児出身の冒険者」だと思い込んでいたのだという。


「私は寛容。斬首でよい」

「……そうね。絞首でないのは騎士の情けかもしれないわ」


 と、一応彼女も面白くなかったのか悪乗りに加わる。


「待たせたわね」

「少し危うかったかもしれないけれど、良いタイミングだったわ」


 伯姪と茶目栗毛が合流。ここで一旦仕切り直しを考える。


「お願いがあるのだけれど」

「はい。謹んでお受けします」


 今ここにある戦力で、もっとも足の速いのは水魔馬とその主である灰目藍髪。


「『廃村』を封鎖するので、リリアルの銃兵が担えるメンバーで学院にいる者を連れてきてちょうだい。三期生達も含めてね」

「承知しました」


 水魔馬に乗り、街道に出て学院を目指す灰目藍髪。


「封鎖してくるわ」

「付き合うわよ。ちょっと様子も確認しておきたいし」

「同行希望」


 彼女が『廃村』の封鎖に向かうついでに、掃討と護衛を兼ねて伯姪と赤目銀髪がついていくことにする。


「一先ず、このゴブリンを片付けるか」

「壕に放り込んで、後で先生に埋めてもらいましょう」

「上位種は保管するんだよな」

「はい。こちらで収納します」


 茶目栗毛がヴォルトと相談し、仮駐屯地周辺の片づけを始める。


『手足が汚れたら、水洗いできるのだわぁ』

「空き樽にでも水をためておくのですわぁ」

「それいいかもねぇ。ちょっと水も飲みたいしぃ」


 力仕事は野郎に任せ、ちょっと休みたいリリアル女子二人。何か仕事している感を出しつつ休憩する。え、だってこの後、廃村でも引き続き射撃大会が継続されるの確定じゃないですか!!


 リリアル生はこの先の展開が「いつものあれ」だと理解しているが、教導されているはずの軽騎兵たちにとってはこれ以上何をやらされるか戦々恐々といった心理状態だ。


「なあ、聞いてもいいか」


 ヴォルトが恐る恐る茶目栗毛に話しかける。


「俺達この後、何をやらされるんだろう」


 茶目栗毛は一呼吸おいてこう伝えた。


「今、行っているゴブリンの死体片付けでしょうか」


 どうやら、リリアル生だけで残りのゴブリンは討伐するのだと軽騎兵たちはちょっと安心するのであった。



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