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第859話 彼女は『魔鰐』革の鎧制作を依頼する

新年おめでとうございます!!

六年目に突入した本作ですが、完結までのあらすじは決まっております。

あと……二年くらいでしょうか☆

長らくお付き合い下さっている方も、新しい読者の方も

本年もよろしくお願いいたします!!

第859話 彼女は『魔鰐』革の鎧制作を依頼する


「『魔鰐』革の革鎧」

「わたし……きになり、ます!!」

「えーと。鎧はいらないかなー」


 赤目銀髪、赤毛娘、黒目黒髪がリリアル学院の中庭に広げられた一体の『魔鰐』の死骸を前に話をしている。


「皆手伝う」

「自分、不器用ですから」

「知ってる」

「じゃ、頼むなよ!!」


 猟師の父を持つ赤目銀髪は魔物の解体も得意。そして、癖毛が手伝っている。青目蒼髪はこの手の作業は不得手。ぶった斬るだけならできるのだが。


「ふむ、面白いな。天然のブリガンダイン……いや、コートオブ・プレートか」

「そうね」


 老土夫は鍛冶師であるが、鎧にも造詣が深い。リリアルは革鎧を主に好むことから、知り合いの王都の鎧職人ともそれなりにやりとりをしているので、この『魔鰐』の皮で彼女が何をしたいか想像はつく。


「金属鎧は出来る限り避けたいわよね」

「水の中に落ちたらと考えると素材は考えざるを得ないわ」


 船の上では軽装で戦う場合が少なくない。水中に着衣のまま落ちれば濡れた衣服が体に纏わりつき大きな抵抗となる。まして金属鎧などは重石を体に括りつけて飛び込むようなもの。一人できることのできない全身鎧など、脱ぐ暇もなく水底へと引きずり込んでしまうだろう。


「革も軽くはないぞ」

「普通の素材ならでしょう。おそらく、この『魔背板』は浮くと思います」


 実質的には『骨』に近い構造と質感をもつ『魔背板』であるから、水に浮いてもおかしくはない。魔石を含んだ骨板で表面をコーティングした『魔背板革鎧』なら、『浮き』のようにもなるのではないかと彼女は考えている。


「魔導船にのって万が一水に落ちたらと考えると、水に浮く装備も欲しいと考えています」

「浮胴衣か。まあ、そうなだ。海は浮かびやすいと聞くが、儂等土夫は水に沈むからのう」


 筋肉が多いと水に浮きにくいとは聞くので、ジジマッチョ軍団も恐らく沈む。いや、筋力で強引に水を櫂て浮かぶかもしれない。筋肉は全ての扉を開く!!


「これで何人分作れというのだ」

「できるかぎりでしょうか」


 彼女が欲しているのは前腕甲と脛当て、胸鎧程度だ。6mを越える『魔鰐』三体分からなら、それなりの数が作れるだろう。


「腹側の皮は処分してもよいな」

「はい」

「わかった」


 革鞣職人にでも売却し、その金で鎧工房へ依頼を出すことになるのだろう。貴族向けの鎧はその後『彫金』を施したりするため時間もカネもかかるのだが、実用品である『魔板鎧』なら鞣して革を加工し鎧の形に整えるだけであるからさほどかからない。


「処分する革のうち、一体分は王太子妃殿下に献上したいので、鞣しが終わったなら学院に届けてもらえるように手配してください」

「そうだな。折角仕留めた魔物なのだから、良い革を公女殿下に献上するのは良いだろう。職人たちも喜ぶだろうからな」

「はい」


 これも王太子妃ルネの好感度を上げる一つの手段になるだろう。あとからねちねち王太子に言われないように献上しておこうとなる。王妃殿下?以前、タラスクスを討伐した時の素材で何かされておりましたので今回は見送らせていただきます。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「端切れの有効活用」

「金属のバックラーより軽くていいかも」


 鞣したサンプルというよりも、鎧の加工の型取りの終わった端切れの『魔鰐背板』を用いて、アイデア装備を考える赤目銀髪と二期生サボア組の灰目黒髪。意外と二人は気が合うようだ。


「この革の模様を上手く生かしてカッコよく見えるようにすると良いかも」


 どうやら、放射線状に魔銀鍍金製ボスを中心に革を張るように展開する事を考えている。


「太陽みたいですぅ」

「ですわぁ」


 通りかかった碧目金髪とルミリが革製バックラーを見てそう感想を口にする。


「持って見たらいいかも」

「あ、軽いですわぁ」

「これなら魔銀鍍金のハンドルボスだけよりいいよ」


 赤毛娘も参入。君は両手持ちメイスだから使わないでしょ!! 使えないでしょ!!


「魔装銃を装備している子たちのタージェ(携帯用の小盾)を作っても良いわね」

「あ、確かに」


 紐をつけて、肩から斜め掛けにしておくことで両手がふさがっていても身につけておくことができる装備。その裏側にダガーやナイフといった携帯道具を納めておくこともできる。座る時にはクッション代わりにも使えます!!


 バックラーより一回り大きい、直径40㎝程の円盾。ボスは無く内側の二本のバンドを握る、あるいは腕を通して使うことになる。紐を掛けて斜め襷がけして腰のあたりに来るように持つのもありだ。


「これを尻に敷いて滑る」と赤目銀髪

「それは……痛そうかも」と灰目黒髪

「魔力を通せば問題ないさ!!」と赤毛娘

「いや、盾で遊ぶ方が問題でしょ」

「ですわぁ」


 足の下にそれぞれ固定し、魔力を通すと『水馬』のように使えるような気もする。いろいろ使い道はありそうだ。


 タージェ型小楯を装備するのは冒険者組ではなく薬師組か二期生・三期生の年少組になるだろう。補助戦力あるいは支援戦力。魔力の無い三期生の事を考えれば、『魔水晶』を填め込むことで、一時的に魔力を纏わせることができる仕様の盾があっても良い。


 革製小楯なら魔水晶をハンドルボスの部分に填め込めるようにしたとしても金属製のバックラー程度に納められるだろう。通常は魔水晶(魔力充填済)を外しておき、必要時にあらかじめ嵌めておいて魔力を纏わせて活用する。一時間程度持たせられれば凡そ戦闘は終わる。


 常時使用するならば、城塞などで魔水晶を交換しながら継続使用できるだろうか。魔力無は魔力有の子と組ませるので、魔力持ちが魔法袋(小)などに交換用魔水晶を持って渡せば良い。


「夢が広がるわね」


 剣や矛槍などに『魔水晶』による魔力強化を行えると良いのだが、盾は『あたらなければどうということもない』魔力消費も、斬りつけるたびに魔力を損耗する武具の場合、魔水晶の魔力をそうなんども使用できるとは限らない。魔装銃の発射のために使用する魔力同様、都度補充できる事が望ましい。盾なら一二発回避できれば役割を果たせるが、剣や槍が一二度斬りつける程度では……護身程度にしか役に立たないだろう。


「護身用ならありね」

「確かにね。身を護る為なら、何度も切り裂く必要も無いでしょうし。むしろ、一度だけ致命的な攻撃ができればいいんじゃない?」


 彼女と伯姪は、物騒な方向で護身用装備について考えるのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ふむ、これだ」

「完成しましたか」

「あの子らを連れて行くなら、最優先であろう?」


 老土夫は三期生の魔力無の子たちも遠征に参加するならば、魔水晶を用いた防具・自衛の装備は最優先だと思っていたようだ。魔力無の子でも危険な任務を担わなければならないこともある。生き残る確率を上げる為にも、いざという時に頼れる装備の一つや二つ持たせてやりたいという爺心であろうか。


「小楯はこれだ」


 腕に通す革帯と肩から吊るす革紐。ハンドルボスはないタイプなのだが、補強用に中心部に円形の金属板を張り、その裏側に銅貨ほどの大きさの魔水晶を填め込む場所がある。


「この窪みに魔水晶を入れると発動する」


 老土夫が魔水晶をはめ込むと、盾の表面、魔鰐の背板革の部分に魔力が通るのが分かる。魔銀鍍金のように全体にではなく、背板革の部分だけに魔力が通る為、強度が出るのは中心の円形の金属部分と放射線状に広がる背板の部分だけとなる。


 それでも、木枠に革を張りその円周に金属の枠で補強するだけの盾よりはずっと防御力は高まる。魔力による身体強化が使えない三期生にとっては一度か二度の打撃でも回避でき、反撃できれば生き残るチャンスは格段に増えることになる。


「試しに斬りかかってみろ。軽く魔力纏いをしてな」


 彼女に魔銀鍍金製の片手曲剣を渡し、斬りつけるよう老土夫は言う。全魔銀の剣に彼女が魔力纏いを施せば耐えられないと考え、敢えて魔力を纏える量が少ない鍍金製を渡したのだろう。軽くだぞぉ!!ふりじゃないからな!!絶対やめろよぉ!!と心の中で叫ぶ老土夫。


 小盾の革帯を握りしめ、上半身を隠すように構える老土夫。


「いきます」


CYUINN!!


 斬り下ろす刃を斜めに弾き飛ばす丸い小楯。


 二度、三度と弾くが、四度目で軽く傷ができる。角度を付けて逸らすように弾いたので魔力の損耗も少なく三度成功したが、正面から受け止めれば恐らく一度で魔力纏いは解けるだろう。


「良い出来だと思います」

「これより魔力纏いを増やすと、魔水晶の大きさが握り拳ほどになる」


 流石にそれはないかなと彼女も理解する。そもそも、握り拳大の魔水晶のコストはかなりのものとなる。携帯装備に使うような値段でも重さでもない。コイン大だってそれなりに高いのだ。魔装銃の水と火の魔水晶の何倍も大きいのだから当然だろう。


 魔石充填式小楯・名称『|御守君《Garde du corps》』と名付けられた。パっと見は地味な褐色のでこぼこした表面を持つ盾にしか見えない。だがそれがいい。駈出し冒険者風の子供が装備していても違和感がない。


「これが魔石充填式のダガーだ」


 盾を受け取り、代わりにダガーを手渡す老土夫。伯姪がひょいと横から受け取り、しげしげと見る。


「見た目は今までの支給品と変わらないわね」

「鍍金箇所は先端にだけ魔力を纏うように変えている」

「魔力量が少なくても良いようにね。突きだけ魔力纏いになるわけね」


 自衛用に支給している『バゼラード』型の両刃短剣。


「ここにだけ鍍金を施して、魔力が通るようになっておる」


 老土夫は、剣樋の部分から矢印型に切っ先迄鍍金が施されていることを説明する。先端と柄を繋ぐ樋の部分に細い魔銀鍍金による導線が剣身の両側に施されており、柄に填め込む『魔水晶』が小さくとも十分切っ先に魔力が届くように工夫されている。


 バゼラードはいわゆる野営用の万能道具であり、切っ先で地面を掘って穴を開けたり、焚火のための枝を斬るなどの使われ方をする。武器よりも道具としての側面が強い。安価で大量に傭兵・兵士に支給され、冒険者も使うことが少なくない。身につけておいて損はないが、これで戦う者はほぼいない。


「これで魔力纏いして土を掘れば……」

「無駄使いだな。沢山掘れたりはせん」


 硬いものを貫けるようにはなるが、元々大して固くはない土に魔力を纏いを施して斬りつけても効果はあまりない。


「刺突短剣の方が効果があるのではないかしら」

「武具としてはな」


 騎士であれば身の回りの世話は従者や小姓が行うだろうが、これを持たせる予定の者たちは駈出し冒険者のような立場になる。使い道の限られた装備を持っていて良いことはない。


「実用的で、身につけて違和感のない装備に隠しておくから不意打の効果も加味して意味があるというわけね」

「まあそうだ。それに……」

「使わないで済むなら使わない方が良いものね」

「然り。あ奴らはそういう役割ではない」


 三期生魔力無組は、冒険者や騎士・兵士と言う役割よりは、密偵あるいは官吏として情報を収集しつつ自衛できる戦力であってもらいたい。身につけた暗殺者としての感覚は、危険な状況でこそ生きることになる。諜報員、情報担当としての役割を彼女は期待している。その中には、『戦場において』という状況も含まれるのだ。


 この役割は、ネデル遠征で同行したものが実際に経験している立場でもある。魔力が無くとも情報収集のできる頭脳があればそれでよい。


「これは何と名付ける」

「御守短剣?」

「良いと思うわ」


 魔力充填式短剣・名称『身護君(Defendere)』となった。


「先ずは八人分か」

「はい。ですが」

「わかっておる。盾は革に限りがあるが、短剣は作ることはできる。孤児院の出身者に装備させたいのだろう?」


 中等孤児院から派遣されている王都城塞の『臨時組』は、衛兵に準じた装備をさせているが、専業の兵士・衛兵と比べれば背格好からして貧弱であり、強そうに見えない。実際に強いとは言えない。


 余りそういう場面には遭遇しないだろうが、いざという時に心のよりどころとなるような装備があれば良いと考えていた。一度か二度、使い切りの切り札となるだろうが、魔力持ち相手に抵抗できる可能性を残しておいてあげたいと彼女は考える。


「いい考えだわ」

「ええ。折角来てもらっているのですもの、城塞勤務の間は自衛できるよう手渡しておきたいのよ」


 城塞外に持ち出しは禁止。交代時にはリリアル生立ち合いの元、都度回収、交代の『臨時組』に引き継ぐ形にする。臨時とはいえリリアルに属する者の身分を示すものにもなるだろう。


 近づくヌーベ遠征に向け、彼女は一つ懸念を解消することができた。






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赤毛娘が盾装備できるような副腕作ってやらないと 操作する方法がないけど、仮に魔力で操作できてもそんな細かい操作は無理だろうし あとは魔鰐使いをボコって捕まえて更にボコって言う事聞かせて魔鰐養殖始めな…
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