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第830話 彼女は会議への参加を命ぜられる

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第830話 彼女は会議への参加を命ぜられる


「リリ、ありがとう」

『いいよー お礼はフィナンシェで』

「ふふ。あとでね」


 クルクルと喜びのダンスを空中で踊り、リリは気配を消す。『妖精火』も姿を消してしまう。真っ暗ではあるが、魔力のいるものが集まっている場所を確認し、そこに外から土魔術で固めた扉があることを確認する。


「ここ、全面改装するから、いいわよね」

『いいんじゃねぇの、後で直すんだろどの道』


 彼女は誰に許しを乞うでもないはずなのだが、正面扉を再び、土壁ごと魔力を纏った『魔剣』で切り開いた。


 暗がりに慣れた目が眩しさに眩む。外には、王都の騎士団の他、シャンパー伯の騎士数人、伯姪と青目蒼髪も加わっていた。


「終わりですか院長」

「ええ。中に倒れている盗賊が何人かいるから、手伝ってもらえるかしら」

「おう、任せておけ……です閣下」


 周りの騎士達の視線を感じ、無理やり口調を改める青目蒼髪。『土』魔術を歩人に使わせ、即席で取り囲んだ土壁の一角を崩し架橋する。それを見て珍しいと思った騎士達からどよめきが起こる。騎士団や王宮魔術師でも、ここまで簡単に壁の除去や架橋を行える者はいないからだろう。


 でないと、土魔術師がいれば攻城戦が簡単に行えてしまう。とはいえ、壊す魔術師と直す魔術師の鼬ごっこな気もするのだが。





 騎士達は石塔の中の盗賊たちを捕らえて引き出してきた。そのうち、半数は既に死んでいるようだが……問題ない。


 幸い、彼女の礫弾で倒れた二人は幹部であり、灰目藍髪が部屋に仕舞われていた各種の書類や書状を保管箱ごと回収してくれていた。これも、隠し扉の中に仕舞われており、三期生の罠捜索技術が生かされたという。


「こちらです」


 馬の鞍ほどの大きさの木箱で、箱の中身自体は羊皮紙か紙だけのようで重さはさほど感じない。


「金銀財宝の類は地下の倉庫にまとめてあるようです」

「そう。元はシャンパー領や王都近郊の商隊から奪ったものでしょうから、そのまま騎士団が確保して、相応に返却してもらえば良いと思うわ」

「……畏まりました」


 冒険者であれば、盗賊を討伐した際の盗賊自体とその持っていた装備や財宝も冒険者のものになるのだが、今回はあくまで領主としての行動。なおかつ、その出所はリリアル副伯領ではない。ここは一度持ち主である王家・シャンパー伯に差し出し、正式に謝礼としてその一部を受け取る方が良いだろう。貸しにもなるであろうし、騎士団の面子も立つ。


「閣下、ご配慮痛み入ります」

「後日、シャンパー伯様から正式にお礼をさせていただくことになるでしょう」


 ということで、彼女は早々にリリアル生の元に戻るのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 リリアル副伯領内ではあるが、捜査は王都の騎士団が継続して行うということになり、『盗賊村』は一時、騎士団預かりとすることにした。面倒事は丸投げである。


 リリアルは一旦『開拓村予定地』に引き上げることにし、いくらか騎士団の為に資材を残し、盗賊村を後にすることにした。


「快適だよ」


 黒目黒髪も舗装された街道を進むのが嬉しいらしく、赤毛娘もいないのでプレッシャーも感じていないのかお気楽モードである。存在が頼もしくもあるが、常に前向きである赤毛娘の『圧』は心に来るものがあるのだろう。言うなれば、『小姉』的存在である赤毛娘が常に寄り添っている気持ち……彼女にはその心労具合が理解できるのである。


 き、きらってないんだからね!! たまに鬱っとおしいだけなんだからね!!


 三期生全員を引き連れてきているので、学院もそう長い時間放置しているわけにもいかない。野営も続けば……二期生には厳しい。三期生? 王都の石畳の上で生活してもへっちゃらです。暗殺には、そういう待ち時間も必要なので、その辺は工夫も慣れもある。


 学院にはリンデ留学組が七人滞在しているので、薬草畑の世話や日々の雑用もそれなりに熟せている……はず。自分で細かな説明を王国語でするには、未だ不慣れであるが、王国語で指示を受けることには問題ない程度になっている。


 茶目栗毛を留守居に置いているので、問題なく仕事を割り振っている事だろう。とはいえ、数日くらいならということでしかないのだが。





 開拓村予定にに近付くと、街道の整備以上にリリアル生が驚く。


「もう、すっかり村だ」

「うん。少し手を入れれば、生活できそうだよね」

「いいよなー 平和な村人生活」


 腕に覚えのある三期生からすれば平和だと思うのだろうが、普通の村人からすれば、魔物の棲む『ワスティンの森』の中の開拓村への入植はそれなりに勇気がいる。部屋住みで小作人として兄弟に従って飼い殺しされるくらいなら、と思い切って……男は入植する。女は……王都暮らしがしんどくなって村に戻って適当な男と所帯を持つ、できれば、まともな自由農民の嫁になりたい。そんなところだろう。


 開拓する森が多くあった聖征の時代以前の王国であれば兎も角、百年戦争の頃にはあらかたの内に出来る森は開発されてしまい、むしろ木材不足の時代となっている。開拓自体が珍しいこともあり、穀潰し呼ばわりされかねない若者にとっては大きなチャンスなのだ。


 ある程度村が形になっていれば、定住する者の士気も高まるだろうという目算も彼女にはある。


「あ、いた」

「パイセンもいるね」

「セバスおじさんだけだと、ここまで進まないよね」

「「「確かに」」」


 パイセン=癖毛のことである。一期生とはいえ既に『鍛冶師』として専従しているので、三期生と仕事をすることはない。故に、先輩ではあるがあまり接点がないので適当に『パイセン』と呼んでいる。


 扱いは軽いが、癖毛がリリアルの大切な部分を担っていることを知っているからこそ、適当ではあるが敬意を払われている。歩人? 雑に扱われております。


「いや、俺も、ずっと遠征中、魔術使いっぱなしだよな」


 歩人の主張を鼻であしらう三期生年少組。


「いつも使ってないから大変なんだよオジサン」

「そうそう。パイセンは、工房で年上の職人に魔装作りを指導しながら、じいちゃんといっしょに装備作ってるじゃん。オジサンは、先生がいないときは大抵、居眠りしてるよね」

「そうそう。最近、見張塔の屋上で昼寝してる。おきにいりスポットらしいよ」

「あ、じゃあ、鶏や兎放って、フンだらけにしておこう」

「「「だね」」」

「おい!! やめろ、俺の癒しの空間をぉ……オジサンは傷つきやすいんだぞ!!」


 歩人・ビト=セバス、見た目は少年、中身はガラスの三十代……さぼるのは癒しではありませんぞ。





 開拓村の屋根なし住居に仮設の屋根(魔装荷馬車の幌)を張って、仮住まいにする。一泊野営をして、明日は学院へと帰還する予定だ。


「思っていたより、みんな楽しんでくれたようで何よりだわ」

「はい! 学院の近くの森も偶に散歩で入りますけど、森の深さが違うので楽しいです!!」


 三期生年少組の少女、イルマが素直に感想を彼女に伝える。


「あー ゴブリン狩りしたいよなぁ」

「俺達も、そろそろ経験しておきたいよね」

「「「うん」」」


 三期生も、小斧を使った模擬戦を行っているが、ゴブリン狩りの経験はない。二期生も参加はしたが同行が主であり、経験と言えるほどではない。一期生と比べ、王国内での遠征機会も少なく討伐経験も得られないからなのだが。


「先生!! 今回みたいな盗賊村とかゴブリンの巣がワスティンの森の奥に残っているかもしれません!! 是非、捜索と討伐遠征をして貰いたい

です!!」

「あー まだ王都に近い側だけで十分じゃないかなー」

「駄目だよ!! 開拓村に移住してくれた人を護る為にも、事前に『掃除』しておかないと!! 領主としての義務だよぉ!!」

「領主の義務……」


 彼女は、領主・貴族の義務といった言葉に大変強く影響される。姉はその辺り「適時適切に」とか「全部が全部は出来ないよね」などとかわすのだが、彼女の場合、百%受け止めるきらいがある。姉の影響を受けている赤毛娘は彼女に対する煽り方をよく学んでいるといったところだろう。


 赤毛娘自体は、この遠征の先もまた遠征に同行したいと考えているに違いない。黒目黒髪とセットでお留守番は少々飽きているのだ。黒目黒髪の意思は……余り反映されていない。いえ、全くです。


 彼女は三期生の半数と二期生の冒険者組、一期生の学院残留組とリンデ組の年長者を組み合わせて、ワスティンの森奥地の『清掃活動』を行っても良いかと考えた。


 起点は、ヌーベ領との前線拠点兼監視所である旧修道騎士団支部跡『ヴィルモア』。そこから領境沿いに移動し、森に潜む魔物や盗賊の痕跡を確認し、必要であれば討伐を行う。


 ヌーベを刺激することになるかも知れないが、それは早晩発生すること。相手に準備期間を与え、開拓村に人が集まり発展した後に問題が起こるよりよほど良い。予見できる問題を事前に解決しておくことも領主の務めのうち。


「前向きに検討しましょう」

「「「やった!!」」」

「あー わ、私はお留守番方向で」


 黒目黒髪はあくまで抵抗。今回のように、比較的街道に近い森の浅い場所ではなく、未確認の森の南側、王都と離れた側を回るのだから、草深く、また魔物の密度も高まるだろうことは想定できる。そして、二三日では帰ることもできないだろう。


「そんなこと言って! 本当は楽しみなんでしょ!!」

「楽しみじゃない!! 絶対楽しみじゃないから!!」


 彼女は考える。『ヴィルモア』までは同行してもらおう。その先は、赤毛娘の熱意次第だと。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 幌馬車や狼皮テントと比べると、一長一短だがしっかりとした壁があり、土間から高くなった場所で居室があるのは良い事だろう。壁に簡単な天幕の屋根を張った『開拓村』の住居で朝を迎えながら、彼女は一応の満足を感じていた。


「領主館や礼拝堂もなるはやで仕上げなければね」


 あれもこれもと仕事を考え始める彼女に伯姪が釘をさす。


「それは、まあ、図面とかあれば、人造岩石製ならひと月くらいでできるだろ。けど、あんまり早く作っても、内装や家具は時間かかるんだから、その辺入植時期と合わせて計画すればいいんじゃない」

「それはそうね。領主館と礼拝堂は、石工組合にでも相談してみるわ」


『自由』石工組合ではなく、王都の石工組合である。礼拝堂ならば王都大聖堂にも話を通さねばならないだろう。躯体はともかく、外装は教会関係の石工職人に彫像など依頼しなければならないかもしれない。


 とはいえ、開拓村の礼拝堂など、木製の大きめの小屋でも上等であり、石造の礼拝堂があるのはそれなりに歴史のある村であるのが当たり前。大聖堂にしても教会堂・礼拝堂にしても、その教区の経済力の証であるから、住民が豊かでなければ素晴らしい細工の礼拝堂は作ることができないのは当然なのだ。


 その辺り、聖典こそが大切であり、華美な教会や彫像といったものを否定する原神子信徒らの教会は、ただの空き室に祭壇を設置しただけの場所であったりする。信仰心をどれだけ支出したかで示すようなことは、否定されるのだ。


 未だ入植者のいない村、領都とはいえ、いずれ教区が設置され、村や街あるいは街区ごとに小教区・教会が設置され聖職者も派遣されることになる。その辺り、相談しておく必要はありそうだ。王国は、王家の教会組織に対する影響が強い。良い聖職者を派遣してもらいたいものである。





 朝食を簡単に済ませ、帰りは魔装馬車を出し伯姪や青目蒼髪の騎乗してきた馬、あるいは水魔馬に魔装荷馬車を引かせ、昼前に一行は学院へと戻ることができた。


「街道整備されると、帰りも早かったです!!」

「いやぁ、本当に助かったよ。やっぱり、学院が一番だね」

「そう? また直ぐ遠征だよ!!」

「わ、私いかないからね!!」


 赤毛娘と黒目黒髪は、互いに逆向きなのだが、馬は合うのである。


 彼女と伯姪が本館に戻ると、待っていたかのような茶目栗毛が話しかけてくる。


「先生、王太子宮から書状が届いております。急ぎのようです」

「……また……」

「マリッジ・ブルーかもしれないわね」

「いえ。副元帥閣下のお名前で届いておりますので、別件だと思われます」


 迎賓館警備の打ち合わせではなさそうである。書状の内容を執務室で開封

し確認する。


 内容は『ヌーベ公領討伐にかんする御前会議』についての先触れ。王太子の他、王国には幾人かの元帥がいるものの、先王時代法国戦争での戦功で叙された者たちばかりであり、既に老齢なものばかりである。また、軍人として王国に貢献することで名を成した一族の者たちであり、『勝てば終わり』といった発想をする。


 先王も同類であったので、それで良かったのであろうが、結果、法国戦争は先王の以前から続き足掛け五十年と王国が傾くほどの戦費を費やしたものの、法国で得られた領地はなく、王国以上に傾いたサボアが王国の勢力圏に加わったこと、レーヌ公国周辺の幾つかの司教領が王国の領域に組み込まれた程度であり、はっきりいって大赤字なのである。


「王太子殿下は、ご老人の対応を公の場でしたいようね」

「うちのおじい様のように、人助けの延長で戦争しているような人達ばかりではないでしょうから。子供や孫に手柄を立てさせて家職を全うさせたいと思って口を挟んでくるつもりなのでしょう。そのための御前会議なのでしょね」


 恐らく、先王の尻ぬぐいを現在でもし続けている国王陛下の意思でもあるのだろう。ヌーベは王太子と隣接する領のリリアル・ブルグント・ギュイエを中心に短期制圧する。傭兵等を動員せず、近衛連隊・領軍・騎士団と王立騎士団を中心に戦後の施策含めて行う。


 大軍を揃えて、派手な武具に身を包み……等と考えている老害を如何に駆逐するか。その辺り、王太子の考えを読んで必要最低限の発言をしようと彼女は考えていた。これも、副元帥の役割りであると。





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[一言] 魔装で見た目軽装にして目出し帽で顔隠した特殊部隊風味のリリアル生を活躍させてやれば老害共は一網打尽に
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