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第824話 彼女は『盗賊村』を討伐する

第824話 彼女は『盗賊村』を討伐する


「魔力持ちが何人かいるわね」


『魔力走査』にひっかかる人間が十人ほどいる。その場所は中央の石塔の周辺に集まりつつある。


「女は生かしておいて。男は……幹部が三人くらい生き残ればいいわ。手足の二三本でも斬り飛ばしで無力化してちょうだい」


 手足は四本しかないので、二三本斬り飛ばすと大変なことになるのではと思いつつ、伯姪以下頷く。吸血鬼や魔物相手の討伐が多かった昨今、すっかり『人はすぐ死ぬ』と言う事を忘れている彼女である。


 襲撃することはあっても、されることは想定していなかったか。あるいは、見張をシャンパー側だけにおいてワスティンの森側にはおいておかなかった為なのか、不意打ちに近い状況で討伐は始まる。


 剣や槍を片手に飛び出してくる盗賊たちだが、鎧兜・鉄鋼や脛当てはつけておらず、いわゆる『おっとり鉈剣』というやつである。


「紋章旗はあずかるわ。精々暴れてきなさいな」

「院長先生!! ありがとうございます!!」


 赤毛娘は彼女に紋章旗を預けると、背中に回していたメイスを手に取り、

身体強化を施し一気に盗賊の集団へと吶喊した。


「置いていかれたわ」

「副院長は左手、俺は右手を受け持ちます」

「いいわ。じゃ、あの石塔集合で。後片付けしやすいように綺麗に斬り倒しなさいね」

「勿論」


 剣で首なり腕なり斬り飛ばし、あまりバラバラにしないように注意を促し、二人は赤毛娘同様飛び出していく。


PANN!!


PANN !!!!


 背後から二期生魔装銃兵二人が西門まで移動してきて、木柵を射撃台にして村内に対して射撃を始める。


「少しいいかしら」


 彼女は二人の前に遮蔽物となるように土壁を形成、安全に射撃できるよう射撃台を保護する。


「後方の部隊を呼び寄せて、二人の周辺警護をさせたらいいわ。リリ、呼び寄せてもらえるかしら」

『うん。よんでくるねー』


 伝令代わりに背後の森へと飛んでいくピクシー。しばらくすると、森の際に黒目黒髪班の姿がみてとれた。


「では、安全第一で。無理をしないでね」

「「はい!!」」


 言葉を返しつつ、絶え間なく魔装銃を村内に放つ薬師組二人。『導線』を使い、盗賊村人の胴に風穴を開けていく。ボン!! と体の中が爆発したように弾け、勢いのままその場で倒れ伏せる姿が遠めに見ても「やばい」と感じさせる。


 数人を打倒した後、狙撃を恐れその場で地面に伏せるか、あるいは建物の中に逃げ込む者が多数となる。


「来たわね」

「は、はい!! えーと……」


 黒目黒髪は慣れない指揮に四苦八苦している。


「三期生二人、私に同行してちょうだい。年少組でね」


 黒目黒髪に同行する三期生年長組は魔力持ち女子のアグネス。そして、魔力無男子のフリッツ、魔力有男子のハインツ、魔力無女子のイルマが班員である。


「男子二人ね」

「「了解!!」」


 小斧を手に持ち、彼女の左右に侍る。


「では行きましょう。役割は、伏せている村民の手足に手傷を負わせて逃亡を防ぐことよ。圧し折ってもらえるかしら」

「「……了解!!」」


 一瞬の躊躇の後、年少組男子二人は、彼女に続いて村内へと足を運ぶのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 魔装銃の発砲音にびくりとする三期生二人。


「大丈夫よ。立って動いている盗賊だけを狙っているのだから」

「はい」

「俺達明らかにチビだから、わかるんだよ先輩たちなら」

「う、うん」


 魔力持ちハインツは若干臆病な気質なのだろう、魔力無、当たれば下手すると致命傷のフリッツの方が躊躇がない。


「肝が据わっているわねフリッツ」

「はは、俺達弱いですからね。躊躇していたらすぐ死ぬってわかってますから」


 そう答えると、小走りに進み出て伏せて亀のように固まっている盗賊の尻に斧を叩き込む。


「おらぁ!!」

「ぎやああぁぁ!!」

「お、良いケツになったなオッサン。そら、もういっちょ!!」


 尻を斧で強打され、逃げ出そうと丸めた体を起こしたことろ、脛を斧で思い切りたたき圧し折る。


「おい、ハインツ。お前も一発入れとけ」

「ええぇぇ」

「度胸付けるんだよ! お前が仕事しねぇと下手すると仲間が死ぬんだよ。ビビッてんじゃねぇよ!!」

「ひっ、わ、わかってるよぉ」


 恐る恐る足に斧を叩きつけるハインツ。だが、おっさんはぎゃあぎゃあ声を上げるだけで、大した痛手ではない。


「足首斬り落とすまでやれ」

「うっ、で、できないよ」

「やれ。先生、命じてください。こいつ、びびりなんで」


 フリッツは彼女を色の無い目で見返す。


「いいわ。ハインツ、足首を斬り落とすことを命じます」

「!!!」


 気合を入れるように大きく息を吸い込むと、身体強化を纏うハインツ。


「せいぃ!!」

「うぎゃああああ!!!」


 ブツリと足首が斬り飛ばされ、男は転げ回る。


「ポーションを使っていいわ。止血だけしてあげなさい」

「「はい」」


 身体強化でハインツが押さえつけ、フリッツが傷口にポーションをかけ止血する。


『これ、必要かよ』

「さあ。生徒の自主性に委ねるわ」


『魔剣』や彼女は『魔力持ち』である故に、安全マージンをしっかり確保した行動が前提となる。しかし、養成所の特に魔力無の子たちはシビアな感覚で敵と対峙することを求められることになると最初から教育されているのだろう。魔力無のメンバーに対して、彼女は保護する以上のプランを持っていない。

リリアルメンバーの中のイレギュラーとして所属する魔力無の三期生にはこれからできること、できないことを徐々にはっきりさせなければならないだろう。


 討伐において、先頭を行くことは難しいが、後片付けなら十分に……油断さえなければ行う事は出来るだろう。その辺り、自分たちの存在意義を示したいという意図も見え隠れする。


 彼女も、三期生もお互いの在り方を探り合っている状態なのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 動いて歩き回る村人の姿はすっかり見えなくなる。建物の中に隠れているか、あるいは待ち伏せているか。


「あらかた片付いたわね」


 中央の石塔に集まった彼女と伯姪、そして赤毛娘と青目蒼髪。三期生二人は話に入らず背後に控えている。


「まだ、結構潜んでますけど……どうしますか院長先生」

「石塔に、この人数で突入するのは危険だよな」


 石塔に立て籠もる首領たちは時折、弓銃で狙ってくるのだが、全て魔力壁で弾き飛ばしており、ニ三度石塔前に集合するリリアル勢を狙った後は諦めて大人しく潜んでいるようである。


 彼女は思案した後、結論を伝える。


「問題を分けましょう」

「「「分ける?」」」


『盗賊村』の残存戦力は石塔に立て籠もっている。そして、戦力にならない人間は、竪穴式住居である各住居に潜んでいる。あとは、村内の地面に伏せているか横たわっている。


「幹部はこのまま塔に押し込めるわ」

「出られないようにするというわけね」


 彼女は頷くと、そのまま石塔の正面へとちかづくと、正面扉の前で土魔術の詠唱をはじめた。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁で扉を塞げ……『(barba)(cane)』」


からの


(adaman)(teus)


 一先ず、正面扉から出ることはできなくなる。そのまま彼女は魔力壁で足場をつくると、石塔に刻まれている狭間や明り取りの窓を土魔術で塞いでいった。最後は、塔の最上にある見張台への出口まで硬化した土壁で塞いだのである。


「「「……」」」

「やっぱり姉妹だよ」

「そうだな」


 破天荒である姉と比べ「自称」常識人の彼女であるが、防御塔の機能を魔術で全て塞ぎ、強制的に籠城させるというのは……理不尽!!


「交渉とかしなくて良かったのですか?」

「賊とは交渉しないのよ」

「ハインツ、常識だぞ」

「ごめん、フリッツ。だって、いま暗殺者じゃないからさ」


 暗殺者は失敗すれば殺されるか、情報を吐かされ殺されるしかない。ならば、最初から失敗=死と刷り込んでおいたほうが良い。交渉することで暗殺者にとって有利となることはないからだ。


 リリアルにおいても、賊とは交渉せず殲滅あるのみなのであるが、その辺りは二期生・三期生にとっては初めての経験であることも多い。賊を生かしておくのは情報を吐かせる為だけであり、許すことはないのだ。


「窒息しないかしら」

「そこまで壁はしっかりしていないから……多分大丈夫だと思うわ」


 中にいる魔力持ちの数は七人ほど。その他何人かいるとしてもニ三日は大丈夫だろう。暗闇の中、飲まず食わずで暫く過ごせば、心折れる者もでてくる。


「さて、その間に、色々済ませてしまいましょう」

「先生」

「何かしら」


 赤毛娘が彼女に尋ねる。


「地下牢の人達はどうするんですか?」

「「「「はっ!!」」」」


 地下牢の人もニ三日放置しても大丈夫かという疑問。


『アリー、リリが見てこようか?』

「お願いするわ」


 ピクシーはどうやら『壁抜け』も問題ないようだ。レイスやファントムを思い出し、ちょっと嫌な気にならないでもない。


 盗賊村の幾つかの建物が燃やされ、中から人が飛び出してくる。暴れている男が魔装銃で打ち倒され、その後ろを着いてきた女が伏して泣き叫び始める。


「どうしようかしら」

『ノープランかよ』

「……考えはあるのよ」


 彼女は石塔の前に今度は穴を設ける。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を設けよ……『(terra)(carcer)


 深さは3mほど。大きさは10m四方にもなるだろうか。


「二人とも、手分けして伝令をお願いするわ。掴まえた村人を、この穴に落として確保するから連れてくるようにと、伝えてちょうだい」

「「了解です!!」」


 二人の三期生男子に伝令役を命じる。


「先生、あの転げ回っている男たちや伏せて泣きわめいている女たちを回収してこの穴の中に落とせばいいんですよね」

「ええ。一箇所にまとめてしまおうかと思うの」

「了解です!! あたし、引き摺ってきますね!!」


 伯姪と青目蒼髪は一通りの掃討を終えたようで、数人の村人を追い立てるように石塔の前に引き連れてやってくる。燃え上がる家々を目にし、怯えたような表情をする女たちとは対照的に、手傷を負わされ抵抗できる武器を奪われているとはいうものの、男たちは不敵な表情を隠せていない。


 女子供ばかりであり、想像以上に少人数であると思い隙を伺ってでも逃げ出すなり、反撃しようと考えているのだろう。


 しかしながら、石塔の様子の変化に気が付きその不敵な表情が消し飛ぶ。


「ああ、なんだありゃ」

「……魔術師か。いや、魔騎士かよ」


 リリアルであるとは未だ認識していないようだが、認識していたからと言って、魔術で出入口を塞いだり、穴を掘ったりするとは考えていないのだろう。大概は、どこぞの姉のように、派手な火遊びを想像するからである。


「さあ、この穴に飛び込んでもらいましょうか。しばらくあなた達の仮の住まいになるのよ」

「「「げぇ」」」


 石塔の前まで近づくと、先ほど彼女が作った『土牢』にようやく気が付いた盗賊たちは、何だよこれといった様子で彼女を見返すのである。


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