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第795話 彼女は『魔物使い』について考える

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第795話 彼女は『魔物使い』について考える


「剣を回収していきましょう。それと、保管されていた武具があればそれも回収ね」


 彼女は三人に指示を出しつつ、礼拝堂の周囲の土壁を除去していく。焼けた肉の臭いが厳しい。


「他は燃えちゃいましたもんね」

「調子に乗り過ぎた。反省」

「領軍に貸与する装備の足しにするつもりでしょう? 次で回収だね」


 盗賊・傭兵狩りで回収した装備で、使えそうな剣や槍、鉾槍、あるいは兜や胸当は回収し、リリアル副伯領の領軍の装備として保管するつもりなのである。何もかも新品というわけにもいかないし、こうした中古装備を整備することもリリアル生にとっては良い経験となる。武具の日常整備は兵士・騎士見習の基本的な仕事だからだ。


 あと二箇所の盗賊狩りで、相応の装備が確保できるとかなり嬉しいという懐事情もある。新領地はなにかと物入りなのだ。





 明るくなり、再度一通り廃修道院内を捜索。また、捕らえた女たちや『魔王』に尋問し、保管していた資金や装備、食料などを魔法袋に回収した。


 盗賊団が保管していた馬と馬車を利用し、女たちを『タル』の街の騎士団駐屯地迄護送することにした。一度引き返して騎士団を呼ぶ手間と、その場合の戦力的空白を避ける必要もあると考えたからだ。


 残り二つの賊集団と今回壊滅させた賊の間には、提携関係もそれなりに存在し、定期的な情報交換・交流もあったという女たちからの情報によるならば、時間を置かずに討伐を続ける必要があるだろう。


「結構儲かった」

「うう、臭くなっちゃいましたぁ……」


 人の燃える臭いというのは独特なもので、きついものがあるという。慣れてしまえばどうという事はないのだが、内勤の多い黒目黒髪には今回色々と思うところがあるのだろう。


 今回回収した装備は、片手剣五十五本、短剣三十五本、矛槍十二本、弓銃八基、兜六、胸当八である。兜と胸当が少ないのは……燃えた死体についていた装備はそのまま土葬したからである。剣・短剣の大部分は……鞘がない。燃えちゃったから!!


 女たちは手だけを縛り、馬車に乗せ、二台の馬車で移動中。馬は幸い数があったので、四頭立てにして快適に移動中である。とはいえ、盗賊団馬車は『魔装』ではないので……


「ふ、普通の馬車って、こんなに乗り心地が悪かったのね……」

「でも、魔力壁の上に座っていれば、大丈夫ですよね先生」

「はっ!!」


 魔力壁を形成し、馭者台の上に展開して浮かせておけば確かに尻の安全は担保される!! 思いつかなかった自分に反省する彼女である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その日の午後早く、彼女はタル(Toul)の街に到着。そのまま騎士団駐屯地へと足を運んだ。入口でリリアル副伯であること、近隣の盗賊団の討伐を行い、その首領と下働きの女性たちを虜囚として帯同したことを伝えると、駐屯地は一気に大騒ぎとなった。


「……なにかやってしまったかしら」

「いつものこと」

「盗賊狩り、リリアルではお約束ですけど」

「こ、この辺は数が多すぎて放置されているからじゃないでしょうか?」


 盗賊狩りに成功することが希なのだろう。それと、可能性として、先日の吸血鬼のように内通者が存在し、事前に討伐の情報が洩れているのかもしれない。相手の数が多ければ、動員する兵士・騎士の数も多くなり、その結果情報漏洩も容易となるだろう。


 レーヌ公国は帝国との結びつきが強いのは歴史的に見て当然。尚且つ、隣領はギュイス家の持つ『バルデ伯』領と接している。ブルグント公家が滅んだ後、その権力的空白をついて台頭したのがレーヌ公家の分家筋に当たるギュイス家。法国戦争に積極的に従軍したバルデ伯一党の活躍を先代国王が重く用いて以降、軍事的な影響力を強く有する一族となった。


 また、教皇庁とのつながりも独自に有しており、その経緯から神国国王・ネデル総督府とも関係を持っているとされる。その背景には、北王国の女王の母方の生家となっていることも関わっている。本来伯爵家に過ぎないレーヌ公家の分枝が『公爵』となった理由は、軍事的な活躍のみならず、王族の外戚となったことも理由であるとされる。


 第二のブルグント公とさせぬためにも、連合王国やオラン公との交流、王弟殿下を王国北東部に『大公』として配置し牽制することに加え、レーヌ公国と婚姻を通じて王国との一体化を図ることで、更に抑圧することを進めている。


 彼女達の今回の訪問とその余波について、レーヌ周辺の帝国派に強い衝撃を与える必要がある。吸血鬼の摘発、内通者の焙り出し、そして、帝国に与する賊の討伐。明示されていないが、リリアルが何を得意としているか考えるならば、こうした行いは当然期待されているだろう。


「閣下、中隊長が参ります」


 駐屯地の応接室でお茶を勧められるまま飲んでいると、そこに先触れの騎士が現れる。今回の訪問において、リリアル三人娘は領主館においては『侍女』として振舞っているが、騎士団においては『王国騎士』として対応しているため、彼女と並んで三人もお茶を供している。たまにはいいじゃない。


「失礼します」


 登場したのは、中年の騎士隊長とその副官らしき二十代後半ほどの騎士だろうか。貴族出身ではない平民の騎士は叙任が二十代半ばほどの為、二十代後半の副官はかなり優秀なのか、あるいはよほどの人手不足なのかである。


 簡単な挨拶と自己紹介の後、彼女は盗賊討伐の経緯に関して説明する。とはいえ、まだ目的の三分の一を討伐したに過ぎないと加えることも忘れていない。


「……それは大変助かります。我々も必要性を感じているのですが、なかなか手を出す事が難しいのです」


 レーヌ公国周辺は帝国との領境であることに加え、王領・ギュイス領も複雑に絡んでおり、簡単に領地を跨いでしまう。特に、ギュイス領に関しては侵入することで、ギュイス公家と王家・レーヌ公家の諍いのタネとなりかねないため、盗賊団が逃走して逃げ込んだ場合、追撃の手も緩まざるを得ないという。大人数での討伐は、盗賊団に察知され逃げられてしまうのである。


「今回のように、僅か四名の魔騎士で討伐していただけるのであれば……」

「ええ。このまま時を置かずに追撃します。つきましては、残りの二つの盗賊団あるいは傭兵団の情報を、得ているのであれば提供してもらいたいのです」

「勿論です。おい、閣下に資料を提供できるように準備をせよ」


 従騎士の一人が中隊長の言葉を受け、応接室を退出していく。

 

「それで、今回の討伐ですが」

「これにて終了ということで公式には宣言しておきます」


 彼女は中隊長の内心を読んで答える。騎士団内部に盗賊団に通じている者がいるのであれば、『これにて討伐終了』と思わせた方が良い。

 

「……そうしていただけると、この後やり易くなると思います」

「申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします閣下」


 その後、捕らえた魔術師はそのまま王都の騎士団本部へと護送し、その上で帝国やネデル総督府との関係を追及することになるのだという。また、女たちは騎士団内で簡易な裁判を行い、『犯罪奴隷』として、騎士団の下働きをさせるつもりだという。


 騎士団で不足する女手を『タル』とその周辺の村などに求めるにはかなり厳しいため、人手不足が深刻であるらしい。特に、防御施設の建設などで作業をする男たちの世話係に丁度良いというのである。


 同じような仕事なら、真っ当な現場でするほうが良い。犯罪奴隷とはいえ、数年で刑期は終えられられる程度であり、その後はそのまま働くなり、余所に移るなりすれば良い。とはいえ、まともな仕事にありつけるかどうかはわからないので、そのまま騎士団で雇われることが望ましいだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 騎士団の宿舎で一泊させてもらい、翌日午前中に、ド・レミ村へと戻って来ることができた。馬車の中では、昨日騎士団で確認した『魔物使い』『魔剣使い』の二つの盗賊団の資料を基に、どのように討伐するかを検討していたのだが……


「さっぱりわからないわ」

『出たとこ勝負か。いつもと同じじゃねぇか』


『魔剣』に言われなくともわかっていることなのだ。『魔物使い』はどうやら『蛇使い』のようなのだが、どのような蛇なのかという肝心な情報は不明のままなのだ。『魔鰐使い』のように、ほとんど竜のような強力な魔物である可能性もあるのだが、それならば『蛇』ではなく『ワーム』といった、竜に近い魔物であると公言した方が通りが良くなるだろう。


 そもそも『蛇』と『竜』では、相手に与える印象が相当異なる。傭兵として得られる対価も大きく異なるだろう。『竜』と称した方が良い。


『魔剣使い』に関しても、どういった魔剣かに関しては不明であり、討伐に向かった魔騎士・魔剣士といった魔力持ちの者たちがことごとく返り討ちにあってしまい、魔剣の力なのか、あるいはその剣士の技術によるものなのか討伐失敗の要因が判然としないということもある。


 魔剣と称していても、どこぞの『魔剣』のように知性を持ち、尚且つ様々な装備に任意に姿を変えることができ、恐らくは独自に魔術師として詠唱も可能であろうと考えられる物もあれば、単に魔力を纏える『魔銀剣』を『魔剣』と称する場合もある。


 あるいは、『悪魔』から与えられた超常の力を持つ剣を『魔剣』と称する可能性もなくはない。その場合、剣士は何らかの対価を悪魔あるいはそう称される『精霊』に支払い効果を発揮している可能性もある。加護や祝福といった恩恵を得ている可能性も考えねばならない。


「当たって砕けろ」

「砕けちゃまずいでしょ」


 赤目ペアは適当なことを言いつつ、出たとこ勝負のつもりになりつつある。先ずは相手の観察から入らねばならないだろうと彼女は考えていた。





「お疲れ様、討伐できたみたいね」

「はい。先ずは『魔術師』の一団を討伐して、『タル』の騎士団に引き渡して

来たところです」

「そう。話を聞かせてもらえるかしら?」


 タニアの庵に到着した彼女たちは、昼食をいただきつつ、昨日の討伐について説明する事となる。


 一通り聞いたうえで、タニアは「仕方ないわね」と『魔術師』により焼き払われた配下の盗賊たちの話を理解しつつ、女たちを生かしたまま騎士団へと送り届け、犯罪奴隷として騎士団駐屯地の労役に突かせたことについては、良い判断であったと評価してくれた。


 行き場のない女性を放りだすよりは、騎士団で下働きを数年した上でそのまま生きる場所を得られるようにした方が良いと判断したのだろう。一つの村に十数人の女を連れてくることは難しい。街でなければ仕事もそうそう見つからないのだから、『タル』の騎士団で仕事を得られたことは僥倖といって良いだろう。いままでの盗賊団暮らしとさほど変わらないではないか。


「それで、次はどうするんだい」

「……情報的には判断しかねているところです」

 

 彼女はタニアに騎士団で得た二つの盗賊団の情報について説明をすることにした。地元故に持っている情報が何かないかと考えたからだ。


「ふふ、一つ良い事を教えてあげられるわ」


 タニア曰く、『蛇』は『双頭の蛇』であるということなのだ。


「双頭……ってなんですか?」

「生まれつき、頭が二つある蛇だってことね。体のどこでつながっているのかはわからないけど。頭は二つあるってことだけは確か」


 多頭竜として古くから有名なのは『ヒュドラ』であろうか。強力な毒と再生能力を有するとされる『水竜』の一種である。とはいえ、知能は低く、動きが鈍いので、リリアルの騎士数人がかりであれば、容易に討伐できる程度であろう。首を斬り落としてその傷口を斬り落とす。胴体にある『核』を破壊するといった程度で討伐可能となる。


「特殊な能力や、大きさがわかれば良いのですが」

「うーん。魔物化した蛇だけれど、せいぜい数メートルってところじゃないかしら。水の精霊である『竜』ならともかく、人に飼われる程度の魔物化した『蛇』なら、大きさはたかが知れているでしょう」


 王国周辺に住む『蛇』は精々1mを越えない程度のものがほとんどであるが、暗黒大陸には人を飲み込むほどの大蛇も住んでいると言われる。献上品として持ち込まれることもあるため、帝国にも持ち込まれた大蛇が魔物化した『従魔』の可能性もある。


「蛇使いもそのうち喰われる」

「ありそう。子熊の頃から熊を育てて飼主は安心していたけど、そのうち食い殺されたりすることもあるみたいだし」

「ええ……メリッサさん大丈夫かなぁ」


 メリッサの『魔熊』は、中身弟なので問題ない……はず。


「蛇は所詮蛇でしょう。竜ではないのだから、普通に討伐すればいいわ」

「それはそう」

「ああ、あなた達……竜殺しのリリアルだったわね」


 そう、竜は勿論、魔鰐もクラーケンも討伐している。討伐だけなら問題ない。


「賊の数も今回は少なそうですね」

「そうね。どうやら、定期的にどこからか餌が搬入されているみたい。なので、協力者が外部にいるという事が分かっているわ」

「サーカスのオーナー?」

「双頭蛇なら、それなりにお客が呼べそうですもんね」


 客は呼べるだろうが、喰われないという保証はない。檻に入れて見せる程度なら見世物になるだろうか。


「そういえば、しばらく前に、双頭の蛇がネデルの見世物小屋で話題になっていたわね。その子のことかしら」

「最近?」

「うーん……百年くらい前かしら」

「長生きすぎるのも問題」

「それはそうなんだけどね☆」


 そう考えると、見世物に出来ないほど大きくなり、街中では飼えなくなったので傭兵団と共にデンヌの森の中に隠したといったところかもしれない。『双頭蛇』と『蛇使い』はさほど古い関係ではなく、その場に同居している傭兵団も潜伏先を同じくしているだけという関係かもしれない。


「双頭の蛇と盗賊が協働して戦えるとも思えないものね」

「各個撃破」

「それでいいと思います」

「異議なし。蛇のお肉は割と美味しいですよ」


 魔鰐の肉もまあまあ美味かった。魔蛇も同じように美味しいかもしれない。タルの騎士団に振舞ったり、レーヌ公家に献上するのも良いかもしれないと彼女は考えるのである。




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[気になる点] >閣下に死霊を提供できるように準備をせよ 誤字だろうけどまさかのネクロマンサー [一言] >魔鰐の肉もまあまあ美味かった。魔蛇も同じように美味しいかもしれない やっぱり珍味狩りか、次は…
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