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第788話 彼女は公宮で決闘する

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第788話 彼女は公宮で決闘する


 摂政殿下が否定されるかと思いきや、「あらあらまあまあ」とばかりに賛同してくれた。公太子・公女両名も「流血は無しで」という彼女の確約を持って賛同するに至る。


 特に、公太子殿下は大興奮であったという。少年は決闘好き。


 しかしながら、決闘相手である貴族の子息は自身が言い出したにもかかわらず彼女の実の存在を知ったとたん、泣きわめき逃げる気満々となった模様。恐らく、何年か前のメインツの決闘騒ぎの話を思い出したのであろう。


 所謂『帝国的解決』である。


 メインツでは冒険者登録を掛けてであったが、今回は『貴族籍』あるいは『レーヌ国籍』でもかけてもらおうかと彼女は思う。


 とはいえ、前回は茶目栗毛五人抜きで彼女は後方で腕を組んで見守っていただけなので、公然と決闘するのは今回が初めてとなるだろうか。


 往生際の悪い主従に、彼女は提案をする事にした。


「……本当によろしいのですか」

「ええ。折角二人いるのですもの、両方お相手するべきかと思います」


 彼女の提案したのは二対一の決闘。馬上槍試合もそうなのだが、今では一対一の対決が見世物として確立しているが、百年戦争以前の時代においては、複数対複数の模擬戦闘という名の代理戦争が為された時代もあり、その場合、主従対主従という組み合わせも存在した。


 決闘自体が勝敗を神に委ねるという戦争の本質的な部分の体現であり、敗北が必ずしも死を意味しない騎士同士の戦いも、戦争ではなく騎士同士の力比べと考えると理解できる。


 騎士・諸侯にとって戦争も決闘も馬上槍試合も勝敗を決して神の裁定を得るという行為の選択肢違いに過ぎないのである。


 なので、貴族に属する者たちは、公に決闘が禁じられつつあるにも関わらず『自力救済』とばかりに、決闘を肯定してしまう。力こそ正義、正義は必ず勝つという貴族・騎士に属する者の信条が早々替わるわけがないのである。





 昼餐の席に彼女がつくと、既に『余興』の件が話に登っていたようで視線とざわめきが一気に彼女に集中した。騎士礼服を昼餐用に簡略した上着を身に纏い、胴衣は魔装のビスチェを装備し、首回りは魔装布の装具を巻いている。魔装手袋も装着し下手な鎧並みに堅牢な装備を整えている。


「今日は、公女ルネが里帰りし、その護衛役として王国でも近隣に名高いリリアル副伯が帯同してくださいました。皆、盛大な拍手で感謝を伝えましょう」


 摂政殿下の掛け声で、盛大な拍手が沸き上がる。ナンスの有力者とはいえ、富裕な商人、都市貴族が主な会食参加者であり、彼女に面と向かって喧嘩を売るような者はいない。


 いるとするならば、夜の土地持ち貴族・騎士の類であろうか。


 挨拶の順番が回ってきたこともあり、彼女は参会者に向かって挨拶をはじめる。


「殿下にご紹介に預かりました、王国副元帥リリアル副伯アリックスです。この度は、公女ルネ殿下にご同行させていただき、レーヌ及びナンスを訪問する機会を与えられ大変光栄に存じます」


 彼女は、ルネ殿下、摂政&公太子の人柄のすばらしさ、そしてその人柄を育んだであろうレーヌとナンスの素晴らしさ、ひいてはその街を作り上げるに尽力しているであろう参会者とその一族に深い尊敬と感謝の念を感じるとつなげる。


「戦火に焼かれ何もないところから街を再建した皆様の先祖の方々の並々ならぬ努力の結晶が、このナンスの街並みに現れていると私は感じました」


 公家、会食者ばかりでなく、その先祖も褒められ、涙もろいものは既に目が赤くなっている。王国を代表する実力者と目される副伯から、面と向かって褒められることは名誉であると感じているのだろう。


 ところが、風向きがやや代わる。


「しかしながら、残念なこともございました」


 彼女は目立たぬよう、従者共々冒険者のような平民のいで立ちで街を見て回っていたのだが、その姿を見咎めたとある貴族の青年主従に決闘を申し込まれたのだという。それも、負ければ当人だけでなく連れも含めて犯罪奴隷にするという理不尽極まりない内容でである。


 この話を詳しく知らなかったであろう会食者たちは、そのあまりの物言いに本人たち以上に腹立たしさを隠せずにいた。それはそうであろう。公女の友人とも言うべき王国の有力者が自らの街にいたく感心をし、その先達の苦労に思いを馳せつつ街を散策していたところ、貴族の小僧が身分を嵩に理不尽なことを言い、一気にレーヌ公国とナンスの街の看板に泥をぬったのであるから。


 彼女以上に激昂する参会者たち。


「ですので、皆様にどちらの言い分が正しいか、決闘の結果を持って見定めていただきたく存じます」

「「「「おおお!!!」」」」


 余興の理由が明確になり、お国自慢と「怪しからん」の交互の繰り返しが始まり、会食の場の空気は「決闘やれ」という流れに一気に加速する。もう、あの貴族主従を擁護する者は誰一人いない。


『おまえ、最近無駄に煽るの上手くなってるよな』

「ええ。姉さんにも学ぶべき点があると最近知ったのよ」


 言い得て妙である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 馬上槍試合同様、どちらが正しいか神の前で判断してもらう。勝者は正義。戦争に結果を委ね、貴族や騎士を殺さず捕虜にする事も同様。何故なら、当事者を殺してしまっては、権利を主張できない。敗者は生きてこそ勝者が権利を主張できる。別に、人の命を大切にしているわけではない。


 装備が対等である必要はない。何故なら、装備一式整えることもまた正義を示す為に必要な行為の一環だからである。


 勿論、本来の決闘は「代理人」が認められている。神が正義を示すのであれば、代理人が行っても結果は変わらないはずだからだ。





 昼餐が終わり、中庭へと参加者は移動する。


『落としどころは弁えてるんだよな』

「首か手首か足首か……かしら」

『公女や摂政に負担掛けるなって話だ。あとでババアに〆られんぞ』


『魔剣』が言うまでもなく、彼女の中ではある程度定まっている。権利ばかり主張する木っ端貴族の多い帝国の風潮を排除し、王国風に変えるには荒療治も必要だ。晩餐は晩餐で考えている事はあるが、レーヌの街の有力者達には、この程度の刺激と牽制で十分だろう。


 彼女は上着を脱ぎ、魔装の胴衣と手袋をつけ、首元には魔装布を巻いている。頭部には魔装の『コイフ』を装着。上半身の強度は、胸甲騎士程度まで上昇している。まさに、魔力の暴力である。


「来たわね」


 中庭に連れてこられたのは、若い貴族とその従者。年齢は二十代前半だろうか。貴族の息子は騎士となり、その子は何もなければ平民となる。女児の場合、婚姻により家との縁が途切れた段階で嫁ぎ先の身分になる。彼女があのまま冒険者などせず、家の勧めで婚姻していればかなりの確率で平民となっていたであろうし、そのつもりで様々な用意をしていたのだが……何の因果か貴族家の当主である。


 二人は胸鎧を付け、剣を持つ手は金属製の籠手を装備。帝国傭兵の士官に近い装備を身につけている。先ほどまでの恐れ慄いた様子は一旦影を潜め、目の前の少女なら二対一であれば勝てるのではないかという現実逃避の自信に満ちた雰囲気を纏っている。


 二人の愚行は既にレーヌ公家から当主に伝えられており、この決闘以前に、貴族籍から抜かれ家との縁を切られている。今後は、元貴族とその従者として頑張ってもらいたい。


「では、これから決闘を始めます。見届け人は……」


 どうやら、市の参事の一人のようで、商人というより騎士の雰囲気を持つ三十半ばであろうか。魔力持ちで若い頃は騎士をしていたのかもしれない。


 こちらの条件は、勝利した場合、三日間の禁固及び、一年間のレーヌ追放と隣地である『タル』の騎士団駐屯地にて労役を課すというものにした。労役を持ってレーヌと王国の懸け橋になってもらおうということだ。


 公開処刑ではある意味なかったこともあり、観客から安堵のため息が聞こえる。


 対して、二人のからは今までの身分の回復をレーヌ公家に保証してもらうか、レーヌ公家に仕えられるようにしてもらいたいという欲深いものであった。怖いもの知らずである。


「この内容で宜しいか」

「はい」

「「お、おう!!」」


 摂政殿下が頷き、三者の合意が成立する。


 得物は『木剣』か『刃挽きの模造剣』を選べるようにした。彼女は『木剣』を選択、二人は模造剣を選択した。ヤル気満々である。





「始め!!」


 彼女は木剣を片手で構え、貴族の息子に切っ先を向け半身で構える。左手は軽く腰ほどの高さまで上げ従者を牽制するように掌を向ける。


 『身体強化』『魔力纏い』『魔力走査』を発動。どうやら、二人とも魔力を持ち、ある程度身体強化が扱えるようだ。とはいえ、魔力量はあまり多くはない。何故なら、多ければ貴族街で平民相手にクダを巻くような事はせず、レーヌ公家なり帝国諸侯に仕えるか、あるいは自ら傭兵団を立ち上げるか

あるいは参加して幹部・中隊長辺りになれたであろう。


 そうでないのなら、大した能力ではないと推察できる。


『油断すんなよ』


『魔剣』がかまびすしい。


 正面から貴族子息が剣を振り下ろし牽制してくる。彼女は軽くかわすも、斜め背後から従者が突いてくるので体を半回転させ木剣の腹で刺突をいなす。


 背後から叩きつけるような子息の撃ち降ろし。再び体を反転させ剣を背に担ぐように往なすが。


 GATUU!!


 刃挽きの剣とは言え鋼と木のぶつかり合い。木剣はひびが入り、何とか剣の形を維持する程度の耐久力を残すのみで、今一度相手の模造剣が当たれば二つに折れてしまうだろう。


『剣が折れたら負けか?』

「いいえ。取り落とさなければ問題ないわ」


 剣を左手に持ち替え、牽制するだけに用いることにする。代わる代わる背後から斬りかかる二人の剣士。その腕前は並の傭兵程度はありそうで、悪くはない。徴募兵に比べれば、剣を振ってきた経験分マシという程度だが。





 観客は、彼女が紙一重で躱し続けるたびに、息をのみあるいは声にならない悲鳴を上げてたが、摂政殿下と公女ルネは至って平静であり、公太子が若干興奮しつつ息をひそめて成り行きを見守っていた。


 攻防が五分、十分と続くうちに観客が騒めき始める。これはもしかして、リリアル卿がわざと躱し続け反撃していないのではないかと疑問を持ち始めたのである。


「ふぅ、ふぅ、逃げてばかりだな閣下ぁ!!」

「そう見えているなら、お目出度いわね」

「なんだとぉ!!」


 並の魔力持ちなら、身体強化の維持は精々持って十分程度。木剣と模造剣というハンディを付けることで、ヤル気を出させ、最初からリスクを感じない状態で魔力を無駄に消費させ時間を稼ぐ。


 これが、もう少し条件の厳しい決闘、例えば相手の武器が魔銀剣であったりすれば話は別であったが、まぐれで剣が当たったとしても、鋼の模造剣では彼女の体を傷つけることは不可能に近い。


 正確に言えば……絶対無理である。


 魔力切れが見えている従者に集中。振り下ろされる剣の横腹を魔力を纏った魔装手袋の手刀で撃ち叩き折る。


「げっ!!」


 呆然とする従者の剣を持つ手を右手で上から握りしめ、思い切り握り潰す。


 BOGYAA……


「ぎぃぃぃ!!!!」


 金属の籠手ごと握りつぶされたので、柄を握り込んだ状態で地面に前のめりに膝をつき痛みで悶絶している。


「はい、お終い」


 剣で首筋を軽く叩き、気絶させる。元々痛みで気絶寸前だったのだろう。


「き、貴様ぁ!!」

「閣下を付けなさい」


 目の前で為された思いもよらない光景。恐怖からか自我を失ったかのような狂乱状態で斬りかかる子息。


 既に魔力切れに陥っているのか、その出足は鈍く剣先は更に衰える。気持ちは前に進めども体が追い付かない状態。もはや決闘終了だ。


 体が泳いだ撃ち降ろしを二度三度後退しながら交わし、振り下ろすタイミングを合わせて剣を圧し折る。


 PANN !!


 軽く弾き飛ばされるような音がして、剣が根元から圧し折れ、剣先が跳ね飛ばされる。


「ぐうぉ!!」

「二人仲良く労役に行けるように……」


 籠手の上から彼女は再び握りしめ、子息の指を握りつぶしたのである。


 立会人を始め、多くのレーヌの有力者達は、彼女の在り様に恐怖をおぼえた。曰く「王国に逆らっちゃなんねぇ」との思いを共有したのである。





作品投稿を火・木・土の週三から火・土の週二にしばらく変更いたします。


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[一言] 篭手の上から手を握りつぶしたとなると変形した篭手が手に食い込んでる訳で、南無
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