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第786話 彼女はレーヌに到着する

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第786話 彼女はレーヌに到着する


 『テルリ城』『聖都』『ヴェダン』での社交をそれぞれ熟し、公女ルネとその一行であるリリアル勢は無事、レーヌ公国の公都『ナンス』に到着した。


 三日間の社交は、彼女が当初想像していたよりもずっと意味のあるものだという事が理解できた。王太子の深謀遠慮といったところだろうか。


 テルリ城に集まった貴族たちは、王弟殿下がランドル周辺に公爵として配置された場合、その後背にあたる地域の貴族達であった。王都と王弟領の中間の小領主たちが主である。


 神国がネデルで総督府の旗下の軍勢を増員しているという話に加え、ネデルを逃れた原神子信徒の商工業者がこの地域にはかなり流れ込んでおり、ネデル総督府の異端狩りや神国軍の残虐さがかなり喧伝されている。


 王弟領で食い止められなかった場合、王都までの諸都市が一斉に神国に下る可能性がある。その後、重い軍税をかけられるとしても、街を破壊され略奪暴行されるのであれば、ましな方を選択する。


 今回の王都からわずか半日で王妃殿下が到着したという事自体が、迅速に救援が来る可能性と、その環境整備が進んでいるものと参加した貴族達は理解したであろう。その中にはリリアルも含まれると。


 万余の不死者の軍勢に囲まれながら、市民と共に街を守り切ったリリアル男爵(当時)とその配下の騎士達(子供)の活躍は記憶に新しく、また、近衛連隊を引き連れ自ら指揮を執った王太子殿下の在りようも思い出されただろう。


 神国軍が十万を動員し攻め込んだとしても、移動には時間が掛かり、補給も相当な負担となる。糧秣を運ぶには水路を利用する必要があり、進軍路はある程度推測できる。


 その上で、リリアルと近衛連隊が速やかに反撃を加えれば、早々簡単に王国内を神国軍が好き勝手に攻略することはできないと言外に理解できたといえるだろうか。




 

 それは、ミアン同様神国領ネデルにほど近い『聖都』も似たようなものであり、街の有力者たちは公女殿下とリリアル副伯の訪問に『ミアンを忘れるな』『護国の聖女様万歳』などと胡乱なことを言いつつ、その実、ネデルのような異端審問が行われない王国にとどまりたい等強い意思がみうけられた。


 街の有力者の中にも原神子信徒は増えているものの、教会や教皇庁の在り方を露骨に非難するような者は表立ってはいない。そこまで言い始めれば庇いようがないと理解しているのだろう。


 また、『ヴェルロ』では、一部、ミアン防衛戦に参加した魔導騎士達がおり、彼女の活躍と自らの功績を話すことになった。ミアンの話は王太子殿下が登場する為、公女ルネも大いにその話を愉しんで聞いていた。同じ話だが、話す人間の視点が違えばまた様子が異なって見えるのである。


 魔導騎士の工房を少し見学させてもらい、リリアルとは異なる魔導具を用いた重装騎士を目にして赤毛娘と赤目青髪は「自分たちも着たい」と言い始めたのだが、魔導具の規格と体のサイズが合わず、「見るだけ」と軽くいなされてしまった。赤毛娘ぇそれは無理!!


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 レーヌの王宮は、先代国王のお気に入りの城館を模して建てられた新しい白亜の宮殿で、城塞としての機能は凡そ持ち合わせていないと思われる。歴史のある街であり、戦火に見舞われたことが無かったわけではないが、街壁でこれまでは十分防衛が出来たのであろう。


 攻城砲が普及した今日では、いさかか不安であるが、ある日突然、不死者の軍勢のように集まるわけではない。傭兵主体の帝国諸侯軍の場合、諸侯から傭兵隊長に依頼が為され、期限を切って徴募が行われ軍が編成される。その段階で、おおよその侵攻時期や目標も判ってしまう。


 なので、その間に王国内に退避するであるとか、隣領である『タル』の城塞に避難することも十分可能だろう。


「とても素敵な宮殿です」

「ええ。王太子宮には歴史的な趣がありますが、ここは明るく今風の宮殿で、気持ちも明るくなります」


 王太子宮は元修道騎士団王都本部。そして、修道院として機能していた

場所なので、今風の宮殿とはかなり異なる。城館部分は改装している

ものの、作りの古さは否めない。


「いま建設中の王都迎賓館は、今風の白亜の宮殿になるようです」

「私たちの婚約式でこけら落しがされると聞いています。とても楽しみです」


 因みに、その一角には人造岩石で外壁を覆ったリリアル城塞がこっそり建っているのは今のところ内緒である。





 とはいえ、女王陛下の無意味に巨大な『新王宮』よりずっと趣味の良い宮殿である。新王宮は女王の趣味ではなく、父王の時代の建築物なのでやたら部屋数が多く、敷地内に散在する『愛妾用』の城館もその為なのでやや言いがかりなのだが。


「さて、帰ってきました」


 城館の入口には、公女を出迎える使用人・従者の列。馬車が止まり、踏み台が置かれると速やかに扉が開かれる。そして、最初に降りたのはエスコート役の彼女。そして、公女ルネが馬車から降りて来る。


「お帰りなさいませルネ様」

「皆も元気そうですね。お二人はどちらにいらっしゃるのですか」


 一先ず着替えてから、今日は家族での私的な時間を過ごす予定であるのは当初のままである。到着の先触れはあったものの、あまりに早い到着なので誤報ではないかといぶかしんだ結果であるとか。


 なので、いつ到着しても良いように、私的なサロンで公女を待っているのだという。魔装馬車の速度は、常識を当てはめると理解できないのである。





 彼女とリリアルの護衛侍女三人も、公女殿下に続いてサロンへと案内される。着替えるのはその後になりそうだ。正式な挨拶というよりも、公女の友人として遇したいようだ。ネデルの宮廷サロンの水で洗われたモダンな女性である摂政殿下は、その辺り、フランクな関係をお望みであるようだ。


「ただいま戻りました」


 サロンに案内され、公女ルネが帰国の挨拶をする。とても軽やかな挨拶。


「ルネ、お帰りなさい」

「姉上、お帰りなさい。王都は如何でしたか」

「ええ、貴方が話をしていたように、とても広く興味深い街でした」


 王都について盛上ろうとするところを、摂政殿下が彼女達を紹介するように公女に促す。


「失礼しました。リリアル副伯アリックス閣下と侍女の方々ですわ」

「摂政殿下、公太子殿下御目文字かないまして光栄に存じます」

「あら、可愛らしい方ね。侍女の皆さんも紹介してくださるかしら」


 彼女が同行させている侍女がただの従者ではないと見たのだろう、摂政に促され彼女はリリアルの騎士であると三人を紹介する。


「皆さん、王太子殿下と南都で竜討伐をなさったのですって」

「なんと!!それは是非、詳しくお聞きしたい!!」

「……カール、気持ちは理解できますが、この場で立たせたままでは失礼ですよ。さあ、皆さん、そちらにお座りになって」


 彼女だけでなく、リリアル生三人にも席を進める摂政殿下。


「私のことはクリスティーナと呼んで頂戴」

「ボクのことはカールと呼んでくれ」


 二人ともフランクすぎる。


「友人の母と弟なのだから、名前で呼んでもらって構わないのよ。私もアリーと呼んでいいかしら」

「勿論です、クリスティーナ様」

「ボクも!!」

「カール様」


 二人は、赤毛娘、赤目蒼髪、赤目銀髪にも名前を呼ぶようにと話をする。


「あ、あたしもですか?」

「そうだよ。だって、竜殺しの騎士なんでしょ? 凄いや」


 赤毛娘は公太子のキラキラお目目にやや引いている。珍しい。普通は大体立場が逆なのだが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 午後の時間をサロンで過ごし、レーヌ公家一家とリリアル勢はそれなりに親しい関係となった。とはいえ、なにか含みがあるのだろうかと考えないでもない。


 晩餐前に一度部屋へと戻り、着替えをする。晩餐に招かれたのは彼女だけなので、彼女だけが礼装からドレスへと着替えるのである。


「あれは、どういうつもりなのかしら」

『レーヌ公家の立場が弱いか、お前と王太子を利用して、外患誘致をする廷臣どもを駆逐したいんじゃねぇか』


 半ば独立した公国としてレーヌは存在してきた。帝国から離れて間もない領地であり、未だに帝国と強くつながる存在もいる事は想定内だ。それらをあぶり出し、あるいはあらかじめ敵対させることで対処を容易にしたいということもあるだろう。


 婚姻式に摂政・公太子が参列しレーヌ公家が領地から不在になる間に、良からぬことを考える者たちがいないとも限らない。あるいは、ワザとその隙を作り、何かやらせるつもりだとも考えられる。


『ヌーベ遠征前に、レーヌを安定させたいってところじゃねぇか王太子の腹は』

「その辺りが妥当ね。では、明日以降、少し波風立てなければならないわね」

『黙っていても挑発されるだろ。問題ねぇよ』


 見た目は可憐な少女にしか見えないリリアル副伯。侮られるのはいつものこと。道中の歓待は、彼女の実績を理解している者たちだからこその反応。それをはなから信じる気のない帝国・神国寄りの人間からすれば、胡散臭い存在だと思われ、挑発されるだろう。


 王国と公家の面子を潰し、マウントを取ろうとする可能性が高い。貴族も冒険者も、考えることは似ている。


 だからと言って、明日が楽しみだなどと全く思っていない。





 晩餐の場では、王都からレーヌまでの間に立ち寄ったところでの会食の件について摂政殿下から聞かれた。


 神国に対する警戒心、原神子信徒に対する弾圧が周辺に広がるのではないかという不安。王国の北東部にはそうした空気が広まりつつあり、王太子はその流れを変えようと考えているという話を彼女なりの理解で伝えたのである。


「ふふ、ネデルも随分と変わってしまったようね」

「お母様が過ごされていた時代とは総督閣下から違いますもの」


 摂政殿下が若いころ過ごしていた時代、二代続いて帝国皇帝の妹や姪が総督を務めていた。サロンを主宰し、芸術家のパトロンとなり、学者や執筆家が自由に議論を交わす場であったという。


「ネデルは都市がとても多い場所でしょう? 都市の空気は人を自由にするというけれど、自由に重きを置く価値観を持つ場所がネデルであると私は思っているわ」


 ネデル同様、法国北部から中部も多くの都市が発展し商工業者が力を持ち、都市貴族となり自由な空気が文化や芸術を発展させ、経済的にも豊かな場所となった。ネデルと法国は同じではないが、都市が発展した場所という共通点がある。


 帝国と王国は、北法国で争い、ネデルランドルでも争ったことがある。王国は妥協する点を間違えてその両方を失った経緯がある。戦争に勝利するのは難しくないが、戦争を終わらせることは難しい。


 北法国も長きにわたる戦争と、帝国皇帝の財政破綻により経済的には大きく退いている。同じ事はネデルでも進みつつある。都市を支えた商工業者らが域外へと逃げ出し、帝国・王国・連合王国へと向かった。


 神国はそれ以前に、原神子信徒・ラビ人商人を国内から追い出しており、商業の衰退はネデルに先んじていると言える。


「レーヌは南北の貿易の中継点として成長してきた国。国同士の戦いであろうと、内乱であろうと戦争が起これば経済的に悪い影響が直ぐに出ます。レーヌが生き残る為には、戦争に加わらず商業の輪から外れないように努力する必要があるのです」


 そういう意味では、何らかの産業を新しく起こす必要があるのかもしれない。ガラス器や陶芸、あるいは金属加工など近隣の鉱山・鉱脈から素材を得て起業する商工業者を育てるなど、良い案があるかも知れない。


「私たちが注目しているのは、王太子領で行われた殖産興業の政策です。王国と結ぶことで、そうした政策を深く学ぶ機会を得られると考えたのです」


 知らない間に、王太子殿下は様々な産業育成を進めているようだ。彼女の中では「林檎畑からのシードル」止まりなのだが、今は仕方がない。まだ諦める時間じゃない、負けてなんかないやい。


「王太子殿下の施策については、私も学びたいと思います」

「ええ、是非ともに学びましょう。リリアルもレーヌも王国に所属する領地であるとしても、委ねられているわけですから。領主として、王家の代官に替わられない工夫をするべきです」


 元々代官の娘である彼女にとって、代官の仕事というのは想像に難くない。定められた政策を施行し、予算通りに徴税を行う。領内の利害調整をし、必要な意見を上申する。あくまでも決定権は王宮にあり、代官は職責の範囲で勤めればよい。領主はそうはいかない。決めるのも、結果に責任を持つのも領主自身である。


 小さな領地では思うような成果が上げられず、王家の領地となっていった貴族領も決して少なくはない。帝国南部は特に顕著であり、小規模な騎士領が散在し、軍役を熟せないほど困窮した騎士達が反乱を起こしたこともある。


「寄らば大樹の陰とはいえ、公家の責務を放棄するわけにもいきません」

「仰る通りです母上」

「あなたは大変ですよカール」

「存じております。今はまだ学ぶだけですが、義兄上に学び、良き領主となれるよう、努力し続けるつもりです」


 王太子の義弟となるカール公太子殿下。あの男の真似をするのはいささか大変だろうと彼女は考える。レーヌ公国は王国への依存度を上げていくことになるだろう。似たような領邦の集まりである帝国と異なり、王国の経済圏に取り込まれるという事は、なかなかに大変なことになるだろう。





 食事の内容はご当地の食材を使った帝国風の料理であった。味は勿論良かったのだが、話の内容はとても胃が重くなる内容であった。


『ありゃ、領地持ち貴族としてお前に同調させたいって策だろうな』

「ええ、私もそう思うわ」


 王国はレーヌと比較すると巨大であり、その中でどう立ち回るかを考えねばならない。それはリリアルも同じであり、親近感を抱かせることで、味方にしておきたいといった意図があるのだろうと『魔剣』も彼女も考えるのである。



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