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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『従僕セバス』

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第68話 彼女は赤目銀髪に弓を与える

第68話 彼女は赤目銀髪に弓を与える


 彼女が感じた印象は「随分としっかり弓が弾けるものだ」というものである。


「ぉとうさんが弓弾くの……ぉぼえてるから……」

「姿が目に焼き付いているのね」

「……そぅ……」


 弓は今日のところは普通の短弓だ。王国では農民からの徴兵の場合、槍兵と短弓兵とで編成する。短弓は、狩猟の為に使うものが多いので、武器としての威力は低いが装備しやすいからと言える。牽制程度にはなるのだろう。


 とはいえ、猟師として専業で弓を用いる者のそれとはかなり違う。赤目銀髪の弓を射る姿は、歩人よりしっかりしている。恐らく、頭の中で何度も父親の姿を再現してきたのだろう。


「……まだまだなの……」

「ふふ、始めたばかりじゃない。十分よ」

「そうそう、矢を魔力で強化するとか……ミスリルの鏃って高くつきそうね」

「鏃自体は回収すればいいじゃない。全部をミスリルにする必要もないし。使い方次第ではないかしら」


 板金の鎧の登場で、弓の効果は低下している。チェーンの目を貫通する鏃も、鋼の板を突き抜けるほどの威力はない。動き、曲面をもつ板金鎧は鏃を容易に弾いてしまう。


「ですが、音がマスケットと違ってほとんどしませんし、衛兵相手には十分効果があります」

「貴方も習っているのよね」

「僕らはボウガンでも構わなかったので。弓も教わりましたけど、扱いと精度が高いのはボウガンですので、そっちが良いですね」


 ボウガンはマスケットと同程度のコストもかかり、重く連射も効かない。マスケットに置き換えられつつあるのが現状である。勿論、彼女たちが運用するようなものではなく、王国軍の中の部隊が存在する。


 暗殺者ならボウガンもありなのだろう。連射は必要ないからだ。





 採取と狩をするグループの編成に合わせて、午後のスケジュールが若干変更になっていたりする。魔力の操作に関しての練習の時間で、武器の操作も行っているのだ。


「魔力による身体強化の次のステップだね」

「使い方を学んでおかないと、単純に武器を破損して終わるから大切ね」


 魔力で強化した腕力で剣を鎧にたたきつければ、剣も鎧も破損する。魔力を纏える剣ならば別だが、普通の剣であれば……


「刺突するわね」

「斬るよりは破損しにくいでしょうしね」


 という事なのである。魔力での身体強化、脚力腕力だけでなく、視力も強化される。すなわち、鎧で防御されていない部分、もしくは身体的な急所を狙う練習をすることになる。


「鎧の隙間は難しいから、首の後ろ、脇の下、目。膝の後ろなども狙えるといいわね」


 具体的に歩人に革鎧を着せ、実際にどう剣を向けるかを示しながら解説していく。剣を充てられるたびに、「ひぃっ」と声を上げるのは仕方がない。怖いものは怖いのだ。


「最初に隠蔽して接近、解除して身体強化で側面か背面に移動して刺突が望ましいけど、勘が良い奴は後ろから来るって思われるから、キャンセルした隠蔽をもう一度発動して、正面から突き殺すのもありね」

「同じパターンを繰り返さないで、工夫が必要という事ね」

「相手が身体強化を使える剣士なら、隠蔽して後退しなさい。無理に勝ちに行く必要はないから。隠蔽を打ち消せるものはあまりいないので、それで逃げ切れるはずよ」


 人間相手が前提になっているが、魔物や獣なら隠蔽からの身体強化で十分殺せる。魔物や獣はそこまで考えがつかないからだ。単純な腕力なら魔物なのだが、不意を突いたり手を読んだりはあまりできない。


「自分の臭いが隠蔽できない段階だと、姿は消せてもいるのはばれるでしょうから、一気に身体強化で止めを刺すか、逃げるか判断をしないと危険となるでしょう。迷った場合、逃げると決めておきなさい」


 悩んでいる間に死んだら何の意味もないのだから。





 採取狩組(仮称)である、赤毛娘、黒目黒髪、赤目銀髪、茶目栗毛はバランス的には良い組み合わせと言えるだろう。前で剣を振るうのは赤毛娘と茶目栗毛、黒目黒髪は熱湯球か油球で牽制と打撃、赤目銀髪が弓で遠距離攻撃をおこなう。


「熱湯球は命中しなくても、数撃って動きを鈍らせて、矢で仕留めるという組み合わせでもいいわ」

「「はい!!」」

「前衛二人は、相手に囲まれないように、連携して背中を守る感じね。殺す事より殺されないことを優先に。慣れるのが優先よ」

「「はい(!!!!)」」


 俄然やる気の赤毛娘である。前に出て女の子二人を守るという状況に力が入るのだろう。森の中でなければ、油球に小火球を付けて盛大に焼き払うことも黒目黒髪には既に可能になりつつあるのだ。


「あれで、もう少し胆が据われば、貴方みたいになるのかもね」

「それはそれでスカウトされるでしょう。彼女は臆病な方が良いわ」

「なにそれ、自分の真似されたくないってこと?」


 そういう意味ではないと彼女は答える。あの子はそこまで何かを守るために体を張る必要のない子なのだと。


「魔力が多くて真面目で素直な子ですもの。敢えて、争いの場に巻き込まれるようにならずに済むならその方が良い。でも、その時は自分が守れる程度に力を身につけておいてほしいのよ」

「そうだね。魔力が大きいという事は、それだけ利用したい人間が多いわけで、あなたがいつまでも守れるかどうかわからないのだものね」

「……学院に残ってほしいわね。あの四人は特にね」


 嫁に行く伯姪のことを考えると、彼女と歩人、今の四人でパーティーを組めるようにしておきたいという気持ちもないわけではない。依頼を通して四人を理解したいという想いもある。


 歩人と赤目銀髪で弓の練習、伯姪と赤毛娘、茶目栗毛で剣の練習。そして、彼女と黒目黒髪で熱湯球の練習……の横で癖毛が水球作りに失敗を繰り返し、腐りつつあるのがこの日の午後の風景。


「ああぁぁぁ!! なんでうまくいかねえんだよ!!」

「魔力垂れ流し過ぎだよ……」

「なんだって!!」

「魔力を扱う単位が大雑把すぎるのよ。匙加減ができていないの。だから、小さい水球を作る練習をしなさい。ゆっくりでいいから、小さく、そうね、銅貨くらいの大きさかしらね」

「……ちっせぇー……」

「そのサイズで何千何万と作って、勢いよく相手の顔に命中させるとか……とても効果がありそうだわ」

「あはは、辛い油球なら、その場で全員悶絶するね。いいじゃん、油球最強!」


 小さい水球を作るのは魔力の消費も少ないが、コントロールと速度が要求される。たくさん作り維持しておくことが難しいからだ。


「水たまりは小さくなるから、悪くないことでしょう」

「……」


 癖毛の練習した後は水溜りか沼のようになるので、それだけでもいい迷惑なのである。魔力が多いことが必ずしも良い結果につながらないと、学院生皆が感じるのは、水たまりを見たときの共通心理であったりする。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 学院生の行動は基本的に班単位になっている。午前中の座学を全員で受講し、昼食後、午後は班単位の行動となる。素材採取に森に出かける班、薬草園の管理をする班、薬・ポーションを作成する実習班のローテーションである。


 各班には付添がおり、魔力大は伯姪、中は歩人、小は彼女がついている。とはいえ、薬作りは彼女の専門であるし、薬草を育成するのは歩人の経験が役に立つので、そこは入れ替わることもある。


 とはいえ、「採取狩組」が編成されたため、癖毛が中の班に入り、小の班が三人となってはいる。素材採取組は魔力の大小という意味では差があるものの、魔力の扱いという面でみれば同程度のレベルに達しており、ポーション作成に進める段階のように思われる。


「実際、薬草採取と魔物討伐の段階に進めてもいいかもしれないわね」

「その場合、どう分担するの?」

「私たちで同行するか、私と歩人の組み合わせかしらね」


 精々一泊程度の採取遠征なので、各自、課題をこなしてもらえるだけで問題なく対応できると考えられる。


「ビトじゃ、なんか問題が発生したときに学院の対応が難しくならない?」

「侍女頭にいつまでもいていただくわけにもいかないでしょう。祖母に来てもらう調整がつけば、祖母に従僕として付けるので、それである程度学院の日常業務は任せられると思うのよ」


 彼女と使用人頭と侍女頭で管理している仕事を、祖母と歩人と使用人頭で薬師・魔術師の教育以外を任せることは可能にしたいのだ。使用人の仕事の見直しもほぼ終了しているので、侍女頭の仕事はそろそろお役御免となりそうなのである。





 翌週、礼拝堂の建築が始まり、それと入れ替わるように侍女頭は学院を去って行った。おかげさまで、使用人九人で余裕をもって対応できるようになっている。最初の三人は、ニース商会の使用人としての仕事の教育も始まることになる。


 ニース商会の商会長もしくは会頭夫人となる事が内定している姉が、今日は帳簿付け講師? として来ているはずなのだが、さっきから使用人を前に彼女に聞いてばかりで、全然仕事が進まないの。


「ねぇー ここどうするんだっけー」

「姉さん、同じことを何度も聞かないでちょうだい」

「だって、帳簿とか契約書とか急に色々覚えなきゃならなくって大変なんだよ」

「仕方ないでしょう。商会の仕事が分らなければ役に立たないじゃない。社交がいくら上手でも契約の話に関してまるでできないのではお話にならないでしょう」


 最近、彼女が商会の帳簿付けを学院の使用人幹部に教えている機会に、彼女の姉も割り込んでくるのである。表向き、将来の商会の使用人を教育する為と言っているのだが、おそらく、社交と魔術以外わからないのが令息にばれてしまい、焦っているのだろう。


「はぁー こんなことなら、貴方が勉強しているときに、一緒に習えばよかったわ」

「……領地経営にも契約書や会計知識は必要だってお父様もおっしゃって、習うように何度も促していたじゃない」

「ほら、貴族の家の経営なんてさ、執事や家令や代官がいるじゃん。よきにはからえできると思ってたんだよ」


 それはそうなのだ。商会経営とは必要な知識量が違うのである。とはいえ……


「社交、大丈夫?」

「おかげさまで。おばあ様のマナーレッスン講座も週一で学院の授業で為されています。とはいえ、週一日丸々ですけれど」

「ゲェッ……それ、社交じゃないよね。行儀作法の鍛錬だよね」

「侍女や使用人、魔術師・薬師として貴族や裕福な商人に足元を見られないようにするために必要なのは社交ではなく、行儀作法と言い回しの翻訳ですもの。貴族の夫人令嬢の社交とは意味が違うわ」


 彼女も社交は苦手だが、会話は問題なくできる。遠回しな否定肯定に慣れないと、何を話しているのか理解できなかったりするからだ。話題が飛んだなと思うと、遠回しに否定されたり揶揄されていたりするので、やり取りは原則、書面で代理人同士で話し合うべきだと彼女は考えている。今のところ、そういうやり取りは最低限なのだが。


「お婆様には準備が整い次第、講師のお一人として学院に住んでいただく事になりそうなのよ。今から……いろいろと楽しみだわ」

「……そうなんだー……」


 二期生の育成の前には、祖母が学院で生活するようになるとありがたいと彼女は考えている。どうしても、今の使用人頭では対応できないことも多いからだ。


「おばあ様は教えるの大好きだから、きっとお互いにいいことよね」

「そう思うわ。姉さんと毎週会えるのも楽しみみたいね」

「ま、ほら、それは、商会の仕事が軌道に乗るまでだよねー」

「仕事を覚えるまでの間違いでしょう。ふふ、大変ね」


 彼女の姉は賢いのであるが、要領がよいタイプであり、細則を覚えたりするのは得意では無かったりするのだ。契約や商習慣というものは、それが典型的なトラブルの要因となる為、あらかじめ定めておく方がよいとされているものであり、正確に理解して正しく書面を起こさないと、問題の発生源となる事ばかりだ。


「単純に仕入れて売るだけならこんな苦労ないんだろうけどね」


 姉はぼやくのだが、それでは商売としての利がのらないのではないかと彼女は思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 礼拝堂が完成する頃、彼女の祖母が学院に到着した。アパルトマンの部屋はそのままに、生活に必要な衣類などを持ち込むだけの形とした。


「今日からよろしく頼みます」

「ようこそお婆様、私たちの学院へ。皆で歓迎いたしますわ」


 馬車で到着した祖母を、彼女をはじめとした学院の全員で出迎える。中へと案内し、主だった使用人に挨拶をさせると、部屋へと案内する。祖母の部屋は、侍女頭も使用していた部屋だ。


「中々いい部屋だね」

「そう言っていただけると皆で整えた甲斐がありますわ」


 侍女頭が居た時にはなかった、寝椅子を整えたり、祖母がリラックスできるように調度を入れ替えたのである。祖母の好みも、彼女のアパルトマンに足を運んだ際に見たものを参考にしているので、それほど悪くはないだろう。


「さて、今日から早速……」

「いえ、明日からでお願いいたします。今日は、ささやかですが歓迎の夕食をご用意いたしますので、その時に、生徒にご紹介させていただきます」

「それまでは、学院の中を案内させていただきますわ」

「そうかい。じゃあ、よろしくお願いしようかね」


 夕食までの間、彼女と使用人頭で祖母に学院の中を案内することにしたのだ。





 城館内の施設やそれぞれの使用方法、食事や入浴の時間に授業の内容などを案内をしながら説明する。礼拝堂は木造ではあるが、高い天井と望楼を備えた可愛らしくも施設として素晴らしいものが完成しており、祖母もその姿を褒めてくれた。


「礼拝は大事だね。あんたも、伯爵の姪御様も騎士となってるわけだろ。学院の生徒たちだって、将来は王家に仕えるつもりで学ぶ場所だ。神と王家と王国の為に、忠節を誓うためにもその時間と場所は整えておくことは大事だろうさ」


 そして、祖母は「それが、代々我が子爵家が守ってきたことだからね」と付け加えたのである。


 案内も一通り終わり部屋に引き上げた後、祖母とお茶を飲むことにした。夕食には少々時間があったためだ。いくつかの世間話の後、彼女の祖母は御者に聞いた話としてこんなことがあるよと話し始めた。


「王都の周辺の村々で猪の食害が酷くなってるそうだね。この辺はどうなんだい」


 猪が畑を荒らしたり、村の食糧庫を破壊したり、堅果類と言われる森で採取できる栗や胡桃を食べてしまう問題も発生しているのだという。


 その話を聞き、彼女は「猪狩り」で鍛錬をすることを検討しようと考えた。


これにて第八幕終了となります。お付き合いいただいた方、ありがとうございました☆

第九幕『猪狩』は数日後に投稿開始いたします。



ブックマーク・評価をいただいた皆様、ありがとうございます。また、ブックマークやポイント評価で応援をしてくださると大変ありがたいです。m(_ _)m

 

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