【閑話】 その頃のリリアル学院~学院諂曲
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【閑話】 その頃のリリアル学院~学院諂曲
彼女と伯姪らリリアル幹部一行が連合王国に向かってから一月。学院は……一期生を中心に、あらぬ方向へと加速していた。
これまでは、院長か副院長、あるいは、その補佐役を務める茶目栗毛がおり、さらに、薬師組は年長でより魔力量の少ない中から騎士へと成長した碧目金髪・灰目藍髪が束ねていたと言って良い。
このメンバー全員が渡海し、今までは半ば指示された事・移譲された権限の中で判断し、指導していればよかったことが成り立たなくなっていた。
「私には冒険者やリリアル学院の在り方ってのはわからないからね。あの子が目指しているものを、あんたたちなりに考えて下の子に教えるんだね」
「「「「「……」」」」」
院長代理である彼女の祖母は、学院の運営に必要な事務的な仕事を行ったり、王宮や王都との遣り取り、騎士団との仲介をするには問題なかったが、子供たちをどう育てるかについては介入しない姿勢を示した。
とはいえ、教育を担う彼女と伯姪、一期生の年長組が三人抜けた状態で、何をどうするかは一期生の残留組で考えねばならなかった。
彼女達が旅立った翌日、一期生残留組は全員食堂に集まり、院長不在時の方針を考えることにした。彼女たちが旅立つまでは準備をすることを禁じられていたからでもある。
つい、一言いいたくなるのが彼女だからだ。
「あ、あの」
「おう、何でも意見を言ってくれ」
薬師組では最も魔力量が多く、まとめ役をやらされる『藍目水髪』が司会役の青目藍髪に話しかける。
「えーと 二期生は一期生の冒険者組と薬師組に編入して、できるだけ直接指導と三期生の教育に協力してもらおうとおもうけど……どうかな」
「いいんじゃない? 二期生もそろそろ役割りに合った組み分けにする方が良いだろうしね」
「異議なし」
「良いと思う!!」
赤目藍髪、赤目銀髪、赤毛娘が賛同し、他に異議は出ていない。
「あ、あの、さ、三期生なんだけどね」
黒目黒髪は事務方をサポートすることが多く、茶目栗毛不在時には院長代理の補佐役を主に担っている。いる時? 補佐補助役である。
「魔力のない子たち含めて、チームを作って、一日交代で院長代理の手伝いに向かわせたらどうかなって?」
「行儀見習い」
「厳しそうだけど……あの子たちは訓練所で経験している分、大人との接し方大丈夫そう」
つまり、彼女の祖母にも教育係をこっそりとさせようという意図が見てとれる。
「じゃあ、魔力の有無・男女で三期生は分けるか」
「それが無難でしょ? やってみて問題があれば、調整って感じでいいよね」
「それが良いと思う」
三期生の組み分けはそれで確定。
二期生は、冒険者志望の前衛・遊撃・後衛と薬師志望で分かれることになる。
「前衛は、『アルジャン』と『ヴェル』だな」
『アルジャン』は銀目黒髪の十三歳、二期生では最年長の男。『ヴェル』は碧目灰髪の十二歳、少年ぽい女の子だ。
「前衛の壁役二枚目ね」
男女で前衛を務める蒼髪ペアと同じ感じになるだろうか。
「遊撃……サボア組の三人」
「「「ああ……だね……」」」
魔力量的には少ないものの、年齢も高く社会経験も豊富な村長の孫娘とサボア公家の使用人二人。村長の孫は、斥候や狩人としての技能を磨く希望があり、素材採取にも興味がある。後の二人は、恐らくトレノで聖エゼルに組み込まれるか、護衛メイドとして仕事をする事になるので、同じような希望となる。
遊撃は、渡海組が担う事が多いので、三人が学院を卒業しても特に問題はない。
「後衛は……」
「今回はいないよ!! 魔力量が少ないと後衛の仕事ができないからね」
「だ、だよねー」
赤毛娘に言われ、黒目黒髪はがっかりしている。赤毛娘は前衛も遊撃も務めるが、後衛や薬師組の護衛役が多いので、後衛に組み込まれる。赤毛娘も、騎士学校で苦労しないようにと事務仕事にそれなりに慣れておきたい希望もあるので、この組み分けになっている。
「じゃ、グリ君とアンちゃんは薬師組で」
「だね」
「グリの奴、魔装布を使った魔装師? ようは、魔装布の装備を仕立てる仕事したいとか言ってたな」
「ああ、まあ、今は薬師でいいでしょ? 魔力足らないし」
「確定」
グリは数少ない男子ながら、気が小さく遠征でもあまり活躍できなかった。魔装糸の紡績などで頑張っており、魔力量も少しずつ増えているが、魔鍛冶師にはなれそうにもない。なので、今は『癖毛』が紡績している魔装糸・魔装縄を用いた装備に関して主に関わりたいと考えている。
直接戦闘に関わらないことを希望しているという事だ。一先ず、薬師組でポーション作りで魔力量を増やすということになるだろうか。
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二期生三期生を含めた残留組全員が食堂に集合している。一期生から、今後の学院の活動についての説明がなされるからだ。
「仕方ないよね」
「魔力のあるなしは、仕事の内容に関わるからな」
三期生十六人は四組に分かれ、魔力の有無・男女別の班に再編成された。
「魔力がなくても狩人にはなれる」
「冒険者だって、魔力の無い人沢山いるから、大丈夫だよ」
「「「……」」」
魔力無男子は「遊撃組」に充てられる。魔力有男子は「前衛組」、魔力有女子は「薬師組」に、そして、魔力無女子は「薬師組」と「後衛組」を交互に通う事になる。
魔力有女子が代理手伝いや素材採取などに出かけている間、魔力無女子は薬師組で勉強することになる。無組はポーション作成を覚えることができないので、練習も半分ほどで済む。
「これ、いつまでですか?」
「先生たちが帰国する迄かな。一年を目安にすると思う」
「問題があれば随時、各組の組長に伝えること」
『組長』は冒険者組と被るので、『班』とすることになる。
冒険者組前衛班、遊撃班、後衛班、薬師組薬師班の四つの班編成となる。
「この後は……大事な話を各班に別れて行う」
何やら厳かに、赤目銀髪が告げる。
「最も大切なこと。各班の部隊名を設定する」
「「「部隊の名前……」」」
確かに。同じ隊に所属しているという仲間意識を持ちやすくなる「愛称」と言うのは大切だ。『冒険者組前衛班』よりも『リリアルの盾』といった固有名詞の方が愛着が湧く。
「えーと、 一応言っておくけど、好きな食べ物の名前とか、駄目だよ!」
「「「「ええぇぇぇ……」」」」
誰だ、フィナンシェ隊とか付けようとしているのは!! 意味をしらなければ悪くはないかもしれないが。
前衛班の班長は……一応青目藍髪。最年長男子だから……である。
「リリアルを象徴する武器の名前とかどうだ」
「サクス隊」
「悪くないと思います」
「なんか……〇クス隊とか弄られそうで困るかもだ」
「「「「……はっ……」」」」
確かに。
「コルバン隊」
「カラスよりも鷹の方が良くない」
「なら、フォコン(隼鷹)隊」
「武器に因んでいると言えば……因んでいると思うな」
ベク・ド・コルバンよりも、鋭く折れ曲がった猛禽の嘴を思わせる武具を『ベク・ド・フォコン』と呼ぶ。それに因むのは悪くないだろう。
「鷹なのか鷲なのかはっきりさせたいところ」
「あれなー」
隊名は早々に決まったが、鷹と鷲の違いについての議論が延々続くことになった。
遊撃班の班長は唯一の一期生赤目銀髪。
「奮って考えて欲しい」
赤目銀髪が話を始める。しゅばっと手を挙げた村長の孫娘。
「あー クリスタル隊とか……いいと思います」
「なぜ」
「なんとなく?」
村長の孫娘の住む村の側では、水晶・魔水晶が採れる。それが因果で出会った関係だが、確かに魔水晶はリリアルの象徴的な素材でもある。
「他に」
「隼隊」
「あー 前衛班が鷹だから?」
「ならカラス隊でもいいじゃん。賢いし、結構強いよね鴉」
「なら……馳鴉隊」
赤目銀髪は、偉大なる先達である、野伏の馳夫に因んだ『馳夫隊』をどうかと考えていた。
「馳せ参じる鴉って感じで良いと思う」
「賢い感じと素早く強力な感じが……いいと思います」
「黒い鳥の絵描けば、大体紋章になる感じ」
「「「「いいねー」」」」
揃いの鴉の紋章を刺繍するなり染めるというのはかなりカッコいい。三期生男子の心を鷲づかみである。鴉だが。
後衛班の班長は黒目黒髪……ではなく、赤毛娘。代理補佐の仕事が大変なので、まとめ役は赤毛娘が買って出たというわけだ。
二期生はいないので、三期生魔力無女子四人がメンバーだ。
「一人一つ、同じは無しで上げていくよ!!」
赤毛娘的には、六人で出して、その中から決めようということである。
「えーと 黒髪隊」
「え」
「院長先生も班長さんも黒髪だからです」
「そ、そう」
「なら、赤毛隊でも良くない?」
「わけわからないよぉ!!」
強く否定はしないが、それはない。
「お嬢隊」
「灰被隊」
「……サンドリア隊」
サンドリヨンというのは「灰被姫」の意味である。それを彼女の名前に掛けて「サンドリア」としたのであろうか。
「黒髪で灰被りなら灰髪だよ」
「サンドリア……サンドラ(灰被)隊でどう?」
名前はサンドラ、紋章は「黒と灰の格子」と決まる。灰被りもやがて黒髪になるといった意味である。
薬師班の班長は碧目水髪。
「で、どうしようかぁ」
薬師に因んだ道具を愛称に使うという、どこかのアイデアを借りると……
「薬研隊」
「擂鉢隊」
「……すごくかわいくない名前……」
「「「……」」」
班員のテンションが大きく下がる。可愛くない名前ではある。
「水瓶隊」
「それいいよね。ポーション作るのも傷薬作るのも水瓶使うし」
「「「……可愛い(薬研より)……」」」
隊名は『水瓶隊』で、紋章は水色の瓶となった。
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