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第680話 彼女は伯姪と共にゴリ押しで勝利する

第680話 彼女は伯姪と共にゴリ押しで勝利する


 スケルトンに囲まれる前に、数を減らす。


「しばらく、魔術に集中するわ」

「任せておきなさい」


 伯姪が前に出て、スケルトンの首を次々に刎ねる。体を動かす空間がある中庭での戦闘の方が、体術を絡めた剣技を得意とする伯姪にとっては有利なようだ。囲まれる前に叩き伏せる。


 左右の空間を見つけ飛び去りながら、一振りごとに確実にスケルトンを倒していく。だが、数が多い。


「逃げて」

「待ってたわ!!」


 中空に魔力壁を作り、駈け上る。


「『(sanctus)(tonitrus i)(ignis)』」


 雷球の数が十二個となる。放射線状に十二個の青白い炎を纏う球体がフラフラと中庭のスケルトンの間を漂っていく。


 あちらこちらで稲光と衝撃音が繰り返され、白い骨がグシャリと巨人の槌で叩き伏せられたように地面へ崩れ落ちる。


『まじ便利だなこれ』

「馬で駆け抜ける方が簡単よ。広い場所に限るのだけれど」


 スケルトンが大発生するのは浄化や戦死者の弔いを怠った古戦場などである。大軍が対峙し、沢山の戦死者が出るような場所は大概平原なので、騎乗して魔装壁で跳ね飛ばすラッセルな疾走の方が効率が良いだろう。


 十二個もの魔力の塊を同時に放つのは、魔力量と精緻な操作の両立が必要であり、彼女の持つ雷の精霊の加護に、聖性を纏う魔力のお陰でもある。


 魔力量が大きいだけでは、どこぞの姉の『大魔炎』にしかならないのだ。


 



『聖雷炎』が通り抜けた後、未だ活動しているスケルトン、そして、ワイトは健在であり、伯姪が二体に囲まれようとしている。


「行きます」

「私たちも加わります」


 背後から、茶目栗毛と灰目藍髪が前へと抜けていく。スケルトン討伐。そして、ワイトへの牽制だ。ワイトはスケルトンより強い程度であり、本来、レイスやファントムのように実体を持たない死霊よりも討伐はたやすい。


 但し、今回は、相手も副葬品なのか魔銀の装備を有していることが問題なのだ。恐らく、魔力量の少ない灰目藍髪では歯が立たない。茶目栗毛も苦戦するだろう。


「二人は、スケルトンの討伐に集中。ワイトは任せなさい!!」


 彼女はそう叫ぶと、装備を片手剣からバルディッシュへと持ち替える。久しぶりに広い場所で振り回せる!!


 伯姪を囲もうとしているワイトの一体に、彼女は白骨を踏みつぶしながら悠々と近づき、頭から叩き割るように振り下ろした。まるで、鉈で薪を割くように。


DAAANNN!!!


 青白い閃光が月明かりが照らす中庭を、一際大きく輝かせる。昼間に太陽を直接見たか時のように目がくらむ。


『ワイト、古い力のある霊だったようだな』


 この地に埋葬された先住民の王あるいは部族長であったのかもしれない。いくつもの海の彼方から現れる蛮族と戦い、やがてロマンデ公の軍に占領され、その墓所は今では城となっていた。


 復讐するは我にありといったところだろうか。それが、吸血鬼だろうが、王国の貴族だろうが関係ないのだ。夜、お墓で騒いではいけません!!


GUWOOO!!!


 残る二体のうち、一体は王の中の王という雰囲気である。それが叫んだ。


「こっちは任せて。あなたは、あの大きいのをお願い」

「任せたわ」


 伯姪が相手するワイトよりさらに頭一つ大きい。ジジマッチョより頭一つ大きいだろうか。体の幅も彼女の倍以上はある。


『最初から手加減無しでいけよ』


『魔剣』に言われる迄もない。伯姪、茶目栗毛、灰目藍髪、三人とも魔力が厳しくなりつつある。そして、複数の魔術を放った彼女にも、余裕があるというわけではない。


 オリヴィとビルに委ねるという考えもないではない。多数を同時に相手にするスケルトン狩りなら彼女に分があるが、単体で強力なワイトであれば、オリヴィ達に分がある。


「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……『(tonitrus i)(ignis)球』」


 目の前の巨大なワイトに、青白い火球が命中する。その炎は体全体を覆い、炎は明滅しつつ、やがて消える。ワイトの内包する魔力が彼女の放った魔力を上回り、相殺されたと言ったところか。


 視界の隅に押し込まれている伯姪の姿が見て取れる。


「『(tonitrus i)(ignis)球』」


 短い詠唱での攻撃、だが、詠唱している時間がない。


TATANN!!


 伯姪に圧し掛かるワイトの背中に鮮やかな閃光、その周囲のスケルトンが弾かれた雷光を受け、崩れ落ちる。とんだ玉突きである。


 体軸を回転させ、巻込むようにバルディッシュを一閃させる。片手剣のような大きさの刃を持ち、柄の長さの分遠心力を産む。そして、魔銀の装備に抗するだけの魔力を敵に流し込む事ができる。


 反ったその刃は直剣と異なり、点ではなく線で切裂くことができる。魔力を纏う刃であるならば、その分長い時間、魔力を敵に流し込めることになる。リリアルが魔銀装備を用い、その中で彼女のバルディッシュやグレイブ、伯姪のバデレール、リリアル生のワルーン・ソードと言った装備に反りがあるのが魔力を乗せやすいという理由がある。


 胴を横薙ぎにし、鎖帷子を引き裂くようにバルディッシュの切っ先がワイトの体を断ち切る。切裂く先は青白く輝き、聖性を纏った魔力がワイトを激しく痛めつける。


『古の王よ、あんたの率いた民は、もういねぇんだよ。だから、戻ってくんな』


 恐らくは立派な飾りのついた兜であったろう。貴石・宝石を散りばめた魔銀の王冠のようなその奥には、真っ黒な穴のような眼を持つ、ぼんやりと黄色く輝く屍の王がこちらに宝剣を向けて来る。これも、宝石で飾られたものであり、実用ではなく副葬品あるいは、王としての体面を整える装飾品であったのだろう。


 着地した彼女が、再び肩に担ぐようにバルディッシュを構え、魔力を整える。


「これで御仕舞にしましょう」


「『(tonitrus i)(ignis)球』」


 短い詠唱の魔術、その青白い雷球は、ワイトの王の腹に命中し、前のめりに屍体が崩れる。


「はっ!」


 そのまま頭上から真っ二つになるよう、彼女はバルディッシュを斬り降ろし、二つに分かれた屍体が青白い炎で黄色味を帯びた魔力を浄化され、只の死体となり崩れ落ちたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「疲れた」

「疲れたわね」


 動くスケルトンは見かけなくなり、それでも不意を突かれることを懸念した彼女と伯姪は、一旦城塞に引き返し、明るくなるまでそこに留まることにした。


「お疲れ様」

「お疲れ様でした皆さん」


 二階に上がると、そこには二体の達磨吸血鬼を転がしたオリヴィとビルがお茶を入れてくれていた。オリヴィは常に大量の武器食料に火薬や油など魔法袋に入れて持ち歩いている。


 何しろ、冒険者になった頃から『行商人』という名目で、あちらこちらで商売をしつつ、旅をするのが過ごし方なのである。どうやら、小さな街や村でのほうが周囲に潜む吸血鬼の起こす事件に気が付きやすいからなのだそうだ。


 大きな街では人の出入りも多く、人知れず生活することも難しくない。吸血鬼はそのような場所に潜伏しやすいのだが、人里離れた城館などを屋敷として使用する場合、近隣である程度交流することもあるのだ。


 生活の気配があるのに、どこからも物資を買い入れないのはかなり怪しまれる。


「あちこちで話をして、『あそこに人が住んでるよ』なんて教えてもらえることもあるわ。行商人の振りをして、下調べ。出てきた使用人が吸血鬼か魅了された人間なら見てわかるから」


 一旦、行商人としては立ち去り、夜陰に乗じて忍び込み情報収集や討伐を……偶にする。何年かに一度といったところだ。


「そんな偶にでいいの?」

「そんなに沢山いたら、大変なことになっていますよ」


 伯姪の疑問にビルがさらりとこたえる。確かに。


「今回みたいな目立つ行動なんて本当に十年、二十年に一度なの。大体、同じ場所にいて潜んでいるか、戦場を渡り歩いているかのどっちか。でも戦争好きの王様が連合王国でも、帝国でも王国でも死んで、吸血鬼の下の方が焦っているみたいね」


 父王・先代国王・その時代の帝国皇帝兼神国国王は、戦争大好きであった。長い治世……在位の間、殆どを戦争の中で過ごしたと言える程だ。


 結果、神国以外は戦争をしない代となっている。言い換えれば、先代の尻ぬぐいともいえるだろう。始めるのは簡単だが、終わらせることが難しい。何年もかけて条約を締結し、戦争を終わらせたのだから、早々戦争を始めることはない。


 ネデルは内戦であり、サラセンは異教徒との戦いであるから少々事情が異なるのだが。




 地下牢から救助された人の中には、やはりロッドから出かけてきて拉致された者がかなりの数いた。また、それ以外の近隣の街や村の出身者も幾人かおり、囚人となった者の何人かは吸血鬼の餌食となっており、その不足する『食料』として捕らえられていたのだという。


「間一髪でした」

「だそうですわぁ」


 赤毛のルミリはポーションを与えたり、それぞれの処置をしながら事情を聞いていたようで、本日の祝勝会のメインディッシュは彼らであったという。それは本当に生きた心地がしなかったであろう。


 使用人の大半は、使役する吸血鬼が除去されたため正気を取り戻しているのだが、何人かは魅了期間が長かったのか、廃人のようになっているという。


「後始末は女王陛下の代官に丸投げね」


 オリヴィはそれで問題ないという。冒険者の役割りは魔物の討伐までである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 明るくなり、そのままオリヴィとビルは城塞を出て、市の領主館に早馬を出す為向かった。依頼を達成したので、引き取りを頼む事になる。王宮では既に代官の派遣は準備されており、連絡が入れば直ぐにでもこちらに人員が来る事になる。


「さて、私たちはどうしましょうか」

「宝探し!!」

「ですわぁ!!」

「……この城、王家の所有になるのだから、無理でしょう」


 碧目金髪、ルミリに悪い影響がある気がする。アンデッドの討伐を確認し一先ず使用人宿舎へと移動させる。使用人と、囚われていた人間全て。囚人は地下牢へと逆戻りとなる。勝手に開放できるはずもない。


 食事の手配をし、朝食を済ませた後、リリアル勢は宿へと帰還する……のだが。


「このワイトの残した装備、回収しましょうよ」


 魔物を倒した場合、その装備は冒険者の所有物となる。つまり、この古めかしい破損した魔銀剣や鎖帷子、宝剣や宝冠はリリアルの財産と見做される。


「死体剥ぎですかぁ」

「ですわぁ」


 前線で働かなかった二人がその作業を行うメインだ。念のため、彼女の魔力を纏った魔装網に入れてから大きな麻袋へと入れる。これで、浄化もある程度適うはずである。


「おみやげね」

「ええ。工房に提供しようかと思うの」


 昔の細工を目にするのも勉強になるだろう。魔装布装備が基本のリリアルだが、今後は魔力無の三期生向けの装備を考える必要がある。胸当程度の軽量の鎧に兜・手甲にハルバードのような装備になるのだろうか。


「鎖帷子は」

「無いわね」


 魔銀とはいえ、鎖帷子は随分と前に使用をやめた。魔装布あるいは魔装網で代用が効くからである。魔力を纏わなければ布網なのだが、金属のシャリシャリ音が隠密性を阻害する。好ましくないのである。


 宝冠も宝剣も美術品の枠になるだろう。とはいえ、王に供える副葬品には高度な当時の職人の技が活かされている。老土夫にとっては価値がある物になるだろう。技術的に。


「今回の依頼、ラウス卿から特に謝礼を頂く予定はないでしょうから、これがそれに当たるのでしょうね」

「言えてる」


 茶目栗毛の言を伯姪が肯定する。オリヴィ主従もその辺りは言わずもがなと考えているだろう。大先輩の冒険者であるし、女王陛下にその辺まで配慮する必要もない。


 そもそも、今の王家が滅ぼした国の王の副葬品だ。滅ぼした王家に祟るかも知れないではないかと彼女は思うのである。



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― 新着の感想 ―
[一言] 祟ったところで責任をもって自分でぶちのめすだけだし そうでなくてもトラブルに巻き込まれるのだから大差ないよね
[一言] アイネお姉さんの場合、精密な制御が不用なタイミングを作り出して、ベシッと全てを焼き潰すイメージですよね。
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