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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『従僕セバス』

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第61話 彼女は歩人の冒険者登録する

第61話 彼女は歩人の冒険者登録する


「随分と珍しい供を連れているじゃないか。名前をお言い」

「はっ、歩人のビト=セバスと申します。お嬢様に山賊の砦から救助していただき、騎士の誓いを立てたものでございます」


 あれから1週間、学院の仕事にも慣れ、一応、人様の前に出してもおかしくない程度に教育できたとして、本日は王都で所用を済ませにやってきた彼女である。


「お婆様、この者は私の男爵家の執事として育てようと思っております。歩人の里長の息子として人間社会で経験を積むために王国に参りましたものですので、それなりに教育を授けるつもりでございます」

「そう、それは殊勝な心がけね。私のできる範囲であれば、この者の教育を行うのも吝かではありません」


 この一言をいただく為に、今日はここにやってきたのである。


「ありがたいことでございます。それで、実はリリアル学院のことでご相談がございます」

「貴方の爵位を賜った際の領地になると聞いています」

「はい。ゆくゆくは学院を中心とした街として、王都の開発の一助となる領地にしたいと考えております」

「……素晴らしいわ、王家の心に叶う行いでしょう。我が子爵家の使命である王都の育成に一族として加わるという事ですね」


 お婆様は「王家」「子爵家」大事な方であるので、この辺りの言い回しがとても大切なのだ。


「わかりました。子爵家の分家筋として男爵家を切り盛りする執事にふさわしい教育を私が責任をもって授けましょう」

「私も、心の荷が下りた心地でございますわ」

「子爵も何か考えていたようですが、なにぶん小さな家、難しいようでした。自ら才ある者を見出してきたのであれば、育てればよいこと。その時は、周りの大人を頼ればよいでしょう」

「ご厚情、痛み入ります」


 とても他人行儀なのだが、貴族の当主としてはこんなもんなのだ。彼女は既に子爵令嬢ではなく、騎士爵として世間では扱わねばならないのだから。


「こちらも受け入れの準備が必要です。整い次第、学院に連絡をいれます」

「はい。こちらで準備すべきものを後日、ご連絡くださいませ」


 という事で、歩人の死刑執行命令書にめでたくサインがなされたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、お婆様の家にしばらく住み込んで執事としての立ち回りに関し直接教育を受けることになる歩人。


「あの、あのでございます、お嬢様」

「何かしらセバス」

「かなり、厳しい方なのでございましょうか?」

「そうね。かなり厳しいわ。あなたの心がへし折れるまで、駄目出しされるわ。でも、安心しなさい。明けない夜も、止まない雨もないから……ね?」


 可愛らしく小首をかしげるのだが、そうじゃねえと歩人は思うのである。


「次はどちらに」

「もちろん、冒険者ギルドよ」


 祖母の住むアパルトマンは山の手、ギルドは下町にあるのでそれなりに歩くのである。美少女と美少年(中身は中年)の二人が並び歩くのは、とても視線を集める。


 今まで小汚い野宿を繰り返した歩人……おまけに毛むくじゃらの脚をもつ姿の時は嫌そうな視線しか感じなかったのだが……


「お、おい」

「……何かしら……」

「お嬢様……なんだか見られたり、キャアキャア言われてるんだが」

「……あなた、馬子にも衣裳という言葉御存知かしら」


 彼は『仕立て屋が人物を作る』という言葉を知っていた。人は見た目が九割ともいう。


「見た目が良くなったんで、反応が変わったという事だ……でしょうか」

「そうよ。おばあ様が問題ないとお墨付きをいただける所作や行動ができれば、更に変わるわ。あなたの印象が、歩人全体のイメージを変えるの。現状では、ゴブリンと変わらないもの」

「……え?」

「だから、ゴブリンも歩人も同じようなものだと思われているわよ。接触した場合、戦闘になる事が多いでしょ」

「あー 確かに。脅かして追い出すからな。まあ、殺したりしないけどな」

「それでも、死の危険を感じていれば同じ事よ。誤解を解かなければだめよ。その為には、王侯貴族と接してもおかしくない所作・言動が必要。ゴブリンに貴族の執事が務まるわけがないのだから、そこで王国における歩人の印象が大きく変わる」

「その印象を変えた俺は『歩人界の英雄……かしらね』……悪くねえ。いや最高だぜ!」


 そもそも、ゴブリン扱いの方を問題視するべきなのだが、人と接点のない彼らには必要性がないのだろう。





 ギルドに到着、馴染みの受付嬢に従者を冒険者登録したい旨を伝える。


「はい、ではこちらの登録用紙に記入をしてください」

「……王国語が書けねえ……」


 いきなり盲点である。孤児以下だこいつ……と、彼女は思う。最低限の識字もできないのだ、生粋の歩人なら当然かもしれない。


「……古帝国語なら書けるんだけどな……勿論、話もできるぞ」

「そちらの方がすごいのではないかしら」


 歩人の間では古帝国語で書面のやり取りをするのが基本なのだそうで、彼らの歴史がその時代辺りでは人間世界と接点があったことを意味している。人間界は古帝国の崩壊後、混乱の時代となり歩人は関わることをやめたということが、その背景にあるらしい。


「なら、私が代筆するわ」

「お願いする、我が主」


 名前・年齢・出身地・職業……くらいでいいだろうか。出身地はヌーベと仮にしておく。美少年に見とれていた受付嬢が年齢を見て驚く。


「えーと,三十歳……え、十三歳ではなく……ですか?」

「半妖精なので、年を取りにくいみたいです」

「……あだ名ではなく、本当に妖精……ですか……」


 受付嬢は少々お待ちくださいと断ると、奥に入っていく。どうやら、ギルドマスターが直接会うようなのである。


「恐れ入りますが、ギルマスが直接面接したい……と申しております」

「承知しました」


 彼女と歩人は受付嬢に続いて二階のギルマスのオフィスに入る。ギルマスは、やっぱり疲れているようである。


「……嬢ちゃん、また活躍だったな」

「依頼完了の報告は薄赤メンバーからされているのですよね」

「ああ。ヌーベに関しては俺たちもタブーなんだが、商人が襲われて殺されて女子供は奴隷に売られていたということが流れてだな……」


 ギルドには隊商の編成をした商業ギルドからの護衛依頼が殺到しているのだという。ところが、王都周辺の治安改善で冒険者の護衛依頼が減った数か月前から中堅の冒険者が王都を離れてしまっている。


 結果……


「俺が板挟みなんだよ」

「……大変ですね……」

「以前なら護衛も頼めただろうけど、いまの嬢ちゃんには他にも仕事があるからそうもいかない」

「一過性なら問題ないのでしょうけれど、しばらくは安全だと思いますわ」


 提携先の商人の名前が割れて捜査が始まっており実行部隊は壊滅しているので、人攫いの心配は激減中だろう。護衛の必要性は、組織が再編されるまで問題ないと考えられる。


「その辺り、騎士団との情報交換じゃ出ていない話だな」

「捜査途中ですから、仕方ないと思います。五十人規模の帝国人の傭兵隊でしたから、そうそうヌーベまで知らない間に新しく連れてくるわけにもいかないでしょうし、城塞の再建にも時間がかかると思います」


 内部と周辺の木造建築物は全て燃やし、資材関係も回収、正面のゲートの石積みはジジマッチョどもが基礎から破壊している。再建されれば、一目で何か始まったとわかるだろう。


「なるほど。情報感謝する。商業ギルドにはむしろ今は安全だと伝えておく」

「それで問題ないと思います」


 ということで、話を歩人に進める。


「なるほど、嬢ちゃんの従者ね。騎士の誓いで契約しているなら問題ないか」

「……問題があったという事でしょうか」

「ん、まあな。歩人ってのは……契約守るという概念がないんだ。あんまりな」


 仲間同士の約束は大切にするが、仕事の依頼だと「やっぱ無理」とか言って途中で放り出して悪びれないので問題になる事が多い。


「それに、嬢ちゃんが保証人なのだから問題ないしな」

「ええ。裏切りには死を……ということですね」


 歩人は「ちょ、まてよ」と口に出すが、ギルマスが「No、問題ない」と返し無事、冒険者登録……薄白冒険者となったのである。


「最初は素材採取と狼討伐からだな」

「常時依頼、承ればよろしいでしょうか」

「そうだな。あと、分かっているだろうけど今回の依頼達成で、お嬢二人は濃赤・濃黄等級に昇格したから。三人でパーティーを組めば黄色までは受けられる。だから、護衛の依頼も引き受けられるのと指名依頼の場合は問題ないから」

「……承知しました」

「よ、よろしくお願いします、ギルドマスター殿」

「ああ、こっちこそな。頼りになる冒険者になってくれ」

「畏まりました」


 と言うことで、多少の問題はあったものの、冒険者登録ができたのである。近くの薬師ギルドに挨拶に伺い、今後、代理で来る可能性がある事を説明、そして、いつもの武具屋を訪れるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「……歩人ですか……」

「はい。今後、従者となります。お見知りおきを」


 いつもの店員が歩人の連れを見て驚いていた。最初は……恋人?と思ったらしい。残念ながら、彼女には無理としか思えない。


「少年サイズですから……筋力は?」

「身体強化が多少。今は、予備の剣を貸しています」

「……同じものを何本か注文しましょうか? 学院生も必要になるでしょう」


 スクラマサクスとサクスのセットで、いわゆる鋼のものであれば数をそろえてもそこまで問題にならないかもしれない。元々、ダガーとかナイフとして機能している武器だ。


「そうですね。では、サクスを十二本、スクラマサクスのミスリル合金のものを 四本、鋼のものを八本でお願いします」

「……ミスリル製は完全受注生産なので二か月くらい見てもらえますか。サクス関係はミスリルほど工房を選ばないので二週間あればなんとなかります。彼用に、在庫で一組即お出しできますが、どうしますか?」


 彼女はお願いして、鞘とベルトとともに歩人に渡す。剣を吊りなんとなく従者としての見た目が改善された気がする。


「防具なのですが……ミスリルの鎖帷子、肘・臍までのものをお願いします」

「平服の下に着こみですか」

「護衛も兼ねますので。それに、動きを妨げる装備は歩人には向かないでしょう」

「それもそうですね。剣は貫丸で、ミスリルの鎖帷子を装備するのが基本でしょうから」


 歩人は何のことやらと言うのであるが、吟遊詩人の語る英雄譚の一つに『中つ国の物語』というものがある。架空の王国の話なのだが、人気がある物語で、定期的に芝居となる。


「登場人物の歩人の設定なのよ。鎖帷子と短剣を装備するのがね」

「古代のエルフのアーティファクトという設定ですがね。危険を知らせる剣であるとか」

「あの歩人は魔術は使えませんから、あの剣も活きるというものでしょう」


 暗に、ビト=セバスは魔術使いであることを匂わせておく。


「はは、あなたの従者ですからそのくらい当然でしょうね」


 魔剣使いの従者もまた魔剣使いであるという事なのだ。





 さて、彼女と歩人は下町から歩いて山の手まで戻り、ニース商会で用事を済ませている伯姪と合流し学院に戻る予定なのである。


「さて、川沿いを歩いて帰りましょうか」


 王都の中央を流れる川を挟んで貴族の街と平民の街が存在している。川の向こうには新王宮、その後ろに子爵男爵家の家が並んでいる。王家に仕える騎士の末裔たち故に、新王宮の周りを守るように家々が配置されている。子爵家もその屋敷の一つである。


「王都って何人ぐらい住んでるんだ……でしょうか」

「大体、五十万人くらいね。勿論、城壁の外の住宅地も含めてね」

「はあ、普通の領都の十倍以上じゃねえか」

「王国内の貴族の邸宅が揃っているし、そこで必要なものを供給する人も含めると、大きくならざるを得ないのよね」


 使用人含めると数百から千人単位で存在する貴族の邸宅もある。各商会の王都の本店支店で働く従業員に職人・労働者含めると多くならざるを得ない。領都の貴族はその領主一族だけなのだから、規模が相当異なるだろう。


「学院の周りも街にするのよ。将来的にはね」

「で、主がその街の領主になると」

「ええ。学院だけでは成り立たないでしょう。孤児を受け入れる職を提供する場所として、王都ばかりに頼るわけにはいかないもの」


 仲間が集まって街を作るというのは悪くないだろう。新大陸には王国や連合王国から移民した人たちの作った新しい街がたくさんあるという。ボーストンとかニューアーカムといった名前を彼女も聞いたことがある。


「リリアルって学院の名前と同じ街の名前にして、身分にとらわれない集まりができるようにしたいのよね」

「でも、王国にとって身分って大事なんだろ?」

「王都においてはそうね。とはいえ、身分にとらわれずに王国と民のことを考える場所って必要だと私は考えるわ。その一つにリリアルをしたいの」


 などと、まじめな話をしつつ川岸を歩いていると……見知った従騎士の姿を目にする。既に幼年学校を卒業したのか、見習騎士になったと子爵家では聞いている。


「久しぶりだね。活躍の話は聞いているよ」

「ええ、あなたもお元気そうで何よりね。従騎士になったのね」

「ああ、成績的にも問題なくってね。少し前倒しで正規の騎士になれそうなんだ。でも、君は既に騎士爵なんだよね」


 お隣に住んでいる男爵の嫡子、久しぶりの再会なのである。



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